日本が世界に胸を張って推奨したとの過去の日本の金融機関への公的資本注入スキームだが、その功罪の検証は、もっと、厳密にしておく必要があるようだ。
すなわち、公的資本注入の大儀名分は、金融機関の決済機能の保持にあるというのだが、果たして、そうなのであろうか?
先の小泉-竹中ラインのときも、「金融の決済機能の維持・存続が最優先」ということでの公的資金の資本注入というスキームであったが、では、その結果としての決済機能の円滑化によって、金融機関のユーザーであり消費者である市民がその裨益を受けたか、というと、かなり疑問なのではなかろうか?
金融機関は生き残ったが、現実は、公的資金注入と同時に、その裏では、強烈な貸し剥がしがおこなわれ、同時に、税効果会計(整理損や貸付金の否認分を繰り延べ税金資産にカウントすることで、未収還付事業税を納入し、負債整理の決着が付けば、高率の還付加算金つきで返ってくる。)の適用を狙って、不良債権の損失確定のためのサービサーへの債権の投げ売りがおこなわれ、それによる金融機関の損失確定の結果として、事前に積み立てておいた税金(未収還付事業税)部分が、たっぷり高率な還付金利率つきで帰ってきて、銀行は潤った、という構図がある。
一方、サービサーは、その債権の仕入れ値段(仕入れ値は、購入不良債権額の十分の一程度あるいは、それ以下ともいわれているのだが。)を、債務者には隠して、バーチャルな譲渡債権額をもとに、実質、譲渡債権仕入れ値の10倍以上のあこぎな取立てをしてきた。
一方、注入される公的資金の原資は、真水、あるいは、国債の発行によってまかなわれた。
この構図の元では、結局、究極の被害者は、川上も川下も、まわりまわっては市民、というかたちになった。
このようにみてくると、公的資本の注入とは、金融機関の川上である国債へのデフォルトの移転と、金融機関の川下であるサービサーを通じての市民へのデフォルトの移転、この両者によって、まかなわれた、ともいえる。
このように、過去の日本での公的資金投入スキームは、決して、日本が世界に胸をはれるスキームではなかったのだが、どういうわけか、きょうび、グローバルスタンダードになりつつあるのは、なんとも、奇妙な現象ではある。
この構図は、そのまま、今回の金融危機におけるアメリカの構図にあてはめうる。
たとえば、アメリカのファニーメイなどのGSE(Government Sponsored Enterprises )債の有力顧客であった中国は、ファニーメイ・フレディマックの破綻と公的救済の状況に対処し、それまで保有していたGSE債をそのまま米国債に乗り換え、一方で、アメリカの公的資金注入によって生じる原資調達に寄与するため、米国債を新たに購入する、という、アメリカから迂回したデフォルトの間接的なバッファー機能を、はからずも、はたせられている。
つまり、ここにおいても、GSE債のデフォルトリスクが、ソブリン債へのデフォルトリスクへと移転しているということだ。
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