Sasayama’s Weblog


2009/09/08 Tuesday

日本の食料自給率まやかし説問題の根源は、飼料自給率にあり、ということでしょうかね?

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 10:56:50

2009/09/08(Tue)
 
農外経済評論家たちが、今、問題にしている日本の食料自給率のまやかし性如何については、いずれも、突っ込み不足で、要は、日本の農林水産省が、各国比較で出しているカロリーベースの自給率(供給熱量総合自給率)についての畜産物についての補正「畜産物に、それぞれの飼料自給率をかける」について、では、各国について、どのような数値をもってくるか、についてが、明らかでない、ということなんでしょうね。

農林水産省の各国についての試算は、FAOの FOOD BALANCE SHEETS によっていることはあきらかなのだが、では、畜産物への乗数となる飼料自給率は、どのように算出されたのか、が、あきらかでないのだ。
高地価での市民農園は、「食糧自給農園」?」
のサイトの一番下をご参照

飼料自給率は、さらに、粗飼料自給率と濃厚飼料自給率に分けられうる。

この中のウエイト付けでは、ほとんど、濃厚飼料自給率の向上がなければなんともならない、というのが実情だが、この数値を左右するのは、穀物価格の急騰による輸入配合飼料価格の急上昇しかない。

つまり、飼料の輸入価格が高騰すれば、国内濃厚飼料自給率が向上するというより、やむを得ざる粗飼料自給率が上昇する、という関係のようだ。

ここでは、「国内濃厚飼料⇔輸入濃厚飼料」という相補代替関係が存在していると同時に、「輸入濃厚飼料⇔国内粗飼料」という相補代替関係が、重複して存在している、ということを表しています。

その意味では、低コストで安定供給が可能な国産濃厚飼料資源の開発が急務なのですが、国産とうもろこしの穂を使った濃厚飼料の開発などの事例は見られるが、全体的に、あまり、ぱっとしていないのが現状のようです。

1970年と2007年との比較では、
飼料自給率 34パーセント→25パーセント
粗飼料自給率 100パーセント→78パーセント
濃厚飼料自給率 14パーセント→10パーセント
となっている。

参考「飼料の自給率の向上に関する事項1飼料需要見込量 ( 目標年度 )」

といっても、飼料自給率の算出というのは、「日本で産出される飲める水がいくらあって、いくらを輸入しなければならないか」という問いをするようなもので、おのずと、コストパフォーマンスによる基準で仕切らないと、無為な数値を追っかけるだけのものになってしまいますね。

下記の参考にもあげましたように、各国比較の原典となるFAO統計自体の限界という問題が、そこに大きくありますね。

そりゃ、コストかけて、沼の泥水をこせば、世界中どこの旱魃常襲国でも、水の自給度は無限に100パーセントに近くなるのと同じように、家畜飼料の自給飼料だって、コストと手間をかければ、無限に自給率は上昇しうるけど、それではパフォーマンスのほうが、なんとも、といったことになりますね。

第一、ヨーロッパなどの伝統ある蹄耕法(今では羊の蹄のかわりに、sheeps-foot roller といわれ、蹄の形の突起を一杯つけたローラーもあるようですね。日本人が蹄耕法を英訳したのだと”Hoof-Cultivation”なんて書いていますが、普通は、この言葉、日本以外では、あんまり使われていないみたいです。)での農法と日本の農法とでは、飼料自給率の概念自体、違ってしまうんだし、アメリカのフィード・ロットとも、違ってしまうんだし、それをおんなじ土俵で比較したって、何の意味があるんでしょうかね。

その各国違う農業風土や農法の元における飼料自給率なるものを補正係数として、かけて、カロリーベースの自給率(供給熱量総合自給率)を各国比較すること自体、あほらしいといえば、あほらしいのですが—

つまり、飼料自給率は、大きく、その風土の持つ農法に左右される、ということなのでしょうね。

日本で戦後の一時期ブームになった山地酪農(私の周辺でもそれのマニアがいましたっけ)なんてのが一般化すれば、いやでも、飼料自給率は上がるんでしょうし。

(今でも、山地酪農に固執してがんばっている方も、全国、天然記念物的に見られますが、そのご努力に敬意を表します。)

それと、現在の飼料自給率は、下記参考のFAOの見解に見るとおり、「the supply-utilization-accounts (SUAs)」の手法による推計に頼らざる面が多いという、一定の限界を持った数値であることへの認識が、足りないようにみえますね。

いわば、多くの推定手法に彩られた飼料自給率によって、畜産物のカロリー自給率が補正されている結果が、多くの皆さんが金科玉条にしているカロリーベースの自給率(供給熱量総合自給率)ということなのですね。

いかかです? 大蔵省出身の野口悠紀雄先生?
お分かりでしたでしょうか?

参考
1.FAOの飼料自給率に関する見解

「FAO 2. DATA USED AND METHODOLOGY」より

概訳
異なった商品における飼料の使用に関するヒストリカルなデータは、摂食量のデータよりも、信頼性に乏しい。
一般に、飼料の使用に関する情報は、直接的には、使用することができず、SUAs(供給・利用勘定)から類推するしかない。
まして、飼料の需要に関して予測することはなお困難である。
Alexandratos(1995)は、次のような簡単なアプローチ方法を生み出した。
すなわち、発展途上国においては、牛肉、羊肉、牛乳の生産のおおくは、非穀物飼料からなっており、一方、豚、養鶏は、穀物飼料からなっている、という事実をベースにした推計方法である。
そこで。飼料の割合は、牛肉と羊肉とで、0.3.牛乳で0.1.豚肉と養鶏と卵で、1.0の飼料使用割合であると計算した。
穀物飼料については次のような三つのシナリオが描かれた。
そのうちの中間のシナリオでは、飼料の通貨交換比率は一定であること、このことはヒストリカル・データでも、このことは実証された。
したがって、これをベースに将来の飼料需要見通しを、穀物、でんぷん、油脂作物について計算した。
他の飼料作物についてみると、家畜のえさとしての使用は、その地域におけるそれらの作物の食物としての使用比率に比例するとみなされた。
穀物飼料については、さらに二つのシナリオが生み出された。そのシナリオとは、必要とされる作物の飼料としての使用についての不確実性とバリエーションについてのものである。
このシナリオについては、チャプター4で議論されている。

Feed demand
Historical data on the feed use of the different commodities are much less reliable than those for food consumption. Generally, information on feed use is not directly available, but is inferred from the supply-utilization-accounts (SUAs). It is even more difficult to make projections of feed demand. Alexandratos (1995) gives a very simple approach based on the fact that in developing countries much of the beef, mutton and milk production comes from non-grainfed animals, while pigs and poultry are mainly from grainfed production systems. The feed intensity weighted livestock production (referred to as Livestock Production, L.P.), calculated as 0.3 (beef + mutton production) + 0.1 (milk production) + 1.0 (pork + poultry + egg production) was used for individual countries by Alexandratos (1995).

Three scenarios of cereal feed use have been developed. The medium scenario is based on the assumption that the feed conversion rates are constant, i.e., that a 1% increase in L.I. leads to a 1 % increase in feed demand. For the aggregated data this assumption proved to reproduce the historical data reasonably well, and was therefore also used to calculate the future feed requirements for cereals, starchy foods and oil crops. For the other products the use as animal feed was assumed to be proportional to the food demand of the particular commodity in that region. For cereal feed use two other scenarios were developed to illustrate the uncertainty and the effect of variation of the feed use for the crop areas required. Chapter 4 discusses the scenarios of feed intensity.

参考「World agriculture: Towards 2010 : (an FAO study) edited by Nikos Alexandratos FAO and John Wiley & Sons, (1995)」

2.「SUAs(供給・利用勘定)」の推計手法の概念

Concepts and Definitions of Supply Utilization  Accounts(SUAs)」

THE PREPARATION OF SUPPLY/UTILIZATION ACCOUNTS (SUAs)」

WORKSHOP ON SUPPLY UTILIZATION ACCOUNTS AND FOOD BALANCE SHEETS

3.「SUAs(供給・利用勘定)」の推計手法による各国の穀物に関する飼料自給率の比較一覧

Domestic Cereal Supply: Food, Feed, Waste

4.FAO統計手法の限界について−アフリカを例にして-

DATA QUALITY AS LIMITING FACTOR IN THE MEASURING AND ANALYSIS OF FOOD SUPPLIES - FAO’S AFRICA EXPERIENCE

5.農外サイドからの食料自給率批判

「「食料自給率40%」の虚構さえ見抜けぬマスメディアの不勉強

「食糧自給率」の向上は食糧危機を悪化させる

食料自給率という幻想

田原総一朗のタブーに挑戦!

【伊藤哲夫】食糧自給率、農政問題を考える

食糧自給率異論。

食料自給率を考える

文藝春秋:「農水省 食料自給率のインチキ」(浅川芳裕)

 

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