Sasayama’s Weblog


2009/11/14 Saturday

システマティックでない事業仕分けの横暴性

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 10:34:17

2009年11月14日
 
null連日報道される民主党政権下での事業仕分けの光景であるが、テレビの画面を意識しすぎてのことなのか、類型的な質問ばかり目立つ。

「関係法人には、天下りの方は何人いらっしゃいますか?」などという質問だ。

池田信夫さんのブログ記事「事業仕分けという人民裁判」に、「ソフトウェアの設計を決めないでデバッグをやるようなもので、問題点を論理的に洗い出せないので、多数決でバグを決めるという乱暴な結果になる。」とあるが、まさに言いえている。

池田さんのブログの別の記事には、あるかたの言として、次のような発言も記載されている。

「何が無駄かという基準がなければ、無駄をなくすことはできない。その基準を決める国家戦略室が開店休業状態なのに、誰がどういう基準で無駄と判断するのか。これはコンピュータでいえば、設計が決まってないのにデバッグをやるようなものだ」

まさに至言である。

GHQ占領下よりもひどい、まさに、狂気の事業仕分けの横暴性が、そこからは見えてくる。

陶片追放的事業仕分けともいえるだろう。

もっとシステマティックな事業仕分け方法があるのでは?と、つくづく思う。

つまり、仕分けの前の下ごしらえがまるでできていないようなのだ。

私なら、最初から公開・平場での議論にかける前に、次のような下ごしらえをしておくだろう。

まず、民間仕分け人を含めて、二日間程度かけて、仕分け人内で、ブレーン・ストーミングを行う。

自分なら、どのような視点から質問するか、などというようなことを、一人15分程度しゃべらせてみる。

1WGあたり5時間だ。

これをWG毎にやって持ち寄ればいい。

いくつか出てきた視点を集めれば、そんなにユニークな一家言を持った仕分け人もいなさそうなので、おおむね、30程度の類型に収まるだろう。

それをスコアリングの手法によって、ウェイト付けをしていく。

「天下りの問題はキーポイントなので、100点満点のうちの20点を与える」などのウェイト付けをし、それをさらに、その項目内において、その程度によって5ランク程度にスコアリングしていく。

つまり、
「天下りが一人もいなければ満額20点、一人いればマイナス5点、理事長が天下りであれば、2.5人分カウントでマイナス12.5点」
などといった具合にである。、

これらのスコアリング項目は、仕分けの事前に、各省庁に提出し、記入してもらう。

これらの集計によって、スコアリングの順位は、大方固まるであろうから、その順序によって、定性的な視点ての、仮のふるいはかけられうる。

これは、定性的な課題を、スコアリングというコンバーターにかけて、定量化する過程でもある。

事業仕分けの当日は、これらのスコアリング項目にあった項目については質問しないのだから、時間は、大幅に節約できる。

つまり、定性的な質問は、事前のスコアリングに任せることができる。

スコアリングで出た一応の仕分けは、救急医療でのトリアージのようなもので、「青タッグ>緑タッグ>黄タッグ>赤タッグ>黒タッグ」ごとに、一応の層別対応ができる。

このような作業は、金融機関の審査部門にいた方なら、誰でも、思いつくことだ。

つまり、二重審査の手順でもある。

個別企業への融資には、その個別企業自体のバランス(資金繰り、貸借対照表分析)の審査と同時に、その属する業界についての審査も、金融機関によっては、個別企業の審査とは別の部門で行われる。

まあ、いって見れば、個別企業の審査がテクニカル分析であるとすれば、後者の業界審査は、ファンダメンタルズ分析であるともいえる。

私が金融機関在職当時、その二重審査で有名だったのは、当時の住友銀行の審査であった。

もっとも、その後の住友銀行の融資先の帰趨を見ると、果たして、その評価はどうだったのか、疑問に思う点はあるにせよ、当時の住友銀行の二重審査は、他の銀行の審査部門からは、一目をおかれるものであった。

この事業仕分けでも、同じようなことがいえる。

インターネット中継で見る限り、相当のロスの議論が、行きつ戻りつしている。

これらのロスは、上記のスコアリング手法によって、大幅に削減できる。

それと、問題なのは、『市民の感覚』というものへの信頼性についての疑念である。

予算は、究極には、インセンティブがあり、そのインセンティブの『機序』がはたらいての効果がある。

これらの事業仕分けに見る『市民の感覚』には、当然といえば当然であるが、その『機序』を見通した指摘は少なかったし、何よりも、代替案の提示をあげえる仕分け人は、皆無といってよかった。

事業仕分けを別の見方からとらえると、『もし、その予算なかりせば』発生したであろう機会費用についての類推測定の場でもありうる。

いわば、「予算の機序のミチゲーション」を判断する場でもある。

ミチゲーション的な考え方における事業仕分けとは、次のようになりうるだろう。

第一段階
「この予算を削除したい。」
→「削除できる」という選択と「削除できない」という選択
→「削除できる」なら第一段階で予算削除。「削除できない」ならば、第二段階へ移行。

第二段階
「第一段階で削除できないとして、この予算を最小化したい。」
→「最小化できる」という選択と、「最小化できない」という選択。
→「最小化できる」できるならば、第二段階で、予算縮小。「最小化できない」ならば、第三段階へ移行。

第三段階
「第二段階で最小化できないとして、この予算措置に代わる効果をもつ、代替案を提示したい。」
→「代替案がないならば、事業廃止」「代替案があれば、その代替案で、実質的に事業継続」

というスキームになるだろう。

再び、トリアージの例を持ち出せば、「青タッグ>緑タッグ>黄タッグ>赤タッグ>黒タッグ」ごとに、『回避・縮小・代替』の対応の仕分けができるというわけである。

まあ、拙速の政策スキームばかり目立つ民主党政権だが、前から私が、「マニフェスト・オブ・マニフェストが必要」などでいっているように、この政権には、まず、「マニフェスト・オブ・マニフェスト」の観点からの見直しが必要に思える。

これこそが、究極の「事業仕分け・オブ・事業仕分け」といえる。

たとえば、マニフェストの主要な位置を占める農業者戸別所得補償方式は、私のブログ記事「「水稲共済」の加入者が戸別所得補償の対象者というのだが、ちょっと、理論的におかしいですね。」にも書いたように、水稲の災害補償である農業災害補償制度と米の所得補償である戸別所得補償制度との、二重の国家によるセーフティーネットがかかることになるのだから、戸別所得補償方式の導入に当たっては、同時に、農業災害補償制度における掛け金二分の一の国庫負担が適切なのかどうなのか、についての再検討も必要になるというわけである。

昨日の地方交付税改革問題にような、制度論をこの平場での議論にゆだねることは、際物狙いの逃げに過ぎない。

それ以前の、マニフェスト・オブ・マニフェストの段階でこなしておくべき課題である。

そうでないと、都合のいいときだけ、『国民のために』のキーワードを振りかざした、人民裁判や極東裁判に匹敵するマニフェスト裁判が、これからも横行していくことになるのだろう。

農道整備事業予算を切られた地元の声の中には、事業を「単独事業としての歴史的な意義は終わっている」としてばっさり切った議員仕分け人の実家の家業が地元の土建業者であることから、「家業のほうでは、さんざ、これまで、農道工事(広域営農団地農道整備事業「雄*東*地区」(雄平フルーツライン)なんかのこといってるのかな?)で飯を食ってきたくせに」などと、くちさがなくも、あらぬ恨み節を言う筋もあるようだ。

まさに、狂気が狂気を増幅させている、といった構図のようである。

いわば、狂気のマニフェストの執行から国民が逃れうるブレーカーが、いま、必要というわけである。

それにしても、昨日の事業仕分け会場に登場された原口総務大臣の思惑は何だったのだろう?

『ただいま、原口大臣のご登場です』などと叫ぶ議員仕分け人の浅はかさも、嫌になるが、こんなかたちで、無言のカリスマ性をしめそう、などという、原口大臣の児戯っぽい、見え透いた下種の魂胆にも嫌になってしまう。

ボトムアップの段階には、大臣は、出る幕ではないのである。

参考1.トリアージでの層別システム一覧

最初は、左上の『歩けるか』『歩けないか』から始まって、『No』であれば『自分で腕や足が動かせるか』にいたり、『No』であれば『呼吸はどうか」にいたり、『通常よりも、早いか遅い』であれば、『患者は、現在以上の医療資源を必要とするか』にいたり、『No』であれば『黒タッグ』—といった具合にして、アミダくじ風にして、一番下の色分類に至る。
色の意味は、各国によって異なります。ご参照「Triage」

null.

参考2.
行政刷新会議ワーキンググループ(WG)評価者名簿

民間有識者

【第1WG】
青木宗明 神奈川大学経営学部教授
安念潤司 中央大学法科大学院教授
井澤幸雄 小田原市職員
石渡秀朗 三浦市職員
石渡進介 弁護士(ヴァスコ・ダ・ガマ法律会計事務所)
内田勝也 情報セキュリティ大学院大学教授兼横浜市CIO補佐監
翁百合 (株)日本総合研究所理事
奥真美 首都大学東京都市教養学部都市政策コース教授
川本裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
田近栄治 一橋大学大学院経済学研究科教授、理事・副学長
辻琢也 一橋大学大学院法学研究科教授
富田俊基 中央大学法学部教授
新倉聡 横須賀市職員
ロバート・アラン・フェルドマン モルガン・スタンレー証券(株)経済調査部長
福嶋浩彦 中央学院大学教授/前我孫子市長
政野淳子 環境行政改革フォーラム幹事

【第2WG】
飯田哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長
石弘光 放送大学学長
市川眞一 クレディ・スイス証券(株)チーフ・マーケット・ストラテジスト
長隆東 日本税理士法人代表社員
海東英和 前高島市長
梶川融 太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員
木下敏之 前佐賀市長/木下敏之行政経営研究所代表
熊谷哲 京都府議会議員
河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト
小瀬村寿美子 厚木市職員
露木幹也 小田原市職員
土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授
中里実 東京大学大学院法学政治学研究科教授
福井秀夫 政策研究大学院大学教授
船曳鴻紅 (株)東京デザインセンター代表取締役社長
松本悟 一橋大学大学院社会学研究科教員
丸山康幸 フェニックス・シーガイア・リゾート取締役会長
村藤功 九州大学ビジネススクール専攻長
森田朗 東京大学公共政策大学院教授
吉田あつし 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授
和田浩子 Office WaDa代表

【第3WG】
赤井伸郎 大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授
荒井英明 厚木市職員
小幡純子 上智大学法科大学院長
金田康正 東京大学大学院教授
伊永隆史 首都大学東京教授
高田創 みずほ証券金融市場調査部長チーフストラテジスト
高橋進 (株)日本総合研究所副理事長
中村桂子 JT生命誌研究館館長
永久寿夫 PHP総合研究所常務取締役
西寺雅也 山梨学院大学法学部政治行政学科教授
原田泰 (株)大和総研常務理事チーフエコノミスト
速水亨 速水林業代表
藤原和博 東京学芸大学客員教授/大阪府知事特別顧問
星野朝子 日産自動車(株) 執行役員市場情報室長
松井孝典 東京大学名誉教授
南学 横浜市立大学エクステンションセンター長
山内敬 前高島市副市長/高島一徹堂顧問
吉田誠 三菱商事(株) 生活産業グループ次世代事業開発ユニット農業・地域対応チームシニアアドバイザー
渡辺和幸 経営コンサルタント/(株)水族館文庫代表取締役

国会議員
【全WG】
枝野幸男 衆議院議員
【第1WG】
津川祥吾 衆議院議員
寺田学 衆議院議員
【第2WG】
菊田真紀子 衆議院議員
尾立源幸 参議院議員
【第3WG】
田嶋要 衆議院議員
蓮舫 参議院議員

副大臣・政務官
【全WG】
泉健太 内閣府大臣政務官
大串博志 財務大臣政務官

 

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