2005/02/04
本日、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の疑い患者が見つかり、厚生労働省は、厚生科学審議会疾病対策部会のCJD等委員会を開催、政府関係者によると変異型のCJDと確認した。
国内で変異型CJD患者が見つかったのは初めてであるが、この患者は50代の男性で、2001年12月に40歳台で発症し、昨年12月、既に死亡しており、1989年英国に、1カ月程度の渡航歴があったとされている。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/02/h0204-3a.html参照
しかし、各紙ともこれには触れていないのだが、わずか一ヶ月の滞在で、vCJDにかかる確率というものはどの程度のものなのか。
一日、300グラムのステーキを毎日食べても、9キロの曝露量である。
牛一頭の枝肉は、骨が付いている状態で、平均重量350kg〜400kg、骨を取り除くと、肉の重さは約240〜250kgということだから、この方が、最大限英国でステーキを食したとしても、1頭分の枝肉の4パーセントに過ぎない。
これが本当なら、宝くじ的運の悪さとしか、いえないのではなかろうか。
その辺は「英国滞在」のみを、原因と見ることは、早計なのではなかろうか。
もっとも、アメリカでの疑惑vCJD患者発生の時にも、その人の英国滞在歴が、声高く報道されたのだが。
ちなみに、昨年発生したアメリカ最初のvCJD死者のフロリダの Charlene Singhさんhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/health/3735891.stmの場合は、イギリスに12年間もいたというから、プリオン曝露歴から言えば、比較はできない。
また、2002年8月に、カナダ初のvCJDで亡くなったSaskatchewanの人の場合は、1980代と 1990代の二回にわたって、イギリスを訪れている。
それこそ、今食品安全委員会で話題となっている人間のvCJDの経口感染価(human oral ID50)の問題なのだ。
ちなみに、SSCでは、「人間の経口によるvCJD感染価」の見解について、サイトhttp://europa.eu.int/comm/food/fs/sc/ssc/out71_en.pdfで、「最悪の場合は以下のようにいえるが、種の壁があるので、そのとおりにはいえないであろう。」といっている。
以下は、その概訳である。
「最悪のケースを想定すると、BSE罹患牛の中枢神経組織の脳内摂取(i.c)の場合は、108頭分の中枢神経組織一グラムづつを食して、50パーセントの感染となりうる。
また、脳内摂取を経口摂取にした場合では、ひとつの種の間では、後者は、前者の105分の一減衰すると、見込まれる。
このことから、人間が、BSE罹患牛の中枢神経組織を食してvCJDにかかる感染確率は、最悪のシナリオでは、103頭分のBSE罹患牛の中枢神経組織一グラムづつを食すると、50パーセントの確率で、人間がvCJDにかかることになる。
しかし、通常は、種の壁によって、その規模の程度は、かなり小さくなるものと思われる。」
A worst case assumes a value of 108cow i.c.ID50per gram of CNS tissue.
It is estimated that there is a 105fold reduction inefficiency from i.c. to oral BSE transmission within one species, thus resulting in aworst case scenario of 103cow oral ID50/g CNS tissue.
However this order of magnitude is usually lower when a species barrier is crossed.
ここで必要なのは、個別ケースに入り込むのではなく、もっと危機的なシナリオを想定したほうがいいのかもしれない。
すなわち、今回のvCJDリスクは、国外にあったのか、それとも、国内にすでに存在していたのか、というシナリオである。
言葉をかえていえば、vCJDとsCJDとは、実は、シームレスに近接化していたという、恐るべきシナリオの想定である。
このサイトhttp://www.organicconsumers.org/madcow/morgan11304.cfm
では、それについての、根幹に触れる疑問を突きつけている。
すなわち、「sCJDは、単にクラスターの問題なのか?」との問題意識の元に、「vCJDとsCJDとが、違うクラスターであるとしても、地理的にも、時間的にも、両者が重なり合うことが多いのは、なぜか?」といっている。
日本におけるvCJD問題は、今日始まったばかりである。
早急な結論めいたことで、お茶を濁すことはあってはならないのだ。
「クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会」の委員長の北本哲之(東北大医学部教授)氏は、今日、こうも言われたそうだ。
「この男性が日本で感染した可能性を排除するものではない。なぜなら、医学的根拠にたてば、排除しうる可能性は何もないからだ。」
私も、北本さんのご意見に賛成である。
BSEのリスクアセスメントについては、こちらのサイトhttp://www-micro.msb.le.ac.uk/3035/SH.htmlもご参照。
追記-2005/02/05
本日の東京新聞では、以下のような、トンデモな裏話が
披露されている。
これが、本当だとすれば、まさに、このようなカバーアップ体質(隠蔽体質)こそが、日本の消費者の食への信頼を損なうものだ。
以下東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20050205/mng_kakushin001.shtmlより引用
「「国内初の変異型の事例が出そうです。大きな影響が予想され、助言いただきたい。ただ、この件は絶対内密に」。数日前、ある農相経験者の元には、政府高官から極秘情報が届けられた。
農相経験者は「全頭検査見直しも米牛肉輸入もいったんは棚上げ。騒ぎを最小限にするのが最速の道だ」と指摘。風評被害が国内産牛肉に及ばないよう、「英国滞在歴あり」という点を強調することも指示した。」