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「コミユニティが支持する農業(CSA)」は、日本に定着可能か?
 
 
北海道で「地産地消」(その地でとれた農産物を、その地で食す)を提唱する中島興世さんは、次のような例えで、問題提起をされる。

「なぜ、パンダがササをたべ、コアラがユーカリを食べるのか? それは、彼等の周りに、それしかなかったからだ。パンダやコアラに、小麦のパンを食べさせるのは、彼等にとって不幸なことなのだ。」

この問いを、人間に当てはめて見た場合はどうだろう。

青森県青森市三内丸山遺跡の縄文人の食べ物を調べてみると、クリなどの木の実や「ひえ」、そして、川を上ってくるサケ、野山をかけまわるイノシシなどが、主なそうだ。

まれに、その地でとれたとは判断しがたい食物(クジラなど )も中にはあるが、大多数の食物が、この地で採取できる条件があったがために、縄文人は、ここに定着したものと見られる。

さしづめ、現代人は「コンビニの近く」が定住条件なのだろう。
何時の頃からか、かくも、食の産地と消費地とは、離れてしまった。


近年アメリカにおいて、CSAという新しい農業のシステムが、各州に広がりを見せている。
CSAとは、Community Supported Agriculture の頭文字をとったもので、「地域のコミュニティに支持された農業」という意味だ。


CSAのルーツ


CSAの考え方は、1965年の日本の「生活クラブ」を中心とした産直提携にはじまるとされている。
この考え方が、ヨーロッパのスイス、ドイツなどを経て、スイス・チューリッヒでCSAを三年間学んだJan Vander Tuin、1984年、マサチュセッツのロビン・バン・イェン(Robyn Van En)(1948-1997)に、このシステムを紹介し、1986年、Jan Vander Tuin、Robyn Van En,John Root,Jr.そしCharlotte Zanecchia がコアグループを作り、アメリカ最初のCSA、ロビンズ・インディアン・ライン・ファームが誕生した。

さらに、この考えに、ルドルフ・シユタイナーが1923年に提示したした「バイオ・ダイナミック・ファーミング」の考え方が結びつき、「CSAによる、土とコミュニティ一体となった、有機農産物の提供」という動きが、一部に見られるようになった。

現在、アメリカ・カナダのCSAは、約1,000にのぼるといわれている。(笹山登生の政策データベース 「アメリカのCSAリンク集」 参照)



CSAの目的はなに


CSAの目的は

(1)食の生産と消費について、直接的なつながりを持たせることで、生産者とそれを支持する地域のコミュニティとの 間に、強力なかかわりあいとパートナー・シップを生み出させる。それによって、地域経済を強くさせる。

(2)将来にわたる地域の土地利用のありかたについて、地域の人々の意識を目覚めさせる。

(3)CSAは、家族農業を地域の人々で守る運動でもある。CSAによって、小規模農家が多様な種類の作物を作れ るようになることで、農業者間での交流や協調の体制ができる。また,小農を守ることによって、オープン・スペース がか確保され、野生生物の生息地や生態系が守られ、地域の環境が維持できる。



CSAとは、どんな仕組みか

CSAの仕組みを一言でいえば、地域の消費者が、地域の農家から、自家消費用の農産物を、代金前払いで、直接、定期購入するシステムだ。この場合、購入される農産物は、有機農産物であることが多い。

ここで、日本の産直とCSAの違いを見てみると

(1)産直は遠隔地にまで出荷するが、CSAは地域内流通に限る。

(2)産直は、多くの場合、出荷後、代金決済だが、CSAは、植え付け前に一年分、購入者が、前払い決済する。

 これによって、その年が豊作であれば、消費者の受取り分は増えるが、不作の場合、消費者の受取り分は減 る。このように、消費者が生産者の追うべきリスクを共有することによって、生産者は,作付け前に、安定した売り先 確保の上で、安心して農作業に専念できる。

(3)産直における農産物の引き渡し方法は多様だが、CSAでは、消費者が農場に直接農産物を引取りに来る場合と、「ピッキング・ポイント」と呼ばれる場所に、一日の内の一定時間に消費者が取りに来る場合の、二方法がある。



CSAの4つのタイプ


CSAには、次の4つのタイプがある。

(1)農業者主導型CSA
 農業者がCSAを組織し、資金提供者は、あまり農場に関与しないタイプのもので、近年、このタイプのものが、 急速に増えてきている。


(2)資金提供者・消費者主導型CSA
 消費者がCSAを組織し、望ましい農業者を雇い入れる。農場運営の決定権は、消費者が有する。

(3)農業者共同型CSA
 (1)の農業者主導型CSAの一種で、二つ以上の農場が集まり、消費者への多様な農産物の品揃えを実現する。

(4)農業者・消費者共同型CSA
  農業者と消費者とが、土地や他の経営資源を共有し、農作業も共同で行う。

以上、一応の4類型に分類されうるものの、CSAの形態は、実に多様である。例えば、規模、要求される生産物、参加メンバー、社会的目的をもったもの、教育的目的をもったもの、などなどである。



CSAの利点はなにか


CSAの利点として、次の点があげられる。

(1)低いマーケティング・コストで、生産者から消費者へダイレクトに、マーケティングできる。

(2)コミュニティの共同の意識と誇りを高めることができる。

(3)都市部と農村部との交流を促進できる。

(4)小規模のファミリー農家を支援できる。

(5)配送時間のかかる大規模流通より、かなり早い時間で、新鮮な農作物が供給できる

(6)中間流通コストがかさむことなく、消費者の払うお金が、100%農家にとどくため、地域内資金循環が高まる。

(7)スーパーマーケットよりも多種類の農作物が供給できる。

(8)消費者なり子供達にとって、食の出自なり農作物の作られかたが、わかるようになる。

(9)地域の消費者にとって、これまでよりも多くの、そして安全で多彩 な野菜や果物が、食べられるようになる。

(10)農家にとっては、安定したマーケットが、作付け前に確保できるので、安心して営農活動に専念できる。

(11)市場出荷では規格外とされる農産物も、無駄なく消費者の元にとどけられる。



CSAはどの様に運営されるか


CSAは、具体的に次のように運営される。

(1)CSAの組織は、次によりなる。

 A,農業者ー農作業の当事者で、それについては、いかなる非農業者からの干渉を受けない。農業者の責任は、毎年の作物プランを作ることである。

 B,コア・グループー5人から12人よりなるグループで、これには、農業者や消費者もふくむ。CSAが実際稼働できるよう、1年以上も、ミーティングを重ねる。 コア・グループは、食物の配分、集金、イベントの計画、予算管理、農家への支払い、法律事項、消費者の拡大などが、仕事になる。

 C,消費者グループ(メンバー)ー他の消費者としての農業者もふくみ、農場に対しての財政的支援 、すべての農作物が消費されることの確認をする。



(2)CSAは、次の流れで、運営される。

 A,CSAに参加したい消費者は、1年間供給を受ける農作物の前払い金として、 「シェア」という単位 を購入することによって、「シェア・ホルダー」となり、その農場の支持者となりうる。「シェア」は、作付け前の春に購入され、農業者にわたされる。


 B,「シェア」の値段は、年間約320ドルから500ドル程度で、これによって、6月初旬から11月 にかけ、約22周分の野菜・果 物が供給される。これを1週あたりに換算すれば、一週間あたり15ドルから23ドル程度である。「シェア」の単価は、CSAそれぞれまちまちで、半期分のシェア(ハーフ・ シェア)や農作業体験付きシェア、有機農物用シェアなどのあるCSAもある。

 C,一農場あたりの「シェア・ホルダー」の数は、農場の規模なり、CSAの経験度、その農場のCSA専業度などによって異なり、10のものもあれば100のシェア・ホルダーをもつものもある。


 D,メンバーへの農作物の受け渡しは、週一回が普通であり、その受け渡し場所は農場か「ピックアップ・ポイント」か、選択できる。

 E,その年が、干ばつ・台風・霜などで減収になった場合、消費者メンバーは、リスク・シェアを行って 、農場を助ける。

 F、CSAに参加したい、新規就農者やボランティアのための研修コースを設けているCSAもある。「インターン・シップ・プログラム」と呼ばれるもので、最短4日間のセミナーがある。また、失業者やホームレスのための技術訓練の場として、CSAが活用されている例もある。ボランティアとして求める人材は多岐にわたり、農業技術者はもちろん作物病理の管理者、新規会員開拓のためのマーケティング経験者などである。

 G,その他のメンバーの特典として

     農場訪問、毎年春秋の会員の集まり
    大人や子供達のためのワーク・ショップ
    ニュースレターの発行
    花や野菜の収穫体験      などがある。



CSAの問題点


(1)一年分の前払い金のボリュームが 500ドルから1000ドルに及ぶことが、CSAの急速な普及をおくらせている。一週間あたりの平均支出額は22ドルとなり、消費者がスーパーで支出する額と、余りかわらない。

(2)カリフォルニアなどの温暖地はともかく、一年の半分が雪に閉ざされてしまう地域では、残りの半分の野菜は、スーパーで買うことになる。この間のブランク対策をどうするか、が課題である



日本にCSAは、可能か


日本においても、すでにCSAを実践されている方がいる。
北海道空知管内長沼町のアメリカ人エップ・レイモンドさん奥さんの荒谷明子さんだ。
カナダのCSAで結ばれた2人は、60軒の会員を相手に「メノビレッジ長沼」という名のCSAを展開している。
農場は150軒分の生産をまかなえる広さはあるが、問題は労働力不足だという。。

さらに、同じ北海道・恵庭市では、数年前から「えにわ田舎倶楽部」という名の、「日本版CSA」をつくっている。先に挙げた中島興世さんを中心に、アメリカのCSAにも出かけ、国際的情報交流にも余念がない。
倶楽部の合い言葉は、「’消費者は王様’という言葉をすてよう」である。

また、埼玉 県岩槻市の「CSA IWATSUKI」は、3年前から、若手10人によって、ブドウ、トマト、キュウリ、シクラメン、コシヒカリ、イチゴ、鶏卵、くわいなどの品目によるCSAを行っている。

さらに、群馬県倉渕村の「イーハトーブファーム-森のイルカ」や愛知県の「三国バイオガーデン」などでも、今後、CSA農場の展開をはかっていくという。

日本でCSAが普及する際の問題点としては

(1)有機農産物の認証基準が強化されていくなかで、有機農産物を単に安全という基準でみるだけでなく、地域の自然環境や社会環境の改良に結びつくのだという考え方が、この際必要なのではないか。また、小規模農家の生き残り策として、CSAのシステムと組み合わせていくという発想も、必要なのではないか。

(2)農産物の購入者が、地域の農業を支えるために、、前金を出し、週一回といえども、受け渡し場所に、わざわざとりにいかせるまでには、相当な消費者の意識改革が必要となるのではないか。
主婦がパートで忙しい日中、ピッキング・ポイントまでとりにいくということには、物理的に相当むづかしい。


   などの諸点が上げられる。

しかし、一方、広域流通に対応しての初度的農業投資のできない農業者にとってみれば、マーケティング・コストがすくなく、中間経費・運送費も少ないCSAのシステムは、魅力的なチャレンジの場と写 るかも知れない。

たとえば、新しい株式会社・農業生産法人の一類型として、日本型CSAが試行錯誤できるのではないだろうか。

                                  



CSAの将来の展開


ある地域において、いくつかのCSAが クラスター状に 配置されるようになると、このCSA群間の連携によって、新しい展開を生み出せるようになるだろう。

一つの産業クラスターとして、CSAクラスターというべきものが、地域の観光や文化、環境などと結合すれば、これが地域再生・コミュニティ再生の大きな核となりうるからだ。

(2000年 7月 24日更新)

参考 笹山登生の政策データベース「CSAリンク集」


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