Sasayama’s Weblog


2009/08/20 Thursday

インフルエンザ脳症についての正確な定義が必要

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:02:12

2009年8月20日
 
null以前、 わたくしのブログ記事
流行性脳脊髄膜炎ってなんだ?」

「「細菌性髄膜炎、日本もワクチン承認へ」という朝日新聞の記事について
のなかで、インフルエンザ脳症とインフルエンザ髄膜炎とを混同する人が多いので、その正確な違いをのべたことがあった。

また、その節は、実際、髄膜炎にかかったお子様をもつ主婦のかたなどからも、メールをいただき、この病気の持つ深刻さを身近に感じることとなった。

ここに来て、今度は、全国各地で、H1N1新型インフルエンザ感染に伴うインフルエンザ脳症を発症する子どもが増えてきて、報道各紙も、インフルエンザ脳症についての記事を書いているのだが、それらの記載の中には、「急性脳炎(インフルエンザ脳症)」などとの記載もあったりして、対象の子供さんをもたれる親御さんには、誤解を与える節も、見られる。

あるいは、以下に述べるIAEとANEとの違いを無視した書き方をして、親御さんに過剰に心配を与える書き方をしている記事も散見される。

そこで、ここに、インフルエンザ脳症についての、正確な定義をしておく必要があると思う。

インフルエンザ脳症と脳炎・インフルエンザ髄膜炎とは異なる

まず、インフルエンザ脳症と脳炎(ヘルペス脳炎など)とインフルエンザ髄膜炎とは、いずれも異なるものであることを認識する必要があるものと思われる。

脳炎は、ウイルスなどの病原体が、直接、脳に炎症を起こすものであり

インフルエンザ髄膜炎は、髄膜や血管周囲の炎症を起こすものであるが

インフルエンザ脳症は、この上記のいずれでもなく、

血管内皮細胞が障害を起こすことによるものである。

この場合、ウイルス感染によって、血中や髄液中に、炎症性のサイトカイン、サイトカイン受容器を増加させ、このことで、血管透過性を亢進させ、血管内皮細胞が活性化させられたり、障害(アポトーシス-細胞の自滅死-が起こる)を生じさせたりすることで、血栓などが形成されやすくなるために、脳症が起こるものとされている。

近時になって、核膜孔たんぱく質〔Ran Binding Protein 2 (RANBP2)〕の変異を原因とする説もあるようだ。
参考「Infection-Triggered Familial or Recurrent Cases of Acute Necrotizing Encephalopathy Caused by Mutations in a Component of the Nuclear Pore, RANBP2

なお、インフルエンザ脳症に対応したワクチンはないので、お間違いないように。
(どうも、この点に混乱があるのは、おそらく、インフルエンザ髄膜炎対応のHibワクチンに、名前だけは、「インフルエンザ菌b型(Hib)対応」とついているせいなのでしょう。でも、こちらのHibのほうは、ウイルスではなく、ヘモフィラス属(Haemophilus) のバクテリアであるのでくれぐれもお間違いないように。かつてインフルエンザの原因と間違われたため、インフルエンザの名が付いたままなんですね。本当に紛らわしいです。)

インフルエンザに伴う脳症にはIAEとANEとがある

今回のH1N1新型インフルエンザに伴う脳症は、正確には、
 Influenza-associated encephalopathy; IAE)」(インフルエンザウイルス関連脳症)
または
◆Influenza A virus-associated acute necrotizing encephalopathy;ANE」(急性壊死性脳症)
と呼ばれるものだ。

,鉢△箸琉磴い任△襪、△蓮↓,茲蠅癲△なり重篤な状態である。
,ら△悗反陛犬靴Δ覦貘里里發里塙佑┐燭曚Δいいようだ。
,涼奮でとどめられるような早期治療が必要のようだ。

なぜ日本人に多いのか

これらのいずれも、従来は、アジアに特有に見られた病気であったが、近年、北米にも見られるようになったようだ。

アジアの中では、日本が一番多く、続いて台湾が多いようだ。

続いては、アメリカ、カナダ、ヨーロッパといったところだが、症例は少ない様だ。

なぜアジア人に多いのかは、諸説あるようだが、
^篥岨凖特質によるもの、
日本人が、エフェドリン、ジクロフェナクナトリウム(Diclofenac Sodium)アスピリン(大人用バファリンなど)などを大量服用していたり、強い解熱剤〔ポンタ−ル(メフェナム酸)やボルタレン(ジクロフェナクNa)〕を子どもに処方していたこと
などがあげられている。

また、インフルエンザB型関連よりも、圧倒的にインフルエンザA型関連が多いのだが、その理由はよくわからないようだ。

患者には、A型インフルエンザ・ウイルスとヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)または、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)(いずれもヘルペス脳炎の原因となるウイルス)とに、ともに重複感染している例があるが、その関係についても、まだ、よくわかっていないようだ。

ANEの名付け親は、日本の水口雅さん

この△痢Influenza A virus-associated acute necrotizing encephalopathy;ANE」(急性壊死性脳症)をなずけたのが、意外にも、日本人の水口雅さんである。

水口さんの研究グループは、1995年にJ Neurol Neurosurg Psychiatry誌において、「Acute necrotizing encephalopathy of childhood:a new syndrome presenting with multifocal, symmetric brain lesions」との論文(日本語では、「小児急性壊死性脳症」小児内科28(8): 1125-1129, 1996.)を発表している。

診断基準・症状・病理学的特徴

ANEについての診断基準については、このサイト「Final Diagnosis — Influenza associated acute necrotizing encephalopathy」に、水口さんの診断基準も交えて、詳しく紹介されている。

特に、急性壊死性脳症(ANE)と類似症状を見せる、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)や急性出血性白質脳炎(AHLE)との見分けがキーポイントのようである。

以上の´△魄貘里里發里箸靴討澆襪函△修両評は
1.発熱、
2.急速な意識障害と痙攣、発作 
3.咳.
4.嘔吐 
5.下痢
である。

病理学的特徴(pathological feature )については、このサイト「Summary of the neuropathology of ANE in the acute stage」に、2009年3月(まだ、今回の新型インフルエンザウイルスが公表される前の時点)でのOvid Medline の10症例がまとめられいる。

罹患した子どもの共通点は?

これらの症例から、ANEに罹患した子どもたちには、三つの共通点が見られたという。

_甬遒傍ご瓢搜誕、アトピーを持っていた。
⊃牲仂評をあらわす直前に、プレドニゾロン(prednisolone) や セレスタミン(celestamine)などの免疫調節薬を服用していた。
F鷭鬼岼米發A型 H3 やH1 インフルエンザにかかっていた。

なにはともあれ、まずタミフルを

ANEの致死率は、28-30パーセントと高い。

治療法としては、決定的な治療とはならず、支持的(Supportive)な治療にとどまるが

1.抗ウイルス薬による治療、
2.メチルプレドニソロンパルス療法(Methylprednisolone Pulse Therapy)
3.免疫グロブリン(IgG)の大量投与
4.コルチコステロイド大量投与

などがある。

下記のCDCレポートでの例もあるが、
『一刻も早い抗ウイルス薬の投与を』
というのがキーポイントのようである。

アメリカのCDCの報告書では?

なお、アメリカのCDCでは、先月7月24日のMMWRレポート『Neurologic Complications Associated with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection in Children — Dallas, Texas, May 2009』において、アメリカ国内でH1N1合併症としてインフルエンザ脳症を発症した4人の患者の分析をしている。

これは、テキサス州ダラス・カウンティ内の病院に入院した7歳から17歳までの4人の患者の症例について報告したもので、感染した者のうち、脳脊髄液にではなく、鼻咽頭検体にウイルスが検出された患者についてみてみると、そのうちの三人に、異常な脳波図が見られたという。

4人は、すべて、抗ウイルス薬(タミフルは4人全員に、アマンタジンは3人に、処方)によって、なんらの神経症状もなく、回復し、退院したという。

このことから、この報告書では、今回のH1N1新型インフルエンザ・ウイルスの感染によって、呼吸器感染症となった後、神経系の合併症を起こすことがある、といえるとしている。

そして、特に子どもにおいては、原因不明の発作や精神状態の変化を伴った、インフルエンザ状の症状があった場合には、臨床医は、患者よりの呼吸器検体を鑑別診断にまわすとともに、その検査結果を待たないで、迅速に、抗ウイルス薬の投与に当たるべきである、としている。

なお、このアメリカのCDC報告書についてのイギリスのNHS Choicesの評価がこのサイト「Brain problems from swine flu 」にある。

今回のH1N1関連インフルエンザ脳症についての、世界での公式的な報告書は、このCDCのものだけのようであるが、それにしても、日本での症例が多いのが気にかかるところだ。

参考

1..今日までの日本国内でのH1N1新型インフルエンザ関連脳症発症者一覧(随時更新)

なお、厚生労働省の発表では、8月21日現在の発症例は6例としている。

01例目 7月19日 川崎市内の小学生男子児童(7)
02例目 7月23日 栃木県芳賀郡の小学生女子児童
03例目 7月24日 大阪府岸和田市の小学2年男子児童(7)
04例目 8月04日 大阪府豊中市の幼稚園の男児(5)
05例目 8月11日 茨城県の男児(4)
06例目 8月14日 宮崎市内の中学2年男子生徒(14)
07例目 8月19日 川崎市の男児(6)
08例目?8月20日 沖縄・与那国島の男性(47)
09例目 8月22日 千葉県市原市の小2女児(7)
10例目?8月24日 沖縄・本島(南部保健所管内在住)の男子小学生(8)
11例目 8月27日 岩手県一戸町の女子中学生(12)
12例目 8月31日 愛知県春日井市の小学生男児(9)
13例目 8月31日 静岡県焼津市の男児(4)
14例目 9月01日 栃木県太田原市(県北健康福祉センター管内)男子小学生
15例目 9月01日 奈良市の小学2年生男児(7)
16例目 9月02日 静岡県静岡市清水区の男児(6)
17例目 9月08日 神奈川県横浜市の小学5年生の男児(11)
18例目 9月14日 神奈川県平塚市の女児(5)
19例目 9月19日 滋賀県守山市の小学1年男児(7)−22日死亡
20例目 9月24日 和歌山市の男子中学生(12)
21例目 9月25日 京都市西京区の女児(6)
22例目 9月25日 京都市北区の男児(2)
23例目 9月25日 北海道江別市の女児(9)
24例目 9月25日 岩手県花巻市の女子児童(10)
25例目 9月29日 栃木県宇都宮市の女子小学生
26例目 10月01日 大阪府高槻市の男児(5)
27例目 10月06日 横浜市青葉区の男児(10)
28例目 10月09日 横浜市磯子区の女児(4)
29例目 10月09日 新潟市の男子小学生(8)
30例目 10月13日 東京都の男児(4)-死亡
31例目 10月14日 愛知県清須市の男子高校生(16)-死亡
32例目 10月14日 兵庫県西宮市の小学2年の女子児童(8)-死亡
33例目 10月22日 東京都の男児(3)-死亡
34例目 10月28日 福島県県北地方の男児
35例目 11月04日 新潟県新潟市の幼児3人
38例目 11月08日 埼玉県深谷市の男児(3)-死亡
39例目 11月13日 三重県伊賀市の女児(生後9ヶ月)-死亡
40例目 11月18日 栃木県の男性(60歳代)-死亡
41例目 11月25日 鹿児島県の女性(30歳代)-死亡
42例目 11月25日 栃木県の小学2年生女子(8)-死亡

2.James J. Sejvar博士との質疑応答

「Q&A with CDC Neuroepidemiologist James J. Sejvar, MD」のビデオより

概訳

質問
H1N1の合併症に急性または遅発性の神経性合併症は見られますか?

答え
これまでのところ、H1N1においては、神経上の病気や事象は見られていない。
しかしながら、進行中のサーベイランスにおいては、これらの潜在的な合併症のアセスを行っている。
季節性インフルエンザの場合には、珍しいケースではあるが、特に子供たちの中に、IAE(インフルエンザウイルス関連脳症)が報告されている。
この脳症の基礎的なメカニズムについては、まだ、よくわかっていない。
IAE(インフルエンザウイルス関連脳症)は、インフルエンザ状の症状を示した後、2-3日から一週間の間に、神経的な兆候を現す。
症状としては、熱、神経状態の変化が一般的であり、また、発作がしばしば報告されている。
限局性神経症状としては、不全麻痺、運動障害、脳神経痙攣、失語症などが進展する。
脳髄液細胞増加の欠如やたんぱく質レベルの正常で穏やかな上昇を伴っておるため、脳脊髄膜炎は一般的には、目立たない。
IAEは、しばしばインフルエンザA型感染に見られ、特に、H3N2型ウイルス感染に見られるが、インフルエンザB型に見られることも報告されている。
H1N1についても、同様の症例と関連しているかどうかについては、わからない。
ANE(急性壊死性脳炎)は、これまで、季節性インフルエンザについて、述べられてきた。
ANEは、劇症で単相の経過をたどることに特徴がある。
すなわち、神経映像からは、特に視床や脳幹における多発性脳壊死障害が見られる。
そのほかの神経的症状としては、急性炎症性脱髄性多発ニューロバチー(AIDP),急性撒種性脳脊髄炎(ADEM)、横断脊髄炎(TM)、上腕動脈神経炎、などが季節性インフルエンザ関連では見られるが、症例は、少数である。


原文

6. Are there immediate or delayed neurologic complications of H1N1 flu?

To date, no neurologic illnesses or events have been seen in the H1N1 cases. Ongoing surveillance is being conducted to assess these potential complications, however.

In the setting of seasonal influenza, rare cases of influenza-associated encephalopathy (IAE) have been reported, particularly among children. The underlying mechanism of the encephalopathy is not well understood. IAE is characterized by the occurrence of neurologic symptoms within a few days to a week following initial influenza-like illness; fever and altered mental status are common, and seizures are frequently reported. Focal neurologic signs, including paresis, movement disorders, cranial nerve palsies, and aphasia, may develop. CSF is generally unremarkable, with absence of pleocytosis and normal or mildly elevated protein levels.

IAE has been more frequently reported with influenza A, especially with A (H3N2) virus infection, but has been reported with influenza B. We do not know if the H1N1 strain might be associated with similar cases. Acute necrotizing encephalopathy (ANE), a particularly severe manifestation of para-infectious encephalopathy, has been described with seasonal influenza. ANE is characterized by a fulminant and monophasic course; multifocal necrotizing brain lesions predominant in the thalami and brainstem are seen on neuroimaging.

Case reports of other neurologic features, including acute demyelinating inflammatory neuropathy (AIDP), acute disseminated encephalomyelitis (ADEM) and transverse myelitis ™, as well as brachial neuritis have also been reported in the setting of seasonal influenza, although such reports are few.

Whether these neurologic features might be observed in the setting of H1N1 influenza infection is not known.

3.「Influenza A virus-associated acute necrotizing encephalopathy in the United States

4.「インフルエンザ脳症

5.「インフルエンザ脳症ガイドライン

6.「H1N1 Can Cause Neurologic Complications in Children

7.「Influenza on the brain

8.「医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針(改定版)」平成21年6月19日厚生労働省発表

 

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