Sasayama’s Weblog


2009/08/30 Sunday

意外と重要な合意への一里塚になりそうな、9月のWTO非公式閣僚会合

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 15:01:25

2009年8月30日
 
nullWTOの37カ国非公式閣僚会合が、9月3−4日に、インドのニューデリーで開かれるが、その中身なり意義が徐々に明らかになりつつある。

日本は、総選挙直後ということで、政権交代があるにせよ、閣僚の出席が困難な情勢のようではあるが、意外に、「鬼の居ぬ間」に、今後の年末にジュネーブで開かれる公式閣僚会合へのロードマップが決まってしまう状況のようだ。

重要品目を抱える日本としては、それこそ、這ってでも出席しておかないと、あとで、「9月のとき、何もいわなかったじゃないの」と一蹴されかねない状況なのだ。
(9月1日付記-二階俊博経済産業相も石破茂農相も、出席しないことになったようだ。農林水産省からは山田修路農林水産審議官が出席ということになったようだ。OECD参事官の経験があるとはいえ、この7月にかわったばかりのかたである。これではいけませんね。なぜ、事務次官でもいかなかったのか?これで、合意までのロードマップが決まりかねないんですから。経済産業省からは、石毛博行経済産業審議官が出席とのことである。)

つまり、モダリティの段階をスキップして、加盟国個々のコミットメントをWTOに通告させるという、新しい合意形成のためのアプローチ手法が、このインドでの非公式会合で取られる公算が強くなっているからだ。

これは、加盟各国が、何に関心を持っているかを明らかにさせるための「婉曲語法」(euphemism)であるといわれている。

この状況の変化には、二つほどの要因があるようだ。

ひとつは、今朝の朝日新聞にも書いてあるように、今回の非公式会合開催地のインドが、前回、2008年7月にアメリカと対立しすぎ、ドーハ合意の茶舞台をひっくり返してしまったことへの、開催地としての贖罪意識があるのではないのか、ということ。
もうひとつは、これは、やや、うがち過ぎた見方なのだが、現在、インドがオーストラリアとのFTA締結に至る前のフィージビリティ・スタディの段階に入っており、その中で、オーストラリアの配慮で、インドがWTOの場で神経質になっている重要品目・関心品目について、オーストラリアが、例外品目として骨抜きをしてくれていることについて、気をよくしている。との説があるようだ。

「インドは、今回、どちらにつくかのリトマス試験紙にさらされている」などの揶揄もあるようだ。

さらに、オーストラリアは、アメリカが恐れている国内農産物価格支持政策の総量規制問題(OTDS=Overall Trade-distorting Domestic Support、貿易歪曲的国内支持全体金額)についても寡黙を貫くことで、アメリカに便乗したフリーライド(ただ乗り)を狙っているのではないのか、との疑心暗鬼も、流れているようだ。

ケアンズグループ特有の蝙蝠的ずるさが、遺憾なく発揮されているようだ。

まあ、後段の話は、ちょっとうがちすぎているとしても、100カ国からなる「レインボー同盟」 (rainbow coalition)(異なるグループの連帯)の中心たるインドが、これまでとは、非常に異なる軟化の姿勢を示しているところから、にわかに、ドーハラウンドの年内妥結、または、2010年の春妥結かの見通しが強まってきているとの感触を、関係者は持ちつつあるようだ。

そこで、なぜ、今回のインドで開かれる非公式閣僚会合が重要になるかといえば、今回の会合においては、中身の話はせずに、今後の妥結に至るロードマップを確認しあうことのみとなりそうなのだが、その前提として、参加各国に対して、その国にとってのファスト・トラック(最優先関心課題)とすべき、重要品目が何であり、関心事が何であるかを、明らかにすることを要求し、それを前提・言質にして、年末のジュネーブ会議に臨む、という合意ができつつあるからなのだ。

その意味で、今回の会合は、再び、新たに生み出す( re-invent)ものは、なにもなく、再び、合意形成に向けての動きを活性化させる(re-energise )ためのものであると、関係者は言う。

また、今回提示されるであろう合意までのロードマップは、来月9月24−25日にアメリカ・ピッツバーグで開かれるG20会議へ向けたメッセージともなりうるものであるとされている。

もし、日本からの閣僚が、この9月の非公式会合に出席しないならば、重要品目などについての日本としてのファスト・トラック(最優先関心課題)宣言ができないばかりではなく、年末の公式閣僚会議での日本の存在感を、著しく薄いものとしてしまう懸念すらある。

参考

これまでのドーハラウンドの経緯

2001年11月 
カタールでの会合、2005年1月をゴールとすることで合意
2003年3月 
農産物関税問題、国内価格支持問題、輸出奨励金問題などで締切期限までに合意に至らず。
2003年9月
発展途上国でG20結成
2004年1月
アメリカ通商代表部のぜーリック氏が、交渉再開に向けた会合開催を提案
2004年7月
ジュネーブで、ラウンド決着のためのフレームワークについて、合意
2005年1月
ラウンド決着失敗
2005年12月
香港で、第五回閣僚会議開催。
2013年までの農産物関連輸出補助金の撤廃について、合意なるものの、国内農産物価格支持・関税撤廃についての合意はならず。
2006年4月
香港会議の締切期限に合意いたらず。
2006年7月
G6での農業関係合意決裂後、交渉一時中断
2007年2月
WTOが、交渉再開を宣言
2007年4月
ファルコナー農業交渉議長ペーパー2007年5月
WTOが、ドーハラウンドの決裂は、世界貿易の発展を破壊するものであると警告
ファルコナー農業交渉議長ペーパー第2弾
2007年6月
アメリカ、EU、ブラジル、インドの関係閣僚がポツダムで会合。
2007年7月
ファルコナー農業交渉議長などから、「細目合意」草案(モダリティー合意案)提示
2008年2月
モダリティの第一次改訂版テキストが提示
2008年5月
モダリティの第二次改訂版テキストが提示
2008年7月
モダリティの第三次改訂版テキストが提示
ミニ閣僚会議で、特別セーフガード(the Special Safeguard Mechanism=SSM) 合意決裂
アメリカ・インドの対立で、交渉決裂
2008年10月
11月まで、討論継続を確認
2008年11月
WTOは、12月までに農業問題、NAMA問題のモダリティ決着のための閣僚会議召集を強く要請
2008年12月
モダリティの第四次改訂版テキストが提示。
しかし、これについてのWTOでの議論はされなかった。
WTOは、関係国に対して、2009年早々での会合を要請
2009年4月
ロンドンで、G20
2009年6月
インドネシア・バリで、ケアンズ・グループ会合
2009年7月
G8プラスと、APEC会合で、2010年までのドーハラウンド決着を合意

参考
India against change in Doha Round modalities at Delhi
農業のモダリティに関する再改訂議長テキスト等
Who does not want to conclude the Doha Round?」

 

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