2006/12/10
元環境庁のご出身で、現在は関西学院大学総合政策学部の教授をされている久野武さんが、自らの主催される「H教授の環境行政時評」というサイトの「第43講」
で、「拡大ミティゲーション論」というものを展開されていて、興味深い。
1.ミティゲーションとは、なにか?
そもそもミティゲーションとはなんぞやについては、私のサイト『日本にミティゲーション・バンキングは可能か』などをご参考にしていただければありがたいが、ごく、略していえば、次のようなことになるだろう。
ある開発プロジェクトが貴重な生態系のある土地を対象とした場合、その開発インパクトを軽減するため、次の3つの段階を経て対応する。
第一は、開発プロジェクトが、その生態系のある場所を避けて、実施される「回避」。
第二は、どうしても、避けられない場合、プロジェクトの規模そのものを縮小することによって、開発の生態系へのインパクトを小さくするという「最小化」。
第三は、この最小化も困難な場合、開発の対象となってしまう、生態系の機能を別の形で代償し、補償する「代償」。
この三段階を回避→最小化→代償の順序(Sequencingという)に従って、実行の段階を踏んでいき、生態系への開発のインパクトを最小化することを、ミティゲーションと呼ぶ。
2.ノーネットロス原則は、ミティゲーションの基本原則
そして、第一第二段階での解決がどうしても難しい場合に、最後の解決策として、上記の第三段階の「代償」措置がのこるのであるが、この場合、大切なのは、この「代償」措置は、ノーネットロス原則というものを原点にして行われるということである。
このノーネットロス原則とは、もともと、1988年に、アメリカの湿地保全についての基本的な考え方として示されたもので、「湿地の喪失総量は、同量・同質の湿地の回復・創出によってあがなう」という「No−Net−Loss Policy」を元にした考え方である。
(注−1988年にthe National Wetlands Policy Forum が、「no overall net loss of wetlands」政策の採択を政府に求め、続いて、現在のブッシュ大統領の父ジョージ・ブッシュが、「the “no-net-loss” goal 」を国策として、もうけることを約束した。参照「WETLANDS」)
3.オンサイトでのミティゲーションとオフサイトでのミティゲーション/インカインドのミティゲーションとアウト・オブ・カインドのミティゲーション
すなわち、環境価値の喪失分は、環境価値の創出分によって、あがなわれ、総和としては、環境価値の維持が保たれるという考え方だ。
この場合、従来は、環境喪失の同じ現場において、新たな環境創出を持ってあがなう、オンサイトのミティゲーションの考え方でもって行われてきた。
たとえば、開発によって、貴重な生態系が失われるケースの場合には、喪失した干潟の代償措置として、開発現場と隣り合わせて、人工干潟を作る、といったようにである。
しかし、たとえば、鉄道や道路などの線状(リニア)の開発を伴う場合、一つの現場だけでなく、開発沿線の無数の現場において、小規模ながらの生態系の損傷が起きる。
その場合、その損傷した現場のそれぞれに、オンサイトでの代償措置を施しても、創出された生態系は、砕片化された小規模のものとなり、結果、創出後の生態系の機能保持が難しくなってくる。
そのようなところから、これらの砕片化された生態系を一つにまとめ、まとまった規模での創出生態系をつくり、その保全が図られる必要が出てきた。
さらに、喪失されるオンサイトでの生態系と同種の生態系(インカインド-In-kind-の生態系)を、オフサイトに作ろうとしても、その地域全体の生態系と有機的につながらず、戦略的配置ができないケースが出てきた。
とくに、水系の分断により、代償後の湿地の水位が確保できず、失敗に終わる例が、多く出てきた。
そこで、必ずしも、オンサイトと同じではない生態系(アウト・オブ・カインド-Out-of-kind -の生態系)を作ることで、オフサイトの生態系に、喪失する環境価値と同等の環境価値を確保する必要に迫られてきた。
4.ミティゲーション・バンキングが生まれ出た理由
そこで、これらの難問を開発しうるスキームとして、環境創出の現場でないオフサイトでも、オンサイトでの環境喪失分をあがないうる、また、異種の生態系の創出であっても、喪失する生態系と同様の環境価値であがないうる、環境創出を可能にする、ミティゲーション・バンキングという考え方が生まれてきた。
このスキームにおいては、生態系を有する土地の持つ価値をCreditsという単位で評価し、開発によって喪失する生態系の価値を、Debitsという単位で換算し、開発業者は、このDebitsと同数のCreditsを、ミティゲーション・バンクから購入することで、開発許可を得ることができる。
つまり、環境喪失現場でのCreditsと、環境創出現場でのDebitsとのトレードオフが、ミティゲーション・バンクを介在して、可能になる、という考え方である。
ミティゲーション・バンクは、クレジットを売り切った段階で、自らの有する生態系の回復・創出のため、第三者機関(MBRT)の管理のもと、クレジットを引き出し、使うことができる。
5.久野武さんがいわれている拡大ミティゲーション論の要約
そこで、この久野武さんが環境行政時評でいわれている拡大ミティゲーション論を要約してみると、次のようなものになるだろう。
1.ノーネットロス原則を、空間的な環境改変時の原則に限ることなく、これに、「時間」という要素を取り入れて考えてみてはどうか。
つまり時間差ミティゲーションという考え方もできるのではなかろうか。
2.例えば、現在年間100万トンの二酸化炭素を排出している電機メーカーが、省エネタイプの最先端を行く製品を、今後、2010年までに、これまでの二倍、生産するとする。
3.現在使われている非省エネタイプの旧製品が新しい省エネタイプの製品に、今後、10年間にリプレイスされていくことで、その製品使用に伴うトータルの二酸化炭素排出量は現在の1000万トンから2010年には850万トンになり、150万トン減る。とする。
4.この結果、2010年には製造量が二倍になり、製造時の二酸化炭素排出量は150万トンになる。
一方、その省エネタイプの新製品の使用時の二酸化炭素排出量は、850万トンとなる。
5.もし、非省エネタイプの旧製品が新しい省エネタイプの製品に置き換えられない場合には、製造時の二酸化炭素排出量は、100万トン、使用時の二酸化炭素排出量は、1000万トンとなる。
6.上記のことから、製造時と製品使用時との二酸化炭素排出量のトータルは、非省エネタイプの旧製品が1100万トン、新しい省エネタイプの製品が1000万トンとなる。
7.上記の例においては、10年間における旧製品から新製品への置き換えによって、製造量が二倍になるにもかかわらず、二酸化炭素排出量は同じ、ということになり、10年間の時間差をおいてのノーネットロス原則が達成できる。
という考え方のようだ。
6.「時間差ミティゲーション」を、これまでのミティゲーション・バンクの考え方に適用してみると。
上記の久野武さんがいわれる拡大ミティゲーション論の考え方を、これまでのミティゲーション・バンクの考え方に適用してみると、次のようになるだろう。
喪失生態系の持つクレジットと、開発業者が開発認可をインセンティブにして購入するデビットが、ノーネットロス原則に基づいて、イコール決済されるまでに、開発プロジェクトごとに異なった時間差を持って、決済されるまでの期間、ミティゲーション・バンクの中に、滞留しているということになる。
いわば、これまでのミティゲーション・バンクが、頼母子講的決済機構であったのが、長期銀行的な決済機関に様変わりしてしまうということになる。
果たして、この場合、従来のミティゲーション・バンクのスキームで処理しきれるのであろうか。
もちろん、こうなれば、喪失生態系のクレジットは、その時間差分に応じて、利子が付くであろうし、また、開発業者が納めるデビットも、その時間差分の利子がオンされたものとなるだろう。
しかし、上記にも述べたように、プロジェクトごとに設立されるミティゲーション・バンクは、クレジットを売り切った段階で、クレジットを引き出し、自らの有する生態系の回復・創出に当たるのであるから、このように決済の期間が長期化しては、それ自体が不可能になってしまう。
この時間差を補償しうる、何らかのバンク・オブ・バンクス的存在がなければ、このスキームは、機能しないだろう。
ましてや、上記の久野さんの例でいけば、10年の期間中では、銀行でいえば、オーバーローンの状態にも、なるはずである。
つまり、当初、ミティゲーション・バンクに積み立てたクレジットが、適切な利子率の上乗せがない場合は、減価していくということである。
ミティゲーション・バンクでのオーバーローンの状態とは、環境的にいえば、喪失生態系も、その代償としての生態系も、どっちつかずの最悪の状態に、期間中、おかれている状態といえる。
上記の久野さんの例でいえば、省エネ型の新製品の生産設備は稼働しているが、省エネ型新製品による非省エネ型旧製品の市場での駆逐が進んでおらず、双方の二酸化炭素排出量が中途半端に放出される段階というものがあるはずである。
これまでのミティゲーション・バンクのスキームでは、これらの中途半端の状態を、利子率のインセンティブでしか、改善できないという弱みがある。
7.「時間差ミティゲーション」をオプションの考え方になぞらえてみてみると。
そこで、この久野武さんがいわれる拡大ミティゲーション論の考え方を、オプションの考え方になぞらえてみると、よく、その意味がわかる。
オプションの価値は、原資産価格の変動によって、派生的に決まってくる。
この原資産としては、たとえば、ダウ平均や日経平均などの株価インデックスや、穀物相場などがある。
また、気候変動なども、原資産のインデックスとなりうる。
オプションには、行使価格というものがある。
行使価格とは、原資産価格が、その行使価格の示す水準に達したときには、権利行使できるという水準である。
オプションには、
「原資産価格が上昇(下降)すれば、オプション価格も上昇(下降)するコール」
と、
「原資産価格が上昇(下降)すれば、オプション価格は、逆に、下降(上昇)するプット」
とがある。
前述の行使価格との関係でみれば、
「コールは、原資産価格よりも行使価格が低い場合にのみ、権限行使でき、価値をもち」、
「プットは、原資産価格よりも行使価格が高い場合にのみ、権限行使でき、価値をもつ。」
原資産価格よりも行使価格が高いコールや、原資産価格よりも行使価格が低いプットは、満期日における清算日(SQ-特別清算-Special Quality)においては、無価値のものとなる。
したがって、
「原資産価格が、この行使価格に近づけば近づくほど、オプションの価格は、高騰していく」
が、
「コールの場合は、原資産価格が、行使価格を下回った場合(原資産価格< 行使価格)」
や、
「プットの場合は、原資産価格が、行使価格を上回った場合(原資産価格>行使価格)」
には、オプションの価値は、急速に下落していく。
オプションを取得することを、debit(pay out キャッシュベースでの差し引き支払い、支払いプレミアムの合計が受け取りプレミアムの合計より大きい。)といい、オプションを手放すことを、credit(take in キャッシュベースでの差し引き収入、受取りプレミアムの合計が支払いプレミアムの合計より大きい。)という。
オプションの売買には、
「売り建て、後に、買い戻し、利得を得る場合(ショート・ポジション。売り建てて、クレジットを得、買い戻して、デビット支払いとし、その両者の差額分が実質の損得となる。)」
と、
「買い建て、後に、転売し、利得をえる場合(ロング・ポジション。買い建てて、デビット支払いとし、転売で、クレジットを得、その両者の差額分が、実質の損得となる。)」
とがある。
前者は、オプションの価値が下がれば下がるほど、利得が得られ、後者は、オプションの価値が上がれば上がるほど、利得が得られる。
また、オプションには、タイム・ディケイ(Time Decay、時間価値の腐食)という概念がある。
オプションが満期日に近づけば近づくほど、コールもプットも、それが、原資産価格に対して、行使価格が高かろうと、低かろうと、時間価値の腐食の程度が大きくなってくる。
8.これまでのミティゲーション・バンキングの考え方にオプションのスキームを当てはめてみると。
では、これらのオプションの仕組みに、この久野武さんの言われる拡大ミティゲーション論の考え方を入れ込んでみるとどのようになるのだろう。
まず、原資産価格は、ミティゲーションの代償措置が求められているオンサイトの現場の環境価値である。
行使価格は、開発認可価格であり、このオンサイトの喪失生態系の環境価値を、どの程度の価値と評価するかの、程度をあらわす。
これまでのミティゲーション・バンキングの考え方でいえば、次のようなことになるだろう。
(1)オンサイトの環境価値が、喪失される場合、
開発業者は、現在の環境価値が喪失される開発現場の環境価値相当額の行使価格で、オプションを、プットで買い建て、デビットを支払う。
プットで買い建てられているので、開発の対象となるこれまでのオンサイトでの生態系の価値が下がれば下がるほど、開発業者は、利得を得られるが、当初の目的の開発行為を行わず、結果、オンサイトの環境価値が上がれば上がるほど、開発業者は、低いクレジットでしか、転売できないことになる。
開発業者は、その見返りとして、開発許可を得、オンサイトの生態系の現場での開発ができるとともに、ノーネットロス原則に基づいて、新しい生態系を、オフサイトで創出する。
開発業者は、この新しく創出されるオフサイトでの生態系について、その生態系が、時間的な経過の元に、環境価値を増した時点での推定評価額の行使価格で、プットで売り建て、クレジットを得る。
プットで売り建てているので、オフサイトの新しく創出された環境価値が、上がれば上がるほど、開発業者の利得は増し、オフサイトの新しく創出された環境価値が、下がれば下がるほど、開発業者は、高いデビットで買い戻さなければならない羽目になる。
(2)すでに環境価値が喪失したオンサイトの場合
このスキームは、逆に、環境価値の低いサイトでも適用できる。
環境価値の高いサイトの場合は、プットでの売買となるが、環境価値の低いサイトの場合は、コールでの売買となりうる。
上記と同様のスキームでみてみると、次のようになるだろう。
開発業者は、現在、環境価値が低い開発現場の環境価値相当額の行使価格で、オプションを、コールで買い建て、デビットを支払う。
開発業者は、この買い上げたオンサイトに、生態系機能修復工事を行うことで、利得獲得を目指すことになる。
コールで買い建てられているので、生態系機能修復工事の施工によって、開発の対象となるこれまでのオンサイトでの生態系の価値が、上がれば上がるほど、開発業者は、オプションの転売によって、利得を得られるが、当初の目的の生態系機能修復工事を行わず、結果、オンサイトの環境価値が下がれば下がるほど、開発業者は、低いクレジットでしか、転売できないことになる。
開発業者は、その見返りとして、環境価値を現在は持っているが、将来環境価値が著しく減価するとみられるオフサイトの用途転用権を得る。
オンサイトの生態系の現場での生態系機能修復工事ができるとともに、ノーネットロス原則に基づいて、環境価値を現在は持っているが、将来環境価値が著しく減価するとみられる生態系の転用を、オフサイトで果たすことになる。
開発業者は、このままでは、将来、著しく環境価値が減価するとみられるオフサイトでの生態系について、その生態系が、まだ、環境価値を持っている、時間的な経過を経ない段階での推定評価額の行使価格で、コールで売り建て、クレジットを得る。
コールで売り建てているので、オフサイトでの現在の環境価値から、他の開発価値への巧みな転用によって、現在の環境価値が、時間的経過の元で、下がれば上がるほど、開発業者の利得は増すが、開発業者が、他の用途へのシフトを怠っていると、現在の高い環境価値は、減価せずに、開発業者は、、高いデビットで買い戻さなければならない羽目になる。
以上が、これまでのミティゲーション・バンキングの考え方にオプション的な考えをすり込ませたスキームだ。
9.久野武さんがいわれている電機メーカーの二酸化炭素排出量の例に当てはめてみよう
では、最後に、久野武さんがいわれている電機メーカーの例に当てはめてみよう。
この場合、原資産価格は、二酸化炭素排出量であり、行使価格は、非省エネタイプの旧製品の製造設備が排出する二酸化炭素排出量、非省エネタイプの旧製品自体の使用で排出する二酸化炭素排出量、新しい省エネタイプの製品の製造設備が排出する二酸化炭素排出量、新しい省エネタイプの製品の使用で排出する二酸化炭素排出量、以上のそれぞれの環境価値評価額となる。
従って、この場合は、二酸化炭素排出量の排出権の売買ではなく、二酸化炭素排出量を負の環境価値に置き換えての売買となる。
二酸化炭素排出量が多い場合には、環境価値は、低く(負の環境価値の絶対値は、高く)、二酸化炭素排出量が少ない場合には、環境価値は、高い(負の環境価値の絶対値は、低い)、ということになるので、排出権売買との混同をしないようにしなければならない。
まず、現在の非省エネタイプの旧製品について、みてみると、
電機メーカーは、
非省エネタイプの旧製品の製造設備が排出する二酸化炭素排出量の環境価値換算評価額を、現在の生産規模で10年間存続するという前提で、コールで、売り建て、
非省エネタイプの旧製品が、現在のシェアで、10年間存続するという前提で、当該商品が使用時に排出する二酸化炭素排出量の環境価値換算評価額を、コールで、売り建てる。
この結果、
非省エネタイプの旧製品の製造設備が排出する二酸化炭素排出量が減っていけばいくほど、電機メーカーの利得は、大きくなり、
非省エネタイプの旧製品の市場でのシェアが低くなっていけばいくほど、電機メーカーの利得は、大きくなってくる。
反対に、電機メーカーが、二酸化炭素排出量の大きい非省エネタイプの旧製品に、10年間、固執すればするほど、電機メーカーの買い戻しによる損失は、大きくなる。
同様に、新しい省エネタイプの製品について、みてみると、
新しい省エネタイプの製品の製造設備が排出する二酸化炭素排出量の環境価値換算評価額を、現在の生産規模での二酸化炭素排出量相当額で、コールで買い建て
新しい省エネタイプの製品が、現在のシェアで、10年間存続するという前提で、当該商品が使用時に排出する二酸化炭素排出量の環境価値換算評価額を、コールで、買い建てる。
この結果、
新しい省エネタイプの製品の製造規模が拡大すればするほど、電気メーカーの利得は、大きくなり、
新しい省エネタイプの製品の市場でのシェアが大きくなればなるほど、電機メーカーの利得は、大きくなる。
反対に、電機メーカーが、二酸化炭素排出量の少ない、新しい省エネタイプの製品の拡販と生産規模の拡大に、10年間、何の努力もしなければ、電機メーカーの転売による損失は、大きくなる。
以上、久野武さんがいわれる拡大ミティゲーション論の考え方を、オプションの考え方になぞらえてみると、このようなスキームが、確立できるのではなかろうか。
10.まとめにかえて−このスキームで、鴨場のミティゲーションを考えてみる−
このようにみてみると、これまでのミチゲーションを垂直的ミチゲーション(Vertical Mitigation)とすれば、この拡大ミチゲーションは、水平的ミチゲーション(Horizontal Mitigation)といえるかも知れない。
すなわち、同じオンサイトとオフサイトでの場所の差や環境価値評価の差同士の交換ではなく、サイドにウイングを広げての、時間差をもうけての、アービトラージ(arbitrage )なデビットとクレジットとの取引ともいえるからだ。
ここで、ちょっと、不謹慎な話になるかもしれないが、宮内庁の所有する鴨場のミティげーションというものを考えてみよう。
昔の御料地といわれたものは、昭和22 年に国有財産に払い下げられ、皇室用財産といわれ、実質は、国有地である。
皇室財産の土地面積は、24,658,904m2 といわれ、その中には、新浜鴨場 324,145 m2( 98,050 坪)埼玉鴨場 116,142m2(35,130 坪)などが含まれている。
「最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会資料」の75ページ参照
その意味で、宮内庁は、日本で有数の自然生態系のオーナーでもある。
ミチゲーションバンキングでいえば、膨大なクレジットの持ち主ということになる。
もし、宮内庁の鴨場にミチゲーションバンキング構想を適用するとなると、妙な言い方だが、宮内庁は、ミチゲーションバンキングのドデカイ胴元となりうる。
現在の鴨場は、管理が行き届き、環境価値は、ある。
しかし、将来とも、これらの鴨場が守れるという財政的保証は、正直ないだろう。
そこで、ここに、時間差ミティゲーションのスキームを取り入れてみたらどうなのだろう。
現在は、管理の行き届いた環境スポットではあるが、このままでは、荒廃必然というスポットを、いったん、売り建てておいて、クレジットを得、後に買い戻す、このようなことで、鴨場の環境価値の低減を防ぐことができるのではなかろうか。
さらに、すでに、都市近郊の旧御料地など、このままいけば、人智を持って、修復しがたい環境スポットとなり、いずれは、壊滅が予測される旧御料地についても、ここ当分は、環境価値を保ちうる、というためのスキームにもなりうる。
この時間差ミティゲーションのメリットは、環境価値が失われるオンサイトばかりではなく、すでに環境価値が失われたオンサイトのミティゲーションも、可能という、双方向性にある。
生態系の再生も、破壊も、緩慢にしてなるものであることを考えれば、この時間差ミティゲーションのスキームは、いろいろな効用をもたらしうるものと、確信する。
以上
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