Sasayama's Watch & Analyze


2012年3月10日

広域処理よりも、震災瓦礫で、津波・震災被災地に山を作れ

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  • 進まない震災ガレキの広域処理

東日本大震災と津波によって生じた瓦礫の広域処理が遅れている。

今回の東北大震災の際に生じた瓦礫 (災害廃棄物) は 2,272 万 6,000 トン(環境省)とも 2,673万トン(京都大学)ともいわれている。

また、被災車両 は408,631台、被災漁船数 は18,936 隻、漂流船数は 461 隻 と言われている。

この瓦礫には放射性物質に汚染されている懸念のあるものと、そうでないものとがあって、このことが、広域瓦礫処理のスキームの足を引っ張っている。

震災ガレキの広域処理の根拠法は?

では、瓦礫処理は何の根拠法でもっておこなわれているのか?

昨年8月に成立したがれき処理特別措置法(東日本大震災により生じた災害廃棄物の処理に関する特別措置法案  )においては、がれき処理を国の責務と規定し、処理費用の国の補助率は平均95%とし、あとの5%は地方交付税などで手当てし、地方負担はゼロとなっている。

また、がれきの収集、運搬、処分の実務を国が代行し、一時保管場所や最終処分場確保のため被災地以外の自治体に協力を求めるものとしてある。

しかし、このがれき処理特別措置法では、第三条において「(国は)計画的かつ広域的に講ずる責務を有する。」とあり、第四条において「三.当該災害廃棄物の広域的な処理の重要性」とはあり、第六条において「特定被災地方公共団体である市町村以外の地方公共団体に対する広域的な協力の要請及びこれに係る費用の負担」とあるのみである。

また、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)との関係については、第二条において「災害廃棄物とは廃棄物処理法第二条第一項に規定する廃棄物をいう」とし、第四条において「(国の代行については)廃棄物処理法第十九条の四第一項の規定は、適用しない。(措置命令の例外)」としている。

つまり、がれき処理特別措置法では、広域処理のスキームは前面には想定されておらず、広域的処理の必要性(第四条1-三)と、そのための被災地市町村以外への広域処理の協力要請(第六条1)とそのための国の費用負担(第六条1)をうたっているのみである。

しかも、災害廃棄物を廃棄物処理法第二条第一項に規定する廃棄物とみなしている以上、そこでは第2条において「放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。」と規定されている以上、放射性物質に汚染された災害廃棄物は、がれき処理特別措置法の対象とならないことになってくる。

また、廃棄物処理法における「広域処理」についての規定としては、第4条において「広域的な見地からの調整を行うこと」についての国・地方公共団体としての責務の規定があり、第9条の9において「一般廃棄物の広域的処理に係る特例」がもうけられ、第15条の4の3において「産業廃棄物の広域的処理に係る特例」がもうけられ、第15条の5において「(広域的処理のための廃棄物センターの)指定」に関する条項があり、第19条2において、「広域的処理認定業者」についての検査の規定がある。

矛盾している放射性物質汚染ガレキの処理の法的根拠

そもそも、私は、震災がれきを、廃棄物処理法の対象とする廃棄物の処理と連動させていること自体がおかしいと思っている。

震災瓦礫は廃棄物であって廃棄物ではない。

廃棄物処理法のもとで、処理するのではなく、環境基準の逆の意味でのデ・レギュレーションの元に、ガレキ発生地区を環境規制緩和特区として位置づけ、現地において迅速に処理するべきものと思ってる。

つまり、津波震災被災地における環境物質汚染の許容度(閾値)を上げて、瓦礫の現地での迅速処理化を優先し、広域処理による汚染の日本列島への希釈された拡大は防ぐべし、 という主張だ。

しかし、国・民主党政権は、廃棄物処理法に準じての、「丁寧な処理」を志向したがために、いたずらに、月日を費やしている。

このことは、本来津波震災被災民が持っているであろう「復興のための貴重な時の利益」を時々刻々失わせているのである。

ここで決定的なのは、放射性物質によって汚染されているかもしれないガレキが、がれき処理特別措置法と放射性物質汚染対処特別措置法との二つの特別措置法にまたがってしまっているということである。

今回のかなり広域にわたるホットスポット形成によるガレキの放射性物質への曝露・汚染を考えれば、がれき処理特別措置法の特定被災地方公共団体と、放射性物質汚染対処特措法の指定汚染廃棄物対策地域とは、必ずしも一致しないからだ。

がれき処理特別措置法では災害廃棄物を廃棄物処理法第二条第一項に規定する廃棄物とみなしているのに、当の廃棄物処理法第二条第一項に規定する廃棄物には「放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く」とされているということである。

なお、「100ベクレルが原子力規正法のクリアランスレベルなのだから、100ベクレル以下の瓦礫であれば廃棄物処理法第二条第一項に規定する廃棄物に該当しうる」との見解も行政側にあるようだ。

しかし、当の廃棄物処理法には廃棄物処理法第二条第一項に規定の「放射性物質及びこれによつて汚染された物」の規定はない。

一方、放射性物質汚染対処特別措置法(平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法)の第二十二条において、廃棄物処理法第二条第一項に規定する廃棄物の対象について「放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く廃棄物」の部分を次のような読み替えることとした。

すなわち、廃棄物処理法の対象とする廃棄物は「”放射性物質汚染対処特措法第一条に規定する事故由来放射性物質によつて汚染された物”を除く、放射性物質によつて汚染された物」とし、つまり福島原発由来以外の放射性物質汚染物については、依然、廃棄物処理法の対象としないが、「放射性物質汚染対処特措法第十三条第一項に規定する対策地域内廃棄物、放射性物質汚染対処特措法第十九条に規定する指定廃棄物その他環境省令で定める物」については、廃棄物処理法の対象とする、ということになる。

したがって、廃棄物処理法第二条第一項の対象とするのは「放射性物質汚染対処特措法第十三条第一項対策地域内廃棄物、第十九条に規定する指定廃棄物その他環境省令で定める物」ってことになる。

となると、放射性物質に汚染された可能性のあるガレキについては、「放射性物質汚染対処特措法第十三条第一項対策地域内廃棄物、第十九条に規定する指定廃棄物その他環境省令で定める物」は廃棄物処理法第二条第一項の対象になることになる。

以上のことから、災害瓦礫の広域処理というスキームには、かなりの無理があるものと感じられる。

減災の観点からはオンサイトでの処理が優先されるべき

それ以前に、この災害瓦礫の広域処理というスキームは、減災(ミチゲーション)の理念に沿ったものであろうか。

ミチゲーションの概念において、ゼロ・ネット・ロスによって環境のトレードオフを実現しようとする場合、まずは、現地(オンサイト)でのトレードオフ実現を試み、それでもトレードオブが実現しない場合にのみ、はじめて非現地(オフサイト)でのトレードオフ実現を試みるのが鉄則だ。

たとえば広大な湿地地帯に鉄道を通す場合、それによって失われた湿地の回復をまずどこでするかといえば、現地での湿地造成をまず試み、それがかなわない場合は、ミチゲーション・バンクによる隔地での湿地造成によって、総体としてのノー・ネット・ロスを試みる。

ましてや、災害瓦礫に放射性物質汚染の高度の蓋然性がある場合は、なおさらである。

では、前段階での現地(オンサイト)でのトレードオフ実現となる瓦礫処理の方法はあるのだろうか?

類似しており、見習うべきドイツでの戦争瓦礫の処理の歴史

ここで思い出されるのは、第二次世界大戦後のドイツでの戦争瓦礫(Trümmer)の処理である。

ベルリンにあるTeufelsbergは別名「悪魔の山」と呼ばれている戦争瓦礫で作られた山である。

このビデオの6分あたりに瓦礫の山が作られるまでが画像で描かれている。

冷戦中はこの山から東ベルリンからの電波を捉えるために利用されたともいわれる。

今ではこのように市民の憩いの場として絶好な場所である。

1970年には、登山練習用のクライミングタワーも設置され、にぎわっている。

シュツットガルトのGrüner Heinerの山上には風力発電の風車が設置されている。(ビデオはこちら)

また、ミュンヘンのオリンピック公園は第一次大戦の瓦礫でつくられた。

平坦な土地に起伏のある場所が生まれ、自然公園の趣を見せている。

ドイツ語でSchuttberg または Müllberg と呼ばれる戦争瓦礫で作られた山は、ドイツにいくつもあるし、主要な都市には必ずある。

このサイトにそれぞれの都市に作られた瓦礫の山の名前と高さと使われた瓦礫の量などの一覧表がある。

海抜で一番高いのはミュンヘンのOlympiabergで海抜567メートル、

地上からの高さが一番高いのはミュンヘンのFröttmaninger Bergで地上75メートル、

埋め立て量のもっとも多いのがシュツットガルトのBirkenkopfで1500万立方メートル

である。

先に紹介したベルリンの    Teufelsbergは海抜メートル114メートル、地上55メートル、埋め立て量1200万立方メートルである。

ドイツの戦争瓦礫で作られた山々(山の高い順に掲載)

①ミュンヘンのFröttmaninger Berg (山の高さ75m)

②シュツットガルトのGrüner Heiner (山の高さ70m)

③ハノーバーのMonte Müllo (山の高さ65m)

④メンヒェングラートバッハのRheydter Höhe (山の高さ64m)

⑤アウグスブルグのAugsburger Müllberg (山の高さ55m)

⑥ベルリンのTeufelsber (山の高さ55m)

⑦ミュンヘンのOlympiaberg (山の高さ50m)

⑧フランクフルトのMonte Scherbelino (山の高さ47m)

⑨ミュンスターのMünster-Coerde / Rieselfelder Münste (山の高さ47m)

⑩ライプチッヒのFockeberg (山の高さ40m)

⑪ベルリンのKleiner Bunkerbergと Großer Bunkerberg (山の高さ48mと78m)

⑫シュツットガルトのBirkenkopf (山の高さ40m)

⑬プフォルツハイムのWallberg (山の高さ40m)

⑭ニュルンベルグのSilberbuck (山の高さ38m)

 

⑮ミュンヘンのLuitpoldhüge (山の高さ37m)

⑯ケルンのHerkulesber (山の高さ25m)

⑰ライプチッヒのRosentalhügel (山の高さ20m)

 

 

震災瓦礫での山作りの問題点は?

では、このドイツの例に倣って、今回の東日本の津波震災の分別後の瓦礫処理を現地における山の構築によった場合、どのような環境的な問題が生じるのであろうか?

これらの瓦礫は、まさに通常の生活環境の下では環境汚染物質と言われるものの集合体ともいえる。

ダイオキシン、PCB、アスベスト、有毒化学物質、それに放射性物質などなど。

これによる地下水の汚染は免れないであろうし、そのことで津波震災地での更なる風評被害を招くことも確かであろう。

しかし、汚染物を広域処理で希釈するのと、オンサイトでの処理を優先するのと、マクロでの環境被害はどちらが少なくてすむのだろうか?

オンサイトでの現地処理であれば、環境汚染物質のある程度のシールドは可能であろうし、不特定多数の住民への暴露をある程度さけられうる。

:傾聴に値すべき宮脇昭さん提唱の「震災瓦礫による緑の壁」構想

また、植物生態学の学者の宮脇昭さんが提唱されているように、

「瓦礫の山の中から有害なものや分解不能なものを除き穴を掘って土とともに瓦礫を埋め、マウンドを作り、その上に植樹すると約20年で自然豊かな森ができる。

マウンドを高くすることによりそれらが緑の壁となって津波のエネルギーを減少できる緑の防潮堤となることで、かなりの高さの津波を防ぐことができる」

との提言も、一聴に値するものと思われる。

ガレキの山作りが現地の雇用の場作りとなり、なによりも、永遠に後世代に悲劇を伝えうる自然のモニュメントとなりうる

そして、何よりも、この瓦礫の山作りそのものが、雇用のない被災地での何よりの前向きの公共事業になり、被災者のかけがえのない換金回路になりうるのだ。

そして、それによって作られたオープンスペースは、レクリェーションの場としても、さらには、自然エネルギー基地としての役割も果たしうるはずだ。

さらに言えば、この震災瓦礫で作られた緑の山々が、はるか後々の世代の人々に対する、永久不滅の危険予知のための震災モニュメントともなりうるのだ。(戦争瓦礫で作られた山・ドイツ・シュツットガルトのBirkenkopfの山上には大きな十字架が掲げられ、山それ自体が、戦争の無意味さを示す戦争モニュメントとなっている。)

このことの意義は何物にも変えがたく大きいものと私はおもう。 以上

参考.ドイツの戦争ガレキで作られた山の高さとガレキの埋設量

都市の名前-戦争がれきの山の名前-山の高さ-埋設したガレキの量
①ミュンヘン-Fröttmaninger Berg-75m-1200万立方メートル
②シュツットガルト-Grüner Heiner-70m-?
③ハノーバー-Monte Müllo-65m-?
④メンヒェングラートバッハ-Rheydter Höhe-64m-?
⑤アウグスブルグ-Augsburger Müllberg–   55 m-740万立方メートル
⑥ベルリン-Teufelsberg-55m-1200万立方メートル
⑦ミュンヘン-Olympiaberg-50m-?
⑧フランクフルト-Monte Scherbelino-47m-1200万立方メートル
⑨ミュンスター-Münster-Coerde / Rieselfelder Münste-47m-730万立方メートル
⑩ライプチッヒ-Fockeberg-40m-?

⑪ベルリン-Kleiner und Großer Bunkerberg (Mont Klamott)-40m-2500万立方メートル
⑫シュツットガルト-Birkenkopf-40m-1500万立方メートル
⑬プフォルツハイム-Wallberg-40m-165万立方メートル
⑭ニュルンベルグ-Silberbuck-38m-553万立方メートル
⑮ミュンヘン-Luitpoldhüge-37m-?
⑯ケルン-Herkulesberg-25m
⑰ライプチッヒ-Rosentalhügel (Scherbelberg)-20m
その他10箇所