Sasayama’s Weblog


2005/04/24 Sunday

人権擁護法案について、アムネスティの主張を考慮すべき時

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 10:57:06

 
2005/04/24

.
.
枝葉末節の議論から始まった人権擁護法案の不幸

人権擁護法案の取り扱いについて、与党が混乱している。
自民党人権問題等調査会(会長古賀誠氏)への一任取り付けをめぐって、自民党法務部会(部会長平沢勝栄氏)と自民党議連「真の人権擁護を考える懇談会」(会長平沼赳夫氏)が反対している。

こうして、改めて、人権擁護法案のこれまでの議論の過程をみてみると、人権擁護の大本を忘れた議論が続いてきたように、思える。

そもそも、法務省は、当初、平成十四年三月の通常国会に提出され、十五年秋の衆院解散に伴い廃案となった法案と同じ内容のまま再提出する方針であったのを、与党の「人権問題等に関する懇話会」が、前に反対の多かった「人権委員会の特別救済手続きの対象には報道機関による人権侵害も含まれる。」とした「メディア規制条項」を凍結し、凍結解除には別途法律を制定することや、一定期間が経過後に見直す条項を盛り込むことなどを条件にして、今国会に再提出したものである。

そして、その次には、「人権擁護委員の選考」について、「人権侵害の調査などを行う「人権擁護委員」は日本国籍を持つ者に限るとの「国籍条項」を盛り込むべし」との修正案が出てきた。

しかし、本来は、当初の議論としてすべきであったのは、「この人権擁護法案で、そもそも、擁護すべき人権とはなになのか?」ということについての疑義であったのだが、その疑義が出されたのが、つい先月にはいってのことであった。

3月10日、自民党の古川禎久氏が「人権侵害の定義があいまいで恣意(しい)的に運用される余地が大きいうえ、新設される人権委員会には令状なしの捜索など強制権がある。憲法の精神にのっとっているといえるのか」との疑義を提示した。

まさに、「遅すぎた卓見」といわざるを得ないが、この人権の定義についての疑義に対して、法務省は、「人権の定義は憲法の規定通りだ」と、答えたという。

これらの議論の推移を見て、私が感じるのは、 「これでは、議論の順序が、まるっきり違ってはいませんか?」というのが、率直な疑問点だ。

日本政府のダブルスタンダードの人権解釈

ここで改めて、この法案が守るべき「人権について定義」を見てみよう。

ここに、「人種」なる概念規定がある。

「「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。」と書いてある。

ちなみに、.「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」における人権の定義」(International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination)における「人種差別」の定義は、次のとおりである。
http://www.hri.org/docs/ICERD66.html参照

「この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。」

ここで注目すべきは、日本国憲法第14条における「門地」についての解釈と、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」における「世系」についての解釈について、日本政府の解釈が異なっていることである。

ちなみに、この日本国憲法における「門地」は、英語では、「family origin」となっており、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」における「世系」は、「descent」となっている。

日本政府の解釈として、「門地には、社会的差別が入るが、世系には、社会的差別は入らない」としている。

いわば、現在の政府の解釈では、憲法上の「門地」と、国際条約上の「世系」との、ダブルスタンダードの解釈の状態にあるということがいえる。

では、この「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」における人権と、日本国憲法14条規定の人権とのハザマにある人権というものを、日本政府は、どう解釈するのであろうか?

ここで、現在の日本国憲法の下敷きになったとされる「マッカーサー草案」(Draft of the Constitution of Japan. (MacArthur Draft)February 13, 1946)と、日本国憲法との人権の定義についての違いを見てみよう。

マッカーサー草案においては、第13条において「社会的身分、階級又ハ国籍起源ノ如何」(,social status, caste or national origin.)としてあるのに対して、日本国憲法においては、14条において、「社会的身分又は門地」( social status or family origin)としてある。

また、マッカーサー草案では、42条で「選挙人及国会議員候補者ノ資格」として「性別、人種、信条、皮膚色又ハ社会上ノ身分ニ因リ何等ノ差別ヲ為スヲ得ス」(no discrimination because of sex, race, creed, color or social status)としているのに対して、日本国憲法44条では、「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。」( no discrimination because of race, creed, sex, social status, family origin, education, property or income.)としている。

したがって、「門地」の含意するところは、マッカーサー草案における「 caste or national origin」であることは、明白であろう。

では、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」における「descent」を、日本政府は、なぜ、「門地」と読みかえずに、わざわざ、本来は中国の言葉である「世系」と、読み替えたのであろう。

つまりは、日本国憲法における「social status or family origin」は、マッカーサー憲法における「caste or national origin」とは連動しない、言い換えれば、「日本にはカースト制度に準じるものは存在しない」とのメッセージなのであろうか。

また、マッカーサー草案第13条において、その人権を守るべき対象は、、「一切の自然人」( all natural persons )が対象となっているのに対して、日本国憲法においては、14条においては、その人権を守るべき対象を「すべて国民」(All of the people )と限定している。

したがって、人権の定義についての疑義に対して、法務省が答えたという「人権の定義は憲法の規定通りだ」という発言は、片手落ちであるといえる。

国際的人権と国内的人権のハザマにある問題

この国際的人権と国内的人権のハザマにある問題として、たとえば、アメラジアンの問題がある。

私の一稿「アメラジアン問題を矮小化してはならない。−国籍法の見直しにまで踏み込んだ対応を−」http://www.sasayama.or.jp/diary/2002mar17.htm において、私は、二つの問題を提起した。

第一は、養育費請求に関する二国間協定締結の問題であり、第二は、国籍法改正時に国籍の定まらなかったものについての国籍取得問題である。

これらの宙ぶらりんの状態にある日本在住者たちの人権は、何によって、守られるのであろうか?
http://www.shikoku-np.co.jp/news/news.aspx?id=20050413000360参照

また、門地と世系の解釈の違いのハザマの問題として、「嫡出子・非嫡出子の相続上の平等問題」http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/souzokusabetu.htm がある。

この問題は、門地としてみるのか、それとも世系としてみるのか、微妙な問題である。

さらに、「日本における少数民族問題」ともいえる、アイヌ問題については、どうか?

先住民族に対する人権回復については、ウタリ福祉対策や 「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及 び啓発に関する法律(アイヌ文化振興法)」としてはあるが、これらには、先住民族の人権について直視した「アイヌ民族に関する法律」の精神は、織り込まれていない。

このようなネイティブな人権問題侵害に対しては、集団訴訟(クラスアクション)制度の創設によって、相当程度の人権侵害に対する対抗力を増加することができるはずだ。

このようにみてみると、国籍法の手直しや、民法の解釈、先住民族新法の可能性を、一切頬かぶりしたまま、また、国際条約と日本憲法との解釈の行き違いをそのままにしたまま、いたずらに、人権侵害規制の強化をめざした「人権警察」的体制を強化することには、いろいろな面で危惧が生じてこざるを得ない。

アムネスティーは、日本の人権擁護法案に対してどう考えているのか?

今回の人権擁護法案においては、本来、国家から独立してあるべき「人権委員会」が法務省の外局に置かれることになっている。

また、新設される人権委員会は、全国の地方法務局に事務所を置く。

さらに各地方で、人権侵害の相談や調査、情報収集を行う人権擁護委員(二万人以内)を委嘱する。

人権擁護委員は、市町村長が弁護士会などの意見を聞いたうえで、人権擁護団体などから候補者を推薦することになる。

また、人権委員会は、人権侵害の「特別救済手続き」として、関係者への出頭要請と事情聴取、関係資料などの「留め置き」、関連個所への立ち入り検査といった権限をもつ。

この際、令状は必要なく、拒否すれば罰則規定も定められている。

委員会が人権侵害と認めた場合は、勧告・公表をおこなう。

この人権委員会の活動に対しては、国際人権擁護組織であるアムネスティーといえども、立ち入ることができない。

この日本の人権擁護法案について、アムネスティーは、前回の廃案前の段階で、次のようなコメントを出している。
http://www.incl.ne.jp/ktrs/aijapan/2002/021102.htm 参照

「公権力による人権侵害は、他の私人間における人権侵害とその構造が根本的に異なる。これを同列に扱うことは、自由権規約委員会からの指摘を無視しているだけでなく、国内人権機関が当局の権力の濫用を防止することを主たる目的として考案された制度であることを全く考慮していない」

つまりは、このアムネスティの見解の意味するところは、「公権力といえども、指弾される立場にありうる。」がゆえに、「人権委員会なるものが、法務省の外局にあって、しかも、それが、乱用されかねない強力な権限を有している。」ということへの懸念なのであろう。

このような見てくると、つまりは、この人権擁護法案なるものは、当初から枝葉末節の議論に振り回されて、擁護すべき人権が不明確のままに、いたずらに、「人権警察」を、アムネスティの及ばぬところで強化するものに過ぎないものと、私には、思えてくるのだ。

参考
1.マッカーサー草案における人権の定義
http://home.c07.itscom.net/sampei/macken/macken.html

原文

article xiii.
all natural persons are equal before the law. no discrimination shall be authorized or tolerated in political, economic or social relations on account of race, creed, sex, social status, caste or national origin.
no patent of nobility shall from this time forth embody within itself any national or civic power of government.
no rights of peerage except those of the imperial dynasty shall extend beyond the lives of those now in being.
no special privilege shall accompany any award of honor, decoration or other distinction; nor shall any such award be valid beyond the lifetime of the individual who now holds or hereafter may receive it.

日本語訳
第十三条

一切ノ自然人ハ法律上平等ナリ政治的、経済的又ハ社会的関係ニ於テ人種、信条、性別、社会的身分、階級又ハ国籍起源ノ如何ニ依リ如何ナル差別的待遇モ許容又ハ黙認セラルルコト無カルヘシ
爾今以後何人モ貴族タルノ故ヲ以テ国又ハ地方ノ如何ナル政治的権力ヲモ有スルコト無カルヘシ
皇族ヲ除クノ外貴族ノ権利ハ現存ノ者ノ生存中ヲ限リ之ヲ廃止ス栄誉、勲章又ハ其ノ他ノ優遇ノ授與ニハ何等ノ特権モ附随セサルヘシ又右ノ授與ハ現ニ之ヲ有スル又ハ将来之ヲ受クル個人ノ生存中ヲ限リ其ノ効力ヲ失フヘシ

42条
「選挙人及国会議員候補者ノ資格」として「性別、人種、信条、皮膚色又ハ社会上ノ身分ニ因リ何等ノ差別ヲ為スヲ得ス」(no discrimination because of sex, race, creed, color or social status)

2.日本国憲法における人権の定義
http://home.c07.itscom.net/sampei/kenpo/nihongo.html参照

憲法第十四条
「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」

憲法44条
「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。」( no discrimination because of race, creed, sex, social status, family origin, education, property or income.)

3.「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」(International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination)における人権の定義
http://www.hri.org/docs/ICERD66.html参照
「この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。」
In this Convention, the term “racial discrimination” shall mean any distinction, exclusion, restriction or preference based on race, colour, descent, or national or ethnic origin which has the purpose or effect of nullifying or impairing the recognition, enjoyment or exercise, on an equal footing, of human rights and fundamental freedoms in the political, economic, social, cultural or any other field of public life.

4.、英語の辞書による、さまざまな差別の概念

* 年齢差別 agism* 同性愛に対する差別 heterosexism * 身体身障者差別 disablism* エイズによる差別 AIDS-related discrimination* 遺伝子(による)差別 genetics discrimination* 言語差別 linguistic discrimination* 妊婦による差別pregnancy discrimination* 婚姻関係による差別 discrimination based on marital status * 出身国による差別national origin discrimination * 喫煙者差別smokeism * 顔による差別 faceism

5.人権擁護法案についてのアムネスティの主張
http://www.incl.ne.jp/ktrs/aijapan/2002/021102.htm

6.人権擁護法案
http://www.moj.go.jp/HOUAN/JINKENYOUGO/refer02.html

以上

向中国语的翻译,使用这 ⇒http://translate.livedoor.com/chinese/

nullTranslate
HOME-オピニオン-提言-情報解説-発言-プロフィール-図書館-掲示板266

No Comments

No comments yet.

RSS feed for comments on this post. | TrackBack URI

Sorry, the comment form is closed at this time.