Sasayama’s Weblog


2007/09/12 Wednesday

WTOとボックス・シフティング規制ルールについて

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:42:17

 
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以前にも、このブログでも取り上げたのだが、一昨年12月18日の香港でのWTOでの最終合意閣僚宣言(ドーハ作業計画閣僚宣言)のパラグラフ5(On domestic support)において、次のような、「ボックス・シフティング規制ルール」(box shifting)(amber boxからblue boxやデミニミスへのシフト)ともいうべきものが付け加えられた。

「貿易歪曲的国内支持全体の削減は、助成合計総量の最終譲許水準、デミニミス及び青の政策の削減の合計の方が全体の削減より小さくても行われる必要がある」
(The overall reduction in trade-distorting domestic support will still need to be made even if the sum of the reductions in Final Bound Total AMS, de minimis and Blue Box payments would otherwise be less than that overall reduction. )

ちょっと、わかりずらい表現だが、ありていに言うと、次のようになるだろう。

譲許(約束)水準では、黄色の政策であったものが、青色の政策に衣替えした場合、助成合計総量の最終譲許水準、デミニミス及び青の政策の削減の合計は、ボックス間でのいりくりが生じるため、実質、少なくなる。

つまり、黄色の政策から振り替えられ、水増しされたデミニミスや青の政策のカウントは、譲許ベースではなく、実行ベースでカウントされるため、譲許(約束)水準での黄色の政策の削減は果たされているが、全体では、ボックス間のやりくりによって、貿易歪曲的国内補助金の総額(全体的削減)は、減額されていない、ということにある。

これを、シーリングと実際適用との間のギャップにある、国内支持政策の水増し(the stretch of water )または、オーバーハング(Overhangまたは、Binding Overhang)といっている。

この「Water 」については「Domestic Support in Agriculture: The Struggle for Meaningful Disciplines」「「The Doha Round Agriculture Negotiations: An Overview」をご参照

このように、実際の支払いベースと譲許(約束)水準の間には、かなりの「水増し」(considerable amounts of ‘water’” between real. spending levels and their bound ceiling amounts)があるといわれている。

そのような場合でも、貿易歪曲的国内支持全体の削減(全体的削減)は、行われる必要があると、ここでいっているわけだ。

この部分の意味について、ICTSDのサイト「LAMY SETS END-JUNE DEADLINE FOR AG, NAMA MODALITIES」では、次のようにいっている。

「この宣言部分は、WTO加盟諸国が、実際の農業補助減額金額をすくなくするために、異なったカテゴリーの元で、既存の補助金を分類し直す(reclassify subsidies)ことを、困難にさせるためのものである。」
(This was an attempt to make it harder for Members to reclassify subsidies under different categories in order to minimise actual reductions.)

つまり、WTOコンプライアンス違反を逃れるために、アメリカを始めとして、各国が、これまでの黄色の政策を、青の政策に、さらには、緑の政策にと、これまでの国内農業保護的補助金を、衣替えして、偽装することによって、実質的な、国内農業保護のための補助金の減額を避けようとする試みに対して、それらのボックス間のシフトを牽制するための条項としてこれらの一行が加えられたのだ。

たとえば、このサイト「Analysis of recentproposals in WTOagricultural negotiations」では、アメリカのボックスシフティングの実態について、11ページの「Table 3. UNITED STATES and EUROPEAN UNION: The outcome of the Doha Round at the end of the implementation period」で説明している。

アメリカのボックスシフティングの実態

. ドーハラウンド・シーリング(A) 2001年2月届出(B) 実際の変更要求額(A-B)
AMS (黄色の政策)  76億ドル 144億ドル -68億ドル
デミニミス 97億ドル 70億ドル 27億ドル
青の政策 48億ドル 0億ドル 48億ドル
緑の政策 507億ドル 507億ドル 0億ドル
合計 728億ドル 721億ドル 7億ドル
TDS 221億ドル 214億ドル 7億ドル
(TDS=AMS(黄色) +デミニミス+ 青の政策) . . .
Overall cut    54% . .

つまり、黄色の政策で-68億ドル削減しても、デミニミスで27億ドル増加、青の政策で48億ドル増加しているので、実質的なTDS(AMS(黄色) +デミニミス+ 青の政策) 削減は、逆に7億ドル増加となってしまっている。

2005年10月時点でのアメリカのWaterなしの提案内容は次のとおりである。

OTDS = AMS(黄色の政策) +青の政策+デミニミス
= 76億ドル(AMS削減-60%) + 48億ドル(生産価値の2,5% ) + 20億ドル(作物保険の平均支出)
= 144億ドル

今回のラミー提案では、―成合計総量の最終譲許水準の削減(Final Bound Total AMS)(FBTA)∨念從超陛国内支持全体の削減(Overall Trade-Distorting Domestic Support)(OTDS)は、下記のように提案されている。

Final Bound Total AMS(助成合計総量の最終譲許水準)(黄色の政策)(黄色の削減)

1.AMSが400億ドル以上は、70%削減
2.AMSが150億ドル以上は、60%削減
3.AMSが150億ドル以下は、45%削減

Overall Trade-Distorting Domestic Support(OTDS)(貿易歪曲的国内支持全体の削減)(全体的削減)

注−OTDS=Final Bound Total AMS( 黄色の政策) +デミニミス+パラグラフ8にもとずく青の政策 この三つの合計額

1.AMSが600億ドル以上は、75-85%削減
2.AMSが100億ドル以上は、66-73%削減
3.AMSが100億ドル以下は、50-60%削減

そこで、日本においても、民主党を中心にして、「これまでの日本の黄色の既存削減枠を、主張する「戸別所得補償制度」(「農業者戸別所得補償法案(仮称)」)の原資に使おう」、といわれる向きもあるようだが、それらの方々は、この「ボックス・シフティング規制ルール」を、どう解釈されているのだろうか。

日本のFinal Bound Total AMSは、3兆9729億円である。

ラミー提案やファルコナー交渉議長モダリティー合意案に従えば、日本の削減率は、_色の政策の削減∩澗療削減とも、the middle tier該当ということで、削減率60-70%あたりとなる。

日本の「デミニミス+パラグラフ8にもとずく青の政策」の金額については、公表されていないようなので、ここでは、「全体的削減」については触れずに、「黄色の削減」についてのみ、見てみよう。

日本の「黄色の削減率」は、ラミー提案では、削減率60-70%、ファルコナー提案では、削減率60%である。

そこで、仮に黄色の削減率7割であれば、削減後は
3兆9729億円×30パーセント=1兆2千億円程度(Final Bound Total AMS” ( Amber Box))となる。

しかし、すでに、日本は、2002年時点で、約束(譲許)水準の18%まで削減しているので、余分に削減している部分は、
30パーセント−18パーセント=1兆2千億円-7151億円=4800億円程度 ということになる。

どうも、民主党さんのご主張は、この部分については、今後、あらたに黄色の政策としてつかえる、というもののようだ。

これを上記の「ボックス・シフティング規制ルール」に照らし合わせてみれば、次のようになるだろう。

7151億円は、「黄色の政策から黄色の政策へのボックスシフティング」
4800億円は、黄色の政策から、いったん、ニュートラルになったものが、ゾンビ的に、再び黄色の政策として先祖帰りで復活した「ゾンビ的ボックス・シフティング」

ということになる。

しかし、上記の民主党さんのご見解のような「黄色の政策から、再び、黄色の政策へ」( “amber to amber”)のゾンビ的な解釈は、はたして、WTOの趣旨からいって、なじまないものと、私は思うのだが、どんなものであろうか。

たとえ、WTOルール上できるとしても、米政策に関する黄色の政策のみとはいえ、いったん削減した黄色の政策を、再び、ゾンビのごとく、黄色の政策のために復活させるということは、モラルハザード上は、できないものと思われ、譲許と実行の間のWaterについての国際的批判も厳しくなっているところから、それを強行すれば、他のWTO加盟国からの指弾を受けるのは、確実であろう。

また、現在、政府が行おうとしている品目横断政策のスキームの一部分である「「げた」その2-年々の生産量等に基づく支払い。」の部分は、黄色の政策にカウントされるのだから、上記の4800億円の余力は、さらに減ってしまうことになる。

さらに、ファルコナーの考えをしめした、このサイト「AITIC : Documents: Background Notes」にも書かれているように、アメリカの反対にもかかわらず、1995-2000年ベースでの黄色の政策と青の政策とを結合させたCapである「個別産品毎の黄の政策の上限規制」(Commodity-Specific AMS Cap))も適用される流れから、コメ農家救済を主軸としたスキームは、この点からもCombined Capとしての制限を受けうる、現在の流れにあると見たほうがいい。
TWN Info Service on WTO and Trade Issues (May07/01)」もご参照

このように虎視眈々と、抜け道ねらいをされているWTOだが、このサイト「Introducing.. The Great Tradomino! 」では、一見公正に見える貿易交渉には、5つのトリックがあるとされている。

トリックその1 ボックスのトリック

アメリカとEUが、もっとも、このボックストリックを使っている。
彼らは、黄色から青色へ、青色から緑色へ、と、ボックスをシフトさせている。

トリックその2 隠された貿易障壁のトリック

自国の標準にあわないとすることで、容易に貿易障壁が作れる。

トリックその3 貿易交渉団が消されるトリック

その発展途上国への援助を見返りに、容易に、貿易交渉団は、消去される。

トリックその4 重要品目(Sensitive Products )というトリック

重要品目と主張することで、例外が認められる

トリックその5 おとりのトリック

工業製品をおとりに使う。

参考1.
「香港閣僚宣言のパラグラフ5」は、下記のとおりである。

2006年5月24日の「Committee on Agriculture, Special Session」における「Chair’s Reference Paper」もご参照

5.国内支持については、助成合計総量の最終譲許水準の削減及び貿易歪曲的国内支持全体の削減について、3階層に分け、高い階層ほど大きく削減する。
いずれの削減の場合も、認められた支持が最も高い水準の加盟国が最上位階層に入り、2番目と3番目に高い水準の加盟国2カ国が中位階層に入り、その他すべての加盟国(すべての途上国を含む。)が最下位階層に入る。
また、中位及び最下位階層に属し助成合計総量の最終譲許水準が相対的に高い先進国は、助成合計量削減の追加的努力を行う。
我々は、また、助成合計総量の最終譲許水準の削減、貿易歪曲的国内支持全体の削減並びに産品特定的及び産品非特定的双方のデミニミスの削減について、いくらかの意見の収斂があったことに留意する。
貿易歪曲的国内支持を効果的に削減するための規律は、この枠組みと整合的な形で策定する。
貿易歪曲的国内支持全体の削減は、助成合計総量の最終譲許水準、デミニミス及び青の政策の削減の合計の方が全体の削減より小さくても行われる必要がある。
助成合計量の約束を行っていない開発途上国は、デミニミス及び貿易歪曲的国内支持全体の削減を免除される。
緑の政策の基準は、特に、開発途上国による最小限の貿易歪曲以下の政策が緑の政策に効果的に含まれることを確保すること等を目的として、2004年8月1日の枠組み合意パラグラフ16に沿って再検討される。

Paragraph 5 of the Hong Kong Ministerial Declaration states, inter alia, that:
“On domestic support, there will be three bands for reductions in Final Bound Total AMS and in the overall cut in trade-distorting domestic support, with higher linear cuts in higher bands. In both cases, the Member with the highest level of permitted support will be in the top band, the two Members with the second and third highest levels of support will be in the middle band and all other Members, including all developing country Members, will be in the bottom band. In addition, developed country Members in the lower bands with high relative levels of Final Bound Total AMS will make an additional effort in AMS reduction. We also note that there has been some convergence concerning the reductions in Final Bound Total AMS, the overall cut in trade-distorting domestic support and in both product-specific and non product-specific de minimis limits. Disciplines will be developed to achieve effective cuts in trade-distorting domestic support consistent with the Framework. The overall reduction in trade-distorting domestic support will still need to be made even if the sum of the reductions in Final Bound Total AMS, de minimis and Blue Box payments would otherwise be less than that overall reduction.
Developing country Members with no AMS commitments will be exempt from reductions in de minimis and the overall cut in trade-distorting domestic support. Green Box criteria will be reviewed in line with paragraph 16 of the Framework, inter alia, to ensure that programmes of developing country Members that cause not more than minimal trade-distortion are effectively covered.

参考2「USDA FARM BILL PROPOSAL AND THE DOHA ROUND

参考3「South short-changed in agriculture by US, EC sleight of hand?」

参考4「PRODUCT SPECIFIC CAPSON DOMESTIC SUPPORT

参考5.「ドーハ開発アジェンダの動向

参考6.「WTO AGREEMENT ON AGRICULTURE THE BLUE BOX

参考7.「The US overall agricultural trade distorting domestic
support (OTDS) for 2006 put in perspective from 2001

参考8.「The Doha Round Agriculture Negotiations:An Overview

参考9.「Domestic Support in Agriculture: The Struggle for Meaningful Disciplines

参考10.「Whose Development Round Is It?」

参考11「Analysis of recentproposals in WTOagricultural negotiations」

参考12.「WTO農業交渉の現状と今後の展望


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