Sasayama’s Weblog


2004/01/25 Sunday

LANCETの論説「おぼろげながら浮かび上がってきた、鳥インフルエンザの脅威」

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:38:20

  
2004年01月25日

THE LANCETの2004年1月24日付けの論説「Avian influenza:the threat looms」の全訳(仮訳)は次のとおり

WHOによれば、1月20日までに、ヴェトナムでH5N1の鳥インフルエンザによって死んだ人は、5人に及んだという。

そのおおくは、家禽からの伝染であり、人間からの伝染は今のところないもののようである。

日本・韓国でも同様にH5N1の鳥インフルエンザが発生している。

鳥インフルエンザは、Aタイプのインフルエンザ・ウイルスによって引き起こされ、多くの動物に感染する。

高病原性鳥インフルエンザは、H5とH7のサブタイプによって引き起こされる。

野生の鳥は、これらウイルスの自然の貯蔵庫であり、おそらくは、他の動物への感染の源である。

Aタイプインフルエンザは、高度に不安定である。

それは、抗原不連続変異(Antigenic Shift)と抗原連続変異(antigenic drift)があるためである。

1997年に18人の罹患者と6人の死者を出した香港型は、H5N1であった。

これは、H5N1のインフルエンザが、ダイレクトに人間に伝染した最初の例となった。

2003年には、二人の香港居住者が、中国から帰った後、インフルエンザにかかり、H5N1タイプのインフルエンザに進化して、一人が死んだ。

同じ年に、H7N7タイプのインフルエンザがオランダの養鶏場で発生し、一人の獣医が死んだ。

アジア諸国における家禽生体市場は,鳥インフルエンザの繁殖地である.

これらのいわゆるウエット・マーケット,すなわち生鮮市場は,これらの諸国における食文化に,しっかり根付いている。

鳥インフルエンザ発生に対する主な対応は,いま,ヴェトナムで行われているような,大淘汰(殺処分)である。

1997年の香港における鳥インフルエンザの大発生においては,百四十万羽の鳥と,他の家禽が淘汰(殺処分)された。

1999年の鳥インフルエンザの大発生においては,百二十五万羽が淘汰(殺処分)された。

地方における広範囲な人口集団にとって,これらの淘汰は,経済的にも健康的にも,大きな影響を与える。

食材資源を農家の家禽に大きく依存する諸国や共同体にとって,この大淘汰は,今後大きな重圧を与える。

農家経営者にとっては,財政的な補償措置が必要になってくるし,また,鳥肉に代替しうる食材資源を見つけることが必要になってくる。

今回鳥インフルエンザの汚染を受けた諸国は,世界でも貧しい部類にはいる国々であるため,補償措置と,鶏肉輸入については,国際的な援助機関による援助が考えられるべきである。

もし、H5N1インフルエンザが人と人の間で伝染し始めたら,人間の健康にとって,どうなるのであろうか?

このような大惨事は、これまで、起こってはいない。

しかし、世界の伝染病の専門家の間では、もっとも恐れられている事態の一つなのである。

1997年の香港でのH5N1インフルエンザ発生までは、H5N1は、人間に伝染するには、豚のような媒介物が必要であるとの見解が主流であった。

すなわち、豚の上気道と呼吸器の上皮細胞が、鳥と人間のシアル酸誘導体と共有することで、豚を介してのウィルスの鳥から人間への伝染が生じるとされてきた。

現在の専門家の最大のおそれというのは、H5N1のような菌株が、人のインフルエンザと交じり合って、人間に接触伝染しやすいものになってしまうことにある。

この菌株と関連する人インフルエンザが高い死亡率をもつことを考慮すれば、この世界的蔓延には、非常に恐るべきもの(massively frightening)があるのだ。

もし、H5N1インフルエンザが世界に蔓延した場合、種痘は,これに対応する選択肢に入ってこない。

伝統的なワクチンの作り方は、鶏胎児胚細胞培養法(Chick-Embryo)といわれるものである。

この方法は、ワクチン生産にいたるまでが遅く、また、受精卵の供給が限られている。

H5とH7のサブタイプのワクチンは、標準の方法では、作ることが出来ない。

なぜなら、鶏胎児胚細胞を急速に致死に至らしめるからである。

Plasmid reverse genetic 技術によれば、これら用のワクチンは作られうるが、これは、まだ、臨床実験の段階である。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12163268&dopt=Abstract
 参照

抗ウイルス薬は、高価で、効果がまだ十分ではない。

インフルエンザは、SARSよりも、接触伝染の可能性が高く、SARSと同じ隔離方策では、インフルエンザをコントロールすることは出来ない。

このように、高病原性鳥インフルエンザが人間に蔓延する可能性については、きわめて深刻にとらえられなければならない。

今回のヴェトナムでの蔓延に際しては、WHO、アメリカ疾病管理予防センター、国連FAOのチームが、迅速に、ヴェトナムに入った。

ここで、明らかになったことのひとつは、過去20年間に出現した人間にとっての新しい伝染病のすべては、動物に由来したものだと仮定すれば、それらの病気をコントロールする上では、獣医学と畜産学が、臨床医学同様に重要なものであるということだ。

財政的・資源的な配分が、それらの分野になされれば、動物の専門家は、それらの新しい伝染病の出現を見落とすことはないであろう。
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