Sasayama’s Weblog


2009/09/20 Sunday

ダム建設廃止は、そんなに簡単な問題ではないのに

Filed under: 未分類 — 管理人 @ 18:35:00

2009/09/20(Sun)
 
null以下に記載の経緯は、私の郷里の成瀬ダムの水源をもとにした水系での農業かんがい排水事業のこれまでの流れ。

つまり、成瀬ダムの建設と並行して、その完成時の水量の取水を前提とした下流水域での国営の農業かんがい排水事業が、もうすでにすすんでしまっている、ということですね。

これらの受益者には、ダム建設関連の負担金はない(特定多目的ダム法第十条にもとづく県負担はある。)が、拡幅改修した水路建設費の負担はある。

だから、上流でのダム建設の廃止がきまってしまうと、この関連事業である農業かんがい排水事業のコスト・パフォーマンスなり費用便益比(B/C)は、同意をえる時点で提示された当初計画での数値(第一期1.09.第二期1.23)と比較して、著しく低下してしまうことになる。

これら国営土地改良事業は、申請主義にもとづくものであり、土地改良法第85条第8項のさだめによって、三条資格者(土地改良法第三条 土地改良事業に参加する資格を有する者は、その事業の施行に係る地域内にある土地についての次の各号のいずれかに該当する者とする。)からの一定数以上の同意によって、事業申請がなされ、事業が始まるものである。

しかも、厄介なことに、この国営かんがい排水事業にともなう受益者負担金(賦課金)の徴収・償還が、ダムに先行して始まってしまうことになる。

極端に言えば、ちょろちょろしか用水が流れてこない水路のために、受益農家が、巨額な負担金を支払わなくてはならぬ羽目にもなりかねないのだ。

今は、番水(通し水)という古来からの知恵による農業用水の水の使いまわしで、夏場の渇水期を乗り切っているものが、用水路が新しくなっても、番水を続けざるを得ない事態となったとしたら、では、何のための負担金?という不平が受益農家のあいだから出てくるのは必至である。

あるいは、取水口の設計・工事の見直しや、県営や団体営の用排水路との接続の見直しや、 分水工の設計・工事のやり直しにまで、発展するかもしれない。

また、国土交通省サイドで、成瀬ダムの廃止が正式に決定されるとすれば、それは、三条資格者の三分の二以上の再同意を必要とする、土地改良法上での「土地改良事業計画の農林水産省令で定める重要な部分の変更」とみなされるであろう。

となると、国や県や土地改良区に対する訴訟問題が、下流水系(末端水系)の受益者のほうから始まってしまう可能性だって出てくるのだ。

ただでさえ、水系下流域の受益者たちには、ひごろ水の恩恵に十分あずかり得ないという不満がある。

同意書を得るのに、一番苦労するのが、これら末端水系の農家からのものである。

用水と排水とをあえて分離し、できるだけ内水をすくなくするという「用排分離」というシステムも、これらの末端水系の受益者の不公平感を察してのものでもある

「こうなるのであれば、自力で地下水をポンプアップしたほうがいい。」とか、「伏流水を利用したほうがいい。」とかの不平が渦巻いてくるのは必至だ。

あるいは賦課金支払い拒否も、農家から、出てくるかもしれない。

これらの事業にかかわる負担金徴収は土地改良法第九十条の二 と国営土地改良事業負担金徴収条例にもとづくものであり、その前提としては当該事業の完成時に第百十三条の二第三項の規定による公告があつた日以降となっている。

つまり、ダム本体の工事が廃止されようが、三条資格者が同意した農業かんがい排水事業が完成したら、賦課金徴収が始まるというわけである。

しかし、これに対して、受益者や土地改良区は、国家賠償法第一条または第二条にもとずく訴訟を提起しうることは可能と思われる。

これまでは、ダムができることに対してのNGOなどからの訴訟合戦であったが、今度は、ダムが廃止されることにより受益者がこうむる被害についての訴訟合戦となることだって、十分、考えられる。

民主党政権は、その辺までも考えて、気軽にダム廃止論を打ち出しているのか、非常に疑問なところであるのだが—

もし、それでもダムの廃止をしたいのであれば、国営土地改良事業の地元負担分は、タダにしてもらいたいものだ。

これなら農家も取引に応じ゜るだろう。

以下は、成瀬ダム関連農業かんがい排水事業のこれまでの経緯一覧である。

昭和55年2月 成瀬ダム・板戸ダム築造期成同盟会の結成

昭和57年3月 国営かんがい排水事業期成同盟会の発足

昭和58年4月 国営雄物川中流地区直轄調査開始

平成6年4月 国営平鹿平野地区直轄調査開始

平成9年 成瀬ダム建設調査・設計開始(国土交通省)

平成9年3月 国営平鹿平野地区全体実施設計実施議決

平成9年11月 平鹿平野地区国営かんがい排水事業促進協議会発足

平成10年3月 国営平鹿平野地区直轄調査終了

平成10年4月 国営平鹿平野地区全体実施設計開始

平成12年3月 国営平鹿平野地区全体実施設計終了

平成12年7月 秋田県雄物川筋土地改良区総代会、平成13年度着工要望決議

平成12年9月 平鹿平野地区国営かんがい排水事業促進協議会.平成13年度着工要望決議

平成12年−平成13年にかけて、三条資格者への事業説明会

平成13年 三条資格者の同意書手続き完了.90%以上の同意率で農林水産大臣に申請

平成13年11月 成瀬ダム下流工事用道路(岩井川バイパス)着工(国土交通省)

平成14年3月 国営平鹿平野土地改良事業第一期着工(H13〜H21 1,500億円)

平成16年10月 成瀬ダム下流工事用道路岩井川バイパス完成

平成17年   国営平鹿平野土地改良事業第二期着工(H17〜H24 3,400億円)

平成19年2月 付帯県営土地改良事業施行申請

平成19年4月 付帯県営土地改良事業計画採択

国営平鹿平野土地改良事業は平成24 年度事業完了の予定
一方、肝心の成瀬ダムの本体着工はまだである。
このままでいくと、ほぼ確実に、ダム本体の見通しがつかないまま、国営かんがい排水事業賦課金の徴収が始まってしまう。
さらに、つづく、国営付帯県営事業への受益者の理解を得ることも困難になってしまうだろう。

参考
国営かんがい排水事業平鹿平野(一期)地区
国営かんがい排水事業平鹿平野( 二期) 地区
水土里ネット雄物川筋 −歴 史−
土地改良法
土地改良法施行令
国家賠償法
「国営土地改良事業負担金徴収条例」の一例
「成瀬ダム建設事業及び利水事業の概要」

特定多目的ダム法
第10条 専用の施設を新設し、又は拡張して、新築される多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水をかんがいの用に供する者は、多目的ダムの建設に要する費用につき当該用途について第7条第1項に規定する方法と同一の方法により算出した額のうち10分の1以内で政令で定める割合の額及びその額に対応する建設期間中の利息の額を合算した額の負担金を負担しなければならない。【令】第12条、 第14条2 前項の負担金は、都道府県知事が徴収する。3 前条第2項の規定は、前項の負担金について準用する。

国営かんがい排水事業の負担割合

頭首工
国66.66% 県市町村33.00%〜27.00% 地元 0.34%〜6.34%

幹線用水路
国66.66% 県市町村29.00%〜23.00% 地元 4.34%〜10.34%

本体着工前のダム

設楽ダム(愛知)総事業費2070億円 費用対効果*2.8

成瀬ダム(秋田)同上1530億円 同上1.2

城原川ダム(佐賀)同上1020億円 同上3.3

山鳥坂ダム(愛媛)同上850億円 同上1.3

サンルダム(北海道)同上528億円 同上1.6

本体工事中

八ッ場ダム(群馬)同上4600億円 3.4

霞ヶ浦導水(茨木)同上1900億円 1.2

湯西川ダム(栃木)同上1840億円 1.5

殿ダム(鳥取)同上950億円 1.1

大分川(大分)同上967億円 1.3

費用対効果=建設で得られる便益/建設費

 

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