Sasayama’s Weblog


2005/03/25 Friday

問題所在のポイントをずらしかねない、OIEの基準変更ニュース

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 10:47:47

 
2005/03/25(Fri)

どういう意図かわからないが、昨日から、「OIEが、牛肉の輸出入規制を大幅に緩和する新たな国際基準の原案を日本に提示した」とのニュースが、声高に流れている。

もともと、OIEの「Terrestrial Animal Health Code」は、毎年見直しているのであり、また、昨年10月25日の米国産牛肉の日米高級事務レベル会合合意においても、「5.BEVプログラム概説」において、「再検討されるべき情報には、次のものが含まれる。」として「再検討すべきOIE基準にもとづいた、アメリカのBSEの状態」との一行がはいっているのである。

問題のポイントは、OIE基準が緩和されるかどうかということよりも、SPS協定との関係を考慮しなければならないのに、マスコミ報道では、そのことについては、一切触れていないのか、どうしたものなのであろうか?

すなわち、前にも書いたように、日本の場合のように、OIE基準よりも厳しい基準で、BSE汚染国からの牛肉輸入を禁止する場合は、SPS協定の5条2項での「(輸入する牛肉についての)危険性の評価を行うに当たり、入手可能な科学的証拠」が、不十分な状況の元での、5条7項の「暫定的に衛生植物検疫措置を採用」により、禁輸措置を行っているのであり、それに対して、第2条第2項「2 加盟国は、衛生植物検疫措置を、(中略)第五条7に規定する場合を除くほか、十分な科学的証拠なしに維持しないことを確保する。」の条項を盾にとって、「十分な科学的証拠があるのに、衛生植物検疫措置をとっているのは、隠れたる貿易障壁である。」と主張しているところに、対立点があるというわけである。

なお、今回のOIE基準の緩和要求のポイントは、は、 OIEの「Terrestrial Animal Health Code」のArticle 2.3.13.14.  Article 2.3.13.15. Article 2.3.13.16. Article 2.3.13.17.Article 2.3.13.19. Article 2.3.13.21.に関するものであって、

第一に、BSEフリーの国または、最小(minimal)のBSE汚染国から輸入される骨付き、または、骨を除去した肉、または、肉製品については、輸出国において、検査が必要であるということ、

第二に、BSEリスクが中位または 高位にある国からの牛肉や肉製品については、すべての牛の検査が必要だということ、

第三に、食用や、飼料や、 肥料や、化粧品や医薬品向けに使用される牛脂について、、最小(minimal)のBSE汚染国または、また、BSEリスクが中位の国からの牛からのものについては、Article 2.3.13.19. 規定の組織を使っていないかどうかの検査が必要であるということ、

この点についての基準緩和要求と見られる。

今日の島村宜伸農水相は、閣議後会見で、OIEが基準緩和案を提示したことについて、脊髄反射的に「日本としては当然反対していく」と述べた
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050325-00000114-jij-pol
というのだが、

いやみを言うわけではないのだが、これは、上記にも書いた昨年10月25日の米国産牛肉の日米高級事務レベル会合合意において、「5.BEVプログラム概説」において、「再検討されるべき情報には、次のものが含まれる。」として「再検討すべきOIE基準にもとづいた、アメリカのBSEの状態」について合意したものと矛盾する発言ではないかと、アメリカに言われるのではなかろうか。

(日米合意の中で”The United States BSE status according to OIE criteria to be reviewed”と書いてある。)

むしろ、日本の農林水産省として、今、見解を統一しておくべきは、WTO提訴の場合にそなえた、SPS協定との関係である。

この場合に一番参考になるのが、アメリカとEUとの、ホルモン牛肉紛争における、SPS協定の解釈だ。
http://lin.lin.go.jp/alic/week/1998/jan/323eu.htm

問題となったSPS協定抵触部分は、三箇所あった。

1 危険性の評価(SPS協定第5条1項)

2 恣意的かつ不正な保護水準の適用(SPS協定第5条5項)

3 保護の水準(SPS協定第3条)

これを今の日米間の牛肉問題に置き換えてみると、アメリカ側の言い分は、次のようになるだろう。

1.「日本側が提示した科学的報告は輸入禁止の根拠にならないので、SPS協定第5条1項違反なのではないのか?」

2.「日本側は、検疫衛生措置の保護水準を、、恣意的かつ不正に区別し、貿易に差別や偽装した制限をもたらしているので、SPS協定第5条5項違反なのではないのか?」

3.「日本側の輸入禁止措置は、OIE基準の月齢30ヶ月未満を、月齢20ヶ月未満の牛に引き上げるなど、OIEの国際基準に基づいておらず、また、独自の水準を採用できる規定にも該当していないので、第3条1項違反ではないのか?」

ということになるのだろうか?

したがって、アメリカ側からWTO提訴があった場合の対策としては、この上記三点の逆を考えればいいことになる。

最後に、OIE基準に過大な期待をいだかれがちな方がたのために、次のUSDAのQ&Aの日本語訳をしておく。。

律儀な日本人は、「国際基準履行」などと迫られると、悪いことをしているなどと思って、おびえがちであるが、このようなあけすけなものを読むと、ショック療法としては、いいのかもしれない。

http://www.beef.org/uDocs/BSE%20Final%20QA%2011-17-2003.pdf参照

「OIE基準は、履行のハードルが高い規則でも、履行のスピードが急がれる規則でもありません。

OIEは、加盟国の主権を尊重し、動物に関する貿易について、それぞれの国の尺度にあった基準が作れるような、ガイドラインとなっています。

現在のOIE基準でのリスク地域の分類は、5分類あって、それは、BSEフリーの国、一時的にBSEフリーの国、最小のBSEリスクを持つ国、中位のBSEリスクを持つ国、高位のBSEリスクを持つ国、に分かれています。

それぞれのカテゴリーにある国についての牛肉貿易について、OIEガイドラインは、適用されます。

どの国から、牛肉や牛肉製品を輸入できるかのOIE基準は、至極簡単で、次の二つの条件のうちの一つが該当しさえすればいいのです。

その条件の一つとは、その国が、BSEを持たない国であること、その条件のもう一つは、その国が BSE発生のケースがあった場合には、適切な飼料禁止措置がなされていて、そのような飼料禁止措置後、少なくとも、7年間は、BSE発生事例がなかったこと、です。

OIEのガイドラインは、これらの条件を、必ずしも、牛肉貿易の必須条件にはしていないのです。

OIEでは、BSEフリーの条件を決めてはいますが、国際社会においては、これらの条件が、牛肉貿易をする決定要素とはなっていないのです。

実際、いかなるリスクカテゴリーにある国との貿易についても、たとえ、その国が、ハイリスクのBSEリスクカテゴリーにある国であっても、OIEは、アドバイスしているのです。

ここで重要なことは、一定のBSEリスクがある諸国間では、消費者の信頼性にかかわらず、牛肉は、生産され安全に消費されているということです。」

2005/03/28追記

骨なし牛肉にかかわるOIE基準部分

OIEが、本年5月の総会において提出を予定しているとされる「骨なしの牛肉について、輸出国のBSEリスクにかかわらず、どのような条件も要求すべきでない」との部分は、現行のOIE基準である「Terrestrial Animal Health Code (2004)」では、次の条項で、次のように定められている。

5月総会で提案されるであろうOIE基準の変更は、下記条項についてのものと見られる。

Article 2.3.13.13.

「一時的にBSEフリーの国や地域から、輸入する場合には、その国の生体牛からの骨付きまたは骨なしの生牛肉や牛肉製品については、獣医管理局は、検査済みであることを国際的に証明する証明書の提示を必要とする。」

Article 2.3.13.14.

「最小のBSEリスクのある国や地域から、輸入する場合には、その国の生体牛からの骨付きまたは骨なしの生牛肉や牛肉製品については、獣医管理局は、検査済みであることを国際的に証明する証明書の提示を必要とする。」

Article 2.3.13.15.

「中位のBSEリスクのある国や地域から、輸入する場合には、その国の生体牛からの骨付きまたは骨なしの生牛肉や牛肉製品については、獣医管理局は、検査済みであることを国際的に証明する証明書の提示を必要とする。」

Article 2.3.13.16.

「BSEのハイリスクにある国や地方からの輸入の場合には、獣医管理局は、生体牛からの肉や肉製品については、以下のことについて、検査済みであることを国際的に証明する証明書の提示が要求される。」

その「以下のこと」とは、

「3.輸出される生肉であって、もし、それが、月齢9ヶ月以上の動物から採った肉である場合は、骨が取り除かれ、骨を除去する過程において、神経リンパ節を含まず、それらすべてが、組織との交差汚染を回避しうるやり方で、完全に取り除かれたもの。」

「4. 輸出される肉製品であって、それが、骨除去肉からのものであり、Article 2.3.13.18.のポイント1とポイント2にリストアップされた組織を含まないものであり、かつ、牛のづ骸骨や脊柱から、機械的に除去分離された肉でないものであり、去れらのすべてが、それらの組織と交差汚染を回避しうる方法で取り除かれたもの」

参考

Article 2.3.13.18.のポイント1

「中位の、またはハイリスクのBSEリスクのある国から輸入した、いかなる月齢の牛からの、次の商品ならびにそれら商品によって汚染された商品については、食品、飼料、肥料、化粧品、生物製剤を含む調合薬、医療用具、扁桃腺、腸、それらから抽出したたんぱく質製品の調製品として、貿易してはならない。

それらの商品を使った食品、飼料、肥料、化粧品、生物製剤を含む調合薬、医療用具を、商取引してはならない」

Article 2.3.13.18.のポイント2

「中位の、またはハイリスクのBSEリスクのある国から輸入した、と畜時の月齢が12ヶ月以上である、生体牛からのものについて、次の商品や、それらによって汚染されたいかなる商品について、食品、飼料、肥料、化粧品、生物製剤を含む調合薬、医療用具、扁桃腺、腸、それらから抽出したたんぱく質製品の調製品として、貿易してはならない。

それらの商品を使った食品、飼料、肥料、化粧品、生物製剤を含む調合薬、医療用具を、商取引してはならない。」

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