Sasayama’s Weblog


2005/03/27 Sunday

日米金利差放置を求めるグレン・ハバードさんの意図は、ドル暴落阻止メリットにあり。

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 10:50:38

2005/03/27
 
またまた、サンケイグループ・メディアの話になって恐縮なのだが、今日配信の次の産経新聞の記事、「「米経済」各国懸念に反論、「ドル暴落起きない」 FRBが楽観論リポート」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050327-00000014-san-bus_all
の元記事は、3月3日のWall Street Journalの記事「Currency Drop Doesn’t Mean Crisis — Lowered Dollar Is Likely To Spur Economic Growth, Fed Says in Deficit Study」
http://www.voy.com/113118/6629.html (ただし、このサイトは、ミラー版)だ。

しかし、この産経の記事には、、そのソースがかかれていない。

一方、このCNNの記事「No trade crisis?」 http://money.cnn.com/2005/03/03/news/economy/fed_study.dj/は、同様のWall Street Journalの記事の中でのHilary Crokeと Steven Kamin と Sylvain Leducの三エコノミストの論文の紹介であるが、記事中に、ちゃんと「 Thursday’s Wall Street Journal reported, citing a new study from the Federal Reserve.」と、引用元を書いてある。

もともとのこの論文は、「Financial Market Developments and Economic Activity during Current Account Adjustments in Industrial Economies」 
http://www.federalreserve.gov/pubs/ifdp/2005/827/ifdp827.pdf
に書かれている。

日本の記事の引用元を確かめる際に、厄介なのは、人名を日本語読みに直してしまっていることである。

英語の人名なら、何とか、探し当てられるが、アラビア文字の人名を日本語読みにしてしまったものなど、とても、不可能だ。

まあ、日本の新聞が縦書きであることをいいことにして、このような場合、ひとつの見えざる情報障壁の利得を記者の皆さんは、享受しているというわけだが、今後は、そうはいかないだろう。

日本の新聞が出来る自己改革で、一番簡単なことは、現在の新聞縦書きを横書きにし、インターネットとのインタラクティブ機能を、わずかながらでも高めることである。

その場合には、新聞紙上でも、引用元をURL記載し、また、人名・固有名詞については、原語でのスペルを括弧書きで記載することだ。

ところで、肝心のこの記事「ドル暴落起きない」 FRBが楽観論リポート」の中身なのだが、どうも、ここ、数週間「ドル暴落」への懸念が、この論文の結論とは裏腹に、高まっているように思える。

レーガン時代の「双子の赤字」が、ブッシュ時代に、再び再現しつつあるとは、これまでにもいわれてきたことだが、その状況がさらに深刻化しつつあるということは、いわれている。

経常収支は、財政収支と民間収支を足したものであり、その財政収支は、歳入と歳出との差であり、民間収支は、貯蓄と投資との差である。

レーガン時代の双子の赤字(財政収支と経常収支とが、ともに赤字になるという現象)は、どうして生まれたかといえば、減税先行をしたがために、財政赤字が増え、その分を国債増発でまかなったため、金利が高くなって、ドル高になり、それに、減税による景気刺激も手伝って、需要が増加し、この両者があいまって、貿易赤字が拡大していったというものである。

ブッシュ時代の双子の赤字は、このレーガン時代の双子の赤字とは、いくつかの点で異なっている。

イラク出兵や減税先行によって、財政赤字が拡大していることには変わりない。

しかし、金利は、いまだ低水準にあり、米連邦準備制度理事会(FRB)は、余裕を持って、次期金利引き上げを、計画的にしようとしている。

また、ドルは、前スノー財務長官がドル安容認発言をして以来、為替介入なしに、市場原理のままに、あがったり下がったりしている。

これは、ビナイン・ネグレクト・ドル政策(The Benign Neglect of The Dollar)と呼ばれるものである。

さらに、アメリカの貿易の主要相手国は、日本から中国へとシフトしている。

だから、レーガン時代の双子の赤字は、原因と結果が、つながって、悪循環を招いての双子の赤字であったのが、今回のブッシュ時代の双子の赤字は、意図しての財政赤字であり、中国という巨大市場相手のやむを得ざる貿易赤字であり、減税での購買力堅調による民間収支赤字なのである。

この記事にもあるように、「米国の財政と経常収支の「双子の赤字」への懸念」に対して、これらのエコノミストたちは、「米国が巨額の経常赤字を抱えていてもドル暴落は起きない」といっているのだが、確かに、以前このブログでも書いたように、「現在では、双子の赤字問題よりも、目先の「日米金利差」((the US-Japan interest rate spread)という問題のほうが、ドル・円を動かす、強い要因」との見方もある。

この日米金利差には、短期金利の日米金利差も、長期金利の日米金利差もある。

まづ、短期の日米金利格差については、今回のアメリカの更なる金利の利上げで更なる金利差が出来たわけで、これによって、ドル預金へのシフトや、円売りドル買いの動きが、激しくなってくる。

また、長期金利の日米金利差については、米国債10年ものと日本国債最長期ものとの差であり、これは、対米ドル円相場と、これまでの推移からすると、ほぼ連動しているのだという。

しかし、どうも、最近、米国債が短期ものであろうと、長期ものであろうと、イールドがさしてかわらないという「利回り曲線の平坦化」(A flat yield curve)という現象が出ている。

http://www.pimco.com/LeftNav/Latest+Publications/
2004/yield_curve_basics.htm

によると、「利回り曲線の平坦化」が現れるのは、景気停滞のシグナルであるという。
http://www.forbes.com/markets/bonds/free_forbes/2005/0314/112.html
も参照

インフレ抑制を意図して、連邦準備金利が上がると、短期債のイールドがあがり始め、長期債のイールドは、インフレ抑制を期待して下がり始めるのだという。

短期債のイールドがあがるために、フラット化が起きるというもののようだ。

しかし、グリーンスパンさんは、10年ものなどの長期債のイールドがあがらないために、フラット化が起こっているとの認識のようなのだが、実際はどうなのであろうか?

今回の「ドル暴落起きない」とする、このエコノミストたちの指摘は「「経常赤字不均衡が是正される動きの中で、ドル暴落が起き、金利上昇、株価下落、そして成長の鈍化が起きるとする仮説を証明する証拠は希薄だった」と指摘」と書いてあるように、これまでの経常赤字不均衡是正へ向かうための、ビルトインされたドル暴落というのは、発生しないという見方のようだ。

これは、こういうことなのだろう。

本来、ドル安になれば、日本なり中国から、アメリカへ輸出する輸出業者の製品価格は、あがらざるを得なくなるのだが、それを輸出価格を上げないでアメリカに輸出する。

こうして、ドル安になっても、アメリカへはいってくる輸入品の価格があがらないので、ドル安でもインフレが起こらない。

一方、ドル安になれば、アメリカの輸出産業は、海外子会社の利益を含めて、大きなメリットを得る。

しかし、ドル安によっても、アメリカへの輸入価格がおさえられたままであるため、輸入額が減らず、ドル安による輸出増にもかかわらず、貿易収支の赤字改善は、思ったほど進まない。

今後、相当の輸出増加でもなければ、アメリカの貿易収支の赤字改善は、進まないであろうといわれている。

また、財政赤字についても、年金問題も社会福祉費問題など、不安材料は増すことはあっても、財政赤字改善の見通しは、まったく立っていないようである。

したがって、財政収支の赤字と、経常収支の赤字という、双子の赤字は、厳然と存在し続けるのである。

では、このような、ドル安による輸入インフレ懸念がないにもかかわらず、アメリカが、原油高等などの理由をつけて、大幅な利上げに向けて、着々と歩を進めていけるのはなぜなのだろう。

ひとつは、中国市場という巨大な輸出入のバッファーがあり、それが、双子の赤字に対する金利、ドルの敏感な対応を不要にしてきたことであろう。

もうひとつは、日米の金利差というものが、アメリカ側のみの利上げによって、ますます、開く中で、その金利差が、ドル安への動きを中和するスタビライザー的役割をしてきたことなのだろう。

しかし、これらのアメリカの対応が限界に来ていることを指摘する声も上がっている。

アメリカへの輸出業者には、ドル安に耐えられずに、価格をアップしてくる動きもあり、為替調整に期待する動きは、大きくなりつつある。

また、たとえ、双子の赤字の存在自身が、もはや、ドル・円を動かさない要因になっているとはいっても、レーガン時代とは異なって、債権国から債務国に変わってしまったブッシュ時代の双子の赤字の増大は、アメリカ経済の将来を不安視させるに十分のものがある。

現に、各国の中には、資産保有の形態を、ドルからユーロなどにシフトする傾向が、一段と強まっているように思える。

日本の場合は、深刻だ。

為替介入の対価として保有している膨大な米国債の減価につながるからだ。

これによって、日本の財政再建などは、直ちに吹っ飛んでしまう威力がある。

一方、昨日のニュースで、来日中のグレン・ハバード(Hubbard,R.Glen)元米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が、時事通信のインタビュー
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050325-00000205-jij-bus_all
で「インフレがより正常かつ低位のプラスに戻るまで、デフレ対策を維持することに日銀は焦点を合わせるべきだ」と述べたというのだが、どういう意図なのか、わかりかねる。

となると、アメリカの隠された本音としては、日米の金利格差が続く限り、アメリカが、双子の赤字を放置しておいても、ビルトインで機能すべき、ドル暴落へのスタビライザー機能が機能しないので、「日本さん、何とか、今のままの、金利水準でいてくれ」とのメッセージがあると見てもいいのではなかろうか。

私などのようは、今こそ、名目金利の非負制約とデフレの罠を脱する、絶好の公定歩合引き上げの好機と思っているやからにとっては、このグレン・ハバードさんの発言は、余計なお世話とも受け取られるのだが。

今こそ、日本は、デフレの罠脱却と、非負制約をもたらし、有効な金融政策の遂行を困難にしているゼロ金利から脱出する公定歩合引き上げ政策を、アメリカの意図に関わらず、敢行すべき時であると、私は思う。

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