田園環境図書館
エコミュージアム 小松光一編著
家の光協会(1999年11月)
(2,500円)
エコミュージアム」を、日本語でいえば、全町村まるごと博物館とでもいうのだろうが、その概念の意味する奥行きは深い。

日本においては、新井重三さんが、主体となって、いまから13年前ぐらいから、その概念が広まるようになった。日本における普及の大きな転機となったのが、1992年の、山形県朝日村における国際シンポジウムであったと記憶している。

その後、埼玉県の大滝村でも、研究会が設置され、東京学芸大学の先生方を中心に、フィールド・ワークが続けられた。私自身も、この大滝村での研究会に、春雪の残る秩父の山を登り、駆けつけたことも、楽しい思い出としてある。

全国の首長さん方の関心も、その後、徐々に高まり、選挙公約の中に「エコミュージアムの実現」の一文字を入れる町長さんも増えてきた。

しかし、その後の日本における取り組みは、正直いって停滞気味である。

なぜなのだろう。

私の思うに、その理由として、幾つかの原因が考えられる。
第一は、エコミュージアムの概念が、フランスなり欧米の直輸入で、いわば概念先行型で入ってきたこと。しかも、その概念が、日本人には、やや分かりにくい概念であったこと。

第二は、欧米のエコミュージアムの元々の思想は、19世紀の郷土主義を原点としているのに、日本においては、郷土主義の土壌が、ないこと.。

第三は、いみじくもこの書の中で、岩手の「イーハトーブ・エコミュージアム」を実践されている方がいっているように、「分からない人には見えない博物館」であり、具体的な箱物でもって、集客力を高めようとする、俗受けをねらったものではないこと。

第四は、その地域にとって、何が本当の価値ある地域資源なのかという点についての、地域住民のコンセンサスがないままに、観光手段として、安易にスタートしてしまっているケースが、ほとんどであること。

第五は、本来これも博物館の一変形なのだから、学術員や大学の先生などの協力無くしてはなりなたたないのに、その辺りのツメが甘いまま、スタートしていること。

第六は、全国的に「エコミュージアム」の適地となり得るデータベースが不在であること。
…などである。

その辺、色々問題はあるにせよ、本書の副題に「21世紀の地域おこし」とあるように、住民参加型の地域おこしの有力な手段であることには、まだ、まちがいない。

それには、「誘客の一手段としてのエコミュージアム」の概念から一旦離れ、住民自らの感触をもって、守るべき価値ある地域資源は何なのかを、見詰め直す段階に、引き返してみる必要があるのではなかろうか。

本書の中で編者の小松光一さんが、これまた、いみじくも書かれている通り、「もともと、旅とは『他火』(たび)であり、行き先の他者に火をいただきながら、(そして、他の地のもつ自然エネルギーを生命の糧として)、移動し、世界を発見する、文化的仕掛け」であるとするならば、何を旅人に向ける明かりとし、エネルギーとするかが、地域の人々に分かっていなければ、旅人は、勝手な方向に光を向けられ、命の糧にもならない消耗を強いられるだけであろう。

「エコミュージアム」についての単行本は、意外に少なく、本書の他は、「エコミュージアム−理念と活動」(日本エコミュージアム研究会編、牧野出版、1999年6月、2,800円)、「実践エコミュージアム入門−21世紀のまちおこし」(新井重三編著、牧野出版、3,301円)の二点が、この問題に関するバイブル的存在である。

なお、私のホーム・ページの「田園リンク」の中に、世界の主要なエコミュージアムのサイトにリンクできるようになっているので、興味ある方は、アクセスしてみて下さい。

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