2006/12/25(Mon)
「細菌性髄膜炎、日本もワクチン承認へ」という朝日新聞の記事なのだが、ここでは、「厚生労働省は、重症率が高い乳幼児の病気、細菌性髄膜炎の主原因であるインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン(商品名アクトヒブ)を承認する方針を固めた。26日の専門家による会議をへて、1月下旬にも承認される見通し。Hibワクチンは世界100カ国以上で承認されており、先進国で未承認なのは日本だけだった。 」としている。
しかし、この記事だけでは、髄膜炎を一把一からげにしたような記事であり、また、いくつか、正確を欠く部分もあるので、誤解を生みかねない。
ここで、若干補足説明が必要な気がする。
1.二つの髄膜炎
すなわち、二年ほど前に、私のブログ「流行性脳脊髄膜炎ってなんだ?」で書いたように、
髄膜炎は、大きく次の二つに分けられる。
�.Ε�ルス性髄膜炎(Viral meningitis)
�∈拔歙�髄膜炎(Bacterial meningitis)
�,離Ε�ルス性髄膜炎(Viral meningitis)には、ワクチンは、必要ない。
2.三つの細菌性髄膜炎
�△虜拔歙�髄膜炎(Bacterial meningitis)は、さらに、次の三つのタイプに分かれる。
�/駛豈蟠歙�髄膜炎(Neisseria meningitidis (Meningococcal Meningitis )))
��肺炎球菌性髄膜炎(Pneumococcal Meningitis )
��ヘモフィラス・インフルエンザ菌性髄膜炎(Haemophilus influenzae Meningitis)
3.髄膜炎菌性髄膜炎には、13種類の血清型グループがある。
�,凌駛豈蟠歙�髄膜炎(Neisseria meningitidis (Meningococcal Meningitis ))には、13種類(A, B, C, D, X, Y, Z, E, W-135, H, I ,K, L)のN(ナイセリア).serogroup(血清型)と、サブタイプがあるが、このうち、主要なserogroupとしては、A, B, C, Y, W135のグループに分けられ、感染流行のN. meningitidisとしては、 A, B, C 、W135があげらている。
Serogroups A(菌株名 Z2491)は、アフリカ、アジアで見られるが、アフリカ以外で発生したのは、1994-95年のモンゴルのみである。
Serogroups B(菌株名 MC58)は、アメリカ・ヨーロッパに見られる。
Serogroups C( 菌株名 FAM18 )は、アメリカ、ヨーロッパに見られ、1995-97年のスペイン、1992-93年のアメリカ/カナダに発生したものである。そのほか、アフリカでも、見られる。
W135は、2000年と2001年に、サウジアラビアの巡礼団に見られたほか、2002年には、ブルキナファソ (Burkina Faso)に見られ、一万三千人感染、一千五百人死亡となっている。
4.髄膜炎菌とヘモフィラス・インフルエンザ菌との違い
ここで、髄膜炎菌(Neisseria)とヘモフィラス・インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae )との違いを見てみると、
�,凌駛豈蟠�(Neisseria)のクラス(綱)は、 ベータ・プロテオバクテリア綱 (Betaproteobacteria)(他の主な病原菌としては、バークホルデリア,アルカリゲネスなどがある。)に属すのに対して、
��のヘモフィラス・インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae )のクラス(綱)は、ガンマ・プロテオバクテリア綱 (Gammaproteobacteria)(他の主な病原菌としては、レジオネラ,コクシエラ,シュードモナス,ビブリオ,腸内細菌科などがある。)に属し、菌株名は、「Rd KW20」となっている。
参考
「Neisseria_lactamica_ST640: list of ORFs」
「TAXONOMY」
「Meningococcal meningitis 」
「New genome sequence focuses search for type B meningitis vaccine」
5.細菌性髄膜炎対応ワクチンの現状
以下、細菌性髄膜炎(Bacterial meningitis)対応ワクチンを見てみると、次のとおりである。
(1).髄膜炎菌性髄膜炎(Neisseria meningitidis )対応ワクチン
髄膜炎菌性髄膜炎(Meningococcal Meningitis )対応のワクチンとしては、主要なserogroupであるA, B, C, Y, W135のうち、Serogroups B(連鎖球菌streptococcus Escherichia coli, Listeria monocytogenesなど)を除いては、すべてのグループに適応したワクチンがある。
また、現在、対応するワクチンがないSerogroups Bについても、Novartis MeNZB™ vaccineなど、Serogroups B対応ワクチンの開発も近いとされている。
以下は、Serogroupsごとの対応ワクチン一覧である。
��M.P.S.V.4 (Menomune)-1970年代から使われてきた多糖類ワクチン(polysaccharide vaccine)。-Serogroups A,C, Y, W-135に対応-
��M.C.V.4 (Menactra)-2005年に認可された結合型ワクチン(conjugate vaccine)-Serogroups A,C, Y, W-135に対応-
��Meningococcal conjugate C vaccine [Menjugate C または、NeisVac C または、 Meningitech] -serogroups C 対応ワクチン-
(2).肺炎球菌性髄膜炎(Pneumococcal Meningitis )対応ワクチン
��Pneumococcal conjugate vaccine [Prevnar]
��PNEUMOVAX 23(日本商品名「ニューモバックス」)
��Pnu-Imune
(3).ヘモフィラス・インフルエンザ菌タイプ B 性髄膜炎(Haemophilus influenzae type b (Hib)Meningitis)対応ワクチン
��Haemophilus b conjugate vaccine [ActHIB]
��Hibtiter
��Omnihib
��Pedvax HIB
��Prohibit
6.インフルエンザ髄膜炎は、インフルエンザ脳炎とは、まったく異なるものである。
ここで、誤解を招きやすいのが、上記の新聞記事の中にある「インフルエンザ菌b型(Hib)」という言葉である。
インフルエンザという名前がついているため、ウイルスと誤解されてしまうが、これは、名前と異なり、ウィルスではなく、バクテリアによる感染である。
これは、かつてインフルエンザの原因と間違われたためその名が付いたパスツレラ科(Pasteurellacae ) ヘモフィラス属(Haemophilus) の細菌(ヘモフィルス属の細菌としては、インフルエンザ菌、軟性下疳菌、ヘモフィルス・エジプチウス(コッホ・ウィークス菌)などがある。)で、実際にはインフルエンザとは関係はない。
「ヘモフィラス・インフルエンザ菌タイプ B」といったほうが正確なのだが、日本語では、なぜか、紛らわしい「インフルエンザ菌b型」ということばが使われている。
紛らわしいものに、インフルエンザ脳炎(インフルエンザ脳症 Influenza Encephalitis)というのがあるが、このインフルエンザ脳炎は、正確には、Influenza-Associated Encephalitis-Encephalopathy(インフルエンザ関連の脳炎)ということで、インフルエンザ(特にA香港型によって惹き起こされるものが多いといわれる。)や水痘、はしか、おたふく風邪、単核症、口辺疱疹などのウィルス感染の後に発症するものであり、これには、蚊の伝播による脳炎も含まれものである。
今回のワクチンの対象となるのは、インフルエンザ髄膜炎(Influenza Meningitis )であって、このインフルエンザ脳炎(インフルエンザ脳症 Influenza Encephalitis)とは、まったく、異なるものである。
7.バクテリア感染の細菌性髄膜炎の流行の主流は、すでに、ヘモフィラス・インフルエンザ菌タイプ Bから髄膜炎菌性髄膜炎や肺炎球菌髄膜炎へと、移行してきている。
今回、厚生労働省が承認の方向という「アクトヒブ」(ActHIB)は、フランスの製薬大手サノフィ・アベンティス(sanofi pasteur)から、日本のサノフィパスツール第一ワクチンが輸入するものである。
「アクトヒブ」(ActHIB)は、多糖類蛋白結合型ワクチン(conjugate vaccine)であり、破傷風トキソイド(Tetanus Toxoid Conjugate) 結合型ワクチンである。
なお、これまでのバクテリア感染の髄膜炎は、80パーセントが、Haemophilus influenzae type bとNeisseria meningitidis (causing meningococcal meningitis)とStreptococcus pneumoniae (causing pneumococcal meningitis)で占められており、現在の傾向としては、これまでのHaemophilus influenzae type bから、髄膜炎菌-Neisseria meningitidis- (髄膜炎菌性髄膜炎- meningococcal meningitis-を引き起こす。)と肺炎連鎖球菌-Streptococcus pneumoniae- (肺炎球菌髄膜炎- pneumococcal meningitis-を引き起こす)に移行してきているといわれる。
したがって、今回、日本が遅ればせながら、Hibワクチン認可の方向をとったにせよ、細菌性髄膜炎全体の解決とは、またまだ、ならないのである。
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