Sasayama’s Weblog


2004/02/12 Thursday

全頭検査条件の米国産牛肉輸入再開論の矛盾−日本の農水省は、まず、相対リスク管理と絶対リスク管理のダブルスタンダードの現状を認識すべし-

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:41:40

  
2004年02月12日

アメリカとの牛肉輸入再開協議が難航しているが、これは、もともと、日本が招いた、国内産牛肉と輸入牛肉とのリスク管理のダブル・スタンダードに起因した問題だ。

日本において、BSE発生時に、国産牛肉について、全頭方式という絶対リスク(相加リスクAdditive Risk)管理を採用しておきながら、輸入牛肉については、相対リスク(相乗リスクMultiplicative Risk)管理方式のままにしたという時点で、今、アメリカとの間に提起されている矛盾は発生しているというわけだ。

以後、日本の消費者は、同じ牛肉について、絶対リスク管理のもとで安全と称せられている牛肉と、相対リスク管理の下で、安全と称せられている牛肉とを、ダブル・スタンダードの元に食しているということになる。

現在BSEフリーとされているオーストラリア・ニュージーランドの牛肉の検査体制も、アメリカ・カナダと同じ、相対リスク管理にもとずく検査体制にある。

だから、リスク度においては、多少の与件の違いはあるにせよ、BSEが発生したアメリカ・カナダのリスク度と、BSEフリーのオーストラリア・ニュージーランドのリスク度は、相対リスク管理の下では、その数値は対して変わらないものと思われる。

もし、アメリカに対して、全頭検査方式を条件にして、輸入再開を確約するのであれば、そもそもの原点にさかのぼって、同じことを、オーストラリア・ニュージーランドに対しても、これまでにBSEが発生したしないにかかわらず、検査方式を全頭方式にすることを条件にしての輸入としなければならなくなるわけだ。

逆に言えば、もし、オーストラリア・ニュージーランドに対して、現行の相対リスク管理方式にもとずく検査体制の見直しを要求しないのならば、これまでBSEが発生したしないにかかわらず、相対リスク管理の下での安全性が確認されれば、アメリカ・カナダに対しても、輸入再開を認めてもよいことになる。

そうでなければ、日本の消費者は、ダブルスタンダードどころか、トリプルスタンダードの元での、安全と称せられる牛肉を食さなければならないことになる。

以上の論点を整理すると、次のようになる。

1.全頭検査は、絶対リスク管理において、完璧である。したがって、全頭検査による日本の牛肉は安全である。

2.オーストラリア・ニュージーランド・アメリカの検査は、相対リスク管理であり、確率精度次第で、安全でもあり、安全でもない。

3.BSE発生後のアメリカの牛肉は、リスク確率が多少は高くなるもの、それだけで、安全でないとはいえず、依然として、安全であるとも、安全でないともいえる。

4.したがって、BSE発生後に、アメリカに全頭検査を実施させても、オーストラリア・ニュージーランドの牛肉が、安全でもあり、安全でもないという状況には、変わりない限り、日本の輸入肉全般が安全とも安全でないともいえない状況には変化がない。

5. このようにみれば全頭検査をアメリカに要求するのであれば、オーストラリア・ニュージーランドにも、全頭検査を要求しなければ、国産肉の安全性と輸入肉の安全性についてのダブルスタンダードに加え、さらに、輸入肉相互間における安全性についてのダブルスタンダード状態が発生する。

6.もし、オーストラリア・ニュージーランドに対しても、全頭検査を要求しないのであれば、アメリカに全頭検査を実施させても、日本の消費者に対して、輸入肉が、ひとつのスタンダードに基づいての安全性如何を保証することにならない。

7.したがって、行政のとるべき選択肢は、輸入牛肉全般に対するリスク管理を、これまでの相対リスク管理から、絶対リスク管理にあらためるのか、それとも、これまでの、国産肉と輸入肉のリスク管理のダブルスタンダードをそのまま継続するのか、の、選択になる。

その選択の中においては、アメリカの検査体制の問題は、その中のひとつの問題に過ぎなくなる。

以上に見たように、その辺のそもそもの前提がないがしろにされて、議論が進められているうちは、真の日本の消費者にとってのリスク管理とは何かという問題を軽視したまま、より複雑で、錯綜したリスク管理方式が横行したもとでの、食生活が営まれてしまうことになるのだが。

なお、相対リスク管理と絶対リスク管理については、サイトhttp://www.jaeri.go.jp/dresa/dresa/term/br000120.htmをご参照。
390
  

No Comments »

No comments yet.

RSS feed for comments on this post. | TrackBack URI

Leave a comment

XHTML ( You can use these tags): <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <code> <em> <i> <strike> <strong> .