Sasayama’s Weblog


2003/08/31 Sunday

救急措置で、市民がAED(自動式体外除細動器)を使うには、「善きサマリア人法」的な救済措置が必要

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2003年8月31日

致死的な不整脈に陥った場合に心臓に電気ショックを与えて救命する自動体外式除細動器(AED)について、厚生労働省は8月9日までに、医師や救急救命士だけでなく、講習を受けた一般の人にも使用を認める方針を決めました。

しかし、いくつかの問題点も、未解決のまま残っているようです。

とくに、一般人がAEDを使用し、結果として、対象者が死に至った時の責任問題に付いての、救済措置が不明確なことが、大きな心配です。

というのは、いかにAEDが、進化をとげているとはいえ、その扱い方やメンテナンスによっては、いくつかのトラブル発生の余地があるからです。

たとえば、 http://www.medical.philips.com/main/products/
resuscitation/assets/docs/
using_heartstream_aed.pdf 
の17-18ページに例示されているように、
1.パッドの取り付け位置がずれていたり、密着していないことによる、細動機能低下、パッドのコネクターの劣化やコネクトの緩みやコネクターやコードの損傷 
2.患者の体の移動による機能未発揮、AEDの近辺にラジオなどの電波発信機があることなどによる電子的障害、患者を搬送することによるAEDの機能未発揮、静電気のAEDへの影響、
3.バッテリーの消耗 
などのトラブルが、AEDの機能発揮をさまたげ、患者を死に至らしめる場合もあるからです。

このように、いまだに存在するAEDの問題点として、おおきく、(1)誰がAEDをつかえるのか (2)どのような状態のAEDをつかえるのか、の二つに付いての法的あるいはガイドラインなどによる環境整備が図られる必要があるようです。

ともすれば、「誰でも簡単に」と、簡便さのみ強調されがちなAEDでありますが、AEDが誰でも使えるようになるためには、AEDをとりまく、いくつかの社会的条件が必要なのです。

救急医療とインフォームド・コンセント(IC)のあり方に付いては、サイト http://www.pmet.or.jp/work/kyozai2/ic008.html のように、ただでさえ議論のあるところですが、この場合は、AED(自動式体外除細動器) 使用は医療行為であるとしている一方で、AED使用当事者の一般市民には、そもそも、インフォームド・コンセントを行う当事者資格があるかどうかということになります。

もし、医療事故で、訴えられた場合の「善きサマリア人法」的救済措置がなければ、うかうかと、AED使用が出来ないということになります。

医療事故として非難された場合、医師側からも、患者側からも攻められる、苦しい立場に、一般市民は立たせられることになります。

アメリカにおいては、一定の救急患者については、インフォームド・コンセント(IC)または、インフォームド・チョイスをしなくてよいことが認められている州があります。

特に、AEDの使用については、「AED使用に関する善きサマリア人法」が制定され、救済措置が設けられている州が、多くあります。

各州での対応一覧は、 http://www.medicalreservecorps.gov/appendixc.htm のとおりです。

しかし、その内容は、各州統一されたものでなく、まちまちです。

そのうちの、ペンシルペニア州の「AED使用に関する民間人の免責についての、善きサマリア人法」 http://www.cprinstructor.com/PA-AED.htm
(Good Samaritan civil immunity for use of automated external defibrillator)の全訳を以下に紹介しておきます。

また、2000年11月13日、当時のクリントン大統領は、まだ「AED使用に関する善きサマリア人法」を有していない州においても、AED使用に関する善きサマリア人法の救済措置が適用できることを定めた Cardiac Arrest Survival Act(CASA)(H.R.2498) に署名しました。 http://loraincounty.redcross.org/president_
clinton_signs_aed_legi.htm参照

これを受けて、Public Health Improvement Act および  Public Health
Service Actの一部修正がされました。

これにともない、the Secretary of the Department of Health and Human Services(HHS) は、公共施設におけるAEDの設置に付いてのガイドライン(Guidelines for Public Access Defibrillation Programs in Federal Facilities )を設けました。

また、地方へのAED設置を助成し促進させるための Rural Access to Emergency Devices Act (2000) または“Rural AED Act”も、制定されました。

さらに、単に公共機関にとどまらず、民間会社などへのAED設置のためのガイドラインである ACOEM Guideline Automated External Defibrillationが、 ACOEM(the American College of Occupational and Environmental Medicine)から出されました。

このガイドラインの内容は、次の12点です。

1.AED プログラムに付いての、集中的なシステム管理、2.職場でのAEDプログラムについての、医学的見地からの制御、3.国・州の法的規制への準拠、4.それぞれの設置状況に従ったAEDプログラムの改善、5.各地方の救急システムとのマッチング、6.職場での他の緊急システムとの整合化、7.設置環境にあったAEDの選定と技術的配慮、8.職場でのAEDプログラム遂行を補助しうる他の医療機器の整備、9.AEDの配置数や配置場所の適正さに付いての評価、 10.AEDの保守・点検・交換に付いての、定期的なフォロー、11.AEDの性能保障に付いての、プログラム確立、12.職場でのAEDプログラム施行手順についての定期的見直しの実施、

このへんの経緯または、法律の概要などについては、http://www.tvfr.com/CS/AED/phia.htmlまたは、http://www.early-defib.org/03_06_02.html を参照してください。

しかし、このように、「善きサマリア人法」救済規定によって、官民あげてよく整備されているはずのアメリカでさえ、法的責任範囲の問題として、次のような問題点があるとされています。

すなわち、EMS(Emergency Medical Services)以外のもので、職務上、心停止者を救う義務のあるもの(より正確に言えば、「リーズナブルな水準の医療的な扶助をおこない、外部の医療救助を直ちによびだすよう、法律によって強要された一定のグループ」)として、次のグループが挙げられます。 http://www.complient.com/aprisk.html参照

公共交通機関の関係者(航空、鉄道、クルーズ・船など), 宿泊施設の関係(innkeepers) (ホテル、モテル、など), 公衆に解放されたビジネス空間の関係者 などです。

これらの関係者のうち、たとえば、航空機関係者に付いてみれば、 The Aviation Medical Assistance Act によって法的責任の範囲が明確化(故意の怠慢や違法行為がない限りの航空会社と非従業員乗客の免責が規定)されています。

しかし、心停止を起こしやすい場所としてはランキング第五位の、ゴルフ場でのAED使用に付いてみれば、どうでしょう。

http://www.gcsaa.org/gcm/2002/oct02/10Gov.aspのサイトでは、ゴルフ場関係者は、上記のグループに属していないと見る意見もあれば、http://www.golfsafe.com/aed.pdf のように、上記のグループ同様の義務とする意見もあり、見解が分かれています。

このような場合には、少なくとも、4つの事項に付いての法的責任と限界が明確にされない限り、なかなか、行きずりの民間人が、見ず知らずの他人に対してAED措置を施すことには、ためらいを見せるであろうとしています。

その4つの事項とは、1.AED使用の義務、2.AED使用義務の放棄、3.傷害の原因、4.法的に認められた傷害の範囲 であるとしています。

これらの事情から、 the National Center for Early Defibrillation では、http://www.early-defib.org/03_06_02.html において、民間人のAED使用にまつわる法的責任問題をクリアーするためには、次の三点の整備による総合的な対策が必要であると提言しています。

すなわち、第一は、職場などでの周到なAEDプログラムの用意、第二は、「善きサマリア人法」の整備による救済規定の用意、第三は、民間保険会社によるAED購入者に対する賠償オプションつき保険の整備 であるとしています。

日本においても、厚生労働省が、今後、一般人のAED使用に関するガイドラインを定める場合、これら、アメリカのthe National Center for Early Defibrillationの提案にならった総合的な対策の用意が必要なものと思われます。

また、現在、関係省庁・関係機関で、既存のCPR(心肺蘇生法)トレーニングまたは救命講習のプログラムにAED講習を加えるプログラム作りが模索されつつあるようです。

問題は、これまでのCPRトレーニングに、AEDトレーニングをどうもぐりこませていくかです。

現在、関係者の間では、短時間でとにかくAED取り扱い可能者の裾野を増やすべきという意見と、あくまで、AEDトレーニングは、CPRトレーニングの枠内でという意見とが、拮抗しているようにも見えます。

ここでアメリカ赤十字のトレーニングプログラムを見ますと、http://www.coloradoredcross.org/SummerSchedule2003.pdf の3-5ページ記載のように、いろいろなコースが、いろいろな時間帯、いろいろな言語、いろいろな場所、いろいろな料金で、受講できるようになっております。

このうち、Adult CPR+AEDトレーニングとしては、四時間半、Adult CPR and First Aid+AED トレーニングとしては、七時間半のコースがあります。

また、職場トレーニングコース(The Red Cross Workplace Training)では、五時間半の標準ファーストエイドコースで、CPRとAEDに関する基礎知識、六時間半コースで、これにAEDトレーニングが入ってくるといった時間編成のようで、延べ一億五千万人の方が、少なくとも40時間以上の職場講習を受けているようです。

http://www.redcross-cmd.org/Chapter/aeds.htmlやhttp://www.redcross.org/news/archives/2000/020402saving.html もご参照。

では、具体的にトレーニングの中身を見てみることにしましょう。

サイト http://www.stormsurgecomm.com/ に見るように、アメリカのCPR等トレーニングのすべてが、OSHA(Occupational Safety & Health Administration) のガイドラインに沿って、立てられています。

たとえば、CPRのトレーニングのガイドラインは、 OSHA 1910.151 であり、同じく、First Aid のガイドラインも、OSHA 1910.151 である、といった具合にです。

肝心のAEDトレーニングのガイドラインは、OSHAのスタンダードに従うものと従わないものに大別されます。

すなわち、CPR/AEDとFirst Aidを組み合わせた First Aid/CPR/AED Combination
Courses( MERT Trainingにもある。)の一般コースにおいては、OSHAのFirst Aid StandardのガイドラインであるOSHA1910.151 に準じます。
http://www.lessstress.com/aed.htm参照

Akiary v.0.51

また、胸骨の間に置く、二つの電極の位置の正確さが求められた、これまでのAED方式の不便さを改善した、電極が一つの画期的 新方式のZOLLの CPR-D Padz(ZOLL AED Plus)のトレーニングコースにおいては、OSHAのガイドラインは適用されません。

このように、AEDのトレーニングコースのガイドラインに付いては、AED機器の日進月歩の進歩もあって、まだ、完全に確立されているとはいえない状況ですが、おおかたは、 American Heart AssociationのAmerican Heart Association
Guidelines 2000 、  the American Red Crossの American Red Cross First Aid/CPR/AED、  EMP America, のNational Guidelines for First Aid Training in Occupational Settings(NGFATOS)
   the National Safety Council のガイドライン 、 そして各AEDのメーカーなどの提示するガイドラインによっているようです。

http://www.early-defib.org/03_06_08.html  に、標準的なAEDトレーニングの概要が書いてあります。

一例として、CPRトレーニングコースにおいては、

1.AEDの概要、
2.使い方 
3.処置手順 がそれぞれ20分づつ、

4.3つのシナリオの元での実習が60分、
5.講師・受講生との質疑応答が15分、
6.実習の講評が30分、
7.技術力のチェックリスト結果評価が60分、
8.その他、補講が任意にある。

といった時間配分です。

これで3時間45分です。

AEDそれ自体が、日本にとっては、外国からの渡来物ですから、トレーニングも、このアメリカの基準に大方よるのではないでしょうか。

このように見ますと、職場段階、コミュニティ段階、そして、プロフェショナル段階という各方面で、最初からCPRもAEDも組み込んだ形の講習というのが、日本でも望ましい感じがします。

参考資料

ペンシルペニア州の「AED使用に関する民間人の免責についての、善きサマリア人法」 http://www.cprinstructor.com/PA-AED.htm
(Good Samaritan civil immunity for use of automated external defibrillator)の全訳は次のとおりです。

A.一般的規則-
Cで定められた訓練法に基づくAED使用訓練を受けたあらゆる個人や、緊急時に善意に基づく救急措置をとったあらゆる個人に付いては、AED使用に際してのあらゆる行動や行動の省略の結果によリ生じた、いかなる民間人の損傷について、責任はない。

ただし、この行為または行為の省略が、故意のものであったり、怠慢に基づくものであった場合には、この限りではない。

B.免責の要件-
次の要件を満たす、AEDを取得し整備する人には、責任が免れる。
1.Cで定められたトレーニングを受けた人
2.メーカー指定のガイドラインに基づくメンテナンス・テストをしているもの。
3.ユーザがAEDを使用する場合、救急隊に直ちに連絡し、来てもらう状態になっていること。
4.必要があれば、救急医療隊に、情報公開できる状態になっていること。

C.トレーニング-
この法の適用を受けるAEDの使用者は、下記に定めるトレーニングを受けている必要がある。
アメリカ赤十字のトレーニング、AHAのトレーニング、ペンシルバニア救急医療サービス会議技術委員会の指導の下における保険省認可の、同等のトレーニングコース

D.救急医療において個人が損傷を受けた場合の、AED使用の免責不適用に付いて-
救急隊や医療専門家が認可したケア・手当てを受け、民間人が損傷をこうむった場合、そこにおいてのAED使用に付いては、免責されない。

E.例外規定-
Cに定めるトレーニングを受けていない人が、善意を持って、緊急時に、同様の環境下において、通常の注意義務を果たし、AEDを使用した場合においては、Aに定める規則に準じて、民間人の損傷に付いての免責を受けることが出来る。

F.定義-
上記において使用の語句の定義は次によるものとする。

AED-
個人が心停止の状態において、電気的刺激によって、心拍を安定的に回復することを目的とした可搬型機器をさす。
この場合、その人間が、心停止にいたると予測され、致死や重症にいたるのを防ぐためには、緊急治療の必要性があると予測される状況に限られる。

善意-
状況の緊急性から見て、AEDの使用が、救急隊が到着するまで延ばせない、または、入院させるまで延ばせない、という、(社会的に)妥当と認められる意見に基づくもの。

以上

参考サイト

http://www.early-defib.org/docs/PAGoodSamact.pdf
http://162.114.4.13/KRS/311-00/668.PDF
http://www.aedhelp.com/legal/display_state.cfm?state_id=15
http://www.clubsafety.com/Law%20Notes%20Articles/may2001.htm
http://www.gregaed.org/basics5.htm
http://www.americanaed.com/faq.htm
http://www.legis.state.pa.us/WU01/LI/BI/BT/1997/0/SB1530P2151.HTM
http://www.cdphe.state.co.us/em/MedicalDirection/aed-imunity.asp
http://www.concentric.net/~Maxfax/files/law2.htm
http://www.halmowery.com/Releases/1998/aed.html

参考

緊急時の法的根拠の日米比較

アメリカ

( http://www.aedhelp.com/legal/downloads/Cardiac_Arrest_Survival_Act_Summary.pdf参照)
Public Health Improvement Act   
SEC. 404. GOOD SAMARITAN PROTECTIONS REGARDING EMERGENCY USE OF AUTOMATED EXTERNAL DEFIBRILLATORS
(AEDの緊急時使用に関する、善きサマリア人保護条項)

Public Health Service Act
SEC.248.Liability Regarding Emergency Use of Automated External Defibrillators
(AEDの緊急時使用に関する責任条項)

日本
  
刑法(緊急避難)
第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2  前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

民法第六百九十八条(緊急事務管理 )  管理者カ本人ノ身体、名誉又ハ財産ニ対スル急迫ノ危害ヲ免レシムル為メニ其事務ノ管理ヲ為シタルトキハ悪意又ハ重大ナル過失アルニ非サレハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス

「日本刑法三七条の緊急避難規定について」 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/98-6/matumiya.htm

「民法上における事務管理」 http://www.geocities.co.jp/MotorCity/9811/S58Q2.htm

「医師と医療行為」 http://village.infoweb.ne.jp/~fwik7750/ijihou/CHAP1.htm

「緊急事務管理」 http://www.law.keio.ac.jp/~shichi/2=keio/21=lecture/213=saiken/03-14.htm

「医師の説明義務」 http://homepage1.nifty.com/uesugisei/setumei.htm

「救急業務をめぐる法律問題」 http://www.oikawa42.com/sogo-seisaku/teacher/pdf02/19.1.1hashimoto.pdf 

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2003/08/27 Wednesday

妙に説得力のあるパトリック・ブキャナン氏の「製造業の死」という論説

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:28:42

  
2003年08月27日

2000年の大統領選挙に出馬したこともあるアメリカの保守党政治家パトリック・ブキャナン氏(Patrick J. Buchanan)の「製造業の死」(Death of Manufacturing)という論説が、話題になっている。

パトリック・ブキャナン氏は、これまでにも、The Death of the West(西洋の死)(日本語の書名は、「病むアメリカ、滅びゆく西洋」
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/html/9976385471.htmlという本も出版しており、いわば「死」シリーズの第二弾というわけだ。

http://www.amconmag.com/08_11_03/cover.htmlが「製造業の死」の現物であるが、内容は、米国政府の自由貿易政策批判で、自由貿易とは一国にとって、人間にとってのアルコールみたいなもので、最初は、一国の活力を奪い、エネルギーを奪い、独立性を奪い、そして究極には、一国の生命までをも奪うとしている。

ここで、米国建国の祖、アレクサンダー・ハミルトンが立てた、米国産業保護経済政策に改めて学び、その産業戦略の再構築をすべきだと言う。

このブキャナン氏の主張は、この論説のなかのアメリカを日本に置き換えただけで、多くの日本の産業界の共感を呼び起こすであろう。

さらに、この論説の中のブッシュを小泉に置き換えただけでも、多くの共感を呼び起こすであろう。

これをめぐって、更なる論争が続いている。

パトリック・ブキャナン氏と、同じ説として、
Paul Craig Roberts 氏
http://www.washtimes.com/commentary/20030805-084100-3722r.htm
http://www.townhall.com/columnists/paulcraigroberts/archive.shtml
がある。

また、これを批判する論説として、
Bruce Bartlett 氏
http://www.townhall.com/columnists/brucebartlett/bb20030814.shtml
がある。

さらに、パトリック・ブキャナン氏(Patrick J. Buchanan)や、Paul Craig Roberts 氏のとなえる「雇用の輸出」神話論に対して、William L. Anderson氏は、疑義を呈している。

http://www.mises.org/fullarticle.asp?control=1282&month=59&title=Concerning+the+Export+of+Capital&id=59

http://www.mises.org/fullarticle.asp?control=1248&month=57&title=The+Myth+of+%22Exporting+Jobs%22&id=59  参照

氏によれば、海外投資の決定は、何も、安い労働力にのみよって決定されるものでなく、その国のインフラ整備状況など、総合的投資環境によって決定されるのだから、国内産業の空洞化促進政策が、雇用の場の輸出につながっているというのは、結果論に過ぎないというのだが。

さらに、Walter E. Williams氏も、http://www.cnsnews.com/ViewCommentary.asp?Page=%5CCommentary%5Carchive%5C200308%5CCOM20030820a.html で、「低賃金国に輸出する雇用の場がいっぱいつまったコンテナを、アンチ自由貿易論を振りかざす政治家は、取り締まることができるっていうの?」などと、皮肉り、アメリカの本当のライバルは、低賃金国でなく、アメリカの労働者よりも、もっと稼ぎのいい、ヨーロッパの労働者だといっている。

一方、http://www.ajc.com/news/content/news/atlanta_world/0803/27jobs.htmlでは、玉突き衝突的に海外に移転するホワイトカラー職の移転の実態と、アメリカでの、かつてホワイトカラーであった人たちの嘆きを伝えている。

この玉突き衝突現象は、単にアメリカからインド、中国などへの雇用の場の輸出にとどまらず、さらに、脅威なのは、ロシアへの雇用の場の輸出であるとしている。

すでに、アメリカから、進出したインドの会社のホワイトカラー職は、英語が話せるフィリピン人にとってかわられ、フランスのホワイトカラー職は、同じくフランス語の話せるモーリシャスなどの国の人にとってかわられつつあるという。

また、航空機のボーイング社では、5000人のエンジニアのレイオフを行い、その代わりに、驚くべき低賃金で、ロシア人を雇い入れたという。

一方、英国の会社は、インドを戦略拠点にするなど、かつての植民地の復活を思わせるほどの低賃金国へのシフトぶりだという。

ここで、日本を振り返ってみれば、すでに空洞化の進行は、第二時代を迎えたほどの浸透ぶりであるが、いずれは、海外進出した企業が、その国での更なる玉突き衝突的空洞化に見舞われるという、連鎖的空洞化現象にさいなまされる事態も想定しなければならない事態となっているようだ。

これら、「雇用の輸出」論は、何も今に始まったことではない。

1990年代初頭にも、原木丸太輸出をめぐってのアメリカ木材業界からの「雇用の輸出」論議はあった。http://bari.iww.org/~intexile/Exports1.html 参照

しかし、今回は、これまでの左ともいえる労働界からの批判に加え、ネオコンに近い右からの批判と、バラエティに富んでいるところに、特徴がある。

まあ、これと同じ議論は、日本でも、行われるべきなのだが、寂(せき)として声のないのが、日本の言論界の現状だ。
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2003/08/20 Wednesday

「敵は我にあり」の長野県住基ネット離脱

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 19:30:25

  
2003年08月20日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030818-00000020-mai-pol
のように長野県の田中知事が、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)について「(県として)独自のシステムを積極的に検討すべきだ」などと主張し、総務省の外郭団体「地方自治情報センター」が個人情報を一元管理する住基ネットから離脱し、県が独自に情報を管理・運用する方針を明確に示したというのだが、このシステムの問題点指摘は、むしろ、長野県というか、県市町村の庁内LANの問題が過半を占めると見るのだが。

長野県本人確認情報保護審議会 http://www.pref.nagano.jp/soumu/shichoson/jyukisys/singikai/siryou6.pdf が問題点として指摘しているのは、県市町村段階庁内LANで、住基ネット専用回線に、住基ネットと、インターネットとの混在接続使用があったことが、主な問題点として挙げられている。

市町村の現場では役所のLAN(構内情報通信網)を経由すれば住基ネットに接続できてしまう事を問題にしているわけだ。

ちなみに、専用回線に付いてであるが、専用回線とは、専用線接続leased line connection   http://dictionary.rbbtoday.com/Details/term467.html のことで、別に、長野県が、独自の回線を張り巡らせることではなく、NTTなどの回線で、ユーザー側にサーバーマシンを用意させ、またドメインネームサーバー(DNS)、メールサーバー等のプログラムも、ユーザー側で立ち上げ、24時間使用可能できるというものだ。

ただし、回線部分はキャリア(電気通信事業者)の責任下にあるということが、どうも、見逃されて議論されているようだ。

その意味では、ちっとも、専用ではないのだが。

そこで、総務省の見解を http://www.soumu.go.jp/c-gyousei/daityo/pdf/030710_1_5.pdfでみると、「市町村支所、出張所等のCS端末の回線を専用回線又はこれに準じるものとする。」と書いてある。

この「これに準じるもの」とは、インターネットVPN (Virtual Private Network)のことであろう。

VPN(Virtual Private Network) のメリットとしては、
* 月々の通信コストを削減
* 距離の影響を受けないネットワーク構築が可能
* 接続相手が海外であっても容易で、安価に構築可能
* 各拠点でイントラネットとインターネットの共有が可能
* SOHO環境、モバイル環境からのアクセスも容易

デメリットとしては、
* データが暗号化されているため通信路でのセキュリティは高いが、インターネット接続点でのセキュリティは確保されていない。
* 通信速度や通信帯域は必ずしも保証はなく、現状では、帯域保証が要求されるネットワークでは不向き。

などがあげられる。

つまり、通信路でのセキュリティは、専用線と変わらないが、通信路に入る前、通信路から出た後のセキュリティ対策が必要ということだ。
http://www.furukawa.co.jp/gakusei/front/it_vpn_1.html 参照。

国会の論戦でも、あたかも、この仮想専用回線が、専用回線に対して、セキュリティの面で劣るとの論議があったり、また、田中知事の発言でも、それらしきニュアンスが感じられるものがあったが、上記のように、通信路でのセキュリティは、専用線と変わらないが、その前後のLAN段階でのセキュリティに問題があることを、この際認識して、議論すべきものであろう。

そこで、長野県のめざす「独自のシステム」とは、 http://www.furukawa.co.jp/gakusei/front/it_vpn_1.html や、 http://www.pref.nagano.jp/soumu/shichoson/jyukisys/singikai/siryo8-5.pdf 
で見る限り、これまで混在していた住基ネットと業務系ネットを切り離し、市町村庁内LANに接続されたパソコンから、住基ネットへのアクセスが出来ないようにする。

そのために、住基ネットにつながる基幹系ネットと、インターネットにつながる公開系の情報系ネットとを分離するというものである。

この問題点を見る限り、昨年5月検索ページ内のクロスサイトスクリプティング脆弱性を指摘され、昨年7月、その脆弱性を是正した財団法人 地方自治情報センターのセキュリティホールの問題も、上記仮想専用回線の問題も、長野県の主たる問題ではなく、あくまで、県内LAN構築の問題が、当面最大の課題というわけだ。

問題は、この完全デュアルシステム構築に伴い、県内LAN構築に当たって、仮想専用回線を拒否した上での専用回線使用による費用負担の問題と、このシステムによって、おっしゃる基幹系ネットの範囲の拡大を今後どこまで、果たせるかという、いわゆるシステムの拡張性の問題であろう。

こうして、見てくると、庁内LANの問題で、全体システムを否定するには、ちょっと論理に無理があるような気がする。

さて、ここにきて、今回のBlaster問題発生で、これまでにも、桜井よし子さんなどを中心としてあった、OSがウインドウズであることなどへの批判が、一層つよまる気配である。

ちなみに、長野県本人確認情報保護審議会の審議医委員には、前述の桜井さんのほか、リナックスプローブ(株)のかたも、入っておられる。

しかし、このようなシステムの詳細にわたる批判を展開する以前に、日本の人権問題が、住所地と密接な関係を持ってきたという、人権問題と住基ネットの関係という大きな問題に付いて、政治は、まづコンセンサスを求めるべきものではないのだろうか。

その大きな問題を回避し、間接話法として、システムの細部の欠陥があげつらわれている今日の論調は、生産的でない。

そして、そのような迂回した反対論のために、本来もっと電子政府実現のために拡張性をもつべきシステムが、日々、縮小していき、コストパフォーマンスも、日々劣化していく、という国民的損失に、住基ネットは、さい悩まされ続けているのである。

付記-2003年8月19日、長野県本人確認情報保護審議会が、新たな住基ネット安全対策を提言した。
http://www.nagano-np.co.jp/cgi-bin/kijihyouji.cgi?ida=200308&idb=167  
http://www.pref.nagano.jp/soumu/shichoson/jyukisys/singikai/dai9.htm 参照

内容は次のとおり4段階で対応するというもの。。

第一段階ではインターネットと接続している自治体はインターネットと分離し、分離するまでフロッピーディスクなどでデータを送る「媒体交換方式」にする。

第二段階として、他県からはなおも不正アクセスされる危険性に対応し、独自の県域ネットワーク網を構築。
いったん県センターに集約し、地方自治情報センターが採用している監視システム(IDP)を導入することで市町村のデータを守る。

第三段階では希望する中小自治体が共同センターを設け、サーバー類の集中管理とIDPを導入することで市町村側の安全対策を強化するとともに、現場担当者の負担を軽減する。

県内では上伊那情報センターのケースがモデルになるという。

第四段階として地方自治情報センターに送っている住基ネットのデータを県が独自に管理、運用するシステムを検討。

国主導の現行の住基ネットとは一線を画す方向だ。

というものだが、情報の分散化によって、集中データベースの悪用を避けるという趣旨には、貢献できるが、暗号化しない形での、フロッピーベースへの回帰などによって、かえって、県内段階でのセキュリティ確保は、後退することも懸念される。

つまりは、あまりに、中央段階でのセキュリティ確保を意識し、優先したがために、内なる敵となりうる、県市町村段階でのセキュリティ対策は、なお、危うくなる形となっている。

上記に見たように、まさに、住基ネットにおいては、セキュリティの「敵は、我にあり」なのである。
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2003/08/17 Sunday

図書館のネットカフェ化

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:28:01

  
2003年08月17日

日本の図書館でも、一部には、図書館内でのネット利用を試行錯誤しているところがある。

たとえば、富山県福野町図書館http://www.town.fukuno.toyama.jp/toshokan/  や、栃木県上三川町図書館 http://www.dango.ne.jp/kmnlib/ などだ。

アメリカでは、公共図書館の94.5パーセントがインターネット端末の解放を行っている。
サイト http://www.peoplesnetwork.gov.uk/content/glance.asp は、イギリスにおける『ピープルズ・ネットワーク』というプロジェクトで、国内の4000を超す公立図書館をすべてインターネットに接続し、ネットアクセスおよび学習のセンターにするというものだ。

http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20020805207.html も参照

各図書館には計3万台の端末が設置され、電子メール、ブラウザー、オフィス・アプリケーション、デジタル画像、ビデオ会議といった豊富なデジタル機能を提供する。

また、その大部分が2Mbpsの回線でインターネットに接続されるという。

しかし、問題もある。

アメリカで問題になっているのは、有害情報に対してフィルタリングをかけるかどうかの論争や訴訟が展開http://www.avcc.or.jp/library/sa01fil/003.html されていたり、http://www.avcc.or.jp/library/sa01fil/001.html  にあるように、インターネット端末が図書館にもたらす光と影を指摘する声も、関係者にある。

いずれにしても、図書館は情報を探索する場であるとすれば、それがデジタルであろうとアナログであろうと、その機会を図書館が場として提供するのは、当然のことだ。

図書館のネットカフェ化が日本に来る体制を、国を挙げて組むべき時である。358
  

2003/08/10 Sunday

地理的制約を設けない人格権で、環境享受権を主張することは可能なのか。

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:27:52

   
2003年08月10日

例のユニマットによる西表島の開発に対して、先月、西表島の環境破壊を憂慮する個人は、居住地・国籍を問わず、西表リゾート開発等差止訴訟の原告になることが出来るとした、請求がなされた。 http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2032/page017.html参照

これによれば、原告の中には、西表島の住民でない、216名が参加しているという。

さらに、その中には、外国居住の外国人2名が含まれているという。

これまでにも、各種環境権訴訟において、人格権の侵害をもって環境権侵害に代えるという訴訟がいくつもあったが、いずれも、敗訴に終わっている。

これには、いろいろの理由があるが、人格権という幅広い概念の中には、地元住民の生活権というものも入っているし、いわば、そこで、環境を飯の種にしている写真屋さんなどの反射利益は主張できるにしても、ただ、よそから来て景色を眺める人の利益を、他の利益と比較衡量することはむつかしいという理由が主なようである。

このユニマットの経営者さんのように、西表島のある竹富町に住所を移しているかたの有している人格権-生活権-との比較衡量に耐えるかどうかということがポイントとなりそうだ。

しかし、今日的な動きとして、環境財が、地球公共財としてとらえられることが多くなった今日、地理的制約を設けない人格権の侵害という概念も構築できそうな気はしているが、果たして、旧態依然たる司法の場ではどうだろうか。

よそ者の利益とは、いわば非使用価値である。

地理的制約を設けない人格権の内容としては、良好な景観・環境財への、地元以外の人のアクセス権が主であろうが、私のオピニオン「憲法論議に環境権を明確に位置づけるために 」 http://www.sasayama.or.jp/opinion/S_21.htmでも述べているように、現状では、入浜権などについてみれば、妨害排除請求権はもつものの、漁業権や付近の住民の生活権(人格権)に劣後するものとの解釈が一般的のようである。

今後の司法の動向に注目していきたい。
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2003/08/07 Thursday

日本への対応をめぐって対立深まるカナダの牛肉関係機関

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:27:40

   
2003年08月07日

http://www.producer.com/articles/20030731/news/20030731news16.html によれば、カナダのBSE対策の初期に、日本からの調査依頼に対して、冷淡な態度をとったことが、カナダの牛肉の安全性に対する日本の疑念を増幅させ、ひいては、アメリカを始めとしたカナダからの牛肉輸入解禁を遅らせているのではないのかとの、カナダ牛肉輸出連合からの非難に対して、カナダ食品検査機関 (CFIA)が、そんなことはないと、反論するなど、両者、泥仕合を展開していることをつたえている。

非難をしているのは、カナダ牛肉輸出連合のTed Haney氏で、氏は、7月中旬に下院議会の農業委員会で、「カナダは、日本の問題の取り扱いに失敗した。」と述べた。

さらに氏は、「本来、政府、CFIA,業界は、アメリカに対して、アメリカがカナダ牛肉の輸入解禁をするための、懸命な説得活動を行うべきであった。」とも述べた。

これに対して、CFIAのRichard Fadden氏は、こう反論する。

「Ted Haney氏は、物事の一部だけ話しているのであり、われわれは、日本側と常に接触している。そして、そこには、何の問題もない。」という。

これに対して、Ted Haney氏は、「問題は、日本からの再三の技術調査団のカナダ派遣要請に対して、カナダ側は、その要請を無視したばかりでなく、冷たくあしらった。」という。

しかし、CFIAは、「そのときにはすでにアメリカからの派遣人員も到着していたし、それ以外の国の調査団をもホストするには忙しすぎた。」と弁明する。

実際、日本側は、6月上旬にも技術者派遣の要請をカナダ側にしたが実現しなかったばかりでなく、その後の国際専門家チームのメンバーにも、日本は含まれなかった。

その後、遅ればせながら、日本の技術チームがカナダにきたり、また、カナダのCFIA主任獣医Brian Evans氏が日本を訪問したり、カナダのJean Chr醇Ptien 首相と日本の小泉総理との電話会談があったり、日本の農林水産大臣が、オタワを訪問したりという両国間の行き来はあった。

Ted Haney氏は、「日本がカナダの牛肉の安全性に対して、態度をかたくなにし始め、原産国証明の必要性をカナダ・アメリカ両国につきつける最初の3.5週間の間、カナダは、なんら日本との調整に関与しなかった。そして、その間、日本は、二回も、カナダへの技術チーム派遣をカナダ側に要請したが、その二回ともカナダ側から断られた。」という。

Ted Haney氏が言うに、日本は、蚊帳の外に置かされ続けたために、政治的な抵抗を,この時期、示し始めたのだという。

それゆえ、日本は、「もし、アメリカの牛肉にカナダの牛肉が混入していることが証明できない限り、9月1日からは、日本での800万ドルに及ぶアメリカの牛肉市場は、なくなるものと思われる。」との言明に踏み切ったのである。

Ted Haney氏は、「カナダが、あまりにも、アメリカのご機嫌取りに走り、アメリカ市場のみが、カナダの輸出牛肉の鍵を握っていると、ここ何十年も思い込んでいることに、日本は、不満をつのらせている。」のだという。

Ted Haney氏は、さらにこうも言う。「もし、われわれが、情報を共有し、協同行動をとり、隣国の友人とともにことにあたり、解決策を得、輸出解禁にいたれば、まるで、親がもにくっついていくコガモのように、だれしも、それに同調していっただろうに。」

これに対して、CFIAのRichard Fadden氏は、こう反論する。
「カナダが何をしようとしまいと、それで日本側の態度が変わったとは思えない。ちなみに、この1.2.3週間の間で、日本の態度に変わった点が、なんかありましたっけ?何もなかったじゃないですか。」

カナダ農業連合もまた、カナダBSE発生の初期段階で、その対策にあたり日本を含めなかったことを批判する書簡を、オタワに対し提出することを、このたび決めた。
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