2009/11/19(Thu)
「野田佳彦財務副大臣は19日の記者会見で、マニフェスト(政権公約)の関連予算圧縮で焦点となっている農家への戸別所得補償制度について「本来は(自給率向上を目指す)麦や大豆の方が順番は先だ」と述べ、コメの先行実施を目指す農水省に再考を促す考えを表明した。
麦や大豆の方が予算措置が少なく済むとみられている。」
という記事なのだが、ここには、大きな問題がひとつあって、これまでの地域提案対応型の「産地づくり交付金」の流れ(市町村単位に「地域水田農業推進協議会」設置→「水田農業ビジョン」策定→水田農業交付金運営協会から交付金交付)が、一変してしまい、水田利活用自給力向上事業では、全国一律単価の交付となり、地域での戦略作物へのインセンティブが働かなくなってしまう、という一大重要欠陥が露呈してしまうのだ。
農業関係者の中には、「せっかく、5年前の米政策改革で、単価の設定を地域関係者が戦略的に、自らできるようにしたのに、助成単価の設定に関する地域の裁量権を取り上げ、再び、国に返上させるつもりなのか。」などといきまく筋もあるようだ。
たとえば、ある産地での現在の産地作り交付金の単価は、下記のようになっている。
転作作付10アールあたり助成金額
麦・大麦15000円、
花卉11000円、
果樹6000円、
一般野菜6000円、
景観形成11000円、
飼料作物[産地づくり交付金22000円+新受給調整システム定着交付金16000円])
これが、水田利活用自給力向上事業では、全国一律となってしまうことで、現在、これらの産地では、ようやく定着化したこれら事業の再構築を迫られている、という有様のようである。
水田利活用自給力向上事業では、下記のとおりとなっている
麦、大豆、飼料作物 35000円
新規需要米80000円
そば、菜種、加工用米20000円
その他作物−地域で設定可能 10000円
まだ、単価は、最終決定されていない様だが、生産制限を設けていないという要件からすれば、上記の単価でいけるはずはなく、上記単価をかなり下回ることになるだろう。
このジレンマは、そもそも、新政権の水田利活用自給力向上事業が、品目横断的でもなく、生産制限的でもない、という、性格をもっているがための宿命とも言える。
すなわち、石破茂前農林水産大臣の『米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向』構想にもとずく「減反選択制プラス直接支払い」というスキームから、水田利活用自給力向上事業が逸脱できていないということでもある。
直接支払いという名前がついてはいるものの、それは、ただ、「奨励金的な支払いの形態が生産者へ直に支払われる』というのみの意味のようで、WTO農業協定に定められた直接支払いの定義である「品目横断的であり、生産抑制的であり、生産価格に対しても販売価格に対してもニュートラルな直接支払い」の概念とは、著しく乖離した『イミテーション・直接支払い』のスキームである。
(赤松国務大臣の答弁
これは非常にわかりやすく申し上げると、戸別所得補償ですから、戸別に直接お金を支払いますよ、交付金を払いますよと。もっと極端に言えば、国の機関であります農政局から、農業者の、これは農協に口座があるかもしれません、郵便局かもしれません、そこに直接支払いますよ、振り込みをしますよということなんです。
今まではいろいろな団体を通じて払っていましたが、私どもの言っている戸別というのはそういう意味なんです。直接支払いますよ、そういうことなんです。ぜひそういうことで御理解いただきたい。)(www)(まあ、赤松大臣には、大変失礼なのだが、この程度のご認識のようである。嘆かわしい。)
ここいらで、民主党政権の皆さんは、『直接支払い』の真の意味を再確認され、スキームの再構築にあたられたらよろしいのではなかろうか。
水田利活用自給力向上事業が減反選択制スキームの派生物である以上、この野田財務副大臣のいわれるような、コメ問題と転作作物問題とのスキームのツイン切り離し構想はなかなかむずかしく、こっちが決まらなければ、あっちも決められない、といったトートロジーの輪廻に、農林水産省は悩まされることになるのだろう。
ラドヤード・キップリング(Rudyard Kipling)の「東と西のバラード」(“The Ballad of East and West” 1892)になぞらえて言えば、
「ああ、コメはコメ、転作作物は転作作物、この二つが交わることは決してない。
大地と空が神の審判の前に立つ最後のときまで。
しかし、たがいに地の果てから来ようとも、二人の勇者が向かうときには、 コメもなく転作作物もなく、国境もなく、民族や生まれの違いもない!」
(Oh, East is East, and West is West, and never the twain shall meet,Till Earth and Sky stand presently at God’s great Judgment Seat;
But there is neither East nor West, Border, nor Breed, nor Birth,
When two strong men stand face to face, tho’ they come from the ends of the earth!)
まさに、日本においては、麦、大豆、コメは、シャムの三兄弟なのである。
お知らせ:
日本からシカゴのオプション売買ができるためのマニュアル 「シカゴ・オプション売買戦略マニュアル」 (A4版297ページ、5,900円、CD-ROM版は4,800円) をこのたび書き上げ、発刊しました。 内容・目次のご確認やお求めについては、こちらをクリックしてください。 お徳用なダウンロード版-電子書籍PDFファイル(297ページ、3,980円)ご希望の場合は、こちらをクリック してください。 |
---|