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世界に先駆けてオーストラリアとともに作ったとされる、日本の「送信可能化権」も、いよいよ高まる音や画像のストリーミングピア・ツー・ピア時代到来とともに、ますます、やっかいな存在となってきているとおもうのは、わたくしだけであろうか。



世界の動き

1886年、著作権の権利に関する基本条約である「ベルヌ条約」(著作権関連条約については、ここも参照)が採択されて以降、、WIPO(世界知的所有権機関)の場において、時代の変化に応じた対応をおこなってきたが、近年のデジタル社会到来という時代の変化に対応し、1996年12月20日、ジュネーブで、「WIPO著作権条約」「WIPO実演・レコード条約」の2つの新たな条約が採択された。

 その結果、ここでは、インタラクティブな電子ネットワークのもとで、著作者に、「送信行為」とともに、その前段階である「公衆に提示される状態に置く行為」についても、「アップロード行為に対する権利(利用可能にする権利)」としてカバーする内容の「公衆への伝達権」が明確に規定され、あわせて、実演家・レコード製作者といった著作隣接権者にも、この「アップロード行為に対する権利(利用可能にする権利)」が認められた。

「WIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty: WCT)」において、送信可能化権は、

8条「公衆への伝達権」において、
「文学的及び美術的著作物の著作者は、その著作物について、有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利を享有する。」とし、

また、10条1項において、
「締約国は、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合には、この条約に基づいて文学的及び美術的著作物の著作者に与えられる権利の制限又は例外を国内法令において定めることができる。」とし、
締結国での著作権法に、送信可能化権を盛り込むことをもとめていると同時に、

同じく10条2項において、
「締約国は、同条約に定める権利の制限又は例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する。」として、
締結国の実情に応じた例外を認めている。

また、「WIPO実演・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty: WPPT)」においては、WPPT2条(b)において、レコード(phonogram)を「音の固定物又は音の表現の固定物」とし,WPPT2条(c)において、固定物を「音の収録物又はその表現物で,適切な装置を通じてこれらが知覚され,再生され又は伝達され得るもの」をいうと定義していることから,
音声をデジタル化して圧縮・エンコードしたものもレコードにあたると解されている。



日本の送信可能化権

 これを受け、日本でも1997年6月、著作権法が改正され、98年1月1日から施行された。
http://www.iaj.or.jp/IAJNEWS/vol5/5-4-sr2.html や、http://www.mars.dti.ne.jp/~kos/law/lives/urhrecht/urhr-11.htmlを、参照

この著作権改正にあたっては、23条1項で「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、信可能化を含む)を行う権利を専有する」と規定した。

この23条の「公衆送信」とは、2条1項7号の2で定義されており、また、「自動公衆送信」は9号の4で「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの・・・をいう。」と定義されており、さらに、「送信可能化」は9号の5で「・・・・自動公衆送信しうるようにすることをいう。・・・」と定義されている。

この規定によって、他人の著作物をインターネットで公開するときには、送信可能化権についての許諾、つまり、インターネットで公開してもよいという許可が必要になった。

ここで、公衆送信とは、「
公衆によって直接受信されることを目的として・・の送信(・・・同一の構内・・にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」とされた。

これによって、同一構内でのLANでつながれた送信は、プログラムの著作物の送信は、送信可能化権の対象となるが、たとえば、1つの電子百科辞典を保存し、多数のクライアントで使用する場合などは、対象外となる。

すなわち、同一構内でない送信は、すべて、送信可能化権の対象になり、同一構内での送信についても、プログラムの著作物の送信については、対象となる。

もっとも、同一構内でLANで結ばれているクライアントが数台しかつながっていない場合のプログラムの著作物の送信については、この限りではないようである。

詳しくは、http://www.venus.dti.ne.jp/~inoue-m/cr_copyright_lawb.htm を参照

極端にいえば、日本の「送信可能化権」のもとでは、ダウンロードであろうと、ストリーミングであろうと、ファイル形式がMP3であろうと、WAVであろうと、本放送用であろうと、予備にとりあえずアップロードしたゴミのようなファイルでも、オンデマンドだろうと、ライブだろうと、アップロードしたとたん、著作権者の了解を得ていないものは、「送信可能化権」に触れてしまうのである。(ストリーミングのダウンロードについては、リアルオーディオとストリームボックスとの問題参照)



オーストラリアの送信可能化権

日本と同じく、著作権に送信可能化権を盛り込んでいるのは、オーストラリアだけである。

オーストラリアは、すでに、1968年の著作権法で、著作権のあるもののcopy,adapt,publish,publicityには、強い制限があったが、これを修正する形で、2001年3月4日より、公衆へのコミュニケーションについて、ウェブなどのオンラインにおいて、電気的な送信(これには、メールやFTPもふくむ。)において、著作権物を公衆に送信することを禁じることになった。

その辺の経緯についてはhttp://www.library.uq.edu.au/iad/copyright/quickguide.html や、http://www.law.gov.au/publications/digitalsubs.htm
http://www.nla.gov.au/policy/copyright.htmlを参照。

これらの過程を経て、2001年3月4日から、「Copyright Amendment(Degital Agenda) Act2000」http://www.law.gov.au/publications/copyfactsheet/copyfactsheet.html が施行された。(修正個所のダウンロードはこちらから)

これによって、subsection 10(1)に、以下の部分が挿入された。

Communicate means make available online or electronically transmit (whether over a path, or a combination of paths, provided by a material substance or otherwise) a work or other subject-matter.

ちなみに、オーストラリアの「送信可能化権」は、「Right of Making Available and Enforcement Measures」といい、日本の「送信可能化権」の英訳は、「Right of Making Transmittable」としている。



File-Rogue問題での送信可能化権

現在、日本において、この送信可能化権が問題になっている典型的なものが、日本版ファイル交換であるFile-Rogue問題である。

現在、ファイル交換ソフトには、おおきく、サーバーにクライアント・アクセスし、ファイルを送受信する「クライアント・サーバー型」と、ユーザー同士のコンピュータが対等にファイルをやり取りする「P2P型」とがある。

このP2P型は、さらに、ファイルリストのやり取りだけは「クライアント・サーバー型」であるものと、 ファイルリストも、すべてユーザーのコンピュータで管理する、「完全P2P型」とに分かれる。

現在のファイル交換ソフトとしては、このFile-Rogueのほかに、代表的なものとしては、WinMX,Napstar,Gnuterlla,BearShare(Gnuterllaクローン),Limewire,eDonkey,などがある。

そのほか、メッセージ交換型ソフトとして、ICQ,MSNMessenger,IRCクライアント、Trillianなどがある。

2002年1月25日JASRACは、「ファイルローグ」によって管理著作物の複製物であるMP3ファイルを交換することは、著作権法が定める複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)の侵害に当たるとして、JASRACが管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を複製したMP3ファイルの交換停止を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てた。
(http://www.jasrac.or.jp/release/02/01.html参照)

これに対し、「ファイルローグ」側は、「ノーティス・アンド・テイクダウン手続き」を適用するから違法ではないと、主張している。(http://www.zdnet.co.jp/news/0111/29/mmo.htmlhttp://www.filerogue.net/http://www.filerogue.net/ntd.html参照)

ここでいう、ノーティス・アンド・テイクダウン手続とは、著作権侵害を主張する者からの一定の通知に基づき、サービス・プロバイダーが当該著作物の削除等の措置を行う一連の手続を言う。

すなわち、送信可能化権を持つものが、著作権侵害があったと申し出があれば、プロバイダーが削除するというものである。

ここで、注意すべきなのは、日本の著作権法と、アメリカの米国デジタルミレニアム著作権法(DMCA-Digital Millennium Copyright Act )とでは、この「ノーティス・アンド・テイクダウン」の扱いが異なっていることである。

アメリカの場合は、違法なファイルがあれば、発信者に通知しなくとも、プロバイダーの自主判断で、すぐ削除すればそれでオーケーであるのにたいし、日本の場合は、いちいち、プロバイダーが発信者に、削除していいかどうか、お伺いを立てなくてはならない。

いってみれば、ファイル・ローグ側の言い分は、「ファイルを入れるカゴは、用意しますが、カゴに入るファイルの中身にまでは、私どもは、関知しません。もし、そのファイルの中身に差し障りがあったら、いつでもいってください。すぐに除去しますから。」ということなのだろう。

これに対し、JASRACの言い分は、違法ファイルが入りかねないTransmittableなカゴを、ウェブ上に用意すること自体が、違法であるという言い分なのであろう。

では、ピア・ツー・ピアの概念においては、個人のハードディスク自体も、 そのTransmittableなカゴになり得るのではないのかという疑問が、そこからうまれてくる。

このように、このファイル・ローグ問題は、ピア・ツー・ピア時代の送信可能化権を考える上で、いろいろな示唆を私どもに与えてくれる。

(追記−2002年3月28日、アムステルダム控訴裁判所は、KaZaA社の技術を使って著作権侵害行為が行われているとの訴えに対し、「これはユーザーが犯していることであり,KazaA社は関わっていない」との判決を下した。

ちなみに、Napsterが純粋なP2Pではなく、ネットワークに接続するユーザーを結び合わせるための“中央サーバー”が存在するのに対し、KaZaAの場合、クライアントソフトウェアが一度ユーザーのPCの中にインストールされてしまえば、彼らが何をしようがそれを防ぐ方法がないとの主張をしていた。

http://www.fuji-ric.co.jp/ccse/books/cho95.html  http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0329/kazaa.htm参照)


(追記-2002年4月9日、東京地裁は、日本のファイル交換サービス「ファイル・ローグ」にたいし、差し止め命令をくだしたhttp://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0409/mmo.htm が、この問題の焦点である「ツール提供者」についても、送信可能化権侵害が発生するという判断は、今後、いろいろな面で波紋を呼ぶだろう。

とくに、P2P時代においては、クライアントサーバーと異なり、送信者とサーバーとが一体となっている。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/008/010601.htm にみる通り、文化庁は、「個人のハードディスクは、法律的には、業者のサーバーとおなじ。」とみなしているのだから、個人のハードディスクに共有ファイルソフトを有すること自体、「ツール提供者」とみなされ、結果、コンピュータを持つ個人の多くが、著作権侵害者の可能性をもつことになる。

まして、同じ、ハードディスクを持つ日本人個人が、アメリカに滞在している場合は、送信可能化権侵害から免れるのに、同一人物が、同じコンピュータを、日本国内に持ち込むと、送信可能化権侵害の恐れが生じるという、矛盾が生じる。

この東京地裁の差し止め命令に対してのファイルローグ側の見解は、 http://www.filerogue.net/20020410.html の通りである。)



ピア・ツー・ピア時代における自動公衆送信の概念の変化

「ファイルローグ」にかぎらず、コンピュータ同士を結んでしまうピア・ツー・ピアの進展には、近年、めざましいものがある。

むしろ、いま、我々がすべきことは、ファイル交換問題などの際物的な訴訟騒ぎに目を奪われることなく、ファイル交換以外のP2P技術の進展が、 21世紀社会を大きくかえうることに、我々は、もっと注目し、そのための社会諸制度の整備に意をもちいることが、いま、もとめられているのではなかろうか。


たとえば、
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2001/0404/p2ptel.htm
にみるように、数百万台のPCを結んで世界最大規模のコンピューティング環境を構築し、医療研究に取り組むプロジェクトなど、超並列システムを活用したプロジェクトが、目白押しにある。

また、フランスのデクリプソン プロ ジェクト などに見るような、地理的に分散する複 数のコンピュータをネットワークで網の目(グリッド)のよ うに結び、 バーチャルな高性能コンピュータとするグリッドコンピューティングや、Platform Grid Suite,アメリカのSun MicrosystemsのP2P技術開発計画「Project JXTA」など、協調作業やリソースの共有、コンテンツ共有ネットワークによる、巨大プロジェクトがある。

P2P技術の進展は、、ユーザ間の情報交換のプロセスを、これまでの「インターネット・プロバイダ(ISP−Internet Services Provider)レベルでのインターネットの分散」から、「ユーザのレベルでの分散」へと、ホロニックに転化させることを意味する。

1997年の著作権法改正において、送信可能化権という新しい概念が導入された時点では、「他のユーザが自由なアクセスをすることができる自動公衆送信用記録媒体を介する。」として、媒介者のインターネット・プロバイダ(ISPInternet Services Provider)が、ユーザーやデータを一元管理するという前提にもとずいたものであった。
http://www.wakhok.ac.jp/~ichinohe/p2p.htm  参照

しかし、現在のピア・ツー・ピアにおいては、途中にプロバイダレベルで運用されるサーバを利用して蔵置する必要がなく、すべてのデータはユーザのハードディスクで管理されるし、データの所在を明らかにするインデックス情報やユーザのアクセス状況、公開されているファイル情報を、中央サーバにおいて管理する必要がなくなる


ここにおいては、それぞれの個がクライアントでもあり、サーバーでもあるのだ。

いわば、個人のディスクが、個人情報を蓄積する記録媒体であると同時に、他のユーザーからのアクセスを許す記録媒体でもあるという、二重性を持ったものに変化しているのである。

ところが、日本の著作権法における「自動公衆送信」の規定においては、「リモートサーバーのデータへの、公衆からのアクセス」を前提としている。

さらに、常時接続の形で、サーバーを介さず、いくつものコンピュータが、ワイアードの状態(http://www.hotwired.co.jp/bitliteracy/iwatani/001003/参照) にあり、結果、各コンピュータのハードディスク内のファイルは、個人使用と一般公開の垣根が不明瞭な状態で、送信可能化の状態にある。

ちなみに、国境を越えたサーバーと送信者との関係については、次のような考えがある。

1.日本の利用者(受信者)からのリクエストに応じる時、サーバーと送信者が異なった国である場合には、送信者のいる国の著作権が適用される。(利用者やサーバーが日本であっても、送信者がアメリカの場合は、アメリカの著作権適用。
なお、逆に、サーバが外国で、 日本の送信者がアップロードした場合、送信可能化権が発生するかどうかについて、1999年1月19日の著作権審議会では、「複製と送信可能化とは、結果に注目するので、外国に権利は帰属する」としているが、著作権法第2条第1項9号の5のロの適用(日本国内における一連の送信行為の水際での最後の、「状態にする」行為との解釈をすれば)により、送信者については、送信可能化権は、適用できると、私はおもう。)

2.日本の利用者(受信者)からのリクエストに応じる時、サーバーと送信者が同一の国である場合には、サーバー所在の著作権が適用される。(利用者が日本であっても、サーバーがアメリカの場合は、アメリカの著作権適用、この場合、送信者が日本人であっても、送信可能化権は、適用されない。)

したがって、送信者とサーバーが同一の場合−すなわち、ピア・ツー・ピアの場合−には、常に、2 の場合の適用となる。

同一モバイル・コンピュータを 各国持ち歩き、同じコンテンツを送信しても、ピア・ツー・ピアの状態においては、そのハードディスク所在地すなわち発信地の著作権が、各国の異なる基準の基に適用されるというわけだ。

このようなことから、日本においては、ピア・ツー・ピアの時代での、個人のハードディスクに納められているファイルは、許される複製権の行使によってハードディスクに蓄積された情報であってもなくても、それが個人的目的のものであろうと一般公開の目的のものであろうと、善意の意図のものであろうと悪意の意図のものであろうと、にかかわらず、一律に、送信可能化の状態におかれているということになる。

このことは、デジタル情報公開規制に関する、他の法律の解釈にも、影響をあたえかねない。

たとえば、 「プロバイダ責任法」第2条「特定電気通信」の定義で、不特定の者によって受信されうる状態を生ぜしめれば、 特定電気通信がなされたと解釈されるが、これは、著作権法第2条第1項第9号の5にいう 「送信可能化」状態を含む趣旨であると解釈される。

また、「個人情報保護法案」 http://www.mainichi.co.jp/digital/houan/01.html における「本人が容易に知り得る状態」 ( こちらも参照 )とは、それがデジタル個人情報であれば、「送信可能化の状態におかれたデジタル個人情報」ということになる。

もし「送信可能化権」が、サーバー蓄積情報ばかりでなく、個人のハードディスクに蓄積された情報までふくむとするのなら、個人情報保護法における「本人が容易に知り得る状態」-すなわち、個人情報取扱事業者が、本人に通知しないでも、、第三者に提供することのできる個人データの範囲-は、とてつもなく広い概念となってしまうのではなかろうか。



日本の送信可能化権は、ユビキタス新時代に対応できるか?

こうなると、インターネット・プロバイダ(ISP−Internet Services Provider)レベル時代に考えられた送信可能化権というものが、ピア・ツー・ピアの時代においては、無力化した概念に変化していると同時に、その適用次第では、個人の領域にまでおよぶ、過大な適用をされかねない環境におかれているといえるだろう。

これは、単に、著作権の換金回路である、「データをダウンロードしたものからデータの提供者に対して、何らかの対価を支払うという構造が成立しない。」ことのみでなく、「自らのコンピュータのハードディスクに、個人使用と一般公開を意識せずに、データを蓄積すること自体に、送信可能化権侵害の危険を生じる。」ことの、社会的なマイナスをも意味する。


ACCS,JASRAC,RIAJは、この記事のように、「世界に冠たる送信可能化権」と自画自賛しているのだが、これでは、まるで、「犬くぼう」といわれた徳川綱吉が、イヌの戸籍を作らせたり、金魚の数まで登録させたりまでした「生類憐れみの令」ならぬ「送信可能化権あわれみの令」ではないのか。

ここに、個人の聴く権利(リスナーの権利)というものを、どうやって保証していくか、大きな課題となってくる。

ましてや、21世紀は、「ユビキタス(ubiquitous)」の時代であるともいわれている。

いたるところに、コンピュータがあり、それらが、常時、ワイアードの状態にある。−そのような時代の到来だろう。

そのさきがけとなる動きとして、ワイアレス・ファイデリティー(Wireless Fidelity)(または、Wi-Fi )の発想がある。(これについては、http://www.nipc.gov/publications/nipcpub/bestpract.html 参照)

このところ、飲食店・コンビニ・ホテル・空港など、一定のホットスポットで、ノートパソコンやPDAなどを対象に、無線LANが使えるサービス( 「Genuine」や「HI-FIBE」など)があるが、これを、もっと規模を拡大し、ある町のスクエアなどにいくと、無線のLANが使えるようにするというのが、この発想だ。

一定範囲の微弱電波で、逆に人をフェロモンのごとく集めようとするもので、いってみれば「ユビキタス時代」の「界隈」を、このインフラで出現させようするものだ。

これは、将来の都市の新しいインフラとなりうるだろう。



「本来の著作権を守ること」と、「著作権を利用したビジネスモデルを守ること」とは、違うのではないか?

ここにきて、著作権についての新しい考え方が生まれてきているのでご紹介しよう。

フランスのル・モンド・ディプロマティック誌(Le Monde diplomatique )に、2001年9月、掲載されたユトレヒト芸術大学研究所長Joost Smiers氏の知的著作権に関するPLAIDOYER POUR L'ABOLITION DES DROITS D'AUTEUR」と題する論文には、次のような考えがのべられている。(「音楽配信メモ」より転載)(機械翻訳による全文の英訳は、こちらを参照)

「 かつては望ましいものだった著作権という概念はこのように、ごく一部の企業が知的・創造的な共有財産を支配する手段に成り果ててしまった。(中略)
この独占的支配には恐るべき結末が待ち受けている。

エンターテイメント産業を独占するいくつかの企業は自社が権利を所有する芸術作品や娯楽作品しか流通させない。

プロモーション活動は数人の大スターに集中し、大々的に 資金が注ぎ込まれて関連商品で収益が上がる。

リスクが高く投資の回収が急務であるために、各消費者に対して 激しい商戦が世界的に繰り広げられて、他の文化活動が人々の目に入らなくなってしまうわけだ。 (中略)

著作権という制度によって富を得ているのは大企業だけである。」http://www.monde-diplomatique.fr/

また、アメリカ上院議員のリック・バーチャー(Rick Boucher)氏は、かねてから、「過度の著作権行使乱用は、ユーザーの聴く権利を犯す。」との主張をしている。
( http://news.com.com/2010-1078-825335.html
http://detnews.com/2002/technews/0202/04/b01-406752.htm

http://conferences.oreillynet.com/cs/p2pweb2001/view/e_spkr/992
http://www.thestandard.com/article/0,1902,28395,00.html
参照)

さらに、日本でも『コード──インターネットの合法・違法・プライバシー』の著書で知られるスタンフォード大学のローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)教授は、「著作権至上主義は、文化の衰退をもたらす。」との主張を、かねてからされている。(2001年11月、アイルランドで開催したThe Darklight Perspectives Conference での教授の講演"Why Copyright Laws Hurt Culture"の模様はこちら内容はこちら)(この教授の見解についての一問一答
(http://www.eff.org/IP/DMCA/US_v_Elcomsoft/20010730_lessig_oped.html も参照)

上記『コード──インターネットの合法・違法・プライバシー』 で、氏は、サイバー空間においても、総有・共有の概念をもったコモンズが必要であるとの主張をしている。

このほか、「著作権の過度の行使によって、一部のレコード会社が独占的な利益を得ているのは、フェアな市場を硬直的なものにしていることだ。」との主張や、
「著作権がパッケージ側の権利のみ守るためのみにあり、ノンパッケージ側の権利やリスナー側の権利が守られない。」との主張なども、ますます強くなってきている。

私は、この頃、「本来の著作権を守ることと、著作権を利用したビジネスモデルを守ることとは、違うことなのではないか。」と、おもっている。



ピア・ツー・ピア時代の著作権のあり方を考え直すべき時

世界への日本のアーティストのノンパッケージによる音楽配信という観点からみても、現在の日本の「送信可能化権」の存在は、日本のアーティストの著名性なりステータスを著しく阻害している要因となりつつある。

たとえば、海外のインターネット放送局の躍進のなかで、日本のアーティストの音楽については、このインターネット・ストリーミング放送配信から、送信可能化権があるという意味で、敬遠され、排除されている。

これが、本来のパッケージの売り上げに影響しないはずはない。 

また、いま、ベストセラーの「世界がもし100人の村だったら」は、メールの転送と書き換えによってできた著作物であるが、送信可能化権の存在は、このような、リナックス型オープンソースで、地球規模の壮大な文化の創造物を作るという発想方法自体を阻害するものとなってしまう。

現在、国境を超えた国際著作権を模索する動き(http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20020228205.html 参照)もあるが
ここらで、日本も、時代の変化を率直にとらえ、 デジタル時代の著作権料の水準のあり方も含め、ピア・ツー・ピア時代の著作権、とくに送信可能化権のあり方について、見直す時代にきているのではなかろうか。

さらに、アメリカのインターネット上の知的所有権保護法である『デジタル・ミレニアム著作権法』(DMCA-Digital Millennium Copyright Act)やデジタル演奏権法案(Digital Performance Right in Sound Recordings )などにみあう、デジタル音楽配信についての日本の諸制度の整備も、おこなっていかなければならないものと思う。



参考1. デジタル演奏権法案などについての参照リンク

http://members.tripod.co.jp/haramot/DAIICHI.html
http://www.res.kutc.kansai-u.ac.jp/~noguchi/soturon97/Takashima/Chap2.html
http://www.geocities.com/kubozemi10/rhashimoto.htm  
http://www.kaigisho.ne.jp/literacy/midic/index.html


参考2. 「WIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty: WCT)」における送信可能化権についての条文

第8条 公衆への伝達権

Right of Communication to the Public

Without prejudice to the provisions of Articles 11(1)(ii), 11bis(1)(i) and (ii), 11ter(1)(ii), 14(1)(ii) and 14bis(1) of the Berne Convention, authors of literary and artistic works shall enjoy the exclusive right of authorizing any communication to the public of their works, by wire or wireless means, including the making available to the public of their works in such a way that members of the public may access these works from a place and at a time individually chosen by them. [See the agreed

第10条 制限および例外

Limitations and Exceptions

(1) Contracting Parties may, in their national legislation, provide for limitations of or exceptions to the rights granted to authors of literary and artistic works under this Treaty in certain special cases that do not conflict with a normal exploitation of the work and do not unreasonably prejudice the legitimate interests of the author.

(2) Contracting Parties shall, when applying the Berne Convention, confine any limitations of or exceptions to rights provided for therein to certain special cases that do not conflict with a normal exploitation of the work and do not unreasonably prejudice the legitimate interests of the author. [See the agreed statement concerning Article 10]


第10条への合意事項

Concerning Article 10

It is understood that the provisions of Article 10 permit Contracting Parties to carry forward and appropriately extend into the digital environment limitations and exceptions in their national laws which have been considered acceptable under the Berne Convention. Similarly, these provisions should be understood to permit Contracting Parties to devise new exceptions and limitations that are appropriate in the digital network environment.

It is also understood that Article 10(2) neither reduces nor extends the scope of applicability of the limitations and exceptions permitted by the Berne Convention.



参考3. 「WIPO実演・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty: WPPT)」における、WPPT2条(b)と,WPPT2条(c)の原文

b) “phonogram” means the fixation of the sounds of a performance or of other sounds, or of a representation of sounds, other than in the form of a fixation incorporated in a cinematographic or other audiovisual work; [See the agreed statement concerning Article 2(b)]

(c) “fixation” means the embodiment of sounds, or of the representations thereof, from which they can be perceived, reproduced or communicated through a device;



参考4. 日本の著作権法における「自動公衆送信の定義」

「サーバー」と呼ばれる送信用コンピュータに入力されている情報が、公衆(端末)からのリクエスト(アクセス)があった場合のみ送信されるもの、すなわち「公衆からの求めに応じ自動的に行う」公衆への送信(インタラクティブ送信)を、有線、無線を問わず「自動公衆送信」とした。(著2条1項9号の4)

参考5. 「送信可能化とは、どういう状態か?」

http://orion.mt.tama.hosei.ac.jp/hideaki/provider.htm を参照



(2002年 4月 15日更新)


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