2003年08月27日
2000年の大統領選挙に出馬したこともあるアメリカの保守党政治家パトリック・ブキャナン氏(Patrick J. Buchanan)の「製造業の死」(Death of Manufacturing)という論説が、話題になっている。
パトリック・ブキャナン氏は、これまでにも、The Death of the West(西洋の死)(日本語の書名は、「病むアメリカ、滅びゆく西洋」
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/html/9976385471.htmlという本も出版しており、いわば「死」シリーズの第二弾というわけだ。
http://www.amconmag.com/08_11_03/cover.htmlが「製造業の死」の現物であるが、内容は、米国政府の自由貿易政策批判で、自由貿易とは一国にとって、人間にとってのアルコールみたいなもので、最初は、一国の活力を奪い、エネルギーを奪い、独立性を奪い、そして究極には、一国の生命までをも奪うとしている。
ここで、米国建国の祖、アレクサンダー・ハミルトンが立てた、米国産業保護経済政策に改めて学び、その産業戦略の再構築をすべきだと言う。
このブキャナン氏の主張は、この論説のなかのアメリカを日本に置き換えただけで、多くの日本の産業界の共感を呼び起こすであろう。
さらに、この論説の中のブッシュを小泉に置き換えただけでも、多くの共感を呼び起こすであろう。
これをめぐって、更なる論争が続いている。
パトリック・ブキャナン氏と、同じ説として、
Paul Craig Roberts 氏
http://www.washtimes.com/commentary/20030805-084100-3722r.htm
http://www.townhall.com/columnists/paulcraigroberts/archive.shtml
がある。
また、これを批判する論説として、
Bruce Bartlett 氏
http://www.townhall.com/columnists/brucebartlett/bb20030814.shtml
がある。
さらに、パトリック・ブキャナン氏(Patrick J. Buchanan)や、Paul Craig Roberts 氏のとなえる「雇用の輸出」神話論に対して、William L. Anderson氏は、疑義を呈している。
http://www.mises.org/fullarticle.asp?control=1282&month=59&title=Concerning+the+Export+of+Capital&id=59
http://www.mises.org/fullarticle.asp?control=1248&month=57&title=The+Myth+of+%22Exporting+Jobs%22&id=59 参照
氏によれば、海外投資の決定は、何も、安い労働力にのみよって決定されるものでなく、その国のインフラ整備状況など、総合的投資環境によって決定されるのだから、国内産業の空洞化促進政策が、雇用の場の輸出につながっているというのは、結果論に過ぎないというのだが。
さらに、Walter E. Williams氏も、http://www.cnsnews.com/ViewCommentary.asp?Page=%5CCommentary%5Carchive%5C200308%5CCOM20030820a.html で、「低賃金国に輸出する雇用の場がいっぱいつまったコンテナを、アンチ自由貿易論を振りかざす政治家は、取り締まることができるっていうの?」などと、皮肉り、アメリカの本当のライバルは、低賃金国でなく、アメリカの労働者よりも、もっと稼ぎのいい、ヨーロッパの労働者だといっている。
一方、http://www.ajc.com/news/content/news/atlanta_world/0803/27jobs.htmlでは、玉突き衝突的に海外に移転するホワイトカラー職の移転の実態と、アメリカでの、かつてホワイトカラーであった人たちの嘆きを伝えている。
この玉突き衝突現象は、単にアメリカからインド、中国などへの雇用の場の輸出にとどまらず、さらに、脅威なのは、ロシアへの雇用の場の輸出であるとしている。
すでに、アメリカから、進出したインドの会社のホワイトカラー職は、英語が話せるフィリピン人にとってかわられ、フランスのホワイトカラー職は、同じくフランス語の話せるモーリシャスなどの国の人にとってかわられつつあるという。
また、航空機のボーイング社では、5000人のエンジニアのレイオフを行い、その代わりに、驚くべき低賃金で、ロシア人を雇い入れたという。
一方、英国の会社は、インドを戦略拠点にするなど、かつての植民地の復活を思わせるほどの低賃金国へのシフトぶりだという。
ここで、日本を振り返ってみれば、すでに空洞化の進行は、第二時代を迎えたほどの浸透ぶりであるが、いずれは、海外進出した企業が、その国での更なる玉突き衝突的空洞化に見舞われるという、連鎖的空洞化現象にさいなまされる事態も想定しなければならない事態となっているようだ。
これら、「雇用の輸出」論は、何も今に始まったことではない。
1990年代初頭にも、原木丸太輸出をめぐってのアメリカ木材業界からの「雇用の輸出」論議はあった。http://bari.iww.org/~intexile/Exports1.html 参照
しかし、今回は、これまでの左ともいえる労働界からの批判に加え、ネオコンに近い右からの批判と、バラエティに富んでいるところに、特徴がある。
まあ、これと同じ議論は、日本でも、行われるべきなのだが、寂(せき)として声のないのが、日本の言論界の現状だ。
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