1.特性の異なる新種の豚コレラウイルスが、初動のすべてを狂わせていった。
岐阜県に豚コレラ発生の一報が入ってきたのは、2018年9月9日のことだった。
この3月9日で、もう半年になってしまう。
当時、私は約一ヶ月前の8月2日から中国ではじまったアフリカ豚コレラの発生追跡に追われていた。
毎日、中国語のサイトからアフリカ豚コレラの発生情報を検索しては、自らのブログを日々新情報に更新し続けていく、という地道な作業を続けていた。
次々と私の悪い予感があたっていった岐阜県・国の初動体制
岐阜県での豚コレラ発生時にも、第一番に、岐阜発生の「豚コレラ(CSF)」と中国で発生の「アフリカ豚コレラ(ASF)」を混同されるツイートが多数を占め、ツイッター上で私は、その違いの説明に追われていた。
9月9日午前7時41分に私がツイッターで発信していたのは、次のメッセージだった。
「みなさん。お間違いのないようにね。
今回、岐阜市で発生した「豚コレラ」は「古典的豚コレラ」(CSF)というもので、現在、中国で蔓延している「アフリカ豚コレラ」(ASF)とは全く異なるものです。
撲滅も可能です。」
そして、この9月9日のツイッターでは、早くもすでにこんな心配もしていた。
「岐阜市の豚コレラ、アフリカ豚コレラでなく古典的豚コレラだったのは一安心だけど、古典的豚コレラも猪によるウイルス媒介があるのは心配ね。 古典的豚コレラが日本から淘汰清浄国になったのが2007年4月1日から。 その後の過疎地での猪の増加が岐阜県でも相当の数に。 その意味で気になるのだけどね。」
9月10日には次のようなツイッターも、私は発していた。
「たしかに。岐阜市の古典的豚コレラ(CSF)。
発症から、すくなくとも、一週間は、初動鎮圧体制をとるべきなのが、遅れているな。
これで、もし、収まれば、奇跡に近いかも?」
後から見れば、はからずも、このときの私の予感はあたってしまっていた。
確定検査までに大幅なロスタイムが
最初、農林水産省から次のような発表があった。
「(1)9月3日、岐阜県は、岐阜市の養豚場から飼養豚が死亡しているとの通報を受け、検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体により蛍光抗体法(FA)検査。陰性)
その時点では、豚コレラが否定されたことから経過観察。
(2)9月4日、異常が収まらないことから、岐阜県が検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体によりPCR検査)
これも、豚コレラを疑う結果とはならなかった。(9月5日結果判明。ペチスウイルス群遺伝子検査は陽性、PCR増幅産物を用いた豚コレラウイルス簡易的判別は陰性)
(3)9月7日、引き続き異常が認められることから、岐阜県が改めて、検査を実施。(岐阜県中央家畜保健所が9月3日採取の検体により二度目のPCR検査、陽性)
同時に、岐阜県中央家畜保健所が8月24日採取の血液を検体によりエライザ法およびPCR検査を実施。結果は同日判明。エライザ法及びPCR検査、いずれも陽性。
豚コレラを否定できない結果が得られた。
(4)9月8日、岐阜県中央家畜保健所が、発生養豚場の豚ー生体2頭、死体1頭ーから検体を採取。剖検も実施。
この検体を岐阜県中央家畜保健衛生所が検査実施。(①「蛍光抗体法(FA)」と②「PCR法」と③「エライザ法の三種類の検査を実施。同日結果判明。①と③は陽性、②は陰性)
豚コレラの疑いが生じたため、農研機構動物衛生研究部門で精密検査を実施。
9月9日、患畜であることが確定。(朝6時に農研機構検査結果、陽性と発表)」
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
今から見れば、一番大切な初動における、丸6日~7日間のものすごいロス・タイムである。
教科書外の事態が起こっていた!
一体、どうして、このように、確定検査まで、時間がかかってしまったのだろう?
その理由は、おそらく、岐阜県の聴取に対して答えた岐阜市獣医師の次の言葉に集約されるだろう。
「豚コレラは教科書の中の病気。豚コレラに罹患すれば、もっとバタバタと豚が死亡するはずだった。」
つまり、後から説明するように、今回岐阜県・愛知県を襲った豚コレラは、これまでの豚コレラウイルスとは特性の異なる新種のウイルスであることが、すべての初動の動作を狂わせていたのだった。
2.初めは封じ込め楽観論だった岐阜県と農林水産省
その後、岐阜県発の豚コレラ報道が詳細を帯びるにつれ、私は、さらなる初動の生ぬるさに、疑念といらだちを感じ始めていた。
コロコロ変わる証言への不信が
9月9日感染確定発表の翌日、9月10日に、次のような報道があった。
「①1頭が急死した9月3日以降に豚約80頭が相次ぎ死んだことを8日に立ち入り検査するまで岐阜県は把握できず。
②豚が大量に死ぬ間に養豚場は5日に9頭の豚を出荷。
③岐阜県が、8月の時点で複数の豚が衰弱していることを把握していたことがわかった。
④岐阜県はこれまで9月3日に豚の異変を確認したとしていたが、関係者への取材で8月24日に養豚場に調査に入り複数の豚の衰弱を把握していた。
3日豚急死との獣医師報告を受け、解剖結果豚コレラの疑いになつた。」
この内、③の「岐阜県が、8月の時点で複数の豚が衰弱していることを把握していた」とは、8月24日に岐阜県中央家畜保健所が実施した血液検査の結果、岐阜県中央家畜保健所が8月27日に「何らかの感染が起きている可能性があります」と岐阜県畜産研究所に、最終考察の結果報告とアドバイスを求めていたことを指すものと見られる。
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
このような前からの感染疑いストーリーがあって、その後に、ようやく、ここから、上記農林水産省の発表の流れになる。というのが実は真実だったのだ。
「おやおや、当初の話と大幅に違うではないか」というのが、私の率直な印象だった。
初感染の可能性時期は更にさかのぼった
一体、感染の初めはいつまでさかのぼりうるのだろう?
発生養豚場に第三者がはいったのは、8月9日の獣医師である。
ここでは、農場主からは、「元気のない親豚がいる」との報告を受け、さらに8月20日には衰弱している9頭を診察し、日射病によるものと診断し、抗生物質の注射をし、8月23日には、5頭に予防注射、6頭に冷水浣腸を実施している。
8月24日には当該獣医師の要請で、岐阜県家畜保健衛生所に血液検査を依頼し、6頭分について、「臨床検査」「血液検査」「血液生化学検査」を実施した。という。
血液検査の結果、岐阜県中央家畜保健所が8月27日に「何らかの感染が起きている可能性があります」と岐阜県畜産研究所に、最終考察の結果報告とアドバイスを求めていたという。
また、発生元養豚場の人の話として「8月16日~9月3日に約20頭の豚が死んだ」との話もある。
しかし、岐阜県の初期対応検証報告では「8月中旬から9月3日に死亡の20頭や9月3日以降死亡80頭の死体の行き先が判明していない。また、これらの豚の頭数の明確な記録はされていない。」とある。
参考
「初期対応の推移」(9月18日 岐阜県)
「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
では、当該発生養豚場の豚は、いつから豚コレラウイルスに曝露していたのだろうか?
ウイルスの曝露から臨床症状までの過程
ウイルス感染の過程には
①ウイルスへの曝露
②他への感染能力獲得期間(latent period)= 通常は感染から4-7日の範囲
③ウイルス排出開始
④潜伏期間(incubation period) 終了
↓
⑤臨床症状( clinical sign )= 潜伏期間経過後(通常は感染から 2〜15日の範囲 急性症例では3〜7日)
の過程がある。
なお、潜伏期間にはいろいろな説があるが、その各種説の最短と最長を取れば、感染から2日~15日ということになりそうだ。(下図ご参照)
野外での感染の場合は、2週間から4週間という説もあるが、レアなケースと見られる。
参考「Classical Swine Fever—An Updated Review」
ウイルスの感染力
ウイルスの感染力は、細胞感染性を持つウイルス粒子の数によって決定される。
これを、ウイルス力価(Virus Titer)またはウイルス感染価(Virus Infectivity Titer) という。
CSFのウイルス力価の単位は「log 10 HAD 50 /ml」で表す。
ウイルス力価は
低い時は「2 log10 HAD50/ml」以下であり、
中間が「3 log10 HAD50/ml」位であり
高いときが「4 log10 HAD50/ml」以上である。
ウイルス力価が高いほど、感染から死亡までの日数は短くなり、低いほど、感染から死亡までの日数は長くなる。。
8月初旬にはすでに感染拡大か?
9月8日検査検体に用いた血液は、8月24日に採取した血液であり、これがエライザ法およびPCR検査とも陽性だったのだから、当該養豚場の豚の一部は、少なくとも、8月24日には臨床症状を示していたということになる。
そこから最長15日さかのぼったとしても、8月初旬には、当該養豚場の豚は、すでに豚コレラウイルスに曝露していたことになりうる。
最初に獣医師が発生養豚場に入った8月9日を臨床症状を呈した日とすれば、それから最長15日さかのぼったとして、7月25日には、当該養豚場の豚は、ウイルスに曝露していたことになりうる。
変わる農場主の証言
更には、9月11日には次のような報道があった。
「岐阜県は10日、飼育業者が感染を疑われる豚の一部を農作物の肥料の原料として、市内の処理施設に持ち込んでいたと明らかにした。」
まさに当時私は「ひどい話だ」と思わす゛ツイートしてしまうほどの異常事態の続出であった。
しかし、この「豚の一部を農作物の肥料の原料として、市内の処理施設に持ち込んだ」という点については、後に、9月9日に実施された国の豚コレラ疫学調査チームの現地調査の報告書でも同様の記載がなされたが、その後の岐阜県の聞き取り調査では、養豚場主は、このことを否定しており、また、持ち込まれ側のJA岐阜堆肥センターも、それに合わせた証言をした後は、どういうわけか、岐阜県も、そのことについての追求をこれ以降、深くしていないし、化製法違反を問う声もなくなってしまった。
岐阜県の初期対応についての検証報告では「 農場が豚の死体をふん尿に混ぜ堆肥原料として JA ぎふ堆肥センターへ出荷していたかは判断困難。関係者への更なる聞き取りや立ち入り検査を実施していく必要がある」とだけ記されているだけで、その後は、何らの言及もなかった。
参考「豚コレラ対策検証報告~初期対応を中心として~」(平成30年11月5日岐阜県)
その時私は9月11日のツイッターで「なんか、嫌な流れになってきたな。県担当者が、そのたびごとに異なる、責任逃れめいた発言を、ころころかえて、繰り返すのは、一番悪いシナリオなのだけどな。」とつぶやいていた。
岐阜県知事も農林水産大臣も、最初はノー天気だった
それでも、当時の岐阜県も農林水産省も、あたかも「封じ込め」間近のような楽観ぶりであった。
岐阜県知事は、平成30年9月11日15時の記者会見で「発生農場についての封じ込めといいますかね、これについては一つ区切りを迎えたということでございます。」と、至って楽観的な見解を述べていた。
当時の齋藤農林水産大臣も、9月9日の農林水産省豚コレラ対策会議の席上で「豚コレラのまん延防止のためには、初動対応がなによりも重要だ。初動で完全に封じ込めるために気を引き締めて対応するよう指示する」と述べたのだったが、実際は、既にこの時点で、初動対応ではなかったのだ。
次の9月11日の記者会見では「農林水産省としては、早期の封じ込めを図るために、引き続き、県、関係省庁等と連携。」との簡単なコメントをしているのみであった。
更に、9月25日の齋藤農林水産大臣記者会見では、岐阜の豚コレラについての言及が、見事に全くなかった。
岐阜県議会の議員も当初は楽観的だった。
地元紙である中日新聞では「豚コレラ問題を受け、岐阜県議と県幹部らが県産豚肉を使ったカツ丼を食べて安全をアピール。「どえらいうまい」と舌鼓を打ちました。」として、議会内でカツ重を食ベる写真まで掲載するという楽観ぶりであった。
ところが、9月14日になり、岐阜県は、岐阜市で野生のイノシシから豚コレラの陽性反応が出たと発表したことで、流れは大きく早期解決には悲観的な方向に変わってしまった。
解決の長期化を予測させる豚コレラ感染イノシシの相次ぐ発見で、早期封じ込めの可能性はどんどん遠のいていったのである。
3.一体、原因は豚なのか?イノシシなのか?
この9月14日の岐阜市での豚コレラ感染イノシシの死体の発表を契機にし、以降、岐阜県は、続々発見される感染イノシシの検査にてんてこ舞いになる羽目となる。
消去法で、野生イノシシを感染元にする愚
当初、感染イノシシの死骸は、当初の発生発見養豚場から8キロ西の岐阜市の椿洞周辺での発見から始まった。
どうして、発生養豚場周辺のイノシシでなく、8キロも離れた地域で感染イノシシが相次いで発見されたのかはわからない。
ただ、8月21日に、ちょうど発生養豚場と椿洞との間に位置する、岐阜市大蔵台の道路と同市諏訪山の山裾で2頭の野生イノシシの死骸が見つかったが、検査をせずに焼却処理したことはわかっている。
その他にも、7月から8月にかけ、岐阜市のいくつかの地点で、イノシシの死骸は発見されていたようである。
一体、最初のイノシシへの豚コレラの感染をどの時点で見るか?によって、初発が発生養豚場内部からなのか?感染イノシシからなのか?は、およそ、推定可能のはずなのだが、あれから半年近くたっての「拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会」の調査でも、そこは判然とはしていない。
参考「第5回拡大豚コレラ疫学調査チーム検討会の結果概要(拡大豚コレラ疫学調査チーム(チーム長-津田 知幸)、平成31年2月22日)」
一部に、鳥や猫などを感染媒介要因に上げる向きもあるが、豚コレラの宿主域は下記図の通り、狭い。
豚コレラの宿主は実質、豚とイノシシとクビワペッカリーしかない。
また、カラスへの感染実験もあるが、いずれも、豚コレラの媒介の可能性は低いとの研究結果のようである。
参考「Role of birds in transmission of classical swine fever virus.」
ただ「発生養豚場には瑕疵はなさそうだから」ということで、消去法で、野生イノシシに初発の感染責任を転嫁しているだけである。
農林水産省疫学調査チームの津田知幸氏も9月27日頃は、次のような見解であった。
「豚コレラウイルスは豚とイノシシの体内でしか増えない。豚が先か、イノシシが先か。豚の感染が先である可能性が高い。
堆肥場のふんも感染源になりうる。ウイルス汚染ふんをイノシシが鼻でいじくるケースも」
しかし、いつしか、無難な「イノシシ感染主因説」に変わっていった。
岐阜市柴橋正直市長が12月の定例記者会見で国と県でつくる拡大豚コレラ疫学調査チームが同市椿洞で野生イノシシが最初に感染した可能性があるとの見方を示したことについて「(検討結果の)中身をみると、仮定の話が多い。」と述べたのは至言であった。
いつの間にか忘れ去られた発生元の空の飼料タンクの謎
上記調査チームでは、初発元の発生養豚場においては、飼料由來も医薬品由來も疑われるものはなかったとしている。
ただ、後の拡大豚コレラ疫学調査チームが触れていない点がある。
それは、当初の9月10日農林水産省主催第28回牛豚等疾病小委員会会議録に書かれた次の部分である。
「飼料タンクは数日前に飼料搬入口のふたが破損、降雨により飼料が濡れたため全量を廃棄していた。また飼養豚に異常が認められていたことから、新たな搬入も停止していたため、タンク内は空であった。」
この点のその後の検証については、後の拡大豚コレラ疫学調査チームでは、なにも触れられていないのである。
もし、感染が、「飼料タンクの飼料搬入口ふたが破損する前に発生し、降雨で飼料が濡れ飼料を廃棄する前に発生」していたのだとすると、シナリオはおおきく変わってくるのではないのか?
発生元の堆肥場の原因究明は完全になされたのか?
また、先述の「死亡豚についても、農場内の堆肥場に運ばれ、糞便と混ぜられた後、共同堆肥場に運搬されていた。」については、農場主もJA堆肥センターも否定したことで、その後の追求はされていないが、もし、その事実があったとすれば、それはよく養豚家で行われている堆肥での死亡豚の減量化のために、農場内の堆肥場に運ばれ糞便と混ぜられたのだと思う。
そこに、もし、発酵促進剤や、EM菌液のような補助剤が使われたのだとしたら、本来は、そのことについても、調査は続けられるべきだつたのだろう。
堆肥由來の感染の可能性についての岐阜県や国の調査も不十分と言える。
もし、発生元養豚場主が、8月中旬更には上旬あるいは7月下旬にまでさかのぼりうる時点で、初期感染死亡豚を、JA堆肥センターには運ばないとしても、自分の農場内の堆肥場に、減量化のために積み上げていたとしたら、この堆肥場由來の野生イノシシへの感染拡大は、容易であろう。
衛星写真で見る限りだが、この発生元養豚場の堆肥場と農場外との間には、明確な柵はないように見え、野生イノシシの堆肥場へのアクセスは可能と思われる。
不完全な飼料由來・堆肥由來の感染経路調査
岐阜県畜産研究所が推奨している銘柄豚育成に関するヨモギ原料の推奨飼料についての疑念も残る。
では、どうして、当初の野生イノシシへの豚コレラ感染が、岐阜市西部の椿洞に集中して発生したのだろう?
ここでも、堆肥由來の感染がなかったのかどうなのか?私自身は疑問に思っている。
仮にの話だが、この椿洞の畜産センター公園の真ん前にある岐阜市堆肥センター(岐阜市椿洞813-3)の「エコプラント椿」では、 養鶏農家の鶏ふん、学校等から出る給食の残さ及び岐阜市畜産センター公園の家畜ふん等をブレンド発酵させた環境にもやさしい肥料「椿」を、広く供給している。
下記写真(左が「エコプラント椿」、右が畜産センター公園)の立て看板にあるように、畜産センター公園内でも、ここで製造されたエコ肥料「椿」は、市民のために販売されているようだ。
ここが、感染のハブになってしまった可能性も捨てきれない。
また、今回の感染拡大農場で広く子豚などの死体処理→堆肥化にも使われていたらしき「急速醗酵堆肥化装置(コンポスト)」についても、バイオセキュリティ上のループホールがなかったかどうか?についての検証を進めるべきであろう。
東へ急速に進んだ感染拡大
では、発生養豚場の東への感染イノシシの拡大は何によるものなのか?
発生養豚場から一番近いイノシシ感染場所は、9月30日の芥見影山、10月5日の諏訪山、10月26日の芥見、9月15日の大洞である。
感染拡大の初期の頃の豚コレラ感染イノシシ発見地点は下記の図のとおりである。
これらが、8キロも離れた椿洞のイノシシからの感染とするには無理がある。
むしろ、先述の8月21日に未検査死骸発見の岐阜市大蔵台と同市諏訪山との関連を見たほうが良さそうだ。
これら死亡イノシシが豚コレラ感染によるものかどうかは、今となってはわからないが、初発養豚場周辺の感染拡大が、イノシシを通じて東にウイングを徐々に伸ばしていったのであろう。
豚コレラ感染イノシシ発見が初めて岐阜市以外の隣接市に拡大したのは、9月27日各務原市須衛が最初である。
関市は10月19日関市倉地南に初侵入、
その後、木曽川を越河し可児市に感染拡大が進んだ。
以下は岐阜県各市町村における豚コレラ感染イノシシの初発見日である。
関市10月19日
可児市西囃子10月30日、
山県市11月1日
坂祝町11月24日、
八百津町11月26日、
美濃加茂市12月5日畜産研究所、
川辺町12月24日、
多治見市1月15日、
御嵩町1月21日、
本巣市1月29日
美濃市2月12日、
瑞浪市2月13日、
富加町2月13日、
恵那市2月18日
白川 町3月25日
七宗 町3月26日
郡上 市3月27日
土岐 市4月8日
中津 川 市4月22日
下呂市5月21日
東⽩川村5月21日
養⽼町5月22日
⾼⼭市6月6日
⼤野町6月13日
揖斐川町6月19日
海津市7月12日
,
⾶騨市7月29日,,
⼤垣市8月1日,
垂井町8月2日
,
関ケ原町8月17日
,
以上が、いずれも当該市町村における初侵入日である。
岐阜市の西の隣接市には、
山県市へは11月1日、
本巣市へは1月29日
に初侵入している。
2019年4月30日現在の岐阜県豚コレラ感染イノシシの生息可能域は下記のように、拡大している。
隣県、愛知県への感染野生イノシシの初侵入は、
犬山市へ12月22日
であり、その後
春日井市に1月30日
初侵入している。
下記図赤矢印は、11月3日の時点で、今後の愛知県への感染方向を予測したものである。
12月19日に発生した愛知県犬山市野中の発生地点が、偶然にも、この赤矢印の下に出てしまった。
また、3月27日に発生の瀬戸市北丘町の養豚団地は、偶然にも、この赤い矢印の下の位置に所在していた。
4.飼料由來や堆肥由來の感染経路追求が甘過ぎはしないか?
ここで、豚コレラウイルスの特性を見てみよう。
日本での豚コレラウイルスは古典的豚コレラウイルス(CSFV)と言われるものであり、中国で感染拡大中のアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)とは完全に異なるウイルスである。
豚加工品由來感染リスクはCSFVもASFVも同じ
しかし、ではあるが、その特性を見てみると、例えば生存可能な温度やPH、そして豚肉加工品の中でウイルスが生き残りうる日数などについて見ると、両者、ほぼ同じなのである。
ウイルスが生きながらえる温度
は、
豚コレラウイルスは、Phによつて異なり。
①Ph2の場合、60度の温度で10分で不活化
②Ph14の場合、60度の温度で30分で不活化
との研究がある。
アフリカ豚コレラは
80度の温度では30分で死滅
とのことである。
ウイルスが生きながらえるph
は
アフリカ豚コレラも豚コレラも両者ほとんど同じで。
豚コレラはph4から11の間、
アフリカ豚コレラはph4から13まで
となっている。
また、
肉加工品などに生存しうる最長日数
は
豚コレラの場合
塩蔵・燻製17~188日
未調理肉34~85日
パルマ・プロシュート・ハム189~313日
イベリア豚ハム252日
ソーセージ147日
保管温度により幅あり
参考「CLASSICAL SWINE FEVER INACTIVATION IN MEAT」
アフリカ豚コレラの場合
冷凍肉1000日
空気乾燥ボンレス肉・ミートボール 300日
冷蔵ボンレス肉・ミートボール 110日
塩蔵ボンレス肉・ミートボール 182日
ボンレス肉・ミートボール105 日
燻製ボンレス肉30日
ひき肉105日
調理済みボンレス肉・ミートボール 0日
缶詰肉0日
参考「非洲猪瘟防控」
となっている。
現在岐阜県や愛知県で指導基準で出している警告では
「食品残さ(肉製品)の加熱
肉製品の入った食品残渣を使用されている場合は加熱
(70℃30分以上、80℃3分以上)してから与えてください。」
とは書いてあるものの、実際の場合は、塩分や加工法やPhなどの微妙な条件によって変わってくるようだ。
ある研究では、
①ハムの場合は、
硬化過程(塩漬け→脱水・脱脂肪→エージング)の違いによって豚コレラウイルス生存率が異なり、
②ソーセージの場合は、
スターター(種菌)の違い、肉の粒子の大きさの違い、ソーセージの直径の違い、腸詰めの腸の違い、添加物の違いにより豚コレラウイルス生存率は異なって来る、
との指摘もあるようだ。
参考「CLASSICAL SWINE FEVER INACTIVATION IN MEAT」
現在、中国からの豚肉加工製品から続々アフリカ豚コレラウイルスが隣接国台湾で検出されているが、これらは、取り締まりの厳しくなかった感染初期においての「隠蔽→ミンチ化→冷凍保存」されたものが時を経てウイルス生存のまま、市場に出てきたものである。
アフリカ豚コレラと豚コレラとの豚肉加工冷蔵品の中でのウイルスの生存日数を考えれば、この両者のリスクはほとんど同じと見ていいだろう。
豚コレラ(CSF)ウイルスとアフリカ豚コレラ(ASF)ウイルスと
どこが違いどこが同じ特性なのか?については、次のサイトが参考になる。
「African and classical swine fever: similarities, differences and epidemiological consequences」
中国に学ぶべき「泔水喂猪」徹底規制
中国でのアフリカ豚コレラの発生が、この新年に入り、急速に減少を見せている要因は、徹底的な省区間の生豚の移動禁止措置とともに、「泔水喂猪」の徹底的な取り締まりがあげられる。
「泔水喂猪」=「泔水」(食堂の残飯・残滓、流し水)+「喂」(を飼料にして育てられた)+「猪」(豚)
の意味である。
特に、この禁止措置は、中国の大都市近郊でのアフリカ豚コレラの発生を急速に減少させた。
豚コレラウイルスも、豚肉製品の中で、特に冷凍状態では、アフリカ豚コレラ同様に、長期の生存をし続けている。
このウイルスにみあう飼養規制を日本の養豚業が行っているのかどうか? 不安な点も多い。
懸念するのは、この岐阜県が、とりわけ環境に優しい県を目指し、各種施策を重視しているのに、今回のような豚コレラの蔓延という事態に見舞われたことである。
環境に優しい岐阜県だからこそのループホールはないのか?
どこかに、環境に優しいがためのループホールがあるのではないのか?との疑いの気も持ちも出てくるのだ。
リサイクルは、必ずしも、ウイルスの蔓延阻止にとっては、好循環とは言えない部分が多すぎる。
今回の発生養豚業の経営者の皆様方を見ると、いずれも、格別に、エコ畜産に人一倍ご熱心な方が見受けられるのは、痛ましい。
逆に、本来のエコの逆連鎖が、今回の豚コレラ感染拡大の機動力になってしまっているのではないのか?との疑いも、同時に生まれてきてしまう。
それは「畜産のエコ化が豚コレラ感染拡大を一方で呼び起こしていないか?」との疑念でもある。
例えば、「エコフィード」「リキッドフィード」が、十分な加熱基準の元に作られていることは、重々承知している。
しかし、もし、ウイルスにとって、適度なPhと適度な温度との組み合わせによって、生きながらえるループホールがあるのだとしたら、その点については、十分な点検が必要だろう。
それは、エコ堆肥についても同じことである。
先にも述べた岐阜県畜産研究所推薦のヨモギ使用の飼料についても、さらなる点検が必要だろう。
岐阜県畜産研究所での、堆肥ペレット製造のための堆肥や豚糞の流れがどうなってたのかについても気になる。
今回被害にあわれた養豚業者の中には、全国的な表彰を数多くされている耕畜連携の模範的な養豚家もおられた。
ニンジン栽培と養豚との連携のようである。
このスキームについても、果たして新たな事態におけるループホールがないのか?点検する必要がありそうだ。
5.なぜ、再点検が必要なのか?
それは、これまでのウイルスにない特性をもった新種の豚コレラウイルスだから
重要なポイントとなる遺伝子型
今回の岐阜県での豚コレラ発生以降の農研機構の動きは素早かった。
9月14日には、「農業・食品産業技術総合研究機構」による検出ウイルス遺伝子情報分析が発表され、過去に国内で発症した豚のウイルスや、使用ワクチンと比較すると、配列が明らかに異なったことから「海外由来と考えられる」と指摘。
同時にウイルス系統樹も発表され、
ウイルス系統樹では
今回の岐阜ウイルス「Gifu/2018」は
「Mongolian/2014」と「Chinese/2015」と
相同性は強いが一致せず。
との分析結果が公表された。
ここで、特記すべきは、今回の岐阜県で採取された豚コレラウイルスが遺伝子系統樹では、サブジェノタイプでは「2.1」に分類されるという事実だった。
遺伝子型は2.1bなのか?それとも2.1dなのか?
しかし、当方として知りたいのは、更にその下位の「サブサブジェノタイプ」が何に属しているのか?ということであった。
当時の私の9月17日のツイッターでは、次のようなことをつぶやいている。
「9月14日農研機構発表では、
9月9日発見岐阜県感染豚コレラ感染採取ウイルス「Gifu/2018」系統樹では、
①「Gifu/2018」はサブ・ジェノタイプ2.1型
②「Gifu/2018」は「Mongolian/2014」「Chinese/2015」と相同性強い。
と。
しかしサブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型か?2.1d型か?が書いてない。」
そしておなじく、9月17日のツイッターではこんなことも。
「 農研機構としては、いち早く、岐阜市の豚コレラウイルスのサブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型なのか?それとも2.1d型なのか?を世間に対して明らかにすべきときだと思う。
それによって、同じ海外由来豚コレラ株であっても、感染源推定への、大きな力となりうるのだから。」
どうして、私がここで「サブ・サブ・ジェノタイプが2.1b型か?2.1d型か?」にこだわったのか?
それは、2.1d型のウイルスは、これまで出現しているウイルスとは著しくその特性が異なっているからである。
もしこのウイルスがサブ・サブ・ジェノタイプ2.1d型であるとすれば、それは、世界の多くの関係者にとっては、驚くべき事態だからであった。
2014年からの中国感染拡大の豚コレラは新種だった!
中国で2014年山東省発生の豚コレラ(CSF)は、これまでC株ワクチンで淘汰の農場を次々襲った。
ここから抽出25のウイルスサンプルは、すべてサブジェノタイプ2.1であり、うち23がサブサブジェノタイプ2.1dであった。
また、2014年から2015年にかけて中国で発生した豚コレラから採取した61のウイルス(2014年採取20,2015年採取41)をサブ・サブ タイプ別に分けると
①2.1d 52
②2.1b 9
であった。
このことから、2.1dタイプは2.1bタイプから分岐したものと思われると、研究グループは結論づけた。
これらサブサブジェノタイプ2.1dウイルスは中国で2014年から2015年にかけ、山東省、江蘇省、河北省、吉林省、黒竜江省で豚コレラ感染が拡大した過程で採取されたものであった。
遺伝子バンクに登録されている代表的な2.1d型ウイルスには次のものがある。
中国
①SDLS1410 (2014.10 山東省) ②SDSG1410(2014.10 同上) ③JSZL1412 (2014.12 江蘇省 ) ④HB150309 (2015.03 湖北省) ⑤ JL150418 (2015.04 吉林省) ⑦NK150425 (2015.04黒竜江省) ⑧SDZC150601 (2015.06山東省)⑨HLJ1 (2015.08 黒竜江省) ⑩BJ2-2017(2017.8.9、北京) ⑪BJ1-2017(2017.8.9、北京) ⑫SDZP01-2015(2015、山東省) ⑬SDYN-2016(2016,山東省) ⑭SDYN-2015(2015,山東省) ⑮SDXJ-2015(2015,山東省)⑯SDWF2-2015(2015,山東省) ⑰SDWF01-2015(2015,山東省) ⑱SDWF-2016(2016,山東省) ⑲SDSH-2016(2016,山東省) ⑳SDQH-2015(2015,山東省) ㉑SDMY-2016(2016,山東省) ㉒SDMY-2015(2015,山東省)㉓SDLY02-2016(2016,山東省) ㉔SDLY01-2016(2016,山東省) ㉕SDLX-2016(2016,山東省) ㉖SDJN02-2014(2014,山東省) ㉗SDJN01-2015(2015,山東省) ㉘SDJN-2016(2016,山東省) ㉙SDJN-2014(2014,山東省)㉚SDGR-2015(2015,山東省) ㉛HeN1505(2015.5.河南省)
なお、韓国の野生イノシシから採取されたウイルス「PC11WB(2011)」もあるが、これについては、議論があるようだ。
参考
「Characterisation of newly emerged isolates of classical swine fever virus in China,2014–2015」
「China struggling to control new strain of CSF」
中国の新種ウイルスには特異な特性が
中国農業科学院哈爾浜獣医研究所による遺伝子分析と感染実験によると、
①ウイルス中和反応のための主要な抗原E2塩基配列に変異(ポジションはR31, I56, K205,A331)がある。
②ウイルスのE2たんばく質塩基配列で極性変化(親水性から疎水性へ)が生じ、これが抗原性と毒性を変化させたものとしている。
③このため、感染実験において、2.1dウイルス感染豚は何の臨床症状も示さず、死亡率も低く、実験の最後まで生き残った。
これら特性は2006年と2009年に山東省で蔓延の2.1bウイルスとは明らかに異なるものであり、また、これまでC株ワクチンでコントロールされていた農場をも、次々襲ったという。
C株ワクチンを無力化する中国新種豚コレラウイルス
現在、中国で豚コレラ(CSF)のために使われている「HCDV」生ワクチンはC株ワクチンと言われるもので、遺伝子配列はサブジェノタイプ2.1aに属する。
中国は1950年から、このウサギ馴化(lapinized)ワクチン(C株)を使ってきた。
上記の中国農業科学院哈爾浜獣医研究所の研究では、
豚コレラ2.1dウイルスとC株ワクチンとには ①分子変異 と ②抗原性の差異 があり、C株ワクチンは2.1dウイルスに対し有効ではない、としている。
つまり、これまでの旧来型豚ウイルスには万能だったC株ワクチンは、豚コレラ新株2.1dウイルスには、効力が薄いということになりそうだ。
ようやく農研機構が遺伝子型サブサブジェノタイプ2.1dであることを年明けに明らかに
農研機構が、岐阜県の豚コレラウイルスがサブサブジェノタイプ2.1dであることを初めて示唆したのは、今年に入ってのことである。
Microbiology Resource Announcementsの2019年1月17日号に農研機構の西達也さん外発表論文で、
岐阜県で昨年9月に採取の豚コレラウイルス「CSFV/JPN/1/2018」は、中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」と98.9%の相同性を持つことが確認された。
岐阜県採取の豚コレラウイルスと98.9%の相同性を持つ中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」のゲノム概要は次のとおりである。
「Classical swine fever virus isolate BJ2-2017, complete genome」
この論文は世界中が注目する新たな知見になりうるだろう。
すなわち、2014年から2015年にかけ中国豚コレラ蔓延の過程で「2.1b」から「2.1d」に分岐したウイルスが日本に入っていたのだから。
豚コレラのサブジェノタイプの移転(1.3から2へ)がヨーロッパとアジアに始まっている、と、指摘する向きもある。
日本での感染実験結果は中国の2.1dウイルス特性と全く同じ
中国の研究者が2014-15年の中国蔓延のサブサブジェノタイプ2.1d豚コレラウイルスの分析研究ですでに指摘している「2.1d豚コレラウイルス」の特性は、日本で蔓延中の豚コレラの特性とも、極めて近似している。
ちなみに、2月10日のNHK報道では次のような警告を発していた。
「岐阜県と愛知県の飼育施設で見つかったウイルスは、ブタに高熱を引き起こす一方で、2週間が経過しても死なないことも分かった。農林水産省は「高い発熱が特徴だが、すぐには死なないなど、一般的に言われる症状が出ない可能性もあるので、関係者は症状の特徴を踏まえて早い段階で異変を見つけてほしい」と呼びかけている。」
まさに、中国で発見のサブサブジェノタイプ2.1dウイルスの特性そっくりではないか。
農研機構も、ウイルス11月16日の発表で「当該ウイルスは豚に発熱や白血球減少を引き起こすものの、強毒株と比べ、病原性は低い」
としている。
では、中国の2.1d豚コレラウイルスはどこから?
もちろん、中国からの豚肉製品に潜んでいたウイルスが入ってきたという仮説も成り立ちうるが、それでは、まるで雲を掴むような話ではある。
二つの可能性をさぐってみよう。
①岐阜で採取のウイルスと98.9%の相同性を持つ中国で2017年8月に採取のサブサブジェノタイプ2.1dの豚コレラウイルス「BJ2-2017」(遺伝子バンクアクセスナンバーMG387218)は、どこから採取されたか?
遺伝子バンクで「MG387218」で確かめると「BJ2-2017」は『09-Aug-2017』に採取されたものである。
この「BJ」を「北京 」と見れば、2017年8月9日に中国 北京で採取されたものと、読み解くことができそうだ。
②もう一つの可能性として、ちょうど、2018年8月29日に、湖北省黄石市陽新県阳新县黄颡口镇三洲村(黃岡市羅田縣)で、アフリカ豚コレラではない、日本と同じ豚コレラが発生していた。
日本の岐阜県愛知県で発見された豚コレラウイルスと同じサブサブジェノタイプ2.1dでこれまで遺伝子バンクに登録されたものが30ある。
ウイルス採取地域別には
山東省-22 北京-2 黒竜江省-2 江蘇省-1 吉林省-1 湖北省-1 河南省-1
農研機構が相同性98.9%としたBJ2-2017は北京で2017年8月9日に採取された
新主ウイルスの遅発的特性を生かせなかった愛知県の早期出荷の愚
豚コレラ生ワクチン開発者の清水悠紀臣北大名誉教授によると
「豚コレラには、欧州の事例をみると、急速に感染が広がって収まる終息型と、持続型に分かれる。
猪の生息密度が高くウイルスの毒力が弱いと持続型。
今回は最初の発生から約4カ月が経過。
持続型ならば撲滅には10年以上かかるかも?」
とのご見解のようである。
参考「豚コレラ撲滅計画を 生ワクチン開発、清水北大名誉教授に聞く」
また、「豚コレラの低病原性ウイルス株は、不顕性の、又は、不定型の慢性症状および無症状の症例を高い割合で誘発する可能性がある。」と指摘する向きもある。
参考「Deciphering the Intricacies of the Swine Fever Virus」
もし、農研機構が、はやくから、今回の岐阜県蔓延の豚コレラウイルスが、サブサブジェノタイプ2.1dに属し、中国での研究によれば、遅発性であり、劇症型でなく、臨床症状を示すまでの時間が長くなる、等の特性を、農林水産省や岐阜県愛知県に熟知させ、ウイルス感染拡大阻止戦略に生かしていれば、豊田市のフアームから長野県宮田村への早まった出荷は阻止出来たはずだ。
この点は、かえすがえすも、残念であった。
6.全く不在だった日本の感染野生イノシシ・コントロール戦略
今回の事態のように、豚コレラに感染した野生イノシシが、これほど感染拡大に寄与するなど、行政担当者には思いもよらなかったことなのだろう。
そもそも、農林水産省では、野生イノシシが感染母体となることすら考えていなかった。
かつて、神奈川県と農林水産省との間に次のようなやり取りがあった。
「Q神奈川県
抗体保有状況調査
野生いのしし抗体検査が削除されたが今回改正で実施しなく てよいか。
A農林水産省
現在の我が国の状況から最初に野生いのししに豚コレラウイルスが侵入することは考えにくいこ とから平時には実施しない」
参考「豚コレラ特定家畜伝染病防疫指針全部変更(知事意見)」
戦略的位置づけが曖昧だったサーベイランス
9月末になり感染野生イノシシ死亡発見例が5例目を数えた時点で、岐阜県は9月22日から、これまでの野生イノシシの死亡報告に加え、捕獲調査を開始した。
私は、この時点で、調査捕獲の非効率性と、果たして、この手順が戦略的手順に沿ったものなのか、疑問視するツイッターをしていた。
一般的なサーベイランスの手順
豚コレラが野生イノシシに感染拡大してしまった後の対策は「Regionalization」(地域限定化)という手法が一般的に用いられる。
その地域限定化のための手法としては、
①サンプルエリアを確定する。
②サーベイランスをする。
③ゾーニング確定(バッファー、コア、監視ゾーン)
④淘汰又はワクチネーション
-a.淘汰(ハンター、罠&殺処分)
-b.淘汰とワクチン併用か?
-c.ワクチン(リングor地域限定)
このうち、②のサーベイランスは次に別れうる。
野生イノシシのサーベイランスの種類
①パッシブ(受動的)
死亡や病気のイノシシの報告を受け、感染か否かを検査する。
②アクティブ(能動的)
イノシシの射殺や罠でかかったものについて、感染か否かを検査する。
③センチネル(Sentinel)(定点観測)
指標となるイノシシを決め、定期検査する。
曖昧だった捕獲調査の戦略目的
岐阜県が行おうとする捕獲調査は、上記サーベイランスの②(アクティブ・サーベイランス)に当たるはずだ。
しかし、どうも、話は、淘汰を兼ねたサーベランスのようにも見える。
そもそも、これほど野生イノシシに感染が拡大した時点で、感染イノシシの完全淘汰等無理な話だ。
そして、その後は、戦略的目的も曖昧なまま、ダラダラと、捕獲調査は続けられた。
新しい、ロープを使ったイノシシの唾液によるサーベイランスの方法
そもそも、捕獲調査によるサーベイランスは、コストが高くつくため、海外の専門家は、「Rope-based oral fluid sampling」という方法を勧めている。
これらの方法は、イノシシなり豚の口内粘液から、豚コレラ ウイルスのサンプルを採取して、状況把握に務める方法である。
以下はその図示である。
①この方法の概念図
②縄と餌
③林の中で仕掛ける
④集めたサンプリング
残念ながら、岐阜県では、サーベイランスのための捕獲か?殺処分のための捕獲か?があいまいなまま続けられたことによって、本来は、早くゾーニング確定による感染地域の限定化を図り地域限定の撲滅化戦略が確立されるべきところが、それが行われないままに、今に至るまで、漫然と続けられている、というのが実情なのだろう。
海外に見る感染野生イノシシ・コントロール戦略
今回の一見を契機に、私は、海外に置ける野生イノシシのコントロール戦略を多く学ぶことが出来た。
例えば次のようなものである。
「Can African swine fever be controlled through wild boar management?」
「AHAW Panel Control and Eradication of CSF in wild boar」
「Feral pig control A practical guide to pig control in Queensland」
「Classical Swine Fever in Wild Boar」
「The control of classical swine fever in wild boar」
これらは、これから日本にも入ってくるであろうアフリカ豚コレラの侵入に備える戦略ともなりうる。
野生イノシシ限定での経口ワクチン投与~いくつかの問題点の指摘~
12月に入り、にわかに、飼養豚にワクチン投与を、という悲痛な叫びが、全国から湧き上がってきた。
農林水産省は、一貫して、これを拒否してきた。
そのかわり、といってはなんだが、野生イノシシ限定での経口ワクチン投与の方針を固めてきた。
実は、私は12月23日のツイッターで次のようなことを言っていた。
「誰か、農林水産省のOIEの専門家、OIEに解釈を正してみたらどうなのかな?
豚コレラの飼養豚への感染を防ぐために、野生イノシシだけ、餌によるワクチン経口摂取をしても、飼養豚の清浄化条件や清浄国復帰 待機期間(waiting period)には影響するのかしないのか?
ちょっと虫のいいやり方だけどネ。」と。
現在の世界の豚コレラウイルスに対するワクチンは次の分類となる。
1.生ワクチン
修飾生ウイルスワクチン(MLVs)
( C-strain ベースの生ワクチン)
2.不活化ワクチン
①マーカー・ワクチン
サブユニット・マーカー・ワクチン
②DIVAワクチン
DNAワクチン
相補性欠失変異体
ウイルス・ベクター・ワクチン
キメラ・ワクチン
今回、農林水産省が、野生イノシシにかぎり、経口ワクチン接種導入予定ワクチンはおそらく、IDT Biologika GmbH社(前身は RIEMSER® 社)のPestiporc Oralワクチンなのだろう。
この豚コレラ用の経口ワクチンはいろいろな豚の好きそうなものから作られているようだ。
ココナッツオイル
トウモロコシの粉
脱脂粉乳
ポーラライト
香料(アーモンド風味など)
など。
参考「Köderentwicklung und Ködervarianten」
しかし、以下、気になる点がいくつかある。
①このワクチンは、野生株とワクチン株とを見分けられるDIVAワクチンではないことである。
DIVAの経口ワクチンも、たとえば、「 CP7E2alf」というワクチンも、あることはあるのだが、導入できないのは知見が伴わなかったのだろう。
混乱しているのは、ジビエの業界である。
当面、ワクチン頒布地域は狩猟禁止地域なのだから、混乱は起らないとしても、長期的にはどうか?
野生イノシシで、健康で経口ワクチンを食し、抗体ができたイノシシの位置付けは、野生株で自然感染した不顕性感染イノシシと、同じ扱いになるはずである。
混乱は生じないか?
②同種の経口ワクチンを使ってのドイツでの実験では、次の点が指摘されている。
若イノシシは豚コレラ経口ワクチンを食べない。
新しい経口ワクチンは食いつきがいいが、古いワクチンは食いつきが悪い。
若イノシシには経口ワクチン効果は薄いので、並行し、ハンティングによる殺処分を行う必要がある。
③野生イノシシへのワクチン投与により、不定型(Atypical)ウイルスが定在化し、不顕性感染イノシシから飼養豚へのコンタミの危険性が増す。
④そもそも、今回の豚コレラウイルスはサブサブジェノタイプ2.1dの新種ウイルスなので、今回の経口ワクチンがC株ワクチンであることから、上記に見たような2.1dウイルスの特性に鑑み、その効果の点で疑念が残る。
⑤なお、野生イノシシへの経口ワクチン投与がきまったあとも、飼養豚へもワクチン接種をとの要望があるが、一般的には、「飼養豚にはワクチン不使用」を前提にして、野生イノシシに対しワクチンが投与されているようだ。
どうして、野生イノシシに対する経口ワクチン接種と並行して、飼養豚に対して、ワクチンを打つことが出来ないのか?その理由について、下記サイトではこのように述べている。
「いくつかの非常に効果的な 改良型生ウイルスワクチンが、野生イノシシにも飼養豚にも、予防的ワクチン接種として使われている。
しかし、接種した野生イノシシは、野生株で感染したまま生き残っている飼養豚と区別することが出来ないので、改良型生ウイルスワクチンの使用は、血清診断を干渉してしまう。」
「Epidemiology, diagnosis and control of classical swine fever:
Recent developments and future challenges」
7.教訓とすべきは?
まだ、日本の豚コレラ感染は終息したわけではないので、教訓を求めるのは早いかもしれないが、少なくとも、次のことは言えるのかもしれない。
(1).ウイルス特性に応じた感染拡大阻止戦略構築の重要性
今回の豚コレラウイルスが2014年から中国で、すでにC株ワクチンで制御されていた養豚場を次々と襲ったものであったと、早くからわかっていれば、それ遅発性に応じた阻止戦略の構築は可能だったろう。
ウイルス拡散阻止は、まさに、科学なのだ。
農研機構のウイルス分析と特性分析に応じた迅速な農林水産省と政府の戦略構築こそ、ウイルス拡散を阻止しうると思う。
(2)長野県宮田村の悲劇を繰り返させないために
今回はそれが十分にできずに、長野県宮田村のような犠牲者を生んでしまった。
豊田市のTファームから、愛知県中央家畜保健衛生所支所に「豚に食欲不振や流産などの症状が見られる」と通報があったのは2月4日午前9時頃。
1月27日ころから食欲不振の豚が出ていて、2月4日になって6頭に増えたことから通報。
愛知県は豚コレラに関する遺伝子検査を2月5日午前9時から行い、その時点で豊田市の養豚場に出荷の自粛を求めた。
だが、養豚場はその2時間前の2月5日午前7時に宮田村の養豚場に子豚80頭を出荷していた。
そして、同じ2月5日昼前に陽性反応が出た。
宮田村の養豚場に出荷された子豚80頭のうち、79頭から豚コレラの陽性反応が確認。
また、この養豚場から食肉処理場に出荷された別の豚12頭からも陽性反応。
出荷側県の言い分は「「診断した豚は母豚。出荷したのは母豚ではなく子豚。異常がわからなかった」とのこと。
出荷を受けてしまった長野県側の言い分は「(感染の疑いを把握していたのに)出荷を抑制する措置がとられなかったのはなぜなのか、確認しなければいけない」と苦言。
ここで、もし、今回の2.1dウイルスの特性である「遅発性で非劇症性」ということを踏まえ、愛知県側が、慎重な対応をしていれば、宮田村の悲劇は防げたはずだ。
(3).どうして制限解除の直後に新たな感染例が発生してしまうのか?
1月29日に各務原市で発生し、さらに、そこから、すでに本巣市へ感染子豚を出荷していた例をみてみよう。
この各務原市の養豚場は、これまで、搬出・移動制限のかかるスレスレ半径10キロメートル以内にいたのではないのか?
相次いで、美濃加茂市や可児市や関市で豚コレラが発生し、それに伴い、そのいずれもの搬出・移動制限のトリプルの規制を受けるという、地政学的にハンディを伴う制限地域内にあったのではないか?
おそらく、1月29日の各務原市から本巣市への豚コレラ感染子豚売却は、わずかな搬出制限解除の隙間を利用した出荷が、悲劇をうんでしまった、とも、見てとれる。
ここで、これまで発生した各例での搬出制限解除と移動制限解除の日付を、時系列的に見てみよう。
岐阜県内
発生日(カッコ内は殺処分数)→搬出解除(発生から20日後)→移動解除(発生から30日後)
1例 岐阜市岩⽥⻄ N畜産(546) 9/9-9/29ー10/10
2例 岐⾩市椿洞 畜産公園(21) 11/16ー12/4ー12/15
3例 美濃加茂市前平町 県畜研(503)12/5-12/25ー1/5
4例 関市東志摩猟犬場(21イノシシ) 12/10-12/29-1/9
5例 可児市坂⼾ 県農大校(10) 12/15-1/3-1/14
6例 関市肥⽥瀬 K農産(8,083)12/25→1/16-1/26
7例 各務原市鵜沼⽻場町 Aファーム(1,609+と畜場150+本巣市M畜産784)1/29(疫学関連農場の本巣市M畜産へ1/17出荷)→2/18→3/1
本巣市M畜産は疫学関連農場。搬出制限・移動制限なし。
8例 瑞浪市⼤湫町Kファーム(5,765)2/19→3/13→3/24
9例 山県市上願S養豚(1,503) 3/7→3/28→4/7
10例 山県市松尾 H養豚(3,637) 3/23→4/14→4/24
11例 美濃加茂市蜂屋町下蜂屋 I養豚(666) 3/30→4/18→4/28
12例 恵那市⼭岡町久保原 Z畜産第二農場(3,521) 4/9→4/29→5/10
13例 恵那市笠置町⽑呂窪 Tミート(9,830+関連と場67) 4/17→5/10→5/21
14例⼭県市⼤桑 M畜産(2,040) 5/25→6/23→7/9
15例⼭県市⽥栗 H養豚(7,429) 6/5→6/28→7/9
16例 関市東⽥原(1,193) 6/23→7/13→7/24
17例恵那市⼭岡町⾺場 Z畜産(4,810) 7/3→7/25→8/5
18例七宗町神渕 K養豚場(401) 7/10→7/29→ 8/9
19例 恵那市串原⽊根 K養豚(1,007) 7/27→8/17→8/28
20例 揖斐川町谷汲名札 M養豚場(3,610 速報値) 8/17→ →
愛知県内
発生日→搬出解除(発生から20日後)→移動解除(発生から30日後)
1例 豊田市堤本町 Tファーム(5,620+関連1,611+出荷先8,202、明細は下記「愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染」参照) 2/6→3/2→3/13
2例 田原市野⽥町桜 K養豚(1,740+養豚団地15,585) 2/13→3/17→3/25
3例 瀬戸市北丘町 T畜産(4,131) 3/27→5/12→5/23
4例 田原市野⽥町東ひるわ H組合(1,730+関連6,421) 3/28→5/13→5/24
5例 瀬戸市北丘町 Sファーム(1,468) 3/29→5/12→5/23
6例 田原市⾚⽻根町野添原 Sフーズ(1,014) 3/29→5/13→5/24
7例 瀬戸市北丘町 Tファーム(4,641) 4/10→5/12→5/23
8例 田原市⾼松町椿沢(1,024+関連391+関連311) 4/21→5/13→5/24
9例 瀬戸市北丘町(966) 4/22→5/12→5/23
10例 ⽥原市⼤草町⼭⽥ T豚舎(2,410+関連1,304) 5/17 →7/7→7/15
11例 ⽥原市⽥原町東笹尾(1,271) 6/12 →7/7→7/15
12例 ⻄尾市吉良町津平⼤⼊ S養豚(1,141+関連6,687) 6/29 →7/28→8/7
13例 ⻑久⼿市岩作⼤根 Eファーム(583+関連217) 7/8→7/31→8/10
14例 豊田市⻄中⼭町向イ原(307) 8/9→ ?→?
15例 長久手市岩作三ケ峯 愛知県畜産総合試験場(707) 8/9→? →?
2月6日発生の愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染明細
長野県宮田村⼤久保 Uファーム(2,444) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
長野県松本市(38) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
大阪府東大阪市渋川町 N畜産(737) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
岐阜県恵那市岩村町 M畜産(4,284) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
滋賀県近江八幡市加茂町(699) 2月6日愛知県豊田市からの感染豚移入に基づく感染
その他県内
三重県いなべ市 Mファーム(4,189) 7/24→8/17→8/28
福井県越前市藤⽊町 Nファーム(297)7/29→8/19→8/30
福井県越前市寺地町 S養豚場(688)8/11→ →
岐阜県7例の各務原市の農場の場合、各務原市の農場から本巣市への養豚場への販売感染子豚の移動日は1月17日であった。
その前日平成31年1月16日午前0時に「平成30年12月25日関市K農産での発生に伴う搬出制限区域」が解除された。
おそらく、各務原市から本巣市への子豚の移動は、待ちに待った搬出制限解除をうけてのものだったと思われる。
ここで、流れをまとめると、下記の通りになる。
1月16日「12月25日の関市K農産発生に伴う搬出制限区域」解除
↓
1月17日各務原市Aファームから本巣市M畜産へ子豚80頭出荷
↓
1月29日各務原市Aファームで豚コレラ発生。
↓
1月30日本巣市M畜産で感染確認。
このような流れとなる。
ここで、1月15日時点で各務原のファーム(下図二重赤丸)が置かれていた搬出制限の網は、次の図のとおりであった。(なお、関市の発生養豚場から各務原市の発生養豚場までの距離は、すれすれ10キロメートル以内と見られるが、実際どうだったのかまでは確かめてはいない。)
この各務原市の養豚場のように、四方八方から二重三重に搬出・移動制限がかかってしまった場合、何らかの特例措置を設けないと、この制限区域内にある養豚場は、経営的にも資金繰り的にも、窒息状態におちいり、解除とともに、感染豚までも、安易に出荷してしまうことになりかねない。
この教訓は、今後の搬出移動制限措置の解除の柔軟なあり方の模索に結びつけるべきではなかろうか?
(4).養豚団地のバイオ・セキュリティは大丈夫か?
愛知県田原市野田町の養豚団地での17,325頭規模の殺処分は、今後の養豚団地のあり方に、疑問を抱かせた。
それは、中国のアフリカ豚コレラ感染でも見られた。
近代化した公司経営の超大規模養豚場では、一箇所で、大量の殺処分が行われていた。
1月2日の黒竜江省では73,000頭、 1月12日の江蘇省では68,000頭、
2月18日の広西チワン自治区では23,555頭、の殺処分が行われた
つくづく、畜産の感染症では、規模の経済の原則は通用しないということを感じさせられる。
ウイルス感染阻止の場合、養豚団地は、「集まって強くなる」のではなくて、かえって「集まって弱く」なってしまうのである。
田原市野田桜の養豚団地
田原市東ひるわ養豚団地
瀬戸市北丘町の養豚団地
日本においても、今後、この経験から、養豚団地のバイオセキュリティのあり方を見直す点が、多々ありそうだ。
愛知県の養豚団地では、三つの養豚団地が明暗を分けた。
2月13日に田原市野田町桜の養豚団地内のK養豚から発生した豚コレラは、翌日2月14日には、隣接した団地内の他の養豚農場に感染拡大し、その日の午後6時に愛知県は、団地全部の豚の殺処分を決定した。
その理由として
事務所、堆肥場、死体を保管する冷蔵庫、車両などが共同で利用されていあることを上げた。
また、3月28日に発生の田原市野田町東ひるわのH組合養豚団地においても、
農場毎の明確な境界なし。
中央の作業道路は4農場で利用
堆肥舎や堆肥化施設、死体保管施設共同利用
との理由により、養豚団地全体の殺処分が決定された。
対象的なのは、3月27日に発生の瀬戸市北丘町の養豚団地である。
ここも4つの養豚場があったが最初にT畜産が感染発生、翌日に左隣のSファームに感染拡大したが、ここの団地では、共同利用の施設がなかったために、Mファームを初めとした残りの養豚場は殺処分から免れた。
この例から学ぶとすれば、新しいバイオセキュリティの観点からの養豚団地での共同利用施設のあり方を更に模索する必要があるのではないか?
(5)ワクチン是か非か?
これにつきましては、別のブログ記事「豚コレラ感染拡大で、混乱するワクチン接種是非問題」 にまとめてありますので、そちらをご参照ください。
(6).ブランド豚の再生は可能か?
今回、岐阜県では、いくつもある岐阜県内のブランド豚の産地が軒並み豚コレラでやられてしまった。
影響を受けたのは次のとおりである。(例の数は岐阜県内での数)
①美濃ヘルシーポークー第1例岐阜市と第7例各務原市と第10例山県市
②美濃けんとん・飛騨けんとんー第6例関市。種豚喪失
③ボーノ・ブラウンー美濃加茂市の岐阜県畜産研究所で、ボーノ・ポークの種豚喪失
④文殊にゅうとんー本巣市。第7例から感染子豚80頭を供給された。
⑤寒天育ち豚ー恵那市。愛知県豊田市からの子豚感染
⑥ボーノ・ポークー8例。瑞浪市。
⑦デリシャス・ポークー9例。山県市
⑧はちや豚-11例
岐阜県以外のブランド豚でも、
東大阪市では「なにわポーク」、
豊田市では「三州豚」、
瀬戸市では「新鮮冨豚」
田原市では「みかわポーク」
長野県宮田村では「駒ヶ岳山麓「清流豚」」、
が影響を受けた。
複雑なのは、これらのブランド豚への影響が、ふるさと納税の返礼品にもおよび、当該市町村の財政にも直結してしまっていることである。
これらの市町村では、今回の豚コレラ感染直後に、ふるさと納税の返礼品リストから、豚肉関連を外した。
問題は、これらのブランド豚のスキーム、ひいては、ふるさと納税の返礼品のスキームを維持するために、いわば、工業産品のOEM的に、子豚を県外から供給し、それを育成し、ブランド豚の産地形成を図るというスキームが全国定着してしまっていることである。
果たしてこれが、バイオセキュリティ的に安全なスキームなのか?疑問が残る。
なにはともあれ、これら豚コレラ災禍にみまわれた産地の一日も早い再生を願うものだ。
(7)今後、豚コレラ感染イノシシ対策の課題は、慢性感染イノシシ対策へと移行するだろう。
これから岐阜県の野生イノシシは、慢性(Chronic)豚コレラ臨床症状を呈していくと思われる。
これには急性と異なる対処が求められる。
豚コレラは次の4つのタイプに分けられうる。
①急性豚コレラ(Acute)
②慢性豚コレラ(Chronic)
③先天性豚コレラ(母子感染)(Congenital)
④軽症型豚コレラ(死産などが現れる)(Mild)
これらのタイプによって、潜伏期間も臨床症状も異なってくる。
この中で、慢性豚コレラは、豚コレラが風土病化する要因をはらんでいる。
慢性豚コレラは下記のような急性とは異なった特性を持つ。
特に、潜伏期間が急性に比して極端に長く、また、ウイルス排出期間も長期にわたるところが特徴である。
対策も、中長期的な観点にたった戦略構築が求められる。
参考「Classical Swine Fever—An Updated Review」
8.おわりにーダブル感染の悪夢到来にそなえるべしー
それにしても、どうして、岐阜県も愛知県も農林水産省も、豚コレラ対応の初動を誤ったのか?
それは、農研機構が、発生直後に、今回のウイルスが新種であると分析してたのに、政府・両県とも、遅発性というウイルス特性にマッチしたウイルス対応戦略をうちだせなかったからだ。
ひとえに、政治・行政の責任であるといえる。
豚コレラに続くアフリカ豚コレラの脅威
こうして、日本が岐阜での豚コレラ(CSF)問題に追われている間に、中国でのアフリカ豚コレラ(ASF)は、中国国内では一応の終息の方向をみせてはいる。
しかし、一方、豚肉加工製品を通じてのウイルスの検疫での摘発は台湾を初め塁乗的に増えつつある。
これらの豚肉製品に潜むウイルスは、中国でのアフリカ豚コレラ感染拡大のごく初期に、隠蔽的に肉加工材料に回された感染肉・ミンチ肉などが、冷凍状態のまま保存され、中にウイルスを生きながらえさせながら加工肉にまわされて、今、ウイルスが日の目を見ているものと思われる。
また、中国と国境を接するヴェトナムやモンゴルでは、アフリカ豚コレラの発生が増加しつつある。
日本は、豚コレラのみならず、アフリカ豚コレラ感染拡大の危険も、一触即発の状態にあるとみられる。
ダブル感染のブラック・ストーリーはあるか?
あえて、ブラック・ストーリーを提示するわけではないが、もし、野生イノシシに豚コレラウイルスが依然残存している日本に、更にアフリカ豚コレラウイルスが侵入してきたら、どうなるのか?
興味深い研究がここにある。
バルセロナ自治大学のOscar Cabezón氏らの研究によると、
①生後24時間以内に豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシ
と、
②生後無菌室に入れたBグループの野生イノシシ
とに対し、同時にアフリカ豚コレラ感染をさせたところ、
生後無菌室に入れたBグループは程なく臨床症状を示し死亡したのに対して、
すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループは、さして臨床症状を示すことなく、実験の最後まで生存し続けた
と言う。
参考「African swine fever virus infection in Classical swine fever subclinically infected wild boars.」
その原因として、この研究グループは、すでに豚コレラ(CSF)に感染させたAグループの野生イノシシには、インターフェロン阻害物質が出来ていて、著しく劇症性が緩和されていたのだと結論付けている。
「転ばぬ先の杖戦略」が必要
この研究の評価は別として、もし、今後、日本本土にアフリカ豚コレラウイルスが侵入し、岐阜県や愛知県の山中にいるであろう、すでに豚コレラウイルスに感染した野生イノシシにCSFVとASFVとのダブル感染した場合、この研究実験のように、不顕性感染のイノシシが増加するのであろうか?
ここいらで、日本も、本格的な野生イノシシ・コントロール戦略を確立し、上記のようなブラック・ストーリーの出現に備えるべき時期にきているのかも知れない。(終わり)
2019年3月3日記述 笹山 登生