Sasayama’s Weblog


2009/10/24 Saturday

リチャード・クー氏の「アメリカは日本の過去の失敗に学べ」論

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2009年10月24日
 
nullこのところ発表されるアメリカの各種経済指標の予想以上の好調さに、これまでの過度な景気刺激策からの出口戦略を模索し始めたオバマ政権のようだが、これに対して、野村総合研究所のリチャード・クー氏が、「ここで、景気刺激策を中止すると、失われた十年(Lost Decade)をいまだに彷徨している日本の二の舞になる。」との趣旨での警告をし、これについて、ノーベル賞受賞者でもあるエコノミストのポール・クルーグマン氏も、同様の呼応をするということで話題になっているようだ。

リチャード・クー氏の論拠は次のとおりだ。

リチャード・クー氏は、2003年の著書「Balance Sheeet Recession」において、日本が1990年の株式市場や不動産市場のクラッシュに見舞われた後の、総量規制などに代表される、まずい対処によって、その後、10年間、不況から抜け出せなかったことについて、書いた。

そのクー氏が、今回のアメリカの不況についても、同様の警告を発している。

すなわち、オバマ政権は、まだまだ、政府支出は、続ける必要があり、この混乱からアメリカ経済が抜け出すためには、今後、3年から5年は、現在の政府支出を続ける必要がある、としている。

これに呼応し、ポール・クルーグマン氏も、「アメリカ経済の成長は、2009年後半には、回復しそうには見えるが、そのことは、持続的な成長を意味するものではない。」と、強調する。

クー氏のいうに、もし、過去の日本の経験に学ぶとすれば、民間部門が、てこ入れを必要としなくなるまでは、政府の景気刺激財政支出を引き揚げてはならない、としている。

さらに、クー氏は、「民間部門が再び、借り入れ依存をしはじめるようになった場合には、私は、とことん、財政改革を主張するようになるであろう。」と、オバマ政権に対して警告を発している。

クー氏の計算によると、日本が1990年のバブル崩壊によって失った総資産は、1500兆円であるとしている。

これは、日本経済規模の3倍の金額に相当するとしている。

日本企業は、新プロジェクト開発に重点を置くよりは、債務の返済(債務の最小化)に奔走した結果、キャッシュフローが低下し、資産価格は下落し、バランスシートは悪化する、という落下への悪循環へのトリガーとなった、とする。

現在のアメリカの消費者も、このときの日本と同じように、債務返済に忙殺されている。

2002年から2005年にかけてのアメリカの世帯の債務は、毎年10パーセント、上昇しているという。

クー氏がいうに、バランスシート・リセッション(バランスシート不況)から回復させるためには、継続的な政府支出によって、これらの家計や企業のバランスシートの欠損の穴埋めに使われることが必要であるとしている。

そして、金利をゼロ金利近くまで引き下げ、バンキング・システム回復のために1兆ドル以上のものをこれにつぎ込むことは、決して、十分ではないとしている。

クー氏の言うに、ゼロ金利にしても、何も起こらないであろう、としている。

なぜなら、企業も家計も、ゼロ金利にしても、既往債務返済に忙しいので、もはや金を借りようとはしないであろうから、という。

クー氏は、日本の政府支出は、ただ単に、大恐慌以上にひどい状態を防ぎえたという意味しか持たなかった、という。

日本での不況回復のための公共事業投資は、国債の増発を招き、GNPの200パーセントという、先進経済では、最悪のバランスシートとさせている。

ポール・クルーグマン氏は、ニューヨークタイムズ紙の10月2日付けのブログ「Mission Not Accomplished 」で、「われわれの関心を、いまや、景気刺激から、(前向きの意味での積極的な)財政赤字に向けるべきときである。」と書いた。

そして、さらに、次のように言っている。

「現在のアメリカ経済の状態に満足することは、ばかげているし、また、危険なことでもある。
大統領経済諮問委員会(CEA)のアドバイザーであるクリスティーナ・ロマー氏が、”アメリカ経済の、崖っぷちからの復活(back from the brink)”との論説(「Back from the Brink」)を書いたが、もし、オバマ政権が、ここで、さらに、経済回復や雇用市場に対する援助を続けなければ、ここ数年は、ひどい経済状況となるであろう。
最近のEconomis Policy InstituteのJohn Irons氏の報告書(「Economic scarring: The long-term impacts of the recession 」)で、「傷痕化(scarring)」という言葉を使っているのは、高い失業率の結果であるということを、これら「経済回復の使命は終わった(Mission Accomplished)」と考えている論者には、この報告書から、ぜひ、読みとってもらいたいものだと思う。
持続的な失業が、子供の貧困化につながり、これらの貧困の中で育った子供たちは、荒廃した生活を送ることになるということは明らかなことである。
忘れてならないのは、現在の痛みを止めるための政府支出は、同時に、中長期での経済見通しを改善するためのものでもあるということだ。
当面巨大化する政府支出は、政府の財政収支を悪化させはするが、経済を支える実際の財政コストは、もっと小さいはずだ。
簡単に計算しても(Back-of-the-envelope calculations )、財政支出が「ただ飯」(Free Lunch)には終わらないことは明らかである。」

参考「Krugman applauds deficit spending

クー氏によれば、日本が、1990年以降、失われた十年となってしまったのは、政府が国債債務返済を急ぎすぎたためである、としている。

その良き例として挙げられるのは、1996年の橋本内閣のときに、2.6パーセント経済成長達成の後、消費税の引き上げに踏み切ったことが、せっかく回復しかけてきた消費者支出を萎縮させてしまったことだという。

クー氏のいうに、いま、まさに、アメリカ経済は、これと似たような状況にあるわけで、経済回復の兆しが見え出したときに、これまでの巨額な政府支出による巨大な財政赤字が現出し、あわてて、このときに財政支出をカットすれば、ふたたび、経済崩壊を招き、このジグザグを今後、15年も続けなくてはならないことになる。」と警告している。

参考
U.S. Risks Japan-Like ‘Lost Decade’ on Stimulus Exit, Koo Says

参考 長期的なインパクトを与える”Scarring”(傷痕)とは?

上記で紹介したEconomis Policy Instituteの報告書(「Economic scarring: The long-term impacts of the recession 」においては、次のような説明をしている。

長期的なインパクトを与える”Scarring”(傷痕)

財政出動による景気刺激策についての伝統的な分析は、GDPに与える短期の財政的インパクトや、目先の雇用創出に与えるインパクトについてのものであった。

しかし、エコノミストたちは、この短期の経済情勢が、永続的なインパクトを与えうるということを、長いこと、認識していた。

たとえば、失業と収入の低下は、家族をして、彼らの子供たちに大学教育を遅らせたり、または、大学教育なしで済ますことを余儀なくさせる。

信用焦げ付き市場や消費者支出の抑制は、活気のある零細企業の創出を阻止する。

大企業は、研究開発への支出を、遅らせたり、減らしたりする。

これらのそれぞれのケースにおいて、景気後退は、傷痕(Scarring)を残す。

この傷痕は、個人の経済状態や経済に対して、永続的なダメージを、より広い範囲で、与える。

 

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