2009年12月20日
昨日の朝日新聞の戸別所得補償に関する記事「農家の戸別所得補償、満額実施へ 事実上の減反選択制」に間違いがある。
「天下の朝日新聞の記者さんも、勉強する暇がないのかな?」などと同情してしまうのだが。
間違いの箇所は、次の部分である。
「算出のもとになる「販売価格」と「生産コスト」は、過去数年分の平均値を使う。その年の実績を用いると赤字全額を埋めることになり、世界貿易機関(WTO)が農業保護で貿易をゆがめる「黄の政策」と認定するからだ。直接支払制度を導入している欧米でも、過去数年間の生産実績をもとにするケースが多い。 」
このことについては、私が先月、農林水産省に提出した意見書(ご参照「私が農林水産省に提出した戸別所得補償制度に関する意見の全文」)にも書いたとおり、WTOの農業協定では、次のようになっていて、この記事の言うような、
「その年の実績を用いる」と黄色の政策となり、「過去数年分の平均値を使う」と黄色の政策とみなされない、
などということは、ひとつも書いていない。
すなわち、
WTO農業協定付属書2.6(b)においては
「生産者によって行われる生産の形態又は量(家畜の頭数を含む。)に関連し又は基づくものであってはならない。」
とあり、
WTO農業協定付属書2.6においては、
「生産に係る国内価格又は国際価格に関連し又は基づくものであってはならない。」
とある。
その年の実績を用いようが、過去数年分の平均値を用いようが、WTO農業協定上では、「販売価格」と「生産コスト」に基づいた直接支払いは、黄色の政策とみなされているのである。
また、今回の戸別所得補償スキームでの家族労働費の算定がまだ明らかになっていないが、これについても、WTO農業協定においては、次のように、70パーセント以上の喪失収入を補償するものであってはならないとの取り決めがある。(戸別所得補償スキームでは、家族労働費の八割分算入なんて話もあったようだが、その後どうなっているんだろう?)
WTO農業協定付属書2の7(b)
「当該生産者の喪失した収入の七十パーセント以上の額を補償するものであってはならない。」
また、この朝日新聞の記事では、
「(黄色の政策となることを避けるために)直接支払制度を導入している欧米でも、過去数年間の生産実績をもとにするケースが多い。」
とあるが、これも、正しくない。
すなわち、言われる『欧米』の『米』のほうであるアメリカの価格変動対応型支払いや直接固定支払いやACRE支払いにおいても、過去数年間の生産実績をもとにしているのは事実であるが、アメリカは、このスキームを新・青の政策(New Blue Box)としてWTOに求めさせようとしたが、失敗し、現在、WTOの場で、他の国から、このスキームは、黄色の政策であるとの指弾をうけている。
また、言われる『欧米』の『欧』のほうであるEUにおいては、すでに、2003年のFischer reform(New Cap)によって、それまでの1992年のMacSharry reforms(Old Cap)のスキームを大幅に変え、『直接支払いから単一支払いスキーム』へと変更しており、その内容は、、完全に生産からニュートラルなデカップリングとなっており、WTOコンプライアンス適合型の直接支払いとなっていることを、どうやら、この記事を書かれた朝日新聞の記者さん(署名記事で安川嘉泰さんと記されているのだが。)は、見落とされているようである。
このことについては、過日、赤松農林水産大臣が、WTO閣僚会議の場で、ボエルEU農業委員と個別会談したときに、ボエルEU農業委員が、日本の新政権が戸別所得補償制度を軸とした新しい政策を検討していることに触れ、WTO協定上、問題にならないかと赤松農相に質問したうえで、「EUのデカップリング政策を参考にしてほしい」と述べたとの報道がされている。
参考「WTOの場で、ボエルEU農業委員に戸別所得補償スキームの黄色度を注意されたらしい赤松農林水産大臣」
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