2009/07/14(Tue)
新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)に対する免疫を持つ可能性があるのは、スペイン風邪が流行した1918年以前に生まれた90歳以上に限られることが、河岡義裕・東京大学教授らの研究で分かった。
60代以上に免疫があると予想した米疾病対策センターと違い、ほとんどの年代が感染する危険性があると指摘しており、13日付英科学誌ネイチャー電子版に掲載された。
本文は、、このサイト
「In vitro and in vivo characterization of new swine-origin H1N1 influenza viruses」
で読むことができる。
再び、A/WSN/33(H1N1)(1933年に人から分離されたH1N1インフルエンザウイルス)の亡霊が呼び戻された形だ。
分析の対象となったウイルス名は、下記の通り
A/California/04/09 (CA04)
A/Wisconsin/WSLH049/09 (WSLH049)
A/Wisconsin/WSLH34939/09 (WSLH34939)
A/Netherlands/603/09 (Net603)
A/Osaka/164/09 (Osaka164).
A/Kawasaki/UTK-4/09 (H1N1)
A/Kawasaki/UTK-23/08 (H1N1).
A/duck/Alberta/35/76; H1N1
A/swine/Hokkaido/2/
A/Victoria/3/75 (H3N2)
A/WSN/33 (H1N1
なお、上記のウイルスのうち、A/California/04/09 (CA04)については、4月28日に東京大学医科学研究所ウイルス感染分野ならびに感染症国際研究センターが米国疾病予防管理センター(CDC)より分与を受けたもので、5月1日に日本に到着したものである。
また、
A/Kawasaki/UTK-4/09 (KUTK—4)A/Kawasaki/UTK-23/08 (H1N1)は、タミフル耐性のある患者からのウイルス、
A/Victoria/3/75 (H3N2)は、季節性インフルエンザウイルス
A/Wisconsin/WSLH049/09 と A/Netherlands/603/09 (H1N1)とA/Osaka/164/09 (H1N1)は、非劇症型症状の感染者から採取されたもの
A/Wisconsin/WSLH34939/09 は、病院の患者から採取されたもの、
A/duck/Alberta/35/76 H1N1は、「Characterization of the Reconstructed 1918 Spanish Influenza Pandemic Virus」
http://www.eclips.consult.com/eclips/article/Medicine/S0084-3873(08)70357-2
でも使われた鳥インフルエンザウイルス
A/swine/Hokkaido/2/は、北海道大学大学院獣医学研究科微生物学教室取得のクラシックな豚インフルエンザウイルス
A/WSN/33 (H1N1)は、スペイン風邪から合成のウイルス
ということだ。
ちなみに、今回の河岡教授の研究と対照的な結果を出したCDCの「1957年以前生まれ人間免疫説」研究で分析に使用した新型インフルエンザウイルスも、河岡教授が使用したウイルスとおなじ、A/California/04/2009 であった。
今回マスコミが注目している「新型インフルエンザに対する免疫を持つ可能性があるのは、スペイン風邪が流行した1918年以前に生まれた90歳以上に限られる」の部分についてだが、ここの点は、CDCが以前に発表した「1957年以前生まれ人間免疫説」と対立する点である。
分析の対象は、河岡グループもCDCももおなじ
A/California/04/09
である。
CDCのほうは、これまでのワクチン研究で集めてきた保存血清見本を 使って、今回の新しいH1N1に対して、交差反応抗体のレベルをコホート別に検証したものである。
参考
「詳説-1957年以前生まれ人間には、新型インフルエンザに対する免疫をもつとの説」
河岡教授のほうは 、
1999年に老人ホーム入居者及び職員から集めた血清(ドナーグループ1)
と
2009年4月に病院の入院患者と職員から集めた血清(ドナーグループ2)
について、
KUTK-4(A/Kawasaki/UTK-4/09 (H1N1)(普通の季節性インフルエンザウイルス)
と
CA04(A/California/04/09 )(今回の新型インフルエンザウイルスで、感染拡大の初期にメキシコからカリフォルニアへわたったと思われるもの)
に対する抗体価を検証したところ、
ドナーグループ1は、CA04(A/California/04/09 )に対し、高い抗体価を示した人が多かったのに対して、
ドナーグループ2は、KUTK-4(A/Kawasaki/UTK-4/09 (H1N1)に対し、高い抗体価を示した人が多かったということ
また、ドナーグループ2は、CA04(A/California/04/09 )に対しては、高い抗体値を示したのは、1918年以前生まれが2人と,1977年,1978年生まれが各1人いた、ということだ。
その図が、このサイト
の4ページの「Figure 3 | Neutralization activities in human sera against viru」にかいてある。
ただ、疑問に思うのは、ドナーグループ2(2009年4月に病院の入院患者と職員から集めた血清)が、すでに、どの程度、新型インフルエンザウイルスに曝露されているのか、それとも、全然、新型インフルエンザウイルスには曝露されていなかったのかがよくわからない。
(論文には、”collected in April and May of 2009″と書いてある。
もし、この時点だとすると、新型はすでに4月には、国内に進入しているとの説もあるので、曝露の機会があったのかどうかについての検証が必要な気がする。)
それと関連するのだが、CA04(A/California/04/09 )に対して、高い抗体値を示した人が、1918年以前生まれの2人だけでなく、1977年,1978年生まれ各1人いたということは、これらの人は、過去にいかなるウイルスに曝露されていたんだろうか?、という素朴な疑問もわいてくる。
参考
「Swine flu is worse than seasonal flu, research suggests」
「詳説-1957年以前生まれ人間には、新型インフルエンザに対する免疫をもつとの説」
「Serum Cross-Reactive Antibody Response to a Novel Influenza A (H1N1) Virus After Vaccination with Seasonal Influenza Vaccine」
http://www.nature.com/news/specials/swineflu/index.html