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この情報は11月25日時点での情報です。
今回のウクライナを初めとしたH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異につきましては、このサイト以外にも、私のブログ記事では、下記で取り上げておりますので、あわせてご参照ください。
あたらしい記事順です。
D225G変異H1N1新型インフルエンザ・ウイルスに対してワクチン不全ありとWHO確認 (11月28日時点)
覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由(11月22日時点)
ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明(11月19日時点)
ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡 (11月9日時点)
2009年11月25日
ウクライナやノルウェイのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスの変異については、前の私のブログ記事
「ウクライナでH1N1新型インフルエンザ感染者が呼吸器疾患で大量死亡」
「ウクライナで大量死亡の新型インフルエンザ・ウイルスは、肺組織で集中し変異していることが判明」
「覚書-専門家が、ウクライナのH1N1新型インフルエンザ・ウイルスのD225G変異が肺に集中していることに関心を持っている理由」
などで紹介した。
ここにきて、香港でも、ノルウェイと同じ変異を持つウイルスが確認されたという。
ここで、ちょっと、整理をしておこう。
変異は、225ポジションにおける変異である。
ウクライナの場合
10検体のうち、4検体に、HAにおいて、D225G変異を示していたという。
D225G変異を起こしているウイルス名は下記のとおりである。
A/Lviv/N6/2009
A/Ternopil/N11/2009
A/Ternopil/N10/2009
A/Lviv/N2/2009
このうち、1検体については、喉からのものであり、3検体については、肺組織からのものであった。
ノルウェイの場合
5月から10月にかけて採取した検体のうち、すべてが225ポジションにおける変異が見られた。
そのうち、5検体については、D225E変異であった。
ウイルス名は、下記のとおりである。
A/Norway/4023/2009
A/Norway/3478/2009
A/Norway/3059/2009
A/Norway/2690/2009
A/Norway/2674/2009
1検体については、ワイルド・タイプとの混合物とみられるD225であり、D225G変異であった。
ウイルス名は、下記のとおりである。
A/Norway/2924/2009
香港の場合
ノルウェイと同様の変異が見られたとの報道だが、具体的なウイルス名は、発表されていない。
このサイト『專家:甲型H1N1流感變種病毒 中國6月就已發現』によると、変異は、D225G変異とD225E変異(H3ベースで225であり、H1ベースで222である。HA基因222位氨基酸位點變異)であり、その一例は、今年6月にイギリスからの帰国者から見つかったもので、もう一例は、9月に浙江省浙江醫科大學で発見されたものであるとのことである。
また、このサイトによれば、現在、中国では、8例の225變異があるという。
参考
「Mutation detected in Hong Kong toddler 」
香港の新しいH1N1変種情報については、こちらのサイトご参照
「香港衛生署根據挪威公布的變種病毒資料,檢查該署監測系統曾進行的甲型流感病毒樣本的基因序列,結果發現在該署進行的123個基因序列研究,其中有一個病毒樣本曾出現變種,病毒的基因序列亦與挪威出現的致命變種病毒相同。 」
(香港衛生署監督系統は123個のH1N1型インフルのDNA配列に対する研究を行い、男児のサンプルがノルウェーで流行している変異ウイルスと同じであることを発見した。同ウイルスは、タミフルやレレンザに対し、抗薬性は現れていないという。)
「本港1歲男童被驗出感染變種甲流病毒(與挪威病毒相同),曾在7月底入住沙田威爾斯醫院。資料圖片」
受容体変異について
パターン認識受容体伝達を障害する変異があったかどうかが、最大のポイントのようである。
すなわち、このことは、なぜ、ウクライナで、新型インフルエンザで死亡した患者の肺組織に変異が見られたのか、ということに関係してくる。
すべのインフルエンザ・ウイルスは、細胞に取り付くために、シアル酸を必要とする。
シアル酸には、いろいろな化学的にことなる種類があり、それによって、ウイルスとの親和性がことなる。
鳥インフルエンザ・ウイルスはシアル酸がガラクトースにα 2,3 結合したもの(SAα2,3Gal)を認識し、
ヒト・インフルエンザ・ウイルスは主としてシアル酸がガラクトースにα2,6結合したもの (SAα2,6Gal )を認識する。
ヒトのレセプターの分布は、鳥インフルエンザ・ウイルスの場合と、ヒトインフルエンザ・ウイルスの場合とでは異なり、
ヒト・インフルエンザ・ウイルスの場合のヒトのレセプターの分布は、、ヒトの上部気道の鼻粘膜、副鼻腔、咽頭、気管,気管支の上皮細胞にしかないが、
鳥インフルエンザ・ウイルスの場合のヒトのレセプターの分布は、ヒトの呼吸器の深部(呼吸細気管支と肺胞細胞の一部であり、呼吸細気管支と胞とII型肺胞上皮細胞との間の結合部である非線毛気道細胞-nonciliated bronchiolar cells-にある。)に、多く存在する。
ウイルスの「受容体結合ドメイン」(receptor-binding domain )(RBD)での変異が、ヘマグルチニンをヒト受容体に結合し易くし、人への感染の容易さを決定づけているとされている。
このreceptor-binding site(RBD)は、HAによってamino acids position の何番目に位置するかが異なっているとされている。
ここで、パターン認識受容体伝達を障害する変異があれば、肺組織におけるレセプターが、ヒト・インフルエンザ・ウイルスを認識(SAα2,3Gal)することもありうる、ということになる。
つまり、ヒトから分離されたH1N1ウイルスが、ヒトおよび鳥の両方の受容体に結合できる体制が、変異によって、整うということになる。
あるいは、認識の対象が、鳥のSAα2,3GalとヒトのSAα2,6Galとの混合物であった場合も、肺組織で、SAα2,3Gal以外の混合物を認識することもありうる、ということになる。
ウイルスに好まれるシアル酸をコントロールするのは、ポジション190とポジション225での変異であるといわれる。
そこで、D225G変異またはD225E変異が、受容体変異において、鳥のSAα2,3GalとヒトのSAα2,6Galとのどちらの認識に影響を及ぼすか、ということになるのだが。
D225G変異は、鳥のSAα2,3GalとヒトのSAα2,6Galとをともにターゲットにしうる、とされる。
これらについては、私の以前のブログ記事
「人間の上気道が、鳥インフルエンザ感染の場所」という正月以来話題の論文」
「H5N1インフルエンザウイルスのヒト型受容体への結合を可能にするヘマグルチニンの変異」
「Haemagglutinin mutations responsible for the binding of H5N1 influenza A viruses to human-type receptors」
などもご参照
なぜ、D225G変異が肺を直撃するのか?
これについては、鳥インフルエンザ・ウイルスが認識するSAα2,3Gal受容体がII型肺胞上皮細胞( Type II Alveolar Epithelial Cells )の上にあるためといわれている。
このII型肺胞上皮細胞は、サイトカインの発現を含む免疫防御とともに、肺の表面張力を調整する役割を担っている。
D225G変異によって、H1N1ヒト・インフルエンザウイルスが、本来は、鳥インフルエンザ・ウイルスが認識するSAα2,3Gal受容体を認識してしまうことによって、II型肺胞上皮細胞にとりつき、サイトカインの発現を促す、ということのようだ。
しかし、一方、以下のような説もあるようだ。
すなわち、D225G変異は、感染を阻害する変異でもあるので、増殖はとまらないが、感染は一定の箇所でとどまるということで、ウクライナなどで、肺組織など一定の部分のみがウイルスにおかされているのではないのか、という見方だ。
これについては、「The D225G change in 2009 H1N1 influenza virus is not a concern」をご参照
参考「1918 RBD D225G in Lung Cases in the United States」
「Cytokine Regulation in Type II Alveolar Epithelial Cells as the Mechanism for Interstitial Pneumonia by Gefitinib」
スペイン風邪とD225G変異との関係
上記のD225G変異またはD225E変異は、1918年と1919年のスペイン風邪においても、見られた変異である。
そのウイルス名は、次のとおりである。
A/New York/1/1918
A/London/1/1919
変異ウイルスでないA/South Carolina/1/18 は、alpha(2,3)(鳥ウイルス認識)を好み、A/New York/1/1918 は、alpha(2,3)(鳥ウイルス認識) と alpha(2,6)(ヒト・ウイルス認識) との両方を好んだ。
A/South Carolina/1/18 は、ポジション225において、変異しておらずDであった。
A/New York/1/1918 は、ポジション225において、変異しており、Gであった。
A/New York/1/1918 は、ポジション190において、DからEに、D190E変異していた。
このD190E変異は、alpha(2,3)(鳥ウイルス認識)とのバインドを好む。
このD190E変異とD225G変異とが、同時に起こると、そのウイルスのα(2,6)への取り付き(バインディング)は、著しく弱まるという。
1918インフルエンザウイルスを用いての、SC18と呼ばれる、1918大流行の原因ウイルスと、SC18とは1つだけアミノ酸が異なるNY18と、2個のアミノ酸が違うAV18と呼ばれるウイルスとを比較した結果、このうちAV18と呼ばれるウイルスは、D190E変異とD225G変異とを同時に起こしており、このAV18ウイルスは、α(2,6)への取り付き(バインディング)がまったくなかったという。
参考「MIT explains spread of 1918 flu pandemic」
CDCのNancy J. Cox 氏をはじめとする59人からなる研究チームのH1N1 新型インフルエンザウイルスの遺伝子分析によれば、8つのセグメントのうち、ヘマグルチニン(H)を含む3つの遺伝子セグメントは、1918年のスペイン風邪のH1N1に由来するものであり、その後、ずっと豚に存在していたものであるが、その間においても、変異はしていなかったとしている。
遺伝子セグメントでは、ポリメラーゼB(PB)遺伝子はヒト由来、他の二つは鳥由来であったとしている。
また、1918年のH1N1とH5N1とは、毒性があることを示す遺伝子セグメントを、同じNS1セグメントにおいて有しているが、今回の新H1N1は、そうではないという。
感染性を示す遺伝子セグメントにおいても、今回の新H1N1は、1918年のH1N1にあったものを失っているという。
参考1.
これまでD225G変異をみせたウイルス名一覧(ウクライナとノルウェイの分を除く)
01 A/******/index/2009/02/01 (A/swine-flu/index/2009-02-01(H1N1))
02 A/Hiroshima/201/2009/06/17
03 A/Georgia/01/2009/04/27
04 A/Zhejiang-Yiwu/11/2009/09/06
05 A/Zhejiang/DTID-ZJU03/2009/09/07
06 A/Zhejiang/DTID-ZJU02/2009/09/07
07 A/Sao Paulo/53206/2009/07/19
08 A/Sao Paulo/53225/2009/08/01
09 A/New York/04/2009/04/
10 A/Catalonia/NS1706/2009/07/29
11 A/Mexico/InDRE4114/2009//
12 A/Texas/11/2009/04/23
13 A/Texas/05/2009/04/15
14 A/Mexico/3955/2009/04/02
15 A/Cancun-NY/Index/2009/04/15
参考2.
これまでD225E変異をみせたウイルス名一覧
「Rhiza Labs FluTracker Forum」から
A/Norway/4023/2009(H1N1)
A/Norway/3478/2009(H1N1)
A/Norway/3059/2009(H1N1)
A/Norway/2690/2009(H1N1)
A/Norway/2674/2009(H1N1)
(A/Catalonia/S1761/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1758/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1748/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1698/2009(H1N1).
A/Catalonia/S1674/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1672/2009(H1N1)
A/Serbia/3547/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1641/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1637/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1632/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1606/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1605/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1604/2009(H1N1)
A/Nagasaki/HA-44/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1592/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1587/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1545/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1479/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1478/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1436/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1379/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1369/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1350/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1333/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1331/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1304/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1300/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1286/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1273/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1272/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1269/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1265/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1260/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1254/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1249/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1248/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1237/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1236/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1227/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1222/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1215/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1209/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1205/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1199/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1187/2009(H1N1
A/Catalonia/S1183/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1182/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1165/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1161/2009(H1N1)
A/Catalonia/S1120/2009(H1N1)
A/Almati/01/2009(H1N1)
A/Changsha/78/2009(H1N1)
A/California/25/2009(H1N1)
A/Milan/83/2009(H1N1)
A/Milan/80/2009(H1N1)
A/Ancona/05/2009(H1N1)
A/Catalonia/378/2009(H1N1)
A/Italy/172/2009(H1N1)
A/Sapporo/1/2009(H1N1)
A/Catalonia/387/2009(H1N1)
A/Hong Kong/2369/2009(H1N1)
A/Athens/893/2009(H1N1)
A/Paris/2591/2009(H1N1)
A/New Jersey/01/2009(H1N1)
参考3.ポジション225での変異
D225N
ブラジル・サンパウロやニューヨークで見られた変異
D225G
ブラジル・サンパウロ、中国・Zhejiang、日本・広島、アメリカ・テキサス、アメリカ・ジョージア、アメリカ・ニューヨーク、メキシコ、スペイン・カタロニアで見られた変異
D225E
日本・長崎、日本・札幌、中国・香港、アメリカ・ニュージャージー、アメリカ・カリフォルニア、フランス・パリ、スペイン・カタロニア、 カザフスタン・アルマトイ、中国・長沙、イタリア・ミラノ、イタリア・アンコーナ、ギリシャ・アテネ、で見られた変異
その他参考サイト
「Re: Sequences at Genbank! 」
「225G Preliminary Worldwide Tracking & Evaluation 」
H1N1変異を伝える中国のテレビ「H1N1疫情綜合報道 - 午夜最前線 20091122」
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