Sasayama’s Weblog


2008/10/11 Saturday

環境問題解決のスキームは、トレード・オフのスキームだけで、十分なのか?

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 13:21:49

 

昨年秋から、明治大学の学部間共通総合講座という講座で、年一回、90分程度、「環境と政治」というようなテーマで、講義らしきものを受け持っている。

今年も、今週の木曜日(2008年10月9日)に、行なった。

前回は、政経学部の学部生と院生のみであったが、今年からは、法学部や情報コミュニケーション学部などの方も、見えているらしく、教室は、昨年よりも、かなり広い階段教室。

まあ、昨年とおんなじようなことをしゃべればいいようなもんだが、それでは、進化がないと思って、日ごろ私が、環境スキームについて、考えていることまで、しゃべってしまった。(私の板書は、かなり汚いもんなんで、学生さん、お目汚しで、ごめんなさいね。)

つまり、話したかったことは、現在の環境解決スキームは、そのほとんどが、トレードオフのスキームから成り立っていることへの疑念についてだ。

特に取り上げたのは、次の4つのスキームだ。

汚染者負担(PPP)原則

もはや、古典的な原則だが、国の段階では、金科玉条のごとく、守られているのだが。
私的企業がいったん垂れ流した外部不経済を、再び、当該企業に内部化させると いう、まことにスマートな発想なのだが、実際の外部不経済には、市場(企業)の失敗による外部不経済以外に、政府の失敗(官僚や国会議員の不作為)による外部不経済も伴っている。

当該企業が内部化できないことはわかりながら、いたずらに汚染者負担(PPP)原則をかざすばかりで、時の浪費をもって、実は、当の被害者の老齢化を待っているというような例は、水俣病問題以外にも、たくさんある。

そもそも、外部不経済には、企業が利益拡大のみを目指したがために生じた「一方向外部経済」(One-Directional External DisEconomy)とともに、一地域において、面的に発生する外部不経済は、その地域の被害者が加害者でもある、という複雑な因果関係の下に生じている外部不経済(相互外部不経済-Reciprocal External DisEconomy-)もある。

このような一見スマートな汚染者負担原則でもってすべてを解決できるような妄想を政策当事者が抱くことは、「時のアセス」の観点から言えば、解決の遅れをすべて被害者の犠牲に負わせてしまうという欠陥となってしまう。

No-Net-Loss原則

ミチゲーションの考え方は、たとえば、湿地の開発行為による損傷について見た場合、開発行為による湿地の環境価値の損失を、開発者が新たに創造しうる湿地の環境価値が補いうれば、その開発行為は是認されうる、という考え方が、No-Net-Loss原則の考え方なのだが、ここには、時間的な要素が含まれていない。

すなわち、垂直的なトレードオフさえ図られれば、オンサイトでの湿地の損傷と、オフサイトでの湿地の創造とが、環境価値が一致することによって、この環境問題は解決しうるという考え方なのだが、果たして、どうなのだろうか。

このNo-Net-Loss原則に、時間的な要素を取り込むべし、としたのが、以前、このブログでも紹介したことのある久野武さんの『拡大ミチゲーション論』だ。

つまり、No-Net-Loss原則が、オンサイトとオフサイトとのトレード・オフだ けでなく、期近と期先との間のトレード・オフも成り立ちうるスキームを作れば、より柔軟なトレードオフも成り立ち、早期の環境問題解決に資するスキームとなるのではなかろうか。

排出権取引

A国排出枠の余力を排出権化し、これを、自国の排出枠が不足しているB国と排出権の取引をすれば、トレードオフの関係が生じ、環境問題の解決に資する、という考え方だが、Patrick Dixon氏の指摘(「Carbon Neutral?」)のとおり、きわめて、漏れ(リーケージ)のおおいトレードオフのように見える。

第一、国の排出枠そのものが、一見、計量化されているようで、実は、バーチャルなもので、政治的に決められたものである。

狐の世界のハッパによる取引に近い滑稽さも、伴ったものだ。

また、排出枠の購入費用を 購入者側の国の環境対策費に使途限定しうる「グリーン投資スキーム」(GIS)も、これによって、乗数的に購入者側の国の排出枠の余力が生じるという保障もない限り、奇麗事のスキームにも見える。

環境スワップ(DNS)

発展途上国の累積債務の返済負担を軽減する代わりに,保護区の設定など, 自然保護政策を確約させ、環境 NGO が金融機関から債権を割引価格で購入し,金融機関は途上 国の現地通貨を債務国に提供する,という形をとるのだが、ここにもリーケージは生じないのか?、疑念が残る。

以上が、今回、講義の中で指摘した点だが、この指摘の共通にあるのは、「環境解決スキームに時間の概念を」ということである。

私は、時間の概念を取り入れた環境解決スキームを考える上で、参考にしたいのが、オプション概念である。

つまり、オプションの概念のポイントは、「一定の期日までにおいて、一定の権利価格以上にならなければ、当初約束した権利価格での原資産取得権利の権利取得価格は、無価値になってしまう。」(これは、コールの場合で、プットの場合は、逆に「一定の期日までにおいて、一定の権利価格以下にならなければ、当初約束した権利価格での原資産取得権利の権利取得価格は、無価値になってしまう。」ということになる。)という、原資産取得権の期限付きのトレードオフの概念である。

「問題解決が期限内であればトレードオフは成立しうる」ということで、このスキームにおける時間の要素は、トレードオフの成立を時間的に促進しうる要素ともなりうる。
(オプションについてもっと詳しく知りたい方は、私が書いたマニュアルをご参照)

環境オプションとでもいうかんがえかたが、あらゆる環境解決スキームに必要な感じがしている。

これについては、また、日を改めて、論じることにしたい。

同時に、環境問題の解決が司法の場に移された場合、これまでの応報的司法から、修復的司法の立場に立った、被害者・加害者和解プログラム(VORP Victim offender Reconciliation Program)や、被害者・加害者仲裁プログラム(VOM Victim Offender Mediation Program)のスキームが導入されるべきである。

なお、以下は、当日の講義内容のポイントである。

ご参考までに、記載しておく。

講義メモ

わが国における環境政治家の役割の変化について
     
1.代議制の形骸化と環境NPO/NGOの変質

(1)これまでの「政・官・民」の力関係から、「NPO/NGO・官・民」の力関係へ

(2)代議制の形骸化と、環境NPO/NGOの変質を促した要因

これまでの「政・官・民」の力関係は、グー・チョキ・パーの関係 政治家は、予算を取れなくなってきたし、小選挙区なので、専門力を行使できなくなってきた。

官僚は、許認可権限を奪われたり、委託研究による民間への甘いえさが行使出来なくなってき た。

民は、業界圧力としての政治家への働きかけが出来なくなってきた。

このような中で、新しい「三権」として「NPO/NGO・官・民」の力関係が生まれてきた。

一方、環境NPO/NGOは、これまでの抵抗型の活動から、提案型の活動にシフトしてきた。
特に諫早干潟問題における山下弘文さんらの活動が契機になった。

また、行政側も、パブリックコメントなどを通じて、代議制をスルーして、直接、環境 NPO/NGOに働きかける比重が多くなってきた。

2.住民の具体的な環境要望を法制度の実現にまで向かわせるための手順

(1)マスコミ報道などを契機にしての政策変更を促すキーワードの発生と、そのキーワードに関心 を示すNGO/NPOやオブ二オンリーダー、政治家、官僚の発生

(2)その機会を捉えての政治家を中心にしての勉強会やシンポジウムの開催を仕掛けるとともに、 NGO/NPOとの接触・情報交換などの機会の発生

(3)それらを契機にして、これらのテーマを省益にしたい官僚の取り込みと、これらのキーワード を法制化する際の、インセンティブの確定と、調査費などの予算措置の確保

(4)法制化を議員立法(衆法)でやるのか、内閣法(閣法)でやるのかの選択。議員立法でやる場合、担当 する委員会の選択。野党窓口の確保。野党との修正合意の根回し。 内閣法でやる場合は、キーワードが複数省庁にまたがる場合、その繋ぎとして、まず、議員立法 先行型で行う必要もあり。

(5)議員立法でやる場合は、与野党の委員会理事間で合意をはかり、委員長提案で、討論省略、一 挙に採決する方法もある。

(6)パブリック・コメントによる内容修正のフォロー

3.トレードオフのスキームによる環境利害調整の限界

排出権取引−A国排出枠の余力と、B国排出枠の不足との間にリーケージはないのか?

汚染者負担原則-私的企業がいったん垂れ流した外部不経済を、再び、当該企業に内部化させると いう発想でいいのか?

No-Net-Loss原則-ミチゲーション・バンキング−オンサイトとオフサイトとのトレード・オフだ けでなく、期近と期先との間のトレード・オフも成り立つのではないのか?

環境スワップ(DNS)-発展途上国の累積債務の返済負担を軽減する代わりに,保護区の設定など, 自然保護政策を確約させ、環境 NGO が金融機関から債権を割引価格で購入し,金融機関は途上 国の現地通貨を債務国に提供する,という形をとるのだが、ここにもリーケージは生じないのか?

4.環境政治家に求められる新たな役割

(1)先進的な司法見解の取り入れと、行政に対する牽制力の発揮

(2)提案するNGOからの提案の積極的取り入れと、それをたたき台にして省庁と、解決策を探る努 力

(3)官僚任せにしない、政治家自身の環境要望のシーズ探し 特に、改革特区制度を利用した環境要望の実現化

(4)環境紛争を長期化させない、時のアセスの観点からの「和解スキーム」の確立。

(5)環境価値のオプション的なトレードについての新しいスキームの構築-拡大ミチゲーション構 想など。

(6)貧弱な議員立法のインセンティブの改善

(7)NPO提案を法制化に結びつけられうるようなアドボケート・プランナーの活用

(8)憲法における「環境権」の位置づけ

(9)代議制とNPOとを結びつけうるNPO of NPO的存在の充実

(10)その他の新しい政策スキームへの取り組み

以上

 

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