Sasayama’s Weblog


2003/09/23 Tuesday

内需主導型経済構造への変換を迫る、今回のG7声明

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:29:36

  
2003年09月23日

「より柔軟な為替制度が望ましい」として、日本の過度な為替介入の取りやめと中国人民元切り上げ問題を強く示唆した、今回のG7声明の意義は、日本の新聞では、おりしもの小泉内閣発足に隠れて、過小評価されている感がある。

しかし、世界的には、今回のこのG7声明は、1985年9月、円とドイツマルクを、ドルに対してより高くする方向でG 5が協調することを確認したプラザ合意に匹敵するものと見る向きが強い。

ただ、この1985年のプラザ合意との違いは、ドル安にむけて各国が協調するという点については、結果から見れば同じであるが、今回のG7声明は、それは、あくまで為替市場の自由放任に任せた、結果としてのドル安であるという点が、プラザ合意とは、決定的に異なる点である。

サイトhttp://money.inq7.net/breakingnews/view_breakingnews.php?yyyy=2003&mon=09&dd=23&file=4 では、今回のG7声明の、日本・中国をはじめとするアジア各国の今後の経済構造に与える影響は、きわめて大きいとの見方をしている。

特に、日本に対しては、輸入資材の価格低落によって、日本のデフレ傾向は、一層強まるであろうとの見方をしている。

さらに、アジア各国は、これまでの輸出依存型経済構造から、内需依存型経済構造への転換を必然的に迫られるであろうとの見方もしている。

もともと、昨年の12月頃は、日本は、円安戦略で、当面の危機を脱する環境にあった。

それが、今年の5月11日に、アメリカのスノー財務長官が、「弱いドルでもかまわない」との発言 をし、その後、ブッシュ大統領が、今年6月3日のサミットにおいて、強いドル堅持」の発言をし、修正を図ったが、ここにきて、市場原理にゆだねるという形で、結果、スノー戦略に立ち戻ったという経緯がある。

ロバート・ルービン前財務長官以来の「強いドル政策」の大儀を否定せずに、アメリカの債券市場への海外投資家の失望を最小限なものにしながら、実質「弱いドル政策」への転換を図ってしまったというアメリカの方向転換の巧みさには、舌を巻くものがある。

その間には、このサイトでも取り上げたブキャナン氏の「製造業の死論」に代表される、ドル高による、アメリカ国内製造業への空洞化・圧迫、結果としての「雇用の輸出」を非難する、アメリカ製造業界の根強い反対もあった。

日本としては、すっかり「弱い円戦略」のお株をアメリカにとられた形であるが、「時すでにおそし」である。

1985年のプラザ合意時点では、日本には、バブル最盛期であり、まだ、過去の高度経済成長の余韻が、体力として残っていたが、今の日本のやせ細った体に、更なるデフレ圧力となりうる円高の重荷を負わすのは酷ともいえよう。

しかし、ユーロはすでに、35パーセントの実質切り上げを果たしている。

新しいキーパラダイムの構築で、何とか、この難局を切り抜けるしか、日本に残された道は、ない。

今回の自民党総裁選挙で、亀井さんが、一番この点を付いていたが、右も左もポピュリズムの今の政治の場面では、この点での危機意識は、まったく評価されなかった。

しかし、日本経済の本当の試練はこれからなのだとおもう。

Akiary v.0.51

「G7以後も、日本が為替介入をし続けるのではないか」との見方が、まだ市場にはある。

しかし、それは、かなり困難なことであろう。

今後、日本が、これまでどおりの大幅な為替介入をしうるのは、為替相場が、日本の経済ファンダメンタルズと著しく乖離した場合にのみ限られるであろう。

しかし、どの水準を持って、日本の為替相場が、日本の経済ファンダメンタルズと、同水準といいうるのだろうか。

第一、この経済ファンダメンタルズ」(日本経済の基礎的諸条件)という概念そのものが、綜合指数化されたインデックスではない、茫漠とした概念である。

また、これに加えて、日本は、http://www.nikko-am.co.jp/invest/column/b_number/000418_1.html  でもいわれているように、米国に比し、経済ファンダメンタルズ分析を、これまで怠ってきた嫌いがある。

http://www.nikko-am.co.jp/invest/column/b_number/000502_1.html によれば、アメリカの経済ファンダメンタルズとしては、

1.雇用統計 2.小売売上高、3.全米購買部協会指数(NAPM指数)(現在は、全米購買部協会は全米供給管理協会となり、NAPM指数はなくなり、ISM 指数となった。)、シカゴ地区購買部協会景気指数(シカゴPMI)、フィラデルフィア連銀景況指数 4.実質GDP速報 5.PPI(生産者価格指数)と CPI(消費者価格指数) 6.耐久財受注額 7.雇用コスト指数 8.新築住宅販売戸数&中古住宅販売戸数等 9.コンファレンスボード消費者信頼感指数  

などが、ファンダメンタルズを示す指標とみなされるであろう。(個別指標については、ここをクリック また、その他の各種経済指標については、ここのリンク集を参照)

http://www.nikko-am.co.jp/invest/column/b_number/000418_2.html によれば、日本のファンダメンタルズ指標に当たるものとしては、

1. 日銀短観 2.実質GDP 一次速報(QE) 3.機械受注(船舶・電力を除く民需) 4.鉱工業生産指数・速報 5.勤労者(サラリーマン)世帯家計調査の実質消費支出 6.第3次産業活動指数&全産業活動指数 7.法人企業統計&法人企業動向 8.景気総合指標 9.貸出&マネーサプライ 10.新車(軽自動車を除く登録者)販売台数

といったところらしい。(個別指標については、ここをクリック)

いわば、これほど、ファンダメンタルズという言葉が使われながら、この概念に該当する世界標準となる綜合指標化は、なされていないのである。

これでは、どの基準をもって、日本は今後大幅為替介入しうるのか、その基準さえも、おぼつかない状況である。

では、為替介入が制限を受けたあと、日本のとりうる手段は、ほかにあるのだろうか。

金融庁の広瀬純夫さんの論文によると、1995年を境にして、当時大蔵省の為替介入に対する哲学は大幅に変更されたという。

1995年以前の為替介入が、市場の過度の変動をなくすための円滑化操作(スピード調整)であったのに対して、1995年以後の為替介入は、介入の頻度を少なくする代わりに、一回の介入量を大量にする「押し上げ介入」(ロード・ブロック)に切り替わったのだという。

G7.IMFでの名指しを受けての日本の為替介入のとりうる立場は二つあるであろう。

一つは、為替介入のあり方を、1995年以前の小規模・頻繁型の円滑化操作型に、ふたたび回帰させること、
二つ目には、市場が、過度の為替変動を自律的に調整できるための、裁定取引が円滑に出来るための環境整備である。

広瀬さんの論文において、この民間サイドの裁定取引がむずかしくなるのは、専門化した裁定取引者が、取引の大型化と頻繁化によって、取引資金の調達を自己資金によらず、金融機関よりの借入資金にたよるものの、それに対応する金融機関が、パフォーマンス悪化の事態になると、及び腰になり、資金の供給をストップし、結果、裁定取引者は、市場から退出せざるを得ない環境に陥ってしまうのだという。

この点、なかなか、健全な裁定取引者の育成というのは、難しい課題であるが、今回のG7.IMF の声明にある「為替相場の柔軟化」という課題達成のためには、避けられない課題解決である。

なお、これまで、日本の為替介入をデフレ対策に生かすべしとの論調が一部にあった。

すなわち、為替介入後に、不胎化政策(Sterilization 日銀による売りオペ買いオペ)をとらないで、実質金融緩和と同じ状況を生み出すべし、という論調だ。

たとえば、著しい円高ドル安状況を是正するために、円売りドル買いの為替介入を行うとしよう。

円売りドル買いをすると、ドル買い分だけ、マネーサプライ(貨幣供給量)が増えてしまう。

そこで日銀は、不胎化政策として、売りオペで、国債を売って、マネーサプライを減少させることによって、為替介入によって生じたマネーサプライ増加分を市場から吸収してしまうのが通例である。

為替介入の後に売りオペを行っている節がみられる。

この不胎化政策を行わないで、円売りドル買いの為替介入によって生じるマネーサプライ増加分を、市場に放置させようとするのが、「非不胎化政策」である。

これをすると、円売りドル買いの為替介入を行えば行うほど、市場への貨幣供給量が増え、実質金融緩和措置と同様の効果を持ち、ひいては、インフレ促進、デフレ対策貢献という、一石二鳥効果があるとする主張だ。

カーネギーメロン大学のメルツァー教授などは、円売りドル買い政策によって、円の価値を現在の半分に減価すべきとの主張を持つものもある始末である。

しかし、この主張も、これほど日本の為替介入が槍玉にあがってしまった現在では、ほとんど、その実効性を失った形となった。

まさに、デフレ対策の手段を奪われたばかりか、円高ドル安による新たなデフレ圧力の重荷を、今回のG7以後、背負わされることとなった。

外国投資家主導の見せ掛けの株高に浮かれ、そのフィクションを政治的に利用しているうちに、手痛いしっぺがえしによって、日本経済の虚構性が、いま崩れたのである。

その意味で、新たなパラダイムに元ずく、日本の経済政策の再構築こそ、今、われわれに求められている緊急の課題なのである。
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