田園環境図書館
エコミュージアムへの旅 大原一興
鹿島出版会(1999年12月)
( 2,500円)
エコミュージアムにかんする邦書では、4番目の本であるが、筆者自らフランス、ベルギー、カナダ、スウエーデン、ノルウェーのエコミュージアムを訪問しての実体験にもとづくものだけに、説得力があるし、とかく、定義づけに手間取る、これまでの「エコミュージアム論」に比し、具体的である。

それにしても、いろいろなタイプのエコミュージアムがあることが、本書「エコミュージアムの実例を訪ねて」を見るとわかる。

そのなかで、私がとくに興味をひかれたのが、フランスの「フルミ・トレロン・エコミュゼ」の、「フルミ地方の1000年の社会経済生活」という、小学生と60才以上の人たちとの共同プロジェクトである。

まづ小学生たちがそれぞれの家庭でおじいさんたちがどの様な生活をこの100年過ごしてきたかを調べ、その証言に基づき、多くの写真や記録資料、機材などの収集をし、それらの物について、60才以上の人々が「意味付け」をし、遺産に価値を与えていくための、「思い出収集」の作業を行った。

これらの老青一体となった共同作業の成果が、このエコミュージアムの原点となっている。

この過程をみると、まさに、エコミュージアムは、「誰かによってつくられる存在」では無く、地域自らが、自立的に、「エコミュージアムに成っていく過程」なのだということが、わかる。

同じ「田園環境図書館」の「エコミュージアム」(小松光一)のなかで、私は、「なぜ日本ではエコミュージアムが育たないか」について触れているが、それは、この「地域の自立性の欠如」にも、よるものなのではなかろうか。

そのほか、ノルウエーの「トーテン・エコミュージアム」の先住民族との交流をもとにした活動も、興味をひかれるものがあった。

昨年、前参議院議員の萱野茂(かやの・しげる)さんのおはなしを聞く機会を得たが、氏の主催されている「アイヌ記念館」「シシリムカ二風谷アイヌ資料館」の活動は、まさに日本においても、先住民の歴史・生活・知恵をもとにしたエコ・ミュージアムが可能であることを示している。

この様に、各地のエコミュージアムの活動をみると、時代の流れに押し流された、または、押し流されようとするものに、ハイライトを浴びせ、その価値を意味付けし、後世代のひとびとに、実体験とともに語り継ごうというのが、エコミュージアムの精神に色濃くあることが、よくわかる。「あとがき」にあるピーター・ディビスの「エコミュージアムはネックレスの糸、宝石だけでは首飾りはできない」という言葉は、エコミュージアムが繋ぎ役や触媒になって、地域のもつ資源を輝かせ、地域の人々またはその地域を訪れる人々に、連鎖した意識の変化を及ぼすことを意味している。

日本において、真のエコミュージアムが育つためには、行政依存型でなく、地域の人々が、自立し、まづ「地域発見の旅」に出ることから始まるような気がする。

なお、本書掲載の主なエコミュージアムのインターネット・サイトに私のHPの「田園リンク」中「世界のエコミュージアムを歩く」からリンクできるので、興味のある方は、アクセスしてみてください。

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