「ウィリアム・モリス」
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はるかなる先見者
「ウィリアム・モリス」
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はるかなる先見者「ウィリアム・モリス」

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イギリスのウィリアム・モリスという人が『ユートピア便り』という本を著してから、かれこれ 100年以上たちました。

モリスはきわめて多能な人で、工芸美術家(今でいうインダストリアル・デザイナー)であるとともに、詩人・作家・社会主義者という顔ももっていました。

しかし、そのいずれも、彼にとってはある目的を達するための表現方法にすぎなかったのです。

その目的とは、出会う人誰もがにこやかに通り過ぎ、おだやかな自然とその自然を壊さない秩序に守られた田園を、1つのユートピアとして追求するというものでした。

ユートピアは田園にある 夏のイメージ

19世紀末の当時は、モリスの他にも数多のユートピアが生まれては砕け散る、ユートピアン全盛の時代でした。

しかし、モリスが他のユートピアンと違ったのは、都市にユートピアがあるのではなく、田園にユートピアがあるとした点です。

モリスの情熱の背景には、当時のイギリスの田園がおかれた社会事情がありました。

モリスは、工業化が進み、田園が都市に囲まれつつある状況のなかで、田園の表面的な美にのみとらわれ、農の生産の姿を排除しようとするブルジョアジーの一方的な田園讃歌に抵抗し、その地に生きる農民、そこを訪れる都市民、人間と共生する生命体が等しく田園の恵みを享受できるところに田園の魅力があるとしました。

農の貧困が叫ばれ、リゾートによる表面的な自然賛美のみきらびやかに見える今日、モリスの目ざした田園環境のあり方を見直し、共生のためのアルカディアを創ることが求められています。

私たちは、モリス没後 100年たった今こそ、再び21世紀の人々へ「ユートピア便り」を記す時期だといえそうです。