このブルームバーグの記事「Taleb’s `Black Swan’ Investors Post Gains as Markets Take Dive 」については、池田信夫氏も氏のブログで触れられているが、私の専門のオプションの戦略の観点から、この記事の内容を、もう少し、詳しく見てみたい。
このブルームバーグの記事によれば、日本でも「まぐれ(Fooled by Ramdomness)」などの著書で有名なNassim Taleb氏がアドバイザーをしているUniversa Investments LP(カリフォルニアのサンタモニカに本部がある)では、近時の金融市場の激動のさなかに、10億ドルのファンドで50パーセント増の巨利を得たとされる。
その巨利の原動力となった戦略が、the Black Swan Protection Protocol という戦略で、その内容は、オプションによるヘッジ戦略であったとされる。
Nassim Taleb氏の有力なパートナーであったMark Spitznagel氏によれば、その戦略は次のようなものであったという。
基本的には、S&P500を原資産とするOTMのオプションの買い持ち(ロング)と、「�仝鎚務堯↓�S&P500インデックス先物、��ヨーロッパの株式」との組合せによるものだという。
(OTMとはOut-of-The-Moneyの略、コールであれば、原資産の相場よりも、高い行使価格を持つオプション。プットであれば、原資産の相場よりも、低い行使価格を持つオプション。オプションの満期日には、無価値となりうるオプションで、オプションのプレミアムが安く、買いやすい。)
おそらく、この記事から察すれば、オプションと株式・先物とを組み合わせた「シンセティック・ロング・コール」と「シンセティック・ロング・プット」の戦略を採用しているものと推測される。
この「シンセティック・ロング・コール」と「シンセティック・ロング・プット」の戦略をわかりやすく説明すれば次のようになるだろう。
「シンセティック・ロング・コール」戦略(Synthetic Long Call)
株を買い持ち(ロング)する一方で、OTMのプットのオプションを買い持ち(ロング)する。
株式相場が世界的に大幅下降すると、株式のほうでは、レバレッジなしの損失が発生するが、OTMのプットのオプションのほうで、レバレッジの利いた大幅な利益が生じる。
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「シンセティック・ロング・プット」戦略(Synthetic Long Put)
株を売り持ち(ショート)する一方で、OTMのコールを買い持ち(ロング)する。
株式相場が世界的に大幅下落すると、OTMのコールのオプションの方で、損失が発生するが、レバレッジのある損失ではあるが、もともと、OTMのコールなので、最大損失は、当初買ったオプションの安いプレミアムの金額に限定される。
一方、株式の方では、相場の下落に応じた利益が、こちらのほうはレバレッジなしに、発生する。
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この両戦略のミソは、オプションのポジションのほうを、どちらも、損失限定のロング(買い持ち)としたこと、、しかも、オプション・プレミアムが安いOTMのオプションをロングにしたこと、なのだろう。
(もっとも、株式・先物のデルタ値(=1)とOTMオプションのデルタ値(=期近のOTMだと、0.02くらいになっているかも知れない。)とのデルタ・バランスはとっておかなければならない。
具体的なデルタ・バランスは、次のようにする。
一株式は、1デルタ、一オプションは、100株とすると、
OTMオプションのデルタ値が0.2とすると、
OTMロング50単位に相当する株式数は、
50(オプション単位)×0.2(デルタ値)×100(乗数-オプション一単位に相当すする原資産(この場合は株式)の一定の倍率)=1000株
つまり、オプションのデルタ値が0.2の場合は、オプション50単位のロングで、1000株のショートまたはロング(オプションがコールの場合は、ショートの株式をヘッジ、オプションがプットの場合は、ロングの株式をヘッジ)の株式をヘッジできるということになる。
オプションのデルタ値が0.02の場合は、OTMロング50単位で100株の株式をヘッジできるということになる。
逆に、たとえば、デルタ値0.3のオプション何単位で、株式千株をヘッジできるかを試算するには、
1000株÷(0.3デルタ値×100乗数)=1000÷30=33オプション単位
ということになる。)
このことで、相場の下落でコールに損失が発生しても、レバレッジが利いたとしても、OTMオプションなので、少ない最大損失ですみ、一方、プットのほうは、相場の下落で、レバレッジの利いた巨利を得ることができた、ということなのだろう。
そのことは、『Fooled by Randomness by Nassim Taleb 』の著述にも、現れている。
すなわち、90パーセントの損失の機会の恐れ、10パーセントの利益の機会の期待があっても、後者の10パーセントの利益の機会に、損失の100倍の利益の確保が可能なら、トータルでは、損失の10倍の利益を生みうる、という考え方である。
通常、この「シンセティック・ロング・コール」と「シンセティック・ロング・プット」の戦略は、たとえば「S&P500を原資産とするインデックス・オプションやETFオプションと、S&P500の先物やETFとの組合せ」や、「個別株オプションと個別株との組合せ」や「S&P500を原資産とするインデックス・オプションと、ベータ・ウェイティング(インデックスが動いた率に対して、個別株が、何パーセント連動して動くか、その変数を掛けたもの)した上での個別株との組合せ」などによるのだか、ここで、原資産上では両者まったく関係がない「ヨーロッパ株式とS&P500オプションの組合せ」というのが、まさに、裁定取引(アービトラージ(Arbitrage)といい、異なった動きをする金融商品を組み合わせて、その利ざやを稼ぐ取引)の妙なのだろう。
このブルームバーグの記事によれば、the Black Swan Protection Protocol 戦略では、損失を数パーセント以下にとどめうるように設計されているという。
また、Nassim Taleb氏は、今回の金融危機で問題になっている”Credit Default Swap”には、決して触らないようにしていたという。
なお、私が今年2008年4月に刊行した『シカゴ・オプション売買戦略マニュアル』が、今回の金融恐慌後、妙に売れ行きがいいのは、ここにきて、金融恐慌に強みを発揮したオプションのメリットが、見直されてきたのであろうか?
ちなみに、ここで、オプションの歴史を振り返ってみれば、オプションが見直されたのは、1934年の大恐慌以降のことであったということだ。
その意味で、今回のオプションの見直し機運は、ちょっと、不気味な現象ではある。
なお、Nassim Nicholas Taleb氏のオプション戦略の一端は『Nassim Nicholas Taleb:Profiting from market uncertainty』や『The Black Swan: Quotes & Warnings that the Imbeciles Chose to Ignore』や『We Don’t Quite Know What We are Talking About When We Talk About Volatility 』に垣間見ることができる。
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