Sasayama’s Weblog


2005/11/02 Wednesday

政策的な環境受忍限度か?疫学的な環境受忍限度か?-プリオン専門調査会の答申に思う-

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 08:14:18

2005/11/02(Wed)
 
null10月31日の「BSE発生で禁止された米国、カナダ産牛肉の輸入について、再開を容認する答申案をまとめることを了承した」食品安全委員会プリオン専門調査会の吉川泰弘座長の記者会見ビデオニュースをこのサイトで聞いてみて、やや、判じ物めいたものを感じた。

この吉川座長の結論についてのご説明では、アメリカ・カナダと日本とのBSEリスクの同等性評価においては、
「科学的同等性を評価することは困難である」
との結論であって、
「科学的評価ができなかったということではない。前提条件を置けば、科学的評価はした。」
といわれる。

これを砕いていえば、
「前提条件を置けば、科学的評価はした。」→
「前提条件を置けば、科学的同等性を評価することができた。」→
「前提条件が遵守されれば、科学的同等性を保ちうるが、前提条件が遵守されなければ、科学的同等性を保ちえない。」→
「前提条件が遵守されるか、されないかは、食品安全委員会の職責にはなく、日本のリスク管理省庁の職責にもなく、アメリカのUSDAにある。」→
「したがって、今回の諮問に対しては、前提条件が遵守されうる担保は、日本国内にはなく、日本側で、科学的同等性を評価することは困難である。」
ということになる。

この辺のところは、いみじくも、毎日新聞の高木昭午(科学環境部)さんが、10月19日付けの「記者の目:米国・カナダ産牛肉輸入再開」で、明快に論破されていた。

高木さんのご意見の趣旨は、次に集約されていた。

「リスクの同等性の判断は、科学的には無理で、政治判断の領域だ。科学者たちが集まる調査会に政治判断をさせ「日本並みの安全が科学的に保証された」と輸入を再開すれば、消費者をだますことになる。調査会は科学的議論に徹してほしい。政府は政治判断を科学者に押し付けず、自ら責任を取るべきだ。」

私も、昨年、次のサイトのブログ記事で同様の趣旨を書いたことがある。

それは、イギリスのOTMルール見直し(月齢30ヶ月以上の牛の肉を食用に回さないルールの見直し)と、日本の意思決定システムとの対比についてである。

「イギリスにおいては、The Core Stakeholder Groupの報告のなかで、ピーター・スミス氏らの試算を経て、OTMルールをはずすことについてのvCJDへの安全性を確認し、The Core Stakeholder Group から、三種類の代替案が提示され、それに基づき、それぞれの案の費用対効果を試算し、そのうちの代替案のひとつを採用するという、一連の手続きを経ている。
今回の日本の全頭検査見直しの手続きにおいては、後段階での検証がないまま、いわば、プリオン調査会が、全頭検査見直しの先頭-矢面-に立つ形での諮問を迫られているのは、望ましいあり方とはいえないのではなかろうか。」

すなわち、今回の諮問についても、本来は、食品安全委員会は、いくつかの条件を置いての代替案を複数提示すればよかったのだ。

さらに私は、今年の4月に行われた食品安全委員会のパブリックコメントで、次のようにコメントしたことがある。
参照「食品安全委員会に対して提出したパブリックコメントの内容

ここで、私は、「「リスク管理の受忍限度」のフレームワークに、食品安全委員会は、どのようなスタンスで持って、関与すべきなのか?」として、次の点を上げた。

「食品安全委員会としては、国内の牛肉の安全指標としては、cattle oral ID50 の概念での安全性を検証しなければならないのに対して、輸入牛肉の安全指標としては、human oral ID50 の概念での安全性を検証しなければならないことになる。
しかし、human oral ID50 での安全性の検証が不可能な現状では、輸入牛肉の生産国での cattle oral ID50 の概念での安全性を検証するほかは、すべがないことになる。」

つまり、ここでは、食品安全委員会が、そもそも踏み込み得ない、他国のリスク管理の検証の役割をも、になわされてしまっていることへの危惧を述べたのだ。

そもそも、このボタンの掛け違いは、どこで生じてしまったのだろう。

もう一度、1年前の2004年10月25日合意の「米国産牛肉の日米高級事務レベル会合合意の内容」を見てみよう。

ここでは、「5.BEVプログラム概説」
のなかで、
「2で述べたBEVプログラムは、2005年7月に、適用可能なように、修正が検討されるであろう。
日米両国の当局者による共同の再検討では、OIEやWHOの専門家により行われる、科学的見地からの検討を考慮に入れることになるであろう。
この再検討の結果については、なさるべき行動を含め、日米両国政府の合意・判断によりなされるであろう。
日本の場合、これは、食品安全委員会の検討にゆだねられる。」
とある。

この項目は、この時点では、当初、月齢20ヶ月未満でスタートして、今年の7月時点で、月齢30ヶ月以下に修正することを意図して、この項が付け加えられたものだ。

しかし、結果、この項が、日本においては、日本のリスク管理官庁を飛び越え、日本の食品安全委員会へ、丸投げ検討する形を、ここで、許してしまっている。

もともと、日本の食品安全委員会は、アメリカのリスク管理にわたる部分までも抱え込む必要はなかったのだ。

また、日本の民主党を始めとした野党にも、食品安全委員会を、国会に参考人として、呼んでは、スキャンダラスまがいの問題を問いただしていた。

大いなる勘違いである。

食品安全委員会は、国会の参考人出席にも、応じる必要は、さらさらなかったのだ。

先にあげた毎日新聞の高木昭午さんの抱かれたと同様の疑問を、群馬大学の中澤港さんが、自らのホームページに、このような形で書かれている。

中澤さんは、この中で、
「vCJDのリスクが差としてはあまり変わらないだろうという根拠は牛肉の同等性なんかにあるのではないのだから,どうしても外圧に屈したければ,ヒトへの感染率がこれまで低かったから,という正論で押さねばなるまい。」
「(日米間での牛肉のBSEリスク比較に)同等でない証拠が少ないからといって,同等であるとはいえない。」
と、書かれている。

中澤さんのいわれる意味は、こういうことなのだろう。

「アメリカと日本との牛肉の安全性の同等性を、無理にこじつけて、正論としていうには、リスク管理の差に、その理由を求めるのではなくて、ヒトへの感染率の低さに求めなければ、論理として成り立たない。」

もっとも、欧米人と日本人とのコドン129遺伝子のM/M型とM/V型の違いまで、ここで、問題にされてのことでは、なさそうではあるが、ここで中澤さんが指摘されたがったのは、古くて新しい「環境受忍限度」(Environmental and Tolerable Exposure Limits )(Environmental Quality Standards(EQS) and Maximum Permissible Limit(MPL) )をめぐる問題であるともいえる。

ちなみに、中澤さんは、環境リスク評価がご専門で、例の中西準子さんの『環境リスク学』について、次のような指摘をされ、また、中西さんが、次のような答えをされ、一時、話題になったことがある。

私の思うに、環境の受忍限度には、政策的な受任限度と、疫学的な受忍限度の二種類があるものと、思う。

私が、水俣病補償問題に取り組んだときに、いやというほど感じたのは、この二つの受忍限度の落差である。

政策的な受忍限度には、いわゆる患者に対する補償の際のアシキリに、そのまま、つながってしまうという、不条理さが、常にある。

このアシキリは、いわば、政治的なしきい値(閾値)(threshold level)の設定といえる。

そこで、おそらく、疫学的には、補償されるものと、補償されないものとは、シームレスにつながっているものを、政治的な閾値でもって、病像論などという者を、もっともらしく持ち出して、どこかで、バッサリ、二値化しているというのが、現実なのではないのだろうか。

リスク管理の当事者である担当官庁は、常に、国家賠償法の対象になった場合のアシキリを考えての、政策的な受忍限度を、デ・ファクトな基準として採用したがる。

しかし、本来、疫学的な受忍限度は、デ・ジュールな基準でいかなければならないものと、思うのだが。

BSE問題に、多数決の論理を持ち込んでしまったのが、今回の10月31日の食品安全委員会プリオン専門調査会の結論であるといえる。

しかし、中澤さんが、まさに言われるように、「同等でない証拠が少ないからといって,同等であるとはいえない。」のが、疫学の世界なのだ。

こうして、食品安全委員会を隠れ蓑にして、いつまで、日本の国民なり消費者に対して、政策的な環境受忍限度の強要が続くのであろうか。

暗澹たる思いのする昨今である。

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