アフリカ豚コレラウイルスはアメリカをも標的に
昨年(2018年)8月2日発生の中国発アフリカ豚コレラから始まった私の追跡も16か月目に突入した。
その間、アフリカ豚コレラウイルスは、まさに燎原の火のごとく拡散し、中国全土を攻めつくした後は、ベトナムを南下し、ラオス、カンボジア、フィリピン、ミャンマー、香港、モンゴル、北朝鮮、韓国、東ティモールなどへと侵攻し、次なる標的として、アメリカ本土がウイルス感染の懸念となりつつある。
この時を予感してか、このところ、アメリカの研究機関や大学から、アフリカ豚コレラのアメリカ本土への侵入を警戒するいくつかの研究成果が、矢継ぎ早に打ち出されている。
なかでも、特に、中国からの飼料関係成分の汚染物質の輸入を警戒する声が相次いでいる。
アメリカでの中国からの輸入飼料感染脅威論
この問題について、世間の注目をあびるきっかけとなったのは、パイプストーン獣医サービス(Pipestone Veterinary Services)のスコット・ディー博士(Dr. Scott Dee)が、2019年8月28日に、WATT Ag Net.comのウェブセミナー「African Swine Fever Update」で行った「アフリカ豚コレラと飼料リスク-我々は何を知るべきか?そしていかに行動すべきか? 」(ASFV and Feed Risk:What Do We Know and What Do We Do?)と題する講演であった。
スコット・ディー博士は、8月28日のウェブセミナー講演の中で、「アメリカの豚にアフリカ豚コレラが確認された例はまだないが、そのことは、アフリカ豚コレラウイルスがまだアメリカに侵入していないという意味ではない。既に港レベルにはウイルスは侵入してきている。これを、養豚業レベルにまで侵入を進めさせないことが我々の課題だ。アメリカは、アフリカ豚コレラの養豚業への侵入によって、一年で160億ドルの損失を招くだろう。アメリカからの豚肉輸出もできなくなる。」として、次の点を強調した。
1.アフリカ豚コレラウイルスは、中国から、船を経由して、米国内の養豚場の飼料に混入し、アメリカの豚に感染しうる。
スコット・ディー博士が懸念しているのは、次のシナリオである。
アフリカ豚コレラ感染地帯である中国の農民の靴や衣服の埃を介してウイルスが伝搬する可能性があり、また、収穫期では、穀物・大豆などが公道上で乾燥されており、ここにも、交差汚染の可能性が高まりうる。
また、これらを中国の積み出し港まで運ぶ過程においても、車両や包装の過程でも、交差汚染の機会がありうる。
カンサス州立大学メガン・ニーダーヴェルダー博士の研究では、船舶輸送の条件の中では、アフリカ豚コレラウイルスが半減する期間は、9.6日から14.2日であるとしている。
積み出し港を経て、運搬船のコンテナの中でも、アフリカ豚コレラは一か月も生き続けるというソースダコタ州立大学ディエゴ・ディール博士の調査結果もある。
参考
「ASF can survive a 30-day transoceanic voyage」
「Survival of viral pathogens in animal feed ingredients under transboundary shipping models」
さらに、アメリカの港に着き、養豚家への飼料配送の過程においても、包装バック(下記写真)はリユースされ続け、アフリカ豚コレラ汚染は拡大し続ける可能性を持っている。
これらの飼料を入れた袋は米国の農場に穀物を配達するために使用され、その過程で、ASFVに汚染され、さらに、再び、米国へのコンテナ船で再利用されることになりうる。
参考
「Veterinarians worry African swine fever could be transmitted to U.S. via animal feed」
「Infectious Dose of African Swine Fever Virus When Consumed Naturally in Liquid or Feed」
参考 中国の収穫期における穀物等の路上乾燥風景
2.中国からアフリカ豚コレラウイルスに汚染されてアメリカに輸入されているとみられるものは、下記のとおりである。
①大豆ミール(Soybean meal-Conventional)
②オーガニック大豆ミール(Soybean meal-Organic)
③大豆油ケーキ(大豆油搾りかす)(Soy oil cake)
④ウェット・キャットフード(Moist cat food)
⑤ウェット・ドッグフード(Moist dog food)
⑥乾燥ドッグフード(Dry dog food)
⑦豚肉ソーセージ・ケーシング(Pork sausage casings)
⑧常温完全飼料(Complete feed (+control))
⑨コリン(Choline)
3.科学的にリスクを最小化するためには次の確認が必要である。
スコット・ディー博士はアメリカへのアフリカ豚コレラウイルスの侵入を防ぐ方法は、輸入プログラムと呼ばれるものを開発&実施することにあるとして、次のチェックリストのもとに、阻止戦略を実行する必要があるとした。
①原産地は中国などの感染国か?
②懸念されるウイルスの種類はなにか?
③飼料含有成分はなにか?
④中国などの原産地から飼料工場に到着するまでの時間は、どのくらいか?
⑤中国などの汚染原産国での原料製造工場や米国での受け入れ地域なり港での検査体制は整っているか?
⑥アフリカ豚コレラウイルスを自然に死滅させるために、一定の時間おいて保管しうる施設や、一定の温度で一定の時間、保管できる専用の施設はあるか?
⑦ウイルスを殺したり、ウイルス曝露量を減らすことができるリスク緩和剤(下記の4.のような各種手段を想定している。)は、あるか?
飼料成分からのアフリカ豚コレラウイルス感染リスクを最小にするための決定ツリーは下記のとおりである。
なお、このサイト「The Role of Feed and Ingredient Biosecurity for ASF Prevention」に、中国からの輸入飼料についての、ASFV混入低減の為のチェックリストが書かれている。
4.何をすべきか?
スコット・ディー博士とその提携研究グループは、飼料にかかわるASFVリスクをミチゲート(低減)するために、以下の低減策を提言している。
なお、具体的な商品名が出てくるので、恐縮だが、お許しいただきたい。
①アイスブロックの活用
カンザス州立大学やFFAR(The Foundation for Food and Agriculture Research)やパイプストーン獣医サービス(Pipestone Veterinary Services)などで試行されている新しいASF感染飼料対策で、アイスブロックを利用したもの、
アイスブロック・チャレンジ・モデル(Ice Block Challenge Model)と呼ばれるもので、マイナス80度に凍結した454gの「アイスブロック」を作り、これを豚の餌箱に6日おきに落とし、ASFVのリスクを低減させるというもの。
詳細はサイト「Sal CURB® and CaptiSURE™ as Part of a Feed Biosecurity Program1, 2」をご参照
②飼料添加物による、飼料におけるASFVのリスクの低減
飼料添加物によって、飼料におけるASFVのリスクを低減する試みがされている。
サウスダコタ州立大学のディエゴ・ディール博士とパイプストーン・アプライド・リサーチのスコット・ディー博士および豚健康情報センター(SHIC)が主導しての研究。
飼料が中国の積出港からの出航からアメリカ到着後、工場までの期間を「緩和期間」とし、この間に、リスク緩和剤を飼料に投下することによって、リスクを最小化させようとする試みである。
実験に使用した飼料添加物は、有機酸混合物(NOVUS社のActivate DAなど)またはホルムアルデヒドとプロピオン酸(KEMIN社のSalCURB)などだが、いずれも、病原体は、緩和期間中には、完全には不活化しなかったが、飼料中のウイルス汚染レベルを一定程度、低下させることには成功した。
Activate DAの活用
NOVUS社が試行しているもので、有機酸で豚の腸内のphを減少させ、ウイルス対策とすることで、抵抗ウイルス効果を上げている。
詳細は
「Can Feed Additives Reduce Viral Contamination of Feed?」
「Feed Biosecurity – Novus International」
をご参照
Sal CURBやCaptiSUREの活用
ホルムアルデヒドやプロピオン酸などを成分とする抗菌水で、NOVUS社試行の「FORMYCINE GOLD PX」や、KEMIN社試行の「Sal CURB」や「CaptiSURE」がある。
詳しくは
「Formycine Gold Px Data Sheet.pdf – Novus International」
「Sal CURB® – The Antimicrobial Solution for Livestock and Poultry Feeds」
「Sal CURB® and CaptiSURE™ as Part of a Feed Biosecurity Program1,」
をご参照
PMIの活用
Purina社試行の栄養添加物で、液状の中鎖脂肪酸ブレンド。
FINIOの活用
Anitox社試行の酸とアルデヒド(非ホルムアルデヒドベース)の混合物の添加剤。
参考
「SHIC HELPS TO OFFER A NEW APPROACH ON FEED MITIGATION EVALUATION」
以上がスコット・ディー博士のウェブセミナーでの講演の内容だが、このスコット・ディー博士は、氏の所属しているパイプストーン獣医サービスを中心に、以下に掲げる他の大学の研究者たちと提携し、アメリカの飼料への中国からのアフリカ豚コレラ侵入を想定した共同研究がされている。
その主なものを紹介しよう。
中国からアメリカへの飼料を通してのアフリカ豚コレラ感染の可能性を示している各種研究
現在、アメリカへのアフリカ豚コレラウイルス侵入に対して、警告を発している研究機関&大学並びにその機関&大学の研究者の名前は下記のとおりである。(カッコ内が研究者名前)
①パイプストーン獣医サービス(Pipestone Veterinary Services)(Dr. Scott Dee)
上記に紹介のスコット・ディー博士が所属する研究機関である。
ディー博士主導で、飼料へのアフリカ豚コレラ汚染防止のための各種実験を行っている。
パイプストーン獣医サービスでは、以前にブタ伝染性下痢ウイルス(PEDV)が輸入飼料で生き残りうることを確認しており、今回、アフリカ豚コレラウイルス(ASFV)でも、同様の可能性があると考えた。
そこで、中国の飼料工場から数千のサンプルを採取するよう現地科学者に依頼し、トウモロコシ、大豆、米、小麦、及び、蒸留抽出した乾燥穀物とソリュブルを含むバラ飼料の成分をテストした。
テストした成分と完全飼料のうち、1-2%がウイルスDNA陽性であった。
さらに、ジョン・デ・ジョン博士(Jon De Jong)などパイプストーンの研究者たちは、中国の飼料工場周辺の粉塵、飼料トラックとトレーラー、飼料工場のスタッフのごみ入れ、髪、靴、完全飼料、および市場で売られている豚肉に、ウイルスDNAを検出した。
この検査結果に基づき、パイプストーン獣医サービスの研究者たちは、中国から米国への輸送中のASFVの生存性の調査を開始した。
大豆ミールから完全飼料まで、さまざまな飼料材料でウイルスの存在を検証し、中国から米国までの大西洋横断37日間の航路を想定し、その航路期間中に、ウイルスが生き残りうるかどうかを検証した。
さらに、その中国からアメリカに着いたその飼料をアメリカの豚が摂取・感染する可能性があるかどうかについては、カンザス州立大学の研究者たちにゆだねられた。
パイプストーン獣医サービスの研究者たちは、それにとどまらず、飼養豚をウイルス感染から保護するのに役立つ飼料添加剤の開発にも乗り出した。
この飼料添加剤の開発に当たって、パイプストーン獣医サービスは、これを行うために、AlltechおよびCornerstoneと提携De Jong博士はPipestoneがAlltechおよび動物衛生会社Cornerstoneと提携した。
この飼料添加剤は、提携3社の頭文字をとり、APCと名付けられた。
APCは、有機酸とエッセンシャルオイルとを独自ブレンドしたものである。
APCは、ASFVだけでなく、PRRSV(豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス)、PEDV(豚流行性下痢ウイルス)、およびSVA(セネカ・ウイルスA)などの各種ウイルスが養豚場に感染するのを防ぐ効果を持つものとされている。
研究者は「これら飼料添加剤がセネカウイルスAに対して有効であれば、ASFに対しても有効であると仮定することができる」としている。
参考
「Scientists demonstrate ASF risk posed by animal feed」
「Lessons Learned From PEDV Could Keep ASF Out of the U.S.」
「African Swine Fever in China: What is the Role of Feed Ingredients in Viral Movement?」
「Veterinarian: ASF virus likely in US, but not its pigs」
「FFAR Combats Deadly, Costly Swine Viruses in Contaminated Feed」
「Mitigating ASF in Feed Critical to U.S. Biosecurity」
②カンサス州立大学(Kansas State University)(Dr. Megan Niederwerder)
メガン・ニーダーヴェルダー博士が主導して、中国から輸入の飼料の中のウイルスは30日生存しうるとの研究成果を出している。
カンザス州立大学の研究では、アフリカ豚コレラウイルスの正確な半減期を出すことに集中された。
30日間の大洋横断輸送中のウイルスの生存率を判断するために、30日間の輸送条件にさらされた9つの飼料成分のウイルスの半減期を計算し、その結果、半減期は9.6〜14.2日であった。
このことから、アフリカ豚コレラウイルスが、汚染された植物ベースの飼料および成分が、30日間の大洋横断航海でも、生き残ることが確認された。
実験・シミュレーションは、主に中国から米国に一般的に輸入される完全飼料および飼料成分に注目した。
試験材料として、下記が選ばれた。
①大豆油ケーキ
②蒸留抽出乾燥穀物
③ウエットおよび乾燥したペットフード
④従来型および有機の大豆ミール
⑤豚肉ソーセージケーシング
⑥リジン塩酸塩
⑦塩化コリン
⑧ビタミンD
⑨完全飼料(常温)
これらの9つの飼料について、それぞれ、飼料成分のウイルスの半減期を計算した。
試験結果では、従来型大豆ミール、リジン塩酸塩、塩化コリン、ビタミンD、ポークソーセージケーシングに、より多くのウイルスが生き残った。
顕著なのは、在来型大豆ミールと有機大豆ミールとの違いであり、在来型大豆ミールにより多くのウイルスが残存していた。
この半減期確定で、中国から出航し、アメリカの港を経て、米国内の養豚業者に飼料が渡るまでの期間を利用して、いくらかでも、中国からの輸入飼料の持つアフリカ豚コレラウイルスのリスクを減らしうる、ミチゲーション的方途がとりうることが分かった。
具体的には、保管期間の延長や、温度などの保管条件の調整などである。
参考
「New study confirms possible danger of imported feed contaminated with African swine fever」
「Half-Life of African Swine Fever Virus in Shipped Feed」
「Researchers expand understanding of virus transmission in feed」
さらに、カンザス州立大学では、カサンドラ・ジョーンズ研究員(Cassandra Jones)を中心として、セネカ・ウイルスを対象とした低コストでの検出ツールの検証、および米国飼料工場でのウイルスの有病率の監視のモデルづくりをしている。
セネカ・ウイルスをコントロール検出監視できれば、ASFVについても、そのまま可能であるとの前提に立っている。
③ミネソタ大学(the University of Minnesota)(Dr. Andres Perez)
ミネソタ大学動物衛生食品安全センターのアンドレス・ペレス博士(Andres Perez)を中心に、PSPAP(prohibited swine products carried by air passengers)(航空機利用客によって米国内に持ち込まれた禁止豚肉製品)によりすでにアメリカに持ち込まれているアフリカ豚コレラウイルスの可能性について研究している。
航空旅客の手荷物に豚肉が密輸されることで、ASFウイルスが米国に侵入するリスクを推定している。
アフリカ豚コレラウイルスが、西ヨーロッパまたはアジアに広がる前に推定されたリスクよりも、183.33%増加。
リスクの大部分(67.68%)は中国と香港からのフライトによるものであり、続いて、ロシア連邦(26.92%)からのフライトによるリスクがそれに続く。
米国主要空港でのリスクは、既に高くなっているものと見込まれ、5つの米国の空港(①ニューアーク-ニュージャージー、②ジョージブッシュ-ヒューストン-テキサス、③ロサンゼルス-カリフォルニア、④ジョンF.ケネディ-ニューヨーク、⑤サンノゼ-カリフォルニア)でリスクの90%を超えている。
一方、2010年から2015年の間に、年間平均8,000の豚肉製品が押収されており、そのうち、ほぼ半数(45%)が、乗客の個人的な手荷物(PSPAP)から押収されている。
このペレス博士らの研究の成果は、今後のアメリカのアフリカ豚コレラ疾病監視における輸送ハブなどにおける重点的戦略構築に当たり、非常に意義のあるものとされている。
「Research Brief: Could African swine fever make its way into the United States?」
④サウスダコタ州立大学(South Dakota State University)(Dr. Diego Diel)
サウスダコタ大学のディエゴ・ディエル博士は、パイプストーン獣医サービス、およびカンザス州立大学の研究者と共同研究をしている。
サウスダコタ大学はパイプストーン獣医サービス研究者と協力し、2013年から豚流行性下痢(PED)と飼料との関係について研究してきた。
その過程で、飼料ミルの中の成分が、感染を広げていることをつかんできた。
これは、今回のアフリカ豚コレラウイルスについても、通用しうるとしている。
参考
「Lessons Learned From PEDV Could Keep ASF Out of the U.S.」
ディエゴ・ディール博士主導のもとに、パイプストーン獣医サービスのスコット・ディー博士とも協力し、100頭の豚を6グループに分け、ASFV感染飼料と非感染飼料を与えての実証実験を試行中である。
このプロジェクトはPipestone Veterinary Servicesの研究施設に設置されており、1室に100頭の豚が入り、それが6つのグループとなり、感染実験されている。
各部屋には専用のビンがあり、ウイルスに感染した飼料と感染していない飼料を分離しておいてある。
参考
「Researchers expand understanding of virus transmission in feed」
また、ディエル博士は、汚染された飼料成分にあるASFやセルカウイルスなど外来ウイルス由来のリスクを緩和させる緩和剤の評価を行っている。
テストされた緩和剤は10種類であった。
テストされたウイルスと成分の「高リスク」の組み合わせは、下記の通りであった。
①セネカウイルスAと「SVA、大豆ミール、リジン、コリン、ビタミンD」
②ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)と「大豆ミール、リジン、コリン、ビタミンD」
③豚生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)と「大豆ミールおよびDDGS」
④牛ヘルペスウイルスタイプ1(BoHV-1)&「仮性狂犬病ウイルス(PRV)と「大豆ミール、大豆油ケーキ」
との組み合わせで実験が行われた。
結果、いずれの緩和剤も、ウイルスを完全には不活化させることはできなかった。
ただ、二種類の緩和剤(KANA102およびMCFA)だけは、テストした4つのウイルスすべて(SVA、PEDV、PRRSV、BoHV-1)で有望な結果を示した。
これら二つの緩和剤はいずれも中鎖脂肪酸をブレンドしたものであった。
参考
「Feed Risk and Mitigation – Swine Health Information Center」
「Research results – Swine Health Information Center」
⑤アイオワ州立大学(Iowa State University)
アイオワ州立大学では、カンサス州立大学と協力し、Foundation for Food and Agriculture Research(FFAR)およびNational Pork Boardから50万ドルのファンドを受けて各種実験を行っている。
これまで、アイオワ州立大学では、2013年からアメリカに流行の豚流行性下痢ウイルス(PEDV)の輸入飼料への混入についての研究を、パイプストーン獣医サービスやサウスダコタ州立大学と共同し、パブロ・ピネリョー博士(Dr. Pablo Pineryo)やジェームス・ロス教授(James A. Roth)を中心に、行ってきた。
その実績が、今回のアフリカ豚コレラウイルスの検証にも生かせるものとしている。
アイオワ州立大学の研究者は、口腔液サンプルを使用して、大規模なサーベイランスを低コストで行う方法として、ロープを利用してのサンプリング方法を既に開発している。
また、アフリカ豚コレラは、豚肉製品の密輸を通じて、すでにアメリカ内に侵入しているとの結論づけをしている。
Ju Ji博士、Jeff J. Zimmerman博士、Sundberg P博士が、パイプストーン・南ダコタ州立大学・カンサス州立大学との共同研究「Survival of viral pathogens in animal feed ingredients under transboundary shipping models.」に参画している。
さらに、同大学のデルモット・ハイネス教授(Dermot Hayes)らは、アフリカ豚コレラの米国経済に与える影響について、「HayesWorld’s Largest Pork Producer in Crisis: China’s African Swine Fever Outbreak」と題する論考を発表している。
ハイネス教授は、既に、2011年に「World’s largest pork producer in crisis: China’s African Swine Fever outbreak Economy Wide Impacts of a Foreign Animal Disease in the United States 」と題する論文で、同じ警告を発していた。
参考
「FFAR and National Pork Board Fund African Swine Fever Research」
「World’s largest pork producer in crisis: China’s African Swine Fever outbreak」
⑥University of Minnesota
ミネソタ大学では以下のプログラムをパイプストーン獣医サービスと協力しジョーン・ディーン教授( John Deen)、ジェリー・シューソン(Jerry Shurson )、ペドロ・ウリオラ(Pedro Urriola)を中心に試行している。
「Relative risk of transmission of ASF in imported soybean products」
「University of Minnesota Swine Extension Program」
⑦Lincoln Memorial University College of Veterinary Medicine
ギルバート・パターソン博士(Gilbert Patterson)が共同研究「Survival of viral pathogens in animal feed ingredients under transboundary shipping models」に参画している。
⑧The Foundation for Food and Agriculture Research (FFAR)
カンザス州立大学とアイオワ州立大学の研究チームにASFVがどのように生き残るかを研究するために、FFARは全国豚肉委員会(NPB)と協調し535,780ドルを授与した。
⑨Swine Health Information Center (SHIC)
SHIC(Swine Health Information Center)は、NPPC(National Pork Producers Council)、National Pork Board、AASV(American Association of Swine Veterinarians)、USDAと緊密に協力し、また、業界との連絡を密にしながら、アフリカ豚コレラウイルスが米国に侵入しないための準備や対応、業界向けのツールの情報普及、監視、分析、研究、開発を行っている。
中国からの輸入大豆のアフリカ豚コレラウイルス感染のリスクについて
アメリカが中国から輸入している大豆の量は、年間約100,000トンであり、そのほとんどが有機大豆である。
これらのほとんどはアメリカカリフォルニア州オークランド港からアメリカに入ってきたものと思われている。
問題は、これら輸入された中国製大豆について、アメリカ側では、アフリカ豚コレラウイルスの感染についてのサンプリング&検査が行われていないことである。
このことに問題意識をもったミネソタ大学アフリカ豚コレラ対策チームは、今年7月10日にワークショップを行い、基本的なアフリカ豚コレラウイルス阻止戦略事項を確定した。
参考
「Relative risk of transmission of ASF in imported soybean products」
なお、日本の中国からの大豆の輸入は、2015年の数字ではあるが、29,287トン(うち黄大豆18,961トン、色大豆1,961トン)と、必ずしも多くはない。
圧倒的に多いのは、アメリカからの大豆だが、アメリカのASF飼料汚染が日本へ間接的に移動する可能性はあり得る。
カナダのASFリスク国からの飼料規制について
アメリカに比して、カナダのASFリスク国からの飼料規制は厳格である。
穀物、油糧種子などは、中国などのASF感染国において、屋外に収容され、天候にさらされ、家畜糞尿にさらされる可能性があるとして、高いリスクの可能性があるものとしている。
これらASFリスクの多いものの輸入を規制するため管理区域を設けている。
輸入業者は、製品の最終用途をマニフェストする必要があり、これによって輸入原料のトレーサビリティが可能となる。
2019年3月に政府命令がだされ、下記の条件が課せられた。
①過去5年間にASF感染動物を有す国(家畜または野生のブタ)からの輸入飼料製品(穀物または油糧種子)がアラートリストに掲載され、その詳細はオンラインで入手できるようになった。
②このアラートリストに掲載された輸入飼料については、下記条件により、一定の保管期間を課したり、一定の熱処理を適用することになった。
③アラートリスト掲載国から原料を輸入する場合
国際港に限って、穀物、油糧種子、ミールは、華氏68度(摂氏20度)で20日間。
内陸倉庫においては、華氏50度(摂氏10度)で100日間
保持する必要がある。
④熱処理は、原産国またはカナダで、華氏158度(摂氏70度)で30分間、華氏180度(摂氏82度)で5分間適用する。
参考
「Relative risk of transmission of ASF in imported soybean products」
「Importers: Understanding feed controls to prevent African swine fever」
「Import requirements for plant-based feed ingredients imported for use in livestock feed」
結論
以上に見たように、アメリカへのアフリカ豚コレラウイルス侵入はすでに確定的とも言えそうだ。
その要因として、中国の有力な養豚地帯からの感染拡大が主たる原因としている見方もあるようだ。
翻って、日本への中国産飼料の輸入感染リスクはどうだろう?
アメリカと同じリスクはあるはずだ。
これまでの豚肉加工品の日本国内への検疫監視体制だけでは、必ず、アフリカ豚コレラウイルスは、アメリカでのリスク同様、飼料関係を通じて入ってくるだろう。
いや、アメリカ同様、既にもう入ってきているのかもしれない。
まさに「感染豚はまた出ていないが、ウイルスは既に入ってきている」と見たほうがいいのだろう。
そのことを前提に、早急なウイルス侵入阻止戦略を再構築する必要があるものと思われる。
以上
2019年11月4日記載 笹山 登生