2009年6月12日
昨日のネイチャーのオンライン版(2009/06/11)に発表されたレター「Origins and evolutionary genomics of the 2009 swine-origin H1N1 influenza A epidemic」が、早速話題になっているようだ。
このレターは、エジンバラ大学のAndrew Rambaut氏をはじめとした13人からなる研究グループの研究で、今回のH1N1新型インフルエンザウイルスのOriginを解析したものだ。
まず、下記の図を見ていただくと

縦軸の
緑が鳥インフルエンザウイルス
赤が豚インフルエンザウイルス
青がヒト・インフルエンザウイルス
横軸が年代をあらわしていて
左が1979年以前
右が2009年4月
となっている。
つまり、今回のメキシコ・北米のインフルエンザウイルスが発見されるに至るまでの鳥・豚・ヒトインフルエンザ・ウイルスの系統樹的にみた経緯を示しているのだが、
今回のH1N1新型インフルエンザ・ウイルスについては、2009年5月3日の私のブログ記事「新型インフルエンザについてのコロンビア大学などの予備的分析結果について」述べたように、
��PB2
北米の豚インフルエンザに近い
��PB1
北米の豚インフルエンザに近い
��PA
北米の豚インフルエンザに近い
��HA
北米の豚インフルエンザであるA(H1N1)とA(H3N2)に近い
��NP
北米の豚インフルエンザに近い
��NA
ヨーロッパ/アジアのインフルエンザウイルスに近い。
1992年からみつかっているインフルエンザAウイルスに、最も近い。
��MP(M2M1)
ヨーロッパ/アジアのインフルエンザウイルスに近い。
��NS (NEPNS1)
北米の豚インフルエンザに近い
とされている。
そこで、この研究では、その鳥・豚・ヒトのそれぞれのホストを持つウイルスについて、時代的に、かつ、地理的(北米・ユーラシア(ヨーロッパ・アジア)にも、さかのぼって、そのOriginを、分子時計(Molecular clock)の技術を使って、30のH1N1新型インフルエンザ・ウイルスについて、検証しようとしたものである。
(注-分子時計(Molecular clock)の技術とは、祖先を同じくする二種の生物の遺伝子を比較し、それがどの程度違っているかを調べ、それによって、どのくらい昔にその生物が進化上分岐したのかを調べるもの)
同時に、こんかいのH1N1新型インフルエンザウイルスの二つ、アジアの豚インフルエンザウイルスの15、ヒト、鳥、豚のインフルエンザウイルスの796について、そのシーケンスについての比較をした。
まず、北米においては、クラシカルなH1N1豚インフルエンザが、少なくとも80年間は、循環していたとしている。
1998年に、このクラシカルなH1N1と北米の鳥インフルエンザウイルスと、ヒト・インフルエンザ・ウイルスであるH3N2 (A/Sydney/5/97-like)が再集合して、再集合ウイルスであるH3N2が生まれたとしている。
この再集合ウイルスであるH3N2がさらにH1N1 や H1N2との再集合によって、2005年以来、孤発的なヒト・インフルエンザ感染をしていった、と見ている。
その結果、H1N1豚インフルエンザ・ウイルスのヒトへの感染は、2007年以来、確認されるようになってきたとしている。
一方、ユーラシアにおいては、H1N1鳥インフルエンザウイルスが、豚において「‘avian-like’ swine H1N1」となり、これがはじめて発見されたのが、1979年、ベルギー(A/swine/Belgium/1979 (H1N1))において、としている。
これが、次第にクラシカルなH1N1となり、さらに、「A/Port Chalmers/1/1973-like」のようなヒトH3N2インフルエンザ・ウイルスと再集合したとしている。
ただ、このユーラシアのウイルスが、北米においても、循環していたという証拠はなんらないことが、奇妙であるとしている。
アジアにおいては、クラシカルな豚インフルエンザ・ウイルスは、他の型のウイルスとともに、循環しており、その中には、ヒトH3N2や、ユーラシアの鳥H1N1や、北米の上記の鳥・豚・ヒト三種再集合ウイルスであるH3N2もあったと見ている。
そこで、このユーラシアのウイルスと北米のウイルスとの接点として、研究グループは、いくつかの仮説を立てている。
すなわち、
今回のH1N1新型インフルエンザウイルスのアウトブレークまでの間、約10年間、北米の豚や七面鳥の間で、静かなる循環をしていたのではないのか?
それらがみつからなかったのは、豚のウイルスについてのサーベイランスのサンプル欠如によるものだったのではないのか?
三種再集合ウイルスのうち
鳥 ウイルス(PB2と PA), ヒトH3N2 ウイルス(PB1) 、クラシカルな豚インフルエンザウイルス (HA, NP 、NS)であるとして、ここに、香港が絡んでくるのではないのか?
すなわち、1990年代の香港でのサーベイランスでの豚インフルエンザでは、これらは、H1N1 と H1N2との混合であり、それは、クラシカルなものであったという。
また、そこでは、上記で見た、三種再集合ウイルスの存在もユーラシアの鳥インフルエンザ・ウイルスの存在も確認されたという。
2009年に香港で発見されたSw/HK/78/2003は、三種再集合ウイルスとユーラシアの鳥インフルエンザ・ウイルスとの再集合ウイルスであったとされる。
また、今回のH1N1新型インフルエンザウイルスのシスター系として、2004年発見のSw/HK/915/04(H1N2)が位置づけられるという。
しかし、地理的にみて、この香港のSw/HK/915/04と今回のH1N1新型インフルエンザウイルスとを関係付けるには、地理的に距離がありすぎるとみている。
そのようなことから、ユーラシアから北米への豚の生体輸入が絡んでいるのではないのか、という仮説も立てられうるとしている。
そこで、サンプルの欠如があったとの仮説の元に8つのセグメントについて再検証してみると、最短で9.2 年(PB1からみて)前から最長で17.2 年(NAからみて)前の間に、今回のH1N1新型インフルエンザ・ウイルスにもっとも近い祖先がいたものと、推定できたという。
その共通の祖先ウイルスは、すくなくとも、昨年の8月から、今年の1月までは存在していたという。
そして、早ければ昨年の8月以降、遅くとも今年の1月以降に、今回のH1N1新型インフルエンザウイルスは、分岐したとしている。
この研究グループでは、これまでのサンプルの欠如が、今回の対処を遅らせたとの認識から、これまでおろそかにされてきた豚ウイルスのサーベイランスの充実と、豚産業従事者のモニターが必要としている。
鳥インフルエンザのみでなく、豚インフルエンザのモニターも必要であるとのことなのだろう。
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