Sasayama’s Weblog


2010/12/02 Thursday

岐路に立つ包括的貿易協定

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 11:43:04

2010年12月2日

null先月11月14日はドーハラウンド交渉が始まった日であり、かつドーハラウンド交渉開始後9年目の節目を迎えた日でもあった。

ウルグァイ・ラウンドが交渉開始後8年目(1986年 - 1995年)で妥結に至ったのに対して、ドーハ・ラウンドは、9年目にしても、まだ、そのゴール地点が見えていない。

異例の長さである。

過日、韓国ソウルで開催されたG20やAPEC会議でも、ドーハ・ラウンド交渉が”妥結への好機”(Windows of Opportunity)を迎えたとの認識で一致し、その妥結への早期化を確認しあったものの、各論では、その具体的タイム・シリーズについては不透明なものがある。

2008年7月にドーハラウンド交渉が暗礁に乗り上げて以来、はや、2年半、この間に、皮肉にも、二国間または地域間での自由貿易協定締結は加速されてきた。

FTAについてみれば、1989年にはわずか16であったものが、1999年には66となり、そして、ドーハラウンドが難航している間の2009年8月時点では171のFTAが世界に誕生している。

このFTA急増の理由としてはいくつか挙げられる。

第一の理由は、現在の時代遅れのウルグアイ・ラウンドでは、特に、IPRs(知的所有権)にかかわる紛争に耐えられないということである。

新興経済国の台頭に伴う、この種の知的所有権紛争の増加と軋轢回避のために、TRIPS協定はあるものの、時代遅れのウルグァイラウンドでは役に立ちえず、やむを得ざる二国間FTA協定締結が促進された、との見方である。

国連報告書(ADB EconomicsWorking Paper Series “Asian FTAs: Trends, Prospects,and Challenges“2010年10月)では次のように記載されている。

「EU、日本、アメリカなど先進国で締結されるほとんどのFTAにおいては、知的所有権保護に関する条項が含まれている。(”almost all FTAs concluded by developed countries, such as the EU, Japan and the United States, include clauses related to the protection of IPRs)

もうひとつの理由は、巨大新興経済国・中国を抱えるアジアにおける自己防衛的なFTA締結の加速である。

それは防衛的であるとともに、中国・インドの経済力への裨益囲い込み確保の意味合いもある。

WTOがドーハラウンド交渉で行き詰まりを見せている一方で、FTAが、もはや、包括的貿易協定に代替しうる立場を確保しえつつある状況には、功罪の二面性がある。

一方で、FTAは、カスタマイズされた貿易自由化協定であり、参加国のきめ細かい国情にフィットできる、小回りのよさがある。

しかし、他方で、WTOの多角的貿易協定で本来果たされるべき平等性を確保しえない。

とくに、アフリカ大陸のサハラ砂漠より南の地域であるサブサハラ地域では、FTAの締結はわずか4に過ぎない。

つまり、これらの地域では、FTAでの擬似的代替をなしえない。

唯一WTOのみでしか、先進国からの価格支持された農産物の流入から、自国の自給的農業農産物を守りうる手立てがない地域といえる。

日本の菅政権がご執心のTPP協定によったとしても、参加するアメリカなど大国は、TPPに参加しながらも、他方では、重畳的にNAFTA.LAFTAなどのFTAに加盟しているのだし、これらのいわば「FTAのハブ化」がすすんでいる国では、原産地表示などについての一物二価的立場を利用して、スパゲッティボール現象をたくみに多国籍で回避しうる有利な立場をとりうる。

つまり、これらの経済協定における「範囲の経済」(economies of scope)を享受しうるのは、アメリカなどの大国のみに限定され、小国にはハンディがのこる、というわけだ。

この点について、上記掲載の国連報告では次の諸点を挙げている。

第一は、EUやアメリカは、これらの小国を覇権的経済力を持って、分割統治をしうる立場にあるということ。

包括貿易協定では、まとまっての小国の立場を主張しうるが、二国間でのFTA協定においては、大国有利の条項をしぶしぶ飲むということになりうる。

第二は、WTOの元であれば、偏見性のない紛争解決のメカニズムが働きうるが、二国間のFTAでは、ともすれば、大国の優位性がともすれば、まかり通りかねない。

では、このまま、ドーハラウンドは死んでしまうのであろうか?

これについて、ラミー事務局長は、次のような見通しを述べている。

これまで、2008年7月の妥結失敗以降のWTOドーハラウンド交渉においては、ここ数ヶ月は、小グループによる「カクテル・アプローチ」によって、非公式でのディスカッションとブレイン・ストーミングを繰り返し行い、一定の成果を挙げてきた。

ただ、これから行うべきことは、このカクテル・アプローチの継続ではなく、それをワンランク、レベルを上げた「交渉セッション」に格上げする必要があるという。

そのためには、これまでのそれらのカクテル・アプローチの成果を踏まえての、改訂版モダリティ・テキストを早く用意する必要がある、としている。

現在有効なモダリティ・テキストは、2008年12月6日の第四版モダリティ・テキストであるが、この第五版を早急に作る必要があるというわけだ。

このことについて、ラミー事務局長は、その必要性を認め、2011年の第一四半期の終わりまでに、新改訂版テキストを用意する、と言明している。

しかし、この早急な改訂版テキスト作りに慎重な対応を求める発展途上国を中心とした意見もある。

すなわち、小グループ間での会合を重ねるという水平的なプロセスが、テキスト作成と同時に進行しなければ、性急なテキスト作りのみでは、交渉を決裂させる、という意見である。

いずれにしても、ドーハ・ラウンドは、2011年中に片付けなくては、永遠に死んでしまう、という認識では、一致しているようだ。

その大きな理由として、2012年に合意がずれ込むと、アメリカの大統領選挙と重なってしまう、ということである。

そのさらに奥には、
ウルグアイラウンドの合意が早くできた裏には、当時のアメリカの経済団体が、アメリカ議会を大きくサポートしたため、という要因があったからなのだが、

それに比して、

現在のアメリカ経済界は、特に金融をはじめとするサービス産業が、目下の金融危機問題で、身動きがつかなくなってしまっていること、さらに悪いことは、アメリカの経済団体の多くは、すでにウルグァイラウンドで自由貿易による果実をすでに享受している、という事実がある。

今回のドーハラウンド合意に向けて、アメリカの経済団体が、ねじれ状態のアメリカ議会をプロモートする力はうせている。

このことは、ドーハラウンド合意への力学的な推進力を喪失させている、と見られている。

そもそも、ドーハラウンドは、1996年のシンガポール開催第1回WTO閣僚会議で提起されたシンガポール・イシュー(Singapore issue)(投資、競争政策、政府調達透明性、貿易円滑化の4分野問題解決)の命題が、2003年9月メキシコ・カンクン開催の第5回WTO閣僚会議において、四命題一括処理か否かで、一括処理を主張するEU・日本を中心とする先進国と、部分処理を主張する発展途上国との分裂を、依然内包しているという、もろさを持ったものなのだ。

ラミー事務局長は、あえて、その四つの命題のうちの貿易円滑化の処理のみを切り離して合意に持ち込もうとするのだが、そこに、そもそものドーハラウンド合意の無理があるとする説も依然有力ではある。

つまり、ここにおいては、シンガポール・イシューは、依然、ドーハラウンドにとっては「トロイの木馬」として機能し続けている、との見方だ。

まして、その後の中国・インドの新興経済勢力の台頭のもとでのシンガポール・イシューの位置づけも、変化してきているとみなければならない。

ラミー事務局長は、2011年合意を目指すためには、少なくとも、来年夏までに大筋合意を取り付け、残りの半年で各国での調整を取り付けたい考えのようである。

しかし、その筋書き通りにことが進むかは、神のみぞ知る状態のようである。

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