Sasayama’s Weblog


2005/12/25 Sunday

インフルエンザA型H5N1感染治療中のタミフル耐性について

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2005/12/24
 
null12月22日に、 New England Journal of Medicine 誌に発表のWeill medical collegeのAnne Moscona氏ら研究グループの論文「Oseltamivir Resistance during Treatment of Influenza A (H5N1) Infection」では、ベトナムでH5N1感染の患者8人が、感染発覚後にタミフルの投与を受けたにもかかわらず4人が死亡したが、そのうちの13歳少女と18歳少女の2人から、タミフル耐性ウィルスが検出されたとして、H5N1治療をタミフルのみに頼るのは危険であり、タミフル使用の場合には、その患者のタミフル耐性があるかどうかを検討すべきとしている。

この指摘は、タミフル備蓄でパンデミックに備えている現在の世界の鳥インフルエンザ対策に対して,警鐘を鳴らしたものと思われる。

以下は、その「Oseltamivir Resistance during Treatment of Influenza A (H5N1) Infection」の概訳である。

要約

インフルエンザA型(H5N1)ウイルスで、オセルタミフルに対して、高水準の耐性をノイラミニターゼのアミノ酸置換に与えられたものが、タミフル治療中のヴェトナムの患者8人中、2人から、検出された。

二人の患者は、ともに、インフルエンザA型(H5N1)感染で死亡し、そのうちの一人は、初期の処置にもかからず、死亡した。

生き残った患者は、処置の間、検出不可能なレベルにまで、ウイルス負荷(注-血液中のウイルス量)に、急速な低下が見られた。

これらの観測は、次のことを意味している。

すなわち、現在推奨されているタミフル治療による摂生の間、(ウイルスに対する)耐性が増してくるという事であるということ、そして、そのことは、臨床症状の悪化と関連している事、そして、インフルエンザA型(H5N1)ウイルス感染の措置戦略としては、他の抗ウイルス薬を追加する必要があること、である。

インフルエンザA型(H5N1)ウイルスは、人間に対し、厳しい症状を引き起こし、かつてない流行病についての脅威を作り出す。

ノイラミニターゼ阻害剤であるタミフルは、重要な措置の選択肢となり、タミフルの備蓄が、パンデミック対策計画の一部となっている。

しかし、このタミフルの、人間のインフルエンザA型(H5N1)ウイルスに対する薬剤耐性の効力と進展についてのデータは、乏しい。

我々は、二人の患者から、タミフル耐性をもつインフルエンザA型(H5N1)ウイルス変異株を検出した。

そのうちの一人は、早期の措置開始にもかかわらず、死亡した。

さらに、我々は、次の点についても、確証を持って、提言する。

すなわち、措置完了後にも、ウイルスが存在している事が、措置の結果が出せない事と、関連しているという事である。

これらの観測は、今後のインフルエンザA型(H5N1)ウイルス感染に対する措置のあり方についても、影響を与えるものである。

症例報告

以前には、健康であった13歳のヴェトナムの少女(患者1)で、体重は、28キログラムであった。

この少女は、2005年1月22日に、、DongTap郡の病院に来院した。

このときには、熱と咳が一日出たという症状であった。

前日、彼女の母親が、一日間のタミフル治療の後に、インフルエンザA型(H5N1)ウイルス感染で死亡していた。

この母親から検出されたウイルスには、タミフル耐性は、見られなかった。

子供に、インフルエンザA型(H5N1)ウイルス感染が疑われたので、少女は、最初の75ミリグラムのタミフルを投与され、小児科病院へ転院された。

入院時、少女は、40.3度の熱があり、脈搏106/分、呼吸回数36/分で、血圧は正常であった。

身体検査や所定の生化学測定にも、異常はなかった。

血液検査では、WBC 4800/μl、リンパ球、12%、血小板数18.3千/μLと、正常値よりも、少なく、血液培養陰性であった。

胸部単純X線写真では、右肺に小さい浸潤物が見られた。

この浸潤物は、二日後には、多少、増えていた。

これらは、4日目も、死んだ6日目も増えてきた。

少女は、最初のタミフル投与後、6時間後に、第二番目のタミフル投与を75ミリグラムし、入院後、24時間後に、三度目の投与をした。

これらのタミフル投与は、75ミリグラムづつ、毎日二回、4日間にわたって続けられた。

cdftriaxoneやamikacinなど、抗生物質による治療も、同時に行われた。

入院後、最初の3日間は、患者は、安定状態にあり、酸素吸入も必要としなかっさた。

タミフル投与後4日目にあたる1月25日になって、少女の呼吸状態が悪化してき、酸素吸入が与えられた。

最初は、鼻からのカニューレ管によるものであったが、その後、持続陽圧呼吸療法装置(CPAP)に変えられた。

抗生物質も、Vancomycin、ciprofloxacin、amikacinなどに変えられた。

胸部単純X線写真で見ると、肺の浸潤も拡大していた。

血液検査の結果も、以前より、かなり悪化しており、WBC 1800/μL リンパ球 41%、ALT 144、AST 279 U/L であった。

呼吸状態も悪化してきた。

1月25日には、胸部単純X線写真で見ると、右全肺と左下肺の肺炎に陰影がみられ、浸潤は、肺全体に及んでいた。

そして、1月28日に、少女は死亡した。

剖検は行われなかった。

方法

患者と臨床見本

患者の喉からの分泌物の綿球採取を、少女と、その他の患者7人について、行った。

これらの集められた綿球は80度で保管された。

ウイルス分析

ウイルス検出は、RT-PCR法と、血球凝集抑制凝集分析で行われた。

ノイラミニターゼ遺伝子シーケンス分析

ABI PRISM 3700 DNA AnalyzerのBigDye Terminator Cycle Sequencing Kit で行われた。

結果

インフルエンザA型H5N1感染患者から採ったタミフル耐性インフルエンザA型H5N1変異ウイルスは、患者の入院時に咽頭からの綿球採取により得たサンプルをもとに、 他の地方の研究室で、RT-PCR検査で確定診断された。

この検査サンプルでは、それ以上の分析をすることができなかった。

我々の研究室では、少女の患者の咽頭からの綿球採取によって、2005年1月25日のタミフル治療4日目に得たサンプルで、H5N1を確認した。

このサンプルのノイラミニダーゼ遺伝子配列分析で、アミノ酸ポジション274(H274Y)で、ヒスチジン(CAC)がチロシン(TAC)に置換している事が明らかになった。

このことは、インフルエンザ(N1)ウイルスの中で、タミフルに対し高水準の耐性を持っていることと関連している。

これら遺伝子配列トレースのための10の分析によって、274Y突然変異体で優位を占める野生タイプの274Hの小分集団が、存在する事が、明らかになった。

ウイルスは、また、医療措置が完全に終了した二日後の、2005年1月28日に咽頭から採取した綿球からも検出された。

このウイルスの遺伝子配列分析では、直接綿球採取のウイルスRNA とともに、N1におけるH274Yの変更が明らかになった。

遺伝子配列トレースでは、咽頭からの綿球採取でのウイルスRNAにおいて、野生型274Hのいくつかの小さな集団の存在があきらかになったものの、274Y変異のみ、検出に見られた。

おそらく、これは、培養の間での優位を占める突然変異体の増殖を反映しているものと思われる。

インフルエンザA型H5N1のRNAレベルの決定でみると、 タミフル耐性を持った見本においては、ウイルス・ロード(ウイルス負荷)が増していることを示している。

タミフル耐性菌のウイルス応答と分離

2004年1月から2005年2月までのあいだに、 ヴェトナム・ホーチミン市の熱帯病病院に入院した患者であって、そのうち、RT-PCR法によってインフルエンザA型H5N1感染が確認された、13人の患者のうち、7人については、すくなくとも一回は治療前や治療中に、咽頭からの綿球採取でのサンプルが得られた。

すべての患者について、 入院時から、タミフルによる治療が、 決められた服用量と、時間でおこなわれた。

通常の大人の服用量は、75ミリグラムのタミフルを、一日二回投与され、これが5日間続けられた。

13歳以下の子供については、その服用量は、減らして行われた。

残りの6人の患者については、入院時にサンプル採取されたが、治療中には、サンプルは採取されなかった。

これらの患者は、平均4日間(4日から7日の間で)病気の状態にあり、入院時に、タミフル治療を受けた。

これらの患者のうち、5人については、入院後、1日から8日の間(平均入院日数3日)に死亡した。

インフルエンザA型H5N1ウイルスは、7人の患者のうち、6人(患者2.3.5.6.7.8)について、入院時の咽頭からの綿球採取で発見された。

ノイラミニダーゼ遺伝子配列分析では、野生型274H残基だけがあった。

逐次的に 、のどから採取したウイルスRNA負荷を測定した結果、生き残った患者4人からは、 測定不能のレベルでの急激な低下があったのに対して、タミフル治療が終わってから、なくなった二人(患者3と患者4)の患者については、ウイルスRNAの検知が可能であった。

残りの患者(患者2)は、入院後、二日目に死亡したが、そのときには、ウイルスRNA負荷の増加が観察された。

患者3から患者8にいたるまでの分については、 逐次的なのどからの採取サンプルがあり、培養された。

これらのサンプルの中で、インフルエンザA型H5N1ウイルスは、患者4から採取されたサンプルにのみ、発見された。

このサンプルは、治療完了後、 3日後に採取されたサンプルから、 発見されたものである。

これらのサンプルの、遺伝子配列分析から、N1における H274Y置換があることが、 わかった。

シーケンス・トレースでは、274Y変異体があることのみわかったが、 同じ患者1からのサンプルのものと、よく似たウイルスRNA変異体が、野生型274Hウイルスの小さな分集団にあることが明らかになった。

患者4は、耐性ウイルスの採取後、 6日後に、呼吸不全で死亡した。

入院時と、治療後2日後に、咽頭からの綿球採取で得たサンプルからのウイルスRNAの直接シーケンスでは、野生型274Hウイルスのみが発見された。

この方法では感度が限られていたので、この患者からの更なるサンプルによる直接シーケンスをすることはできなかった。

同様に、 患者3から得た最後のサンプルについても、直接シーケンスは、できなかった。

ディスカッション

われわれは、 ヴェトナムの二人の患者から発見されたインフルエンザA型H5N1ウイルスで、タミフルに対し高度の耐性を与えてしまう、ノイラミニダーゼ遺伝子のアミノ酸ポジション274(H274Y)で置換されたウイルスの発見について、報告する。

タミフルでの毎日の予防的治療の間に発見された、部分的にタミフル耐性をもつインフルエンザA型H5N1ウイルスについての最近の報告とは対象的に、われわれの患者におけるウイルスは、一日の服用量が二倍でのタミフルによる一連の治療の間と、 その後において、発見されたものである。

そして、その突然変異したアミノ酸ポジション274(H274Y)変異体は、支配的なものであった。

さらに、部分的にタミフル耐性を持つ患者の例では、治療線量までに徹底的にタミフルを 受け、生き残ったのにたいして、 われわれの例での患者は、二人とも、死んでしまった。

患者1に対しては、彼女の体重に対しては、かなり高服用量のタミフルが投与され、特に、 治療開始の最初の一日には、高服用量のタミフルが与えられた。

さらに、 この患者においては、インフルエンザA型H5N1ウイルス感染者の多くの患者とは異なり、最初の症状が現れてから48時間以内に治療をはじめられたということで、 最大の臨床成果が得られることを予期して開始された。

実際、 彼女の状態は、 最初の3日間においては、 酸素吸入も必要なく、安定した状態を保ち続けた。

しかし、処置開始後、 4日目になって、彼女は、次第に、酸素吸入に頼ることとなり、彼女の白血球と血小板算定は、 低下し、肝炎を併発していることが認められた。

彼女の死の時には、彼女の咽頭におけるウイルス負荷は、増加した。

これらの観測から言えることは、薬剤耐性の進展が、 治療の失敗につながったということ、そして、究極には、この患者の死につながったということである。

死んだ第二番目の患者については、治療のあいだ、 ウイルスRNA負荷が、措置の間に低下したが、計測不能のレベルまでではなかった。

治療開始後2日までは、野生型274Hウイルスのみ見られたが、274Y突然変異ウイルスは、治療開始のすぐ後に発見された。

耐性の出現と患者の死との関係については、明確ではないとはいえ、発病後14日後も 、複製されたウイルスの存在があったということは、死の結果への影響があったことを意味している。

タミフルによる治療の間に、タミフル耐性を 持つ インフルエンザA型H5N1ウイルス変異型が出現したということは、驚くべきことではない。

成人のインフルエンザA型のH5N1または、H3N2のウイルス感染においては、タミフル耐性の進展ということは、まれである。

しかし、タミフルを投与された子供の18パーセントにタミフル耐性の変異ウイルスが発見されたという報告が、河岡義裕氏の論文で明らかにされている。

成人と子供とのタミフル耐性を持つ比率の違いについては、子供の初感染の場合、以前の免疫がないために、これが、 高い複製率に関係しているとの説明がなされうる。

人間は、インフルエンザA型H5N1ウイルスに対しては、もともと免疫を持っていないのであるから、すべての人間にとって、このH5N1ウイルス感染は、初感染なのである。

さらに、 動物での研究では、特に、現在のインフルエンザA型H5N1ウイルスは、複製のレベルが高いとされている。

これまでに報告されているところによると、タミフルの効力は、 発症後、時間がたったばあいでは、 適切に発揮されないとされている。

しかし、抗ウイルス薬による措置は、ウイルスの複製が進んでいる事実があるうちは、有益な治療法であると考えられている。

このような効力のある証は、今回の例でも、 四人の生き残った患者についてみれば、ウイルス負荷が、 計測不可能のレベルにまで急速に低下したことでも、 見ることができる。

一方、タミフルにより、 フルコースの治療をうけた後、死亡した3人の患者についてみれば、治療が終わった後も、ウイルスは、 発見できたのである。

そのうちの二人は、咽頭から採取したウイルスにタミフル耐性が見られた。

われわれの観測では、インフルエンザA型H5N1ウイルスを持っている、すくなくとも、 幾人かの患者については、適量のタミフル服用による治療は、 ウイルスの複製を制圧するには、不完全であったといえる。

感染が拡大することに加えて、このようなウイルス複製の制圧に不十分であるということは、薬剤耐性を一層進化させる機会を提供してしまうことにつながるのである。

なぜ、 タミフルによっては、ウイルスの支配的な複写をふくむ、 ウイルスの抑圧が不十分なのかは、その多重のメカニズムの故である。

すなわち、この多重のメカニズムは、Yen HL, Monto AS, Webster RG, Govorkova EA氏らのねずみによる実験結果に見ることができ、下痢をしがちな重症患者においては 薬物動態学の変更を迫るものである。(訳者注-ここの部分の意味は、ちょっとわかりかねました。)

抗ウイルス薬の効力を上げることを意図しての戦略(たとえば、 高服用量の投与、治療の長期化、 多剤併用療法など)は、更なる評価に値するであろう。

さらに、タミフル耐性を持つインフルエンザウイルスが影響を受けやすい抗ウイルス薬(訳者注-リレンザなどをさしているのだろう。)の用意も、インフルエンザA型H5N1ウイルス感染対策の中にふくまれるべきであろう。

概訳は、以上で終わり

参考図

図1
13歳のヴェトナムの少女(患者1)の胸部単純レントゲン写真の連続写真パネルAでは、右肺の中間ゾーンに、小さい浸潤物が見られる。
パネルは、二日後の写真。多少増えている。
パネルCは、三日後の写真。だんだん、増えてきている。
パネルDは、四日後の写真。
パネルEは、六日後の写真。この日に少女は死んだ。
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図2
患者1について、タミフル治療開始後、4日目に採取したウイルスのノイラミニターゼ遺伝子のシーケンス・トレース

黒の矢印は、dominant T のピークを示している。
ヌクレオチド・ポジション763において、Cは、小ピークである。

このポジションにおけるA CからT への変異は、 アミノ酸ポジション274(H274Y)での、ヒスチジン(CAC)からチロシン(TAC)への置換であり、このことは、N1亜型インフルエンザ・ウイルスにおいて、タミフルへの耐性を付与する。

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図3
8人の患者ののどから採取したインフルエンザA型H5N1ウイルスのRNA負荷推移

青の線は、生き残ったインフルエンザA型H5N1感染者をあらわし、赤の線は、死んだ患者を表している。

破線の水平線は、 RT-PCR検査での検知限界ラインを示している。

黒矢印は、タミフル耐性ウイルスが検出された患者を示している。

入院時に得られたサンプルのほかには、他のサンプルからは、ウイルスは、検出されていない。

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