Sasayama’s Weblog


2007/08/05 Sunday

アメリカ下院を通過した2007年農業法のポイント

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 13:54:40

2007/08/05(Sun)

 
nullアメリカの下院本会議で、7月27日に、2007年農業法が成立したが、ここにきて、ブッシュ大統領が、この成立した新しい農業法に対して、拒否権を発動する構えを見せている。

この辺の経緯については、ちょっとややこしいものがあるので、下記に、そのポイントのみ記載する。

現在の2002年農業法は、2007年9月30日に、失効する。

今回、下院で、231対191の賛成多数で可決された法案名は”Farm, Nutrition, and Bioenergy Act of 2007″(H.R. 2419)(the Farm Bill Extension Act of 2007)というものである。

これまでの2002年農業法の名前は”The Farm Security and Rural Investment Act of 2002(FSRIA)”(「2002 年農業保障・農村振興法)というものであった。

新しい2007年農業法は、直訳すれば、「農場・栄養摂取・バイオエネルギー法」ということになり、名前からみても、今回は、農業のほか、食とバイオエネルギーに力点を置いたものとなっている。

すなわち、これまでの農場の体力強化のための施策を残しながら、それに加えて、果樹野菜生産に対するインセンティブ、生態系保存、栄養摂取、再生可能エネルギーに対するインセンティブなどを含んだものとなっている。

新しい2007年農業法のポイントは、次の通りである

01.野菜・果樹生産に対して、優先順位をもって、16億ドル以上の投資をする。
また、新しい部門として、園芸や有機農業があり、さらに、栄養摂取の研究や、外注管理、貿易振興プログラムなどが含まれる。

02.現行のCOOL制度を補完する野菜、果樹、肉などについての原産国表示の強制的実施

03.学生の課外活動において健康で栄養のあるスナックを提供するためのスナックプログラムの拡張や、学校に新鮮な野菜や果実を提供するためのDODプログラムの実施が含まれる。

04.フード・スタンプ計画の充実と、これへの融資機能の付与

05.農村コミュニティに対する、経済開発やネットアクセス環境の整備を含んだ農村共同体投資の拡大

06.旧来ベースの価格保護と、新しい市場志向型の収入補填支払いの選択ができるシステムの用意

07.年間の修正純所得が百万ドルを超える農場主への支払い制限強化と、多数の事業体を作ることによりマルチのプログラム支払いを受けるという抜け穴を防ぐための措置

08.生態系保護プログラムや環境の質を高めるためのプログラムへの投資の拡大

09.再生エネルギー確保のための投資

10.地域間の不公平をなくすための商品間の利率と目標価格のリバランス

11.競争力のある補助金プログラムとするために、重複投資を排除し投資効率をはかるため、USDAに、国家農業研究計画機構を作る。

12.森林資源の保護と維持

上記施策の所用予算額は、下記の通りである。

1.1900億ドル−フードスタンプ、学校給食、その他、食密・栄養摂取のための各種プログラム

2.420億ドル−農産物/農家のための価格支持やその他の国家支持農産物への助成

価格支持については、旧農業法に基づく支払いを続ける。また、現行のノンリコース(無保証)のマーケティングローンプログラムの継続、支払い制限なしのローンプログラムの継続
2012年までの5年間は、作物補助金420億ドルとし、2012年に新々農業法の改革に引き継ぐとしている。
ちなみに、最近5年間でのこれら作物価格支持金額は、700億ドルに及んでいる。
参照「Wasted money

3.290億ドル−研究開発費助成、市場開発交付金、害虫駆除プログラム、エネルギー供給・農村開発プログラム

4.250億ドル−生態系保全、その他の環境ファンド

5.160億ドル−果樹・野菜部門振興、原産国表示・COOL制度関係、

6.二億二千五百万ドル−マーケット・アクセス・プログラムの年間増加金額

7.二億一千五百万ドル−作物研究費

8.二千五百万ドル−食物安全研究費

以上、新農業法にかかる予算額総計2860億ドル

参考「Round 2: Farm bill debate now moves to Senate

なお、ブッシュ大統領が、この新2007年農業法に対して、拒否権を発動しようとしている理由は、次の点にあるとされる。

1.アメリカの農業者に対して、ファンドを提供する、海外に拠点を置く非農業ビジネスへの課税(外資系企業の海外送金に対する課税強化)を含んでいること。

2.これから10年間にわたって、当初の歳出予定よりも大きい三百六十億ドルの支出を余儀なくされること。

(ジョハンズ農務長官は、記者会見の中で、2005年には、30億ドルの支出があったとしている。
このままでは、70億ドルの増税が必要であるとしている。)

3.年間の修正純所得が百万ドルを超える農場主への支払い制限強化の百万ドル水準が、あまりに高すぎ、WTO違反との、格好の集中攻撃の的(painting a bull’s eye:上記のマークをご参照)となりうること。

(ジョハンズ農務長官は、記者会見の中で、この百万ドルを超える農場主の対象者数は、七千人に過ぎないといっている。
そして、少なくとも、二十万ドルを超える農場主を対象にしなければならないとしている。
これによって、15億ドルの節減ができるとしている。
一方、Pelosi議長は、二十五万ドルを超える農場主を対象とする案を提示した。
たとえ、二十万ドルを超える農場主を対象としても、その数は、支払いを受ける対象者九十万人のうち、たった三万八千人に過ぎないとしている。)

4.2002年農業法に含まれていた貿易歪曲的補助金スキームの温存によって、WTOルールに従わない場合には、アメリカ農民は、農産物輸出において、780億ドルの損失を被ること。

なお、ブラジルは、2007年農業法の下院通過に先立って、先月7月11日に、アメリカの農産物価格支持補助金について、WTO違反であるとの立場から、WTOに対して、WTO提訴のためのコンサルテーションの手続きを、第一段階として、開始している。

また、 7月17日に、WTOドーハ・ラウンド農業交渉のファルコナー議長は、アメリカの貿易歪曲的とみなされる国内農業補助金を、米国主張のレベル以下の、130億ドル、または164億ドル以下に削減すべきと提案している。

(注−ファルコナー議長提案では、アメリカの貿易歪曲的補助金(overall trade-distorting farm support (OTDS)) を、130億ドルから164億ドル以下にすることを提案している。

この水準は、アメリカが、テーブルで公式なシーリング数字にあげている225億ドルよりも低い水準であり、さらには、アメリカが非公式にあげている数字である170億ドルよりも低い数字である。

ブラジル、インドは、100ドルから110ドル以下にとの要求をしているが、これは、アメリカが非公式にあげている170億ドルよりもさらに低い水準である。

どうも、G-20 は、最近の農産物価格の上昇によって、最近アメリカが実際に払っているのは少ない 110億ドル程度の金額であると見ているようで、ファルコナー議長提案の下限は、110億ドルに下がりうるものとG-20 は見ているようだ。

参考「DOHA: DRAFT AG TEXT MEETS LUKEWARM RESPONSE, NAMA LIKELY TO BE CHILLIER
WTO needs a little push to get past stalling」)

今回の貿易歪曲的補助金(overall trade-distorting farm support (OTDS)) の継続スキームをも含んだ2007年農業法の下院通過は、ドーハラウンドの今後の帰結について、さらに、不透明な見通しを与えることになった。

アメリカ共和党上院議員のCharles Grassley氏は、新農業法から、貿易歪曲的補助金を取り除くことを望んでいるが、その除去する時期は、ドーハラウンドが妥結した時でよく、ブッシュ大統領が拒否権によって、WTOに対しての一方的な武装解除(disarmament )をはかる必要はないとしている。
Grassley views farm bill veto threat two ways」参照

ドーハラウンドは、9月から再開されるが、ここで、早期にファルコナー議長提案が、各国に認知されれば、アメリカの2007年農業法が成案となる前に、一定の貿易歪曲的補助金(overall trade-distorting farm support (OTDS))への歯止めをかけることになるが、その逆になると、ドーハラウンドそのものの瓦解につながり兼ねないものとなるのだろう。

このへんの微妙な事情については
PROSPECTS FOR DOHA ACCORD DIM, AS WTO HEADS INTO SUMMER RECESS」をご参照

参考
TRANSCRIPT OF REMARKS BY AGRICULTURE SECRETARY MIKE JOHANNS REGARDING THE FARM BILL AND NEEDED REFORMS THE NATIONAL PRESS CLUB
同上のジョハンズ農務長官のビデオ
Bush threatens to veto new version of Farm Bill
Ag Committee: “House Passes Historic Farm Bill
H.R. 2419: Farm, Nutrition, and Bioenergy Act of 2007


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