Sasayama's Watch & Analyze


2019年8月1日

豚コレラ感染拡大で、混乱するワクチン接種是非問題

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豚コレラ感染から来月で一年

今日から8月である。

明日8月2日は、中国初のアフリカ豚コレラ発生の情報が初めて流れて一年目の日であり、その約一ヶ月後の9月9日は、岐阜県から、初めて豚コレラ発生の情報が流れた日である。

その後、約一年、中国のアフリカ豚コレラは、国内一巡後、ベトナム、ラオス、カンボジアへと感染拡大を続けたが、中国国内での感染は、今年に入ってから急速に衰えをみせ、現在では、なお散発的発生はあるものの、一応はおさまっているようである。

一方、日本の岐阜県の豚コレラ感染は、一向に収まる気配を見せず、岐阜県から愛知県へと感染拡大した後、隣接する三重県、福井県、長野県へと感染を広げている外、ついに、富山県にも感染が広がっているといった有様だ。

この間に、発見または捕獲された感染イノシシの数は岐阜県801頭(7月31日現在)、愛知県59頭(7月20日現在)、長野県39頭(7月31日現在)、福井県7頭(7月23日現在)、三重県4頭(7月1日現在)、富山県2頭(8月1日現在)合計912頭となっている。

一方、豚コレラに感染した飼養豚の感染例は岐阜県20例(うち、疫学関連農場1例)、愛知県18例(うち、疫学関連農場5例)、三重県1例、福井県1例、長野県1例(豊田市からの感染子豚出荷による)、滋賀県1例(同左)、大阪府1例(同左)、岐阜県1例(同左)となり、疫学関連農場も含めた発生例は7月28日現在で44例にも及ぶ。
発生に伴い、殺処分された飼養豚の数は、岐阜県42,928頭(関連農場も含む。うち21頭は飼養イノシシ)、愛知県64,468頭(関連農場と他県-長野・岐阜・大坂・滋賀-に感染豚を出荷した分も含む)、三重県4,189頭、福井県297頭、2019年8月1日現在合計111,882頭にのぼっている。

ここにきて、感染拡大が、東海地方にとどまらず、北陸信越地方にまで拡大してくるに及び、かねてから、業界からの要望である、「ワクチン接種論」が再び沸き起こりつつある。

ワクチン接種による豚コレラ・ウイルス・コントロールの困難さ

農林水産省は、当初から、ワクチン接種については、「まだその時期ではない」としてきた。

その理由として農林水産省は次のものを上げている。

①接種に踏み切れば、日本は、OIEコードの規定から、清浄国ステータスを失い、海外から輸入規制を招きかねず、輸出に影を落とす懸念がある。

②ワクチンのないアフリカ豚コレラが水際まで来ている状況から、豚コレラについても、いまから、ワクチンに頼らず、飼養衛生管理基準を守る体制を、国内養豚業はとっていく必要がある。

OIE陸生コードではどうなっているのか?

①について、OIE陸生コード(英文はこちら)に基づいて、詳述しよう。

OIE陸生コードで、豚コレラについて詳述されているのは、「第 15.2 章」である。

清浄国の条件について詳述されているのは、「第 15.2.6 条」である。

清浄化復帰3つのケース

ここでは、3つのケースを想定している。

①ワクチン接種なしに殺処分により淘汰の場合は、最終症例 3 ヶ月後、清浄国に復帰。

②緊急ワクチン接種(接種後殺処分 vaccinate-to-kill)を伴う殺処分淘汰の場合は、以下の各号のいずれかの時点に清浄国に復帰。

a) 最終症例及びすべてのワクチン接種動物の と畜 3 ヶ月後、復帰。

b)陸生動物の診断及びワクチンに関するマニュアルChapter 3.8.3. 「Classical swine fever (infection with classical swine fever virus)」 に掲げるDIVAワクチン接種であり、ワクチンの接種を受けた動物がと畜されない場合は、最終症例 3 ヶ月後、復帰。

③殺処分がなされなかった場合は、第 15.2.3 条  (サーベイランスが12ヶ月間行われ、過去 12 ヶ月間、家畜及び飼育野生豚に CSF の発生がなく、DIVAでないワクチン接種が、家畜及び飼育野生豚に対し行われていない。) にしたがう。

現在の日本の豚コレラ感染状況に照らしてみると?

以上の条項を現在の日本に照らし合わせてみると

①現在、日本が備蓄ワクチンとして100万頭分保有しているワクチンは、GPE株ワクチンであり、野生株とワクチン株とを識別できるDIVAワクチン(Differentiating Infected from Vaccinated Animals)ではない。

参考
日本における豚コレラの撲滅 – 農研機構
食料・農業・農村政策審議会 消費・安全分科会家畜衛生部会 第3回 議事録(平成17年3月30日)

したがって、「第 15.2.6 条 」の規定中、②-bは該当しない。

②養豚業界側が要望しているワクチン接種は、ワクチン接種後に食用としてと畜にまわす「vaccinate-to-slaughter」又は、接種後生かす「vaccinate-to-live」のようである。

しかし、接種後生かす「vaccinate-to-live」は、②-bの規定により、DIVAワクチンのみにしか許されていないので、2-aの「ワクチン接種後に食用としてと畜にまわす「vaccinate-to-slaughter」のスキーム」しか、残されていない。

ネックは「最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜」の確認

では、①(ワクチン接種なしに殺処分のみ)と、②-a(ワクチン接種後に食用として と畜にまわす「vaccinate-to-slaughter」)との違いはどこにあるのだろう?

後者の清浄国復帰条件は「 最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜 3 ヶ月後」である。

農林水産省がワクチン接種に渋っているのは、この「最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜 」の確認が困難なためであると思われる。

それは、日本の豚コレラ感染の拡大が、飼養豚のみならず、野生イノシシにまで広がっており、その野生イノシシの感染拡大の終了が見通せないうちは、飼養豚への感染拡大の終了をも見通せないからである。

日本養豚開業獣医師協会からの提言とは?

もう一度、翻って、日本の養豚業界が要望しているスキームとして、その代表例として、日本養豚開業獣医師協会(JASV)の呉克昌代表理事さんが中心になり掲げているスキームを見てみよう。

日本養豚開業獣医師協会は、今年の3月にイノシシ陽性エリアの地域限定・期間限定の緊急ワクチン接種の要望書を農水省消費・安全局長宛に提出している。

内容は下記の通りのようである。

地域限定(イノシシ陽性エリア)、期間限定での養豚場への豚コレラワクチン接種による、豚とイノシシの両面からの豚コレラウイルスの封じ込めを実施する。

そのために、以下の要件で養豚場での豚コレラワクチン接種を行う。

〈1〉地域はイノシシでの豚コレラ陽性エリアとする

〈2〉期間はイノシシでのワクチン投与期間を参考とする

〈3〉接種については地域内全養豚場の全頭に一斉接種後、母豚年1回、候補豚1回、肉豚1回

〈4〉と畜場では豚コレラワクチン接種豚の専用と畜場でのと畜

〈5〉イノシシ豚コレラ陽性エリアの境界道路への、畜産関係車両のための消毒ポイントの設置

日本の備蓄ワクチンが、野生株とワクチン株とを見分けられるDIVAワクチンでないのが致命的

上記のスキームで、果たして、OIE陸生コード、「第 15.2.6 条」の2-aの条件での清浄国復帰を果たすことができるのか?

日本のワクチンはDIVAワクチンでないので、と畜後の感染肉が、野外株によって感染したのか?ワクチン株によって感染したのか?は、判定できない。

したがって、呉克昌さんのスキームで、接種後、と畜を分離しただけでは、豚コレラ感染イノシシの淘汰の確認が困難である以上、「最終症例及びすべてのワクチン接種動物のと畜 」の確認は、至難なことになりうる。

ここにも、日本が備蓄保有のワクチンが、野生株とワクチン株とを分けて認識できないワクチンであるため、そこに大きなネックが立ちはだかってくるのである。

農林水産省が検討を始めているらしきスキームとは?

ここに来て、農林水産省が、ようやく重い腰を上げて、検討を始めているらしきスキームが、漏れ伝わってきている。

すなわち、
①一定の地域を指定し、その地域内の飼養豚全てにワクチン接種をする。
②接種した豚や豚肉や豚肉加工製品は、その一定の地域内にとどめ、流通させる。
③県は、②のためのトレーサビリティシステムを確立させる。
④現行の「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」では、①の「予防的ワクチン接種」は認めていない(「第13 ワクチン(法第31 条」に「平常時の予防的なワクチンの接種は行わないこととする。」と記載されている。)ので、そのための指針の改正を行う。

以上の内容のようだが、基本的には、OIEコード第 15.2.5 条「CSF 清浄国又は地域内の封じ込め地域(containment zone)の設定」に準じる内容のもののようである。

 

OIEにおける「OIE参加メンバーによってCSFフリーと認められた地域境界」(the delimitation of the zones of the Members recognised as CSF free) の考え方

OIEでは
RESOLUTION  Recognition of the Classical Swine Fever Status of Member Countries 」にもとづいて、「Chapter 15.2.にしたがって、一国内にCSFフリーゾーン( CSF free zone)が設定されることが、ブラジルを初めとしてコロンビアそしてエクアドル(ガラパゴスのみ)に認められている。

参考「OIE Final Report 2019

これらの国々は「豚コレラ清浄地域を含む国」との概念で擬似的清浄国としての立場にある。

現在の日本の立場も、この「RESOLUTION No. 24」によって、「清浄国状態の延期/復帰」(Suspension/reinstatement of status)の状態が確保されている。

現在のブラジル・コロンビア・エクアドルにおける限定地域におけるフリーゾーン状態は下記のとおりである。

なお、ブラジルにおいては、17州が限定地域で、地域の豚肉生産高はブラジル全体の95%を、占めている。
ところが2018年8月に域外のセアラー州で新たに豚コレラが発生したため、ゾーニングの再編を迫られている。

ゾーンは、下記地図 左から、ブラジル-コロンビア-エクアドル

 

OIEコードにおける「封じ込め地域における清浄ステイタス回復」の条件は?

OIE陸生コード第 15.2.5 条では、
「封じ込め地域外の区域の清浄ステイタスは、当該封じ込め地域が設定されるまでの間、失効する。」

(The free status of the areas outside the containment zone is suspended while the containment zone is being established.)

「その区域の清浄ステイタスは、第 15.2.6 条の規定にかかわらず、当該封じ込め地域が明確に設定されてはじめて回復することができる。」

(The free status of these areas may be reinstated irrespective of Article 15.2.6., once the containment zone is clearly established.)
とあり、更に
「封じ込め地域に CSF が再発した場合には、封じ込め地域の認定は取り消される」

(It should be demonstrated that commodities for international trade have originated outside the containment
zone.)

「国又は地域の清浄ステイタスは第 15.2.3 条の関連要件が満たされるまでの間、失効する。」

(The free status of these areas may be reinstated irrespective of Article 15.2.6., once the containment zone is clearly
established.)

「封じ込め地域に CSF が再発した場合には、封じ込め地域の認定は取り消される 」

(In the event of the recurrence of CSF in the containment zone, the approval of the containment zone is withdrawn.)

「国又は地域の清浄ステイタスは第 15.2.3 条の関連要件が満たされるまでの間、失効する。」

(The recovery of the CSF free status of the containment zone should follow Article 15.2.6.)

とある。

すなわち、たとえ、東海地方を限定としての地域限定ワクチンを接種しても、サーベイランスによってその封じ込め確立が確認されるまでは、東海地方以外の地域の養豚業についても、清浄化ステータスは失われ、もし、東海地方での封じ込めが失敗すれば、第 15.2.6 条の規定に基づく清浄化ステータス回復が図られない限りは、東海地方以外の地域の養豚業についても、清浄化ステータスは失われる、ということである。

 

USDAマニュアルによる封じ込め地域のイメージ

USDAのマニュアルによる「封じ込め地域のイメージ」は、下記地図のとおりである。

封じ込め地域は下記の各種ゾーンから形成される。
中核から外側にむかって
①「既感染ゾーン」
②「ワクチン接種ゾーン」
③「コントロールゾーン」
③「バッファーゾーン」
④「サーベイランスゾーン」
⑤「フリーエリア」

参考-USDA「CLASSICAL SWINE FEVER RESPONSE PLAN」の62ページから73ページ

OIEでの豚コレラのゾーニングの考え方については、下記サイトをご参照ください。

Requirements of the Terrestrial Code for zoning 」
なお、このOIE陸生コード第 15.2.5 条については、2016年7月、パリでのOIEアドホック会合において補足的な議論が重ねられている。

参考「MEETING OF THE OIE AD HOC GROUP ON CLASSICAL SWINE FEVER」(Paris, 5-6 July 2016 )の3ページ

すなわち

①封じ込め区域の設定は12ヶ月を持って満期とする。

②12ヶ月を越しても清浄化が達成できない場合は、再申請を要する。

③これは、2016年における、口蹄疫についてのアドホック会合における議論に準じて、これを豚コレラについても適用するものである。

参考「MEETING OF THE OIE AD HOC GROUP ON FOOT AND MOUTH DISEASE  」(Paris, 14-16 June 2016)の4ページ

 

 

地域限定ワクチン接種スキーム実施の困難は?

感染した野生イノシシの存在

問題は、飼養豚の清浄化ではなく、その間接要因となっている野生イノシシの清浄化の確認が、現状では、ほとんど不可能な点にある。

そのような中で、地域限定ワクチン接種が、県単位の関係者の合意、あるいは、東海地方以外の関係者の合意を得て、スタートできるのかどうか? 大きな不透明感は拭えない。

ワクチン接種済み感染肉のセパレート流通は可能か?

さらに、接種済み感染肉の流通についてのループホールの懸念である。

今年2月の愛知県豊田市から出荷した感染子豚が、長野県を初めとして、地域外感染を引き起こしている現状や、東海地方から出荷された子豚が、東海地方以外の各地で、銘柄豚のOEM生産のもととなっているという実態、豚肉製品に含まれてしまう豚コレラウイルスの東海地方外への流出懸念など、地域限定ワクチン接種実施までのハードルはあまりに大きすぎる。

以上に見るように、東海地方を限定とした地域限定ワクチンの実施の利害は、当該東海地方の関係者にとどまるだけでなく、それ以外の全国の地域の関係者の利害につながるものであり、そのための合意取り付けが必要なものと思われる。

アメリカ農務省の豚コレラ感染阻止ワクチン戦略とは?

では、欧米での豚コレラワクチン戦略はどうなっているのか?

米農務省動植物検疫局(APHIS)の戦略を紹介しよう。

「国立動物検疫研究所プログラム」(The National Veterinary Stockpile (NVS) program)では

二種類ワクチンを使い分けコントロールし

①旧来型MLVワクチンは局地的に接種後殺す“vaccinate-to-kill”戦略に。

②DIVAワクチンは、一定のゾーン内で、接種後生かす“vaccinate-to-live” 戦略に

と、有機的なワクチン戦略によっている。

参考「Questions and Answers:The National Veterinary Stockpile and Classical Swine Fever Virus Vaccine
CLASSICAL SWINE FEVER RESPONSE PLAN THE RED BOOK
Secure Pork Supply Plan

USDAでは、豚コレラ感染拡大経緯を3段階に分けて対処している。

1.初期段階-4日以内

2.中期段階

①スポット感染
②地域感染
③複数地域感染

によってと、戦略は異なってくる。

ワクチン対応は
2②又は2③で殺処分補強的手段として使う。

また、在来型MLV CSFワクチンでは、接種後殺処分又はと畜(Vaccinate-to-slaughter)が原則であり
DIVAワクチンの場合に限りワクチン後生かせる戦略(Vaccinate-to-live)が取りうる。

というのが相場のようである。

また、USDAには「Foreign Animal Disease Preparedness & Response Plan」(FAD PReP)の名のもとに、海外からの疾病由来に備えた対応ブランを設けている。

その中に、上記「限定地域スキーム」によるゾーニングの規定も含まれいる。
概念図は下記の通り

参考「Foreign Animal Disease Preparedness & Response Plan

一方、EUでは豚コレラ感染野生イノシシ対策について、下記の4フェーズで対処している。

すなわち

200平方キロ以内を域内として

フェーズ①
域内に感染がとどまり、域外への感染拡大なし
フェーズ②
域内感染拡大は続くが域内におさまっている。
フェーズ③
域外へ感染拡大。最初の発生地域の感染も継続。
フェーズ④
域内感染は収まったが、域外へ感染拡大継続。

この4つのフェーズに応じた対策をしている。

参考「Classical Swine Fever in Wild Boar

SPS協定との関係は?

OIEコードの
第 15.2.4 条 に「CSF 清浄コンパートメント(ecompartment)」の規定がある。

これは、二国間貿易条件に絡むものであり、二国間合意での「擬似的な清浄国規定」ともいえるものだが、これについては、第 4.3 章及び
第 4.4 章に規定する原則に従うこととなる。

なお、SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)には、「同等性の原則」と言うのがある。

「同等性の原則」とは、輸出国の基準が輸入国と異なっていても、輸出国の基準が適切なものであると客観的に証明できれば、輸入国は輸出国の基準も自国と同等のものとして扱うという原則である。

もし輸出国の基準が適切なものであるとされれば、輸入国は自国の基準を満たしていないことを理由にその食品の輸入を拒否することはできない。

豚コレラにおいても、自国が清浄国のステータスを持っていれば、輸出国の低レベルの衛生基準を拒否できるが、そうでない場合は、低レベルの衛生基準の物品輸入を拒否できなくなる恐れが出てくる。

そもそも、日本に蔓延の新種豚コレラウイルスに現在の備蓄ワクチンは効果があるのか?

今年の3月に書いた私のブログ記事「岐阜県豚コレラ発生から半年~見えてきたこと・こないこと~」でも触れたことだが、今回の岐阜県から蔓延が始まった豚コレラウイルスは、農研機構の遺伝子解析によると、中国・北京で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」(遺伝子バンクアクセスナンバーMG387218)と98.9%の相同性を持つとされている。

参考「Genome Sequence of a Classical Swine Fever Virus of Subgenotype 2.1, Isolated from a Pig in Japan in 2018

このサブサブジェノタイプ2.1d豚コレラウイルスは、2014年10月に中国の山東省での発生に始まり、2014.12 江蘇省、2015.03 湖北省、2015.04 吉林省、2015.04黒竜江省、2015.5.河南省、2017.8.9.北京、と、次々と中国の養豚場を襲った。

しかも、驚くべきことに、これらの養豚場は、いずれも、これまでC株ワクチンで淘汰されてきた農場であった。

中国農業科学院哈爾浜獣医研究所の研究では、

豚コレラ2.1dウイルスとC株ワクチンとには ①分子変異 と ②抗原性の差異 があり、C株ワクチンは2.1dウイルスに対し、かならずしも有効ではない、としている。
参考「Efficacy evaluation of the C-strain-based vaccines against the subgenotype 2.1d classical swine fever virus emerging in China

また、ウイルス特性には特徴があり

同じく、中国農業科学院哈爾浜獣医研究所による遺伝子分析と感染実験によると、

①ウイルス中和反応のための主要な抗原E2塩基配列に変異(ポジションはR31, I56, K205,A331)がある。

②ウイルスのE2たんばく質塩基配列で極性変化(親水性から疎水性へ)が生じ、これが抗原性と毒性を変化させたものとしている。

③このため、感染実験において、2.1dウイルス感染豚は何の臨床症状も示さず、死亡率も低く、実験の最後まで生き残った。

とされている。
参考「Genetic Diversity and Positive Selection Analysis of Classical Swine Fever Virus Envelope Protein Gene E2 in East China under C-Strain Vaccination

日本の農研機構において岐阜株の感染実験を行った結果でも、「当該ウイルスは豚に発熱や白血球減少を引き起こすものの、強毒株と比べ、病原性は低い」(2018年11月16日発表)としており、両者において共通性が見られる。

参考「農研機構 (研究成果)2018年分離株を用いた豚コレラウイルスの感染試験

過去において、豚コレラのサブジェノタイプの移転(1.3から2へ)がヨーロッパとアジアで始まり、さらに、2014年から2015年にかけ中国の山東省から出発した蔓延過程で「2.1b」から「2.1d」にサブジェノタイプが移転し、その分岐したウイルスが日本の岐阜県に入って来たとしたら、世界的に大きな出来事であるとすら言えるかもしれない。

そして、もし、農研機構が、はやくから、今回の岐阜県蔓延の豚コレラウイルスが、サブサブジェノタイプ2.1dに属し、中国での研究によれば、遅発性であり、劇症型でなく、臨床症状を示すまでの時間が長くなる、等の特性を、農林水産省や岐阜県や愛知県に熟知させ、ウイルス感染拡大阻止戦略に生かしていれば、豊田市の農場からの感染子豚の出荷による長野県宮田村への感染拡大は阻止出来たはずだ。

なお、8月に発表された農林水産省調査チームによる「豚コレラの疫学調査に係る中間取りまとめ 」においては、新種2.1d豚コレラウイルスに対する現在の備蓄ワクチンによる効果についても述べられており、ここでは
「備蓄豚コレラワクチンを豚4頭に投与し、1か月後に血清を採取した。
中和試験2によって、JPN/1/2018株に対する採取血清の抗体価を測定した。
結果は、ワクチン投与豚血清は、JPN/1/2018株に対して8~90倍の中和抗体価を示した。
一方、対照としておいたワクチン非投与豚血清には中和抗体が検出されなかった。
全てのワクチン投与豚血清がJPN/1/2018株を中和したことから、現在流行しているCSFVに対し備蓄ワクチンの効果が期待出来ると考えられた。 」
としている。

豚コレラ感染イノシシ用経口ワクチンは有効か?

同じようなことは、野生イノシシ用に現在岐阜県愛知県などに撒かれている豚コレラ感染イノシシ用経口ワクチンについても言えそうだ。

次の点が気になる。

①このワクチンも、野生株とワクチン株とを見分けられるDIVAワクチンではない。

DIVAの経口ワクチンとしては、たとえば、「 CP7E2alf」というワクチンがある。

USDAは、この「CP7_E2」というワクチンに注目しているようだ。
参考「CP7_E2alf oral vaccination confers partial protection against early classical swine fever virus challenge and interferes with pathogeny-related cytokine responses

A Review of Classical Swine Fever Virus and Routes of Introduction into the United States and the Potential for Virus Establishment

②同種の経口ワクチンを使ってのドイツでの実験では、次の点が指摘されている。
若イノシシは豚コレラ経口ワクチンを食べない。
新しい経口ワクチンは食いつきがいいが、古いワクチンは食いつきが悪い。
若イノシシには経口ワクチン効果は薄いので、並行し、ハンティングによる殺処分を行う必要がある。

ちなみに、このサイト「Controlling of CSFV in European wild boar using oral vaccination: A review 2015年11月」では、経口ワクチンによる豚コレラ感染野生イノシシのコントロールの困難性について、いくつかの点をあげていて、興味深い。

なお、日本と同じ経口ワクチンの独ニーダーザクセン州での二年間にわたる野外感染実験では、
摂餌率52.4–67.6%
抗体形成49–60.3%
という数字が出ている。
全体を100とすれば抗体獲得率は25%からよくて40%程度のものとも見られる。

参考「Oral immunisation of wild boar against classical swine fever: evaluation of the first field study in Germany

③野生イノシシへのワクチン投与により、不定型(Atypical)ウイルスが定在化し、不顕性感染イノシシから飼養豚へのコンタミの危険性が増す。

④今回の豚コレラウイルスはサブサブジェノタイプ2.1dの新種ウイルスなので、今回の経口ワクチンがC株ワクチンであることから、上記に見たような2.1dウイルスの特性に鑑み、その効果の点で疑念が残る。

⑤岐阜県ではこれまで「経口ワクチン散布地域で捕獲された野生いのししの国によるシークエンス結果」(捕獲した豚コレラ感染イノシシのウイルスの塩基配列と豚コレラ岐阜株との塩基配列との相同性分析)がこれまで二回発表が行われ
A.第1期第1回目(3~5月)散布地域
6月10日発表
野生株感染確定15頭。
545+15=560頭

B.第1期第2回目(7~9月)散布地域
7月26日発表
野生株感染確定19頭。
742+19=761頭

となっており、上記のシークエンス分析結果では、ワクチン株の塩基配列と相同性を示した例はまだないようである。

参考「経口ワクチン散布地域で捕獲された野生いのししの国によるシークエンスの結果について」
第一回
第二回

一方、「犬山市、小牧市、春日井市及び瀬戸市(北部)豚コレラ経口ワクチン散布及び野生イノシシの免疫獲得率」にみるように、簡便法で、経口ワクチンのの免疫獲得率を類推する動きもある。

ここにおいては、以下の公式によっている。

愛知県の豚コレライノシシ用の経口ワクチンの免疫獲得率(A)
=
遺伝子検査(PCR)が「-」
and
抗体検査(ELISA)が「+」
であるイノシシ
の頭数(B)
÷
検査頭数(C)

この考え方の前提としては、「抗体検査(ELISA)が「+」」であっても、遺伝子検査(PCR)が「-」の場合は、その抗体は、経口ワクチンによって獲得された抗体である」という前提であるが、果たしてそうであろうか?

ちなみに、昨年9月の岐阜市における第一例の飼養豚の豚コレラ感染例においては、「FA(蛍光抗体法)」、「PCR(遺伝子検査)」、「ELISA(エライザ法)」の判定が一致せずに、陽性確定が遅れた。

正確な経口ワクチンの抗体獲得率は、シークエンス法により遺伝子塩基配列の豚コレラウイルス岐阜株との相同性によって、その抗体が、ワクチン株によるものか?野生株によるものか?を判断しなければならない。

また、経口ワクチンのイノシシの摂餌率についても、オキシテトラサイクリン(Oxytetracycline)をバイト・マーカーにしての、骨への残留率を元にした正確な把握が図られるべきである。

参考
平成30年岐阜県豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~
第1回豚コレラ経口ワクチン対策検討会の概要について
Oral immunization of wild boar against classical swine fever: evaluation of the first field study in Germany

なお、8月に発表された農林水産省調査チームによる「豚コレラの疫学調査に係る中間取りまとめ 」においては、
「豚・イノブタ各3頭及びベイトワクチンを経口投与後14日経過したイノブタ3頭にJPN/27/2019株106.5TCID50を経口投与し、1回目の感染実験の倍の期間となる28日間にわたってこれら3群の観察を続けた。
ベイトワクチンを投与したイノブタは3頭とも症状を示さず、試験終了日まで生残し、剖検において肉眼的病変がないか、あるいは軽微な病変が認められたのみであった。
JPN/27/2019株のウイルス遺伝子は接種後2~4日目から豚・イノブタの血中に検出されるようになり、血中の抗体が接種後10~14日目に陽転した後も、試験終了日まで長期間にわたり検出され続けた。
ベイトワクチンを投与したイノブタの血中にはウイルス接種時点から抗体が検出され、ウイルス遺伝子は試験期間を通じて検出されなかった。 」
としている。

 

豚コレラウイルス(CSFV)とアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)とのダブル感染の事態も想定しておかなくてはならない。

もし、野生イノシシに豚コレラウイルスが依然残存している日本に、更にアフリカ豚コレラウイルスが侵入してきたら、どうなるのか?

興味深い研究がここにある。

バルセロナ自治大学のOscar Cabezón氏らの研究によると、

①生後24時間以内に豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシ

と、

②生後無菌室に入れたBグループの野生イノシシ

とに対し、同時にアフリカ豚コレラ感染をさせたところ、

生後無菌室に入れたBグループは程なく臨床症状を示し死亡したのに対して、

すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループは、さして臨床症状を示すことなく、実験の最後まで生存し続けたと言う。

その原因として、この研究グループは、すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシには、インターフェロン阻害物質が出来ていて、著しく劇症性が緩和されていたのだと結論付けている。
参考「African swine fever virus infection in Classical swine fever subclinically infected wild boars

アフリカ豚コレラ日本上陸でも対応は現在豚コレラ対策と変わらない。

豚コレラにはワクチンはあるが使えない。

アフリカ豚コレラには、そもそもワクチンがない。

ただ、豚コレラとアフリカ豚コレラの決定的に異なるのは、感染力である。

ウイルスの感染力は、細胞感染性を持つウイルス粒子の数によって決定される。

これを、ウイルス力価(Virus Titer)またはウイルス感染価(Virus Infectivity Titer) といい、ウイルス力価の単位は「log 10 HAD 50 /ml」で表される。

ウイルス力価が高いほど、感染から死亡までの日数は短くなり、低いほど、感染から死亡までの日数は長くなる。。

豚コレラのウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「3 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「4 log10 HAD50/ml」以上である。

一方、アフリカ豚コレラのウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「5 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「9 log10 HAD50/ml」以上である。

もし、この豚コレラの倍以上の感染力を持つアフリカ豚コレラが東海地方などに上陸し、これまで豚コレラに感染済みの野生イノシシにダブル感染し始め、慢性型のアフリカ豚コレラ感染豚を促したら、非常に憂慮すべき事態に陥ることは必至である。

以上

(令和元年8月1日 笹山登生 記)

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