Sasayama’s Weblog


2004/01/28 Wednesday

カナダが,秋田県 の男鹿水族館へのホッキョクグマ寄付を断った背景

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:38:44

  
2004年01月28日

旧来の動物園的考え方と、アニマルライツ尊重の考え方との相克

今年7月に新装オープンする秋田県立男鹿水族館(同県男鹿市)が、展示の目玉としてカナダ・マニトバ州にホッキョクグマ(Ursus maritimus)の寄付を要請していたが、同州政府が却下していたことが、本日、2004年1月28日分かった。http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/896108/83z83b83L838783N83O837d-0-1.html http://www.mainichi.co.jp/area/akita/news/20040129k0000c005001000c.html
http://www.sakigake.co.jp/servlet/SKNEWS.News.kiji?InputKIJICODE=20040129g 参照

同館は建設費を1億5000万円増額して同州の基準に合わせたクマ舎を建設、受け入れ準備を進めていた。

改めて寄付を要請する方針だが、クマの迎え入れは厳しい情勢とのことだ。

これらの問題は、「タマちゃん問題とアニマルライツへの誤解」でも述べたような、アニマル・ライツ(動物の権利)問題と、旧来の動物園的考え方が、ここにきて相克をおこしている現象の一つとして、とらえるべきものだ。

強まるホッキョクグマ輸出への規制
サイトhttp://www.zoocheck.com/programs/wildlife/forgotten/exec.shtml によれば,カナダの自然保護団体「ズーチェックカナダ」 は、the Manitoba Polar Bear Export Program (MPBEP) というものを提唱しており、このなかで、ホッキョクグマの輸出条件として,六つの条件を掲げている。

1.狭すぎる動物の囲いはだめ

2.軟質基板がないものは,だめ

3.環境の質が悪いのはだめ

4.プールが不適切,または,汚れているものは,だめ

5.異常に陳腐な行動をさせるのは,だめ

6.ホッキョクグマ受け入れ後,他の施設への,転売・移動・貿易などは,だめ

という原則のようで,おそらく,秋田の水族館の場合も,この6条件のいずれかを満たさなかったものと思われる。

なお、http://www.zoocheck.com/programs/wildlife/forgotten/involve.shtml
には、ホッキョクグマ輸出認可にいたるまでについての、細かな手順が記されている。

さらに,2003年1月成立したManitoba’s Polar Bear Protection Actと,2002年8月成立のTHE RESOURCE TOURISM OPERATORS ACTとの二つの制約から,より条件が厳しくなった模様である。

加えて、カナダのWSPA Canadaのホームページに、2002年2月公表の‘Japan’s illegal trade in bear products: A threat to bears worldwide’(日本におけるクマ製品の不法取引−世界中のクマへの危機-)」(日本語では、「ユウタン(熊胆)取引とクマの保全」)と題した、日本の野生生物保全論研究会(JWCS)の戸川久美さんや、坂元雅行弁護士の論文が掲載されたことも、影響しているのかもしれない。(ユウタン取引については、「環境省と厚生労働省によるJWCSの勧告への回答」も、ご参照)

サーカスの教訓 「動物というものは、とらわれの身では、うまくいかないものだ」
昨年8月27日に、自然保護団体「ズーチェックカナダ」が,http://www.zoocheck.com/programs/wildlife/polar/Japanese.shtmlに,次のような内容を報じている.

「動物園のためのホッキョクグマ捕獲を禁じる新しいマニトバの法律は、一組のホッキョクグマを買いに来た日本の秋田県からの訪問団が帰った後に試行されるであろう。

マニトバの野生生物の事務局長であるジャック・デュボイスさんは、次のように語った。

「秋田から来た7人のメンバーは、2004年7月に開館する男鹿水族館の目玉として、ホッキョクグマを小熊一頭か二頭をほしいといってきた。」

マニトバの昨年成立した、ホッキョクグマ保護法では、動物園のための捕獲は、そのクマが孤児の場合、一定の条件の下で、捕獲できるとしている。

「われわれは、最後の手段として、安楽死させることが出来る。」と、デュボイスさんは、言った。

「日本の人は、そのことを知っているだろうし、それでも、なお、欲しいと言っているのだ。」といった。

「この保護法は、マニトバ生まれの三匹のホッキョクグマが、メキシコ(に拠点のあるCirco Hermanos Suarez -Suarez Brothers Circus- )(左記に写真あり)のサーカスで、辛いものや、ドッグフードや白いパンなどの食品を与えられ、虐待されたことに、国際的な抗議の声が上がったことを受けて制定されたものだ。

シカゴに本拠地のある the People for the Ethical Treatment of Animalsのスポークスマンの Debbie Leahayは「もし、われわれが、メキシコの失敗に学ぶとすれば、動物というものは、とらわれの身では、うまくいかないものだということだ。」という。

このthe People for the Ethical Treatment of Animalsという団体は、2001年に、アメリカ政府に対して、このメキシコのサーカスのオーナーに対して、その残虐性に対して、告訴すべきであると、促した。

そこで、政府は、それから、サーカスからクマを引き取り、動物園に飛行機で運んだが、そのうちの一匹は、途中で死んでしまった。」

以上が,ZooCheckCanadaが報じた内容だ。

根本からすれ違っていたカナダと秋田との動物保護のスタンス
2003年8月23日のPeter M. Libaマニトバ州副知事の寺田秋田県知事ご一行歓迎の挨拶では,http://lg.gov.mb.ca/speech/2003/julaug/northern_welcome.htmlに見るように,マニトバ州副知事がマニトバのホッキョクグマにふれたくだりは,わずか二行であり,しかも,その内容は,「ホッキョクグマのいる公園Wapusk National Parkは,秋田県と同じ面積だ。」というくだりのみであった。

しかし、このメッセージには、裏を返せば、「ホッキョクグマには、これほどの広大な環境が必要だ。」との意図が秘められているようにも、受け取られる。

「また、秋田県議会商工労働委員会の会議録では、このようなカナダ側の自然保護上の事情についての県当局側の説明は、ごくわずかで、委員の間では、「クマが来なかったら、知事や観光課長が、ぬいぐるみを着て、代わりに檻の中に入るべきだ。」などという、のどかな議論が展開されていた。

さらに、この委員会での観光課長の発言を、そのまま掲載すると、「プエルトリコに行ったクマが死んだと、その後にホッキョクグマ保護法ができました。ホッキョクグマ保護法に適合した施設はまだプエルトリコにもありませんので、その後は行っていないと思います。」といっている。

ここで、観光課長は、三つの誤った発言をしている。

第一は、マニトバのホッキョクグマが行って、動物愛護団体から問題になったのは、ホッキョクグマが、動物園に行ったのではなく、サーカスに行ったのであるということ、

第二は、プエルトリコは、動物園の施設のあるところではなく、たまたま、そのサーカスが、巡業途中にプエルトリコにいっていて、動物愛護団体の抗議を受けて、そのプエルトリコで、サーカス団が保有する七頭のホッキョクグマのうち、2002年3月にそのうちの一頭を、そして残りの6頭を2002年11月に、奪回・保護したものだということ、

第三は、プエルトリコに行ったクマが死んだのではなく、プエルトリコで救出したクマの一匹であるRoyaleという名のクマが、他のクマとともに飛行機で、プエルトリコからアメリカへ運ばれる途中で、死んでしまったということ

である。

となれば、「ホッキョクグマ保護法に適合した施設はまだプエルトリコにもありませんので、その後は(マニトバのホッキョクグマは、プエルトリコへは)行っていないと思います。」との発言は、なんとも、意味不明の発言であることがわかる。

これについては、http://www.zoocheck.com/action/default.asp?load=150 http://www.awionline.org/pubs/Quarterly/Spring02/suarezseven.htm
http://www.hsus.org/ace/15746
http://www.sunherald.com/mld/sunherald/news/breaking_news/4556275.htm
の記事を参照。

このような経緯をトレースしてみると、この問題についてのカナダ側の意向と、秋田県側の認識とでは、その根本から、かなりのズレを見せていたことがわかる。

秋田県側は、「環境大臣が代わったため」対応が厳しくなったとの見解を示しているが、このような経緯を見てみると、そうではなく、そもそもの野生生物に対する認識について、カナダ側と秋田側とでは、大きな差があったと見なければならないようだ。

世界的に見直しを迫られている動物園での野生動物飼育
EUでは、1999年に採択された「動物園における野生動物飼育に関する指令」(EU Zoo Directive )にもとずき、EAZAなどを推進力にして、各国で、動物園法なり動物保護法を制定する動きが急である。

参考 Born Free Foundation http://www.bornfree.org.uk/index.html
   Veterinary Government & Law Resources http://netvet.wustl.edu/law.htm

日本の、ZooCheckと同趣旨の機関である地球生物会議は、「秋田県は、シロクマの生育環境に最も適した施設であると強調しているが、それならば、日本国内の動物園で劣悪な環境下で飼育されているシロクマを受け入れてはどうか」と、提言している。

この広義の意味での動物のAdoption(養子縁組)の考え方を、動物園の世界にも適用しようとするアイデアには、私も、賛成だ。

特に、この数年、宝塚、池田(岡山)、栗林公園、到津遊園、岐阜市立公園動物園、徳山動物園など、各地で、動物園の廃園や経営悪化が続いており、行き場を失った動物たちが、二束三文で、譲渡されるような動物園経営環境悪化の時代である。

動物の移籍交渉の結果、引き取り手のない動物たちは、「余剰動物」となってしまう。

このうち、ホッキョクグマについてみれば、平成12年6月12日には、池田動物園から、上野動物園に、2003年7月11日には、宝塚動物園から、よこはま動物園ズーラシアに、無事、移管された。

たとえば、イギリスのChester Zooのように、動物園の会員になれば、動物のAdoptionの特典を得られるというシステムを採用しているところもある。

また、この動物のAdoptionシステムの変形として、Dallas ZooのAdopt-An-Animal programに見るように、動物園内の特定の動物について、市民がAdoptionすることで、動物園がかかる食費を中心とする膨大な費用を、市民がシェアするという目的のためにも、使われている。

さらに、The SchoolWorld Zoo Adoption Centerの考え方は、世界の学校をインターネットで結び、それぞれの学校の子供達が、コアラなどの動物をバーチャルにAdoption しようという考え方だ。

このようないろいろな形で、いわば、日本の各地の動物園に分散している希少動物を、国民共有財産として、シェアするシステムの構築が、このAdoptionシステムの応用によって可能となるような気がする。

アニマルライツ運動の父であるプリンストン大学教授Peter Singerさんは、http://www.cbsnews.com/stories/2002/02/19/60II/main329882.shtml で、次のような言葉を述べている。

“もしヒトが、たとえば無用な苦痛を受けない権利のような、基本的権利を持つならば、動物も同じ権利を持つ”

“ある生き物が私たちと同じ動物種のメンバーでないとからといって、その生き物が感じる痛みを考えなくてもよいことにはならない。”

以上

ホッキョクグマ関係記事は,
http://www.gov.mb.ca/chc/press/top/2003/08/2003-08-23-01.html
http://www.pref.akita.jp/tiji/15year/030901.html
http://www.pref.akita.jp/tiji/15year/030818.html
http://www.pref.akita.jp/gikai/iinkaikaigiroku/h15-09/h15-09syoukou.htm
http://www.pref.akita.jp/pref_voice/show_detail.htm?serial_no=191
http://www.pref.akita.jp/tiji/16year/040202.html
http://mytown.asahi.com/akita/news02.asp?kiji=5521
http://www.sakigake.co.jp/servlet/SKNEWS.News.kiji?InputKIJICODE=20040203b

http://www.pref.akita.jp/tiji/16year/040218.html
にもあります.

動物の権利については、「一歩前進した自然の権利代弁訴訟 」も、ご参照ください。

ホッキョクグマがいる、日本の動物園

札幌丸山.旭山(旭川). おびひろ.釧路市.八木山(仙台). 上野. 横浜(宝塚より受け入れ).野毛山.横浜八景島シーパラダイスアクアミュージアム.金沢. 日本平.浜松市. 豊橋総合動植物公園. 名古屋市東山.京都市.アドベンチャーワールド.みさき公園(大阪).大阪天王寺.王子(神戸).姫路市. 徳島. とべ(愛媛). 徳山.福岡市.別府ラクテンチ.熊本市.カドリー・ドミニオン. 鹿児島市平川動物公園
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