2009年5月23日
5月22日のサイエンス・エキスプレスの記事
「Antigenic and Genetic Characteristics of Swine-Origin 2009 A(H1N1) Influenza Viruses Circulating in Humans 」
(アブストラクトはこちら 図表等はこちら ご参照)
では、CDCのNancy J. Cox 氏をはじめとする59人からなる研究チームが 、今回のH1N1 新型インフルエンザウイルスについて、初めて本格的な遺伝子学的な分析を試みている。
それによると、
今回のH1N1 新型インフルエンザウイルスについて、メキシコと北米から76検体を採取し、これについて分析した結果、今回のH1N1は、ユニークな遺伝子セグメントのコンビネーションとなっているという。
研究者たちは、これを「混合物の混合」(Mixture of Mixture)と表現している。
すなわち、一部は、1998年に発見されたような、トリプル再集合ウイルスの一部を含み、また、一部には、1999年に発見された香港型ウイルスに遺伝子セグメントが近いユーラシア株を含んでいるという。
また、このH1N1 新型インフルエンザウイルスの遺伝的多様性がすくないところから、このウイルスは、単数か複数かのイベントによって、人間に導入されたものとみている。
遺伝的多様性がすくないという点は、季節性インフルエンザ・ウイルスによく見られるものであり、また、近年の豚インフルエンザ・ウイルスにおいても、よく見られる特徴であるという。
さらに、分子マーカー(Molecular markers)から見ると、人間への適応性は、現在はないところから、以前に検知されない分子決定要素がヒト間の感染をゆるした、とみている。
抗原性の点から見ると、このウイルスは、アメリカの豚インフルエンザH1N1ウイルスとおなじものであるが、季節性インフルエンザH1N1とは異なるものであるとしている。
研究チームの遺伝子分析によれば、8つのセグメントのうち、ヘマグルチニン(H)を含む3つの遺伝子セグメントは、1918年のスペイン風邪のH1N1に由来するものであり、その後、ずっと豚に存在していたものであるが、その間においても、変異はしていなかったとしている。
その理由として、豚は、長生きしなかったため、短期間での再感染が許されなかったため、としている。
Nancy J. Cox 氏によれば、再感染が免疫系を回避しうるウイルスの変異をもたらすのだが、この場合は、その再感染がなかったとしている。
その他の遺伝子セグメントでは、ポリメラーゼB(PB)遺伝子はヒト由来、他の二つは鳥由来であったとしている。
また、1918年のH1N1とH5N1とは、毒性があることを示す遺伝子セグメントを、同じNS1セグメントにおいて有しているが、今回の新H1N1は、そうではないという。
感染性を示す遺伝子セグメントにおいても、今回の新H1N1は、1918年のH1N1にあったものを失っているという。
これらのことから、今回の新型H1N1は、1918年のH1N1が、人間への感染を可能とする変異をみせていないものであるために、 その他の要素が、今回の人間への感染を促したものと、研究者たちはみている。
今回の新H1N1のノイラミニダーゼ(NA)が、ユーラシアの豚インフルエンザウイルスと近い関係にあることについて、これは、1979年頃に、豚から鳥に跳んだものだと推定している。
研究者たちは、 今回のH1N1は、、北米とユーラシアの豚由来インフルエンザウイルスが、長い間、みつけられないまま、比較的に安定的なまま、豚と人間の間に循環してきたものであると見ている。
Nancy J. Cox 氏は、世界のどこかの豚集団において、長い間、見つけられないまま、静かに循環していたものと、推定している。
Nancy J. Cox 氏は、これらについて、いくつかのシナリオが考えられる、としている。
そのシナリオの中には、今回の新型H1N1が生まれるイベントにアジアか南北アメリカにおいて、ウイルスの再集合があった可能性も含まれるという。
また、一定の動物がウイルスのリザーバー(貯蔵所)として機能し、自らは、病気にかからないが、他への感染の媒体になり、その過程で、起源を特定できない「失われた環」(Missing Link)を生んだ可能性もあるという。
もし、世界の獣医師の中で、これらの起源となりうる豚インフルエンザウイルスをフリーザー貯蔵していれば、この「失われた環」を埋めることが出来ることになり、このことで、今回の新H1N1が再び変異して循環することは防ぎうる、としている。
そのためには、豚のウイルスについての、更なる世界的かつ組織的な研究が必要である、と、Nancy J. Cox 氏は、いう。
なぜなら、豚インフルエンザウイルスについては、アメリカにおいても、世界的規模においても、これまで、組織的な研究がされていなかったからだという。
今回のH1N1新型インフルエンザウイルスは、たしかに、1988年に見られた鶏-豚-ヒトの三つの宿主を持つトリプル再集合ウイルスの一種ではあるが、このウイルスが、今回以前に発見されたことはない、としている
また、 このH1N1が、いつ、どこで、なぜ、今回の人間の感染に向かったのか、については、いまだわからないという。
ただ、朗報としては、今回の研究において、新型H1N1が決して新型ではなく、大きな変異を示していないことがわかったことで、現在のインフルエンザワクチンでは、今回のH1N1新型インフルエンザウイルスへの防御効果はおそらくないとしても、このウイルスは、抗ウイルス薬に影響を受けやすく、新H1N1対応ワクチン設計はしやすいとしている。
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