Sasayama's Watch & Analyze


2014年10月18日

環境権と憲法改正の動きについて

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■1.安倍政権での憲法改正の動き

(1)国民投票法(日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律)の成立・施行(平成 26 年 6 月公布)
国民投票法はすでに平成22年5月18日に成立しているが、今回の改正を得て、3つの検討課題(年齢条項の見直し、公務員の政治的行為の制限に係る法整備、国民投票の対象拡大についての検討)が整備された。
国会の三分の二の発議を受ければ国民投票が出来る状態になった。

(2)これを受けて自民党憲法改正草案(2012 年4月自民党発表)をたたき台にしての与党(自民党・公明党)間話し合いの開始

(3)自民党は憲法改正推進本部(船田元 本部長)会合で論議開始。
船田氏は「改憲草案を一回の国民投票で3つ程度是非を問い、5年から10年かけて、4回から5回の国民投票を実施。9条改正については2回目以降とし、「ならし運転」をしたうえで国民投票にかける」と話した。
2年以内に、環境権が優先して国民投票にかけられる可能性が出てきた。

(4)2014年10月7日、衆院憲法審査会(会長・保利耕輔元自治相)の幹事懇談会で、自民党側が「環境権」「緊急事態条項」「財政健全化規定」の三つの論点について、今国会での審議を提案した。
民主党など野党4党は持ち帰って検討することになった。共産党は提案に反対した。

 

環境権を憲法に盛り込むことについての各政党のスタンス

(1)国会での論議では次の三つの方向が錯綜

①明文改憲が必要-環境権を明記
②明文改憲は必要ないが、下位の法律での立法措置が必要
③必要はない。現行で OK

(2)各政党のスタンス

①自民党―他の新しい人権(プライバシー権、国民の知る権利、犯罪被害者への配慮)とともに環境権を憲法に盛り込む

②公明党―「加憲論議」の対象として新しい人権の一つである環境権を加える。加憲のスタンス

③民主党―基本的人権は公益や公の秩序に劣るものではないという観点から環境権をも含む新しい人権を憲法に加えるための論議を進める。96条先行改正には反対。創憲のスタンス。

④維新・みんなの党―環境権については賛成

⑤共産党・社民党―現行憲法のもとで、具体的に立法で規定することで環境権は守れる。環境権を道連れにした憲法改正には反対。護憲を優先。

 

■2.サックス教授が唱えた「環境権」のもともとの概念

(1)ミシガン大学のサックス教授(Joseph L. Sax)が1970年4月1日提出「ミシガン州環境保護法(The Michigan Environmental Protection Act)(MEPA、現在はNREPA)で「天然資源または天然資源に関する公共信託に対する汚染・損傷・破壊について、市民・法人・団体などは訴えることができる。」と規定

英語では

「The People of the State of Michigan enact;

Section 2(1)  ”The attorney general, any political subdivision of the state, any instrumentality or agency of the state or of a political subdivision thereof, any person, partnership, corporation, association, organization, or other legal entity may maintain an action in the circuit court having jurisdiction where the alleged violation occurred or is likely to occur for declaratory and equitable relief against the state, any political subdivision thereof, any instrumentality or agency of the state or other political subdivision thereof, any pertinent person, partnership, corporation, association, organization or other legal entity for the protection of the air, water and other natural resources and the public trust therein from pollution, impairment or destruction. “」

参照

「The Michigan Environmental Protection Act of 1970」

Superior Public Rights, Inc. v. Department of Natural Resources

(2)ここでの「公共信託」(Public Trust Doctrine)という概念は「公衆の共同財産である天然資源を、公衆が自由に利用できるよう、行政主体が公衆より信託され、管理・維持する義務」

サックス教授の「The Public Trust Doctrine in Natural Resource Law」もご参照

良好な環境資産は、後世代から現世代に託されつつ、世代から世代へ、受け継がれていくもの、という考え方。

(3)このように、サックス教授の言われる「環境権」には、単に現世代のための環境権ばかりでなく、将来の世代のための環境権も、含まれている。

 

■3.日本国憲法に環境権はあるのか?

二つの基本権の援用をし、司法救済しようとしている。

①憲法13条の幸福追及権
個人に対する環境の享受が公権力によって妨げられない権利。
新しい人権であり、環境権以外に、知る権利、プライバシー権などを救済しうる根拠が含まれる。
なお、これまで、司法は、肖像権のみ認容(昭和44年12月24日 最高裁 京都府学連事件)している。

②憲法25条の生存権
環境の保全のための積極的な施策をとるように、公権力に対して要求する権利。
経済的生存権だけでなく環境的生存権をも守るというもの。
プログラム規定的性格が強い。

憲法第13条

条文
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

憲法第25条

条文
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」

 

■4.日本の環境権の不毛な出発

(1) 日本の環境 権 は、公 害 訴訟での損 害賠 償訴 訟 や差 し止め請 求訴 訟において、憲法 13条の幸 福追求権、憲法25条の生存権を援用し、司法救済をしようとすることから始まった。

(2) 初めて、憲法本文を援用し、司法救済を図ろうとした訴訟は「伊達火力発電所訴訟(札幌地裁 昭和55年10月14日判決)

「火力発電操業による排出ガスは住民の健康を損なうものであり、環境権・人格権の侵害である」と原告は主張したが、「環境の要素は住民個々に差があり、地域住民が共通の排他的支配権を有するものではない」として、司法は環境権を否定。

(3) 以降の憲法13条.25条援用による環境訴訟においては、ことごとく司法は環境権を認容しなかったが、「大阪国際空港公害訴訟(最高裁昭和56年12月16日 大法廷判決)」においては、「差し止め請求と損害賠償訴訟は人格権を根拠にして認容しうるので環境権については認容するまでもない」としつつ、人格権に基づく「過去の損害賠償」についてのみ認容した。

そのほか、環境権が争われた主な裁判例としては次のものがある。

名古屋新幹線訴訟(名古屋地裁、昭和55年9月11日)(公共益が受忍限度に勝るとし却下)
関西電力多奈川火力発電所訴訟(大阪地裁、昭和59年2月8日)(原告の素因・加齢・喫煙要因と被告が加えた大気汚染物質要因との割合に応じ減責)
豊前火力発電所訴訟(最高裁昭和60年12月20日)(環境権については判示せず)
川崎製鉄高炉新設差止め請求訴訟(千葉地裁.昭和63年11月17日)(排出差し止め請求は不当で請求を却下。高炉操業差し止め請求は不当で請求を棄却)
琵琶湖総合開発差止め請求訴訟(大津地裁、平成元年3月8日)(浄水享受権が個別的環境権としてはなじまないとし却下)
長良川河口堰差止訴訟(岐阜地裁平成6年7月20日)(公共の利益を上回る損害の程度ではないとし却下)

(4)結論的には、日本における憲法13条25条援用による環境権は、司法救済しうるにたりない、あってなきがごときものであった。

 

なぜ第13条・25条援用では、日本の司法に環境権を認容させることが出来なかったのか?

四つの理由がある。

(1)憲法第13条・第25条 は国の責務を宣言する綱領的な規定であり、国 民に直接に具体的権利を与えるものではない。(プログラム規定の問題)

(2)環境権の属性があいまいで差し止め請求しにくい。(公益と私益との比較衡量(秤量)の問題)
外延性がありすぎる。

(3)環境権がなくても人格権や財産権根拠で差し止め請求・損害賠償請求ができる。(非代替性の欠如の問題)

(4)地域住民は景観・環境そのもので利益・権利を得ているものではない。(非使用価値の問題と反射的利益の問題)
ただし、鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁 平成21年10月1日)では「住民の景観利益は法律的保護に値する」とした。

 

■5.諸外国における憲法で環境権規定の実態

(1)憲法に環境権が制定されている国は
1.アゼルバイジャン、2.アルゼンチン、3.アルバニア、4.アルメリア、5.エチオピア、6.ギリシャ、7.グルジア、8.スペイン、9.スロバキ ア、10.スロべニア、11.韓国、12.チェコ、13.ドイツ 14.トルコ、15.ノルウェー、16.ハンガリー、17.フィンランド、18.フラン ス、19.ブルガリア、20.ベルギー、21.ポーランド、22. ボルトガル、23.ラトビア、24.ルーマニア、25.ロシア

(2) これらの国は、さらに、①憲法の前文に環境権が規定されている国 と、②憲法本文に環境権が規定されている国 とに分かれる。
前文規定と本文規定の差は、裁判規範性に違いがあり、前文規定では裁判規範性が弱い、とされる意見が強いが、そうではないとする意見もある。

さらに、環境権の原点であるサックス教授が主張されている「後世代への責務」を憲法に規定している国もある。

①憲法前文に環境権が規定されている国の例―フランスー

憲法前文

「フランス人民は 1789 年宣言により規定され 1946 年憲法前文により確認かつ補完された人民の諸権利と国民主権の諸原理に対する忠誠、及び、2004 年環境憲章により規定された権利と義務に対する忠誠を厳粛に宣言する。」

ゴチック部分が今回修正された前文箇所。

前文についてはこのサイトの「Preamble」をご参照

環境憲章

「フランス人民は、天然資源ならびに自然界の均衡が人類の出現を条件づけたということ、人類の将来ならびに存在そのものがその自然環境と不可分であ るということ、環境は人類の共有財産であるということ、人は、生存の条件ならびに自身の発展に対しますます影響を及ぼしつつあるということ、生物の多様 性、人格の開花、人間社会の進歩が、一定の消費もしくは生産様式および天然資源の過度の開発により影響を受けているということ、環境保全は、国民が有する 他の基本利益と同様に追求されなければならないということ、持続可能な発展を確保するためには、現在の欲求に応じることを目的とした選択は、将来世代なら びに他の人民が自身の欲求を充足させる能力を危うくするものであってはならないということ、
これらのことに鑑み、以下のとおり宣言する。」

以下に環境保護に関する5つの原則(①責任原則(4条)②予防原則(5条)③統合原則(6条)④防止原則(3条)⑤参加原則(2条))を例示

責任原則
第 4 条「何人も、法律により定められた条件においても自己が環境にもたらす損害の回復に貢献しなければないらない」

予防原則
第5条 科学的知見の現状において不確実であっても、損害の発生が環境に対し重大かつ不可逆的な影響を及ぼしうる場合には、公共機関は、予防原則の適用により、自 己の権限の範囲内において、リスク評価手続を実施し、損害の発生を予防するべく相応の暫定的措置を講じるよう留意する

統合原則
第6条 公共政策は、持続可能な発展を促進しなければならない。この目的のため、公共政策は、環境の保護ならびに開発、経済発展、社会の進歩を調整する

防止原則
第 3 条「何人も、法律に定められた条件において自己がおよぼしうる侵害を防止し、さもなくば、その侵害の影響を制限しなければならない」

参加原則
第2条 何人も、環境の保全ならびに改善に参加する義務を有する。

環境憲章全文についてはこのサイトご参照

シラク大統領が大統領選挙で公約し 2002 年実行したもの
環境憲章を憲法的法律と位置づけ、下位の法律に対する規範性を持たせている。

②憲法本文に環境権が規定されている国の例―ドイツー

第 20a 条(自然的生活基盤の保護義務)
「国は来るべき世代に対する責任を果たすためにも、憲法に適合する秩序の枠内において、立法を通じて、また法律および法の基準に従って、執行権および裁判を通じて、自然的生活基盤を保護する」

③「後世代への責務」を憲法に規定している国の例―グルジア―

第 37 条
「三項 すべての国民は健全な環境のもとに暮らす権利があり、また、自然・文化的環境を利用する権利がある。
四項 社会の生態的・経済的利益を一致させ、そして、現在の世代と将来の世代との利益を考慮 し、国 は、健 全な環 境を確実にするため、自 然の保 護を保 証し、自然 の合理 的な使 用 を保 証 する。 」

サックス教授の当初の環境権の精神にのっとった規定である。

 

■6.現行憲法での憲法 13 条・25 条援用による環境権の限界

次の点での現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”の限界がネック。

①私権としての環境権を、憲法第13条の幸福追求権から導き出される人格権をもって、公益に優先して司法救済することに限界がある。
公定力にはあらがえない。

②環境権の権 利の対象 の「環境の内容の範囲や地域的 範囲」「権利 侵害 の概念」「権 利者の主 体 と範囲」が不明確である。
外延性が拡大しすぎる。

③環境問題が広域化・複合化するなかでは、人格権侵害の問題として個人を原告とした訴訟を行っても、公益と私的環境損失との比較秤量を行えば、個人の受忍限度の量は公益に劣後してしまう。
集団訴訟がまだ慣行化していない。
環境価値の数値化手法が未成熟である。(CVM法トラベルコスト法等が試行錯誤されてはいるが、司法に認容された例はない。)

④住民個人が環境資 産 から受ける利益が、司法 から反射利益と見なされれば、現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”のもとでは、差し止め請求の根拠となりえない。
反射利益は法に基づいた利益とはみなされない。

⑤私権としての環境権を争う民事訴訟では、原告個人への環境破壊による加害行為が具体的に立証されなければ、原告の請求は認容されない。

⑥環境権は原告の個人的な利益を超えた利益であるはずなのに、現行の憲法第13条・第25条援用の”みなし環境権”のもとでは、私権としての環境権しか認められない。
公益と私益との二値化でしか司法の場でとらえられない。
個人が公益を主張することが出来ない。

以上のような限界から、現行の憲法第13条・第25条援用では賄いきれない、「私権としての環境権を逸脱した環境権」を、新しい条文で守る必要が出てきた。

 

■7.例え憲法に環境権が規定されても、環境訴訟の原告にハードルとなりうる諸問題

(1)原告適格の問題

①原告として訴訟を進行し判決を受けるための資格があるかどうか?
もし、原告適格がないと裁判所が判断されれば、そこで、門前払いとなる。

環境訴訟において原告適格が問題となるのは、次の場合

①環境資産が所在する土地に居住する者しか原告として認めらない。
②環境資産の処分が原告の一定の利益に対する侵害を伴うことが条件であり、かつ、その利益が法令により公益とともに保護される利益の範囲に含まれているもの。
③反射的利益を受ける者は、法律上、保護された利益ではないので、原告適格とはみなされない。

なお、平成16年に行政事件訴訟法の改正があり、「第9条(原告適格)「法律上の利益を有する者」」に2項をくわえ「考慮すべき利益の内容性質をも考慮」を付け加えた。

「法律上の利益」については以下の二説がある。
①「法律上、保護された利益説」(根拠法規が存在している)
②「法律上、保護に値する利益説」(事実上の利益でも、法律上の利益と見なす)

今回の行政事件訴訟法2項の新設は②の「法律上、保護に値する利益説」に配慮したものとみられる。

行政訴訟法改正直後に判決があった「小田急大法廷判決」(平成17年12月7日)は注目されたが、関連法規による利益の保護趣旨の範囲内での一部の原告の拡大にとどまった。
すなわち。
①東京都環境影響評価(アセスメント)条例の定める関係地域内(線路から概ね1キロ前後の範囲)に居住する37名に「原告適格」を認める。
②関係地域外に居住する3名の上告人は、原告適格を有しない。
③各附属街路(側道)事業の認可取り消しの各訴えに関する部分は、当該事業地内の地権者4名を除いて、これを棄却する。
④都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受ける おそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。
④行政事件訴訟法9条と目的を共通にする関係法令として、都市計画法、公害基本対策基本法をあげ、これらの関連法規は住民の具体的利益を保護しようとするものと解されるところから、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難であると解釈される。
⑤以上から都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的 に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する。

ご参照「小田急訴訟 最高裁大法廷判決の意義

参考

行政事件訴訟法 第九条  (原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2  裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。こ の場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものと し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質 並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

②苦肉の策としての「自然の権利訴訟」

原告適格を持つ人は限られてくる。たとえば、干潟なら、地元の漁業者など。それらの漁業者が補償金を得て、干潟をつぶすことに同意してしまうと、その干潟の地元には原告となる資格のものがいなくなる。
その干潟のある場所に住んでいなければ原告としては認められないので、苦肉の策として生れてきたのが、干潟に生息するムツゴロウを原告に仕立て上げるとい う方法。これを自然の権利訴訟という。実 際の裁判においては自然の権利訴訟は原告非適格で門前払いされ、住民訴訟に切り替えて受理されている。
アマミノクロウサギ訴訟(鹿児島地裁、平成13年1月22日)では、「アマミノクロウサギ こと 何山何男」として受理された。

日本における代表的な「自然の権利」訴訟
アマミノクロウサギ自然の権利訴訟(1995年2月23日提訴・鹿児島地方裁判所)
オオヒシクイ自然の権利訴訟(1995年12月19日提訴・水戸地方裁判所)
ムツゴロウ諫早湾自然の権利訴訟( 1996年7月16日提訴・長崎地方裁判所)
大雪山のナキウサギ裁判(1996年8月26日提訴・札幌地方裁判所)
生田緑地・里山・自然の権利訴訟(ホンドギツネ、ホンドタヌキ、ギンヤンマ、カネコトテタグモ、ワレモコウ)(1997年1月24日提訴・横浜地方裁判所)

馬毛島マゲシカ自然の権利訴訟(2002年01月22日提訴、鹿児島地方裁判所)

奄美ウミガメ自然の権利訴訟(2003年07月11日提訴、鹿児島地方裁判所)
沖縄ジュゴン訴訟(2003年提訴、サンフランシスコ連邦地裁)

③環境訴訟における原告拡大の試みー「オーフス条約」ー

国際的には環境訴訟における原告拡大の機運が高まっている。

その一つの動きが、「オーフス条約」である。

「環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約」

批准国はEUも含め39カ国。署名国は6カ国に及んでいる。

日本は批准国でも署名国でも、まだない。

「第 9 条 司法へのアクセス
2.各締約国は、その国内法の枠組みにおいて、以下のことを確保しなければならない。(中略)
何が十分な利益と権利の侵害を構成するかは、国内法の要件に従い、かつ、「関心をもつ公衆」にこの条約の範囲内で司法への広範なアクセスを付与するという目的に合致するように判断されなければならない。」

なお、上記の「関心を持つ公衆」の概念の中には、非使用価値を持つ人、観光客や非居住者、環境NGOまでをも含みうる。

(2) プログラム規定の問題

憲法上に規定される環境権は、抽象的権利なのか、それとも具体的権利なのか?という問題がある。。
憲法 25 条規定の生存権で環境権を争うとしても、それは具体的な権利なのか?
プログラム規定説は国民の生存を国が確保すべき政治的、道義的目標を定めたにすぎず、具体的な権利を定めたものではない、とする考え。
一方、憲法の下位の法律で生存権が具体化できる法律があれば、訴えを起こすことができるという説もあり、これを抽象的権利説という。
さらに、憲法25条は生存権の内容を具体的に定める法律がなくとも、直接 憲法第25条に基づいて訴えを起こせるという説があり、これを具体的権利説という。

(3)反射的利益の問題

たとえば大きな滝の名所があるとする。その滝には多くの観光客が訪れる。その滝の前には、土産物屋さんや、記念写真屋さんなどがある。これらの、滝の前の土産物屋さんや記念写真屋さんは、大きな滝の恩恵を受けて、商売での利益を受けていることになる。
このような「大きな滝」という環境資産から反射されて利益を受けることを「反射的利益を享受する」と言う。
一方、訪れる観光客は、その滝という環境資産で金銭的な恩恵を受けてはいないので、反射的利益を受けていない当事者といえる。
では、実際に環境資源である滝が工事のために破壊されるとして、反射的利益を有する写真屋さんがそれに反対して訴訟を起こし、原告になりうるか?
その利益が法律によって保護されていれば原告になりうるが、そうでなければ原告にはなりえない。

(4)使用価値(利用価値)と非使用価値(非利用価値)の問題

①景観や生態系は、それ自体、利用や使用ができる立場の人と、できない立場の人とがある。
たとえば干潟は、地元居住民にとっては、自然のもたらす海産物や貝類などを使用(利用)したり換金することができるが、そこに居住していない観光客にとっては、自然のもたらす海産物や貝類などを使用(利用)したり換金することはできない。
でも、そこに居住していない観光客(ビジター)であっても、干潟を散策する喜びや愛でる喜びといった、非使用価値(非利用価値) は持っている。
また海外の訪れない人でも、その環境価値を知り、ともに享受するという意味での非使用価値(非利 用価値)はもっている。
でも、そのような非使用価値(非利用価値)を持つ人々は、多くの場合、原告となることを認められていない。

②自然享有権

1986年、日本弁護士会の人権擁護大会で、「自然享有権」なる概念が提唱された。
この概念の意味するところは、「人が、生まれながらにして等しく有する、自然の恩沢を享有する権利」「自然の一員として、自然の生態 系のバランスを維持する権利」「自然自身および将来の国民から信託された、自 然を保護・保全する権利」であるといわれている。
したがって、この権利は、地域的に限定されない権利であり、権利主体にも、制約のない権利であり、さらに、個人の権利のみでなく、自然自身や将来の世代を も代表する権利である。さらに、その自然生態系なり景観に接することのできない人々の「非使用価値」に基づく権利を含む。
これらの権利は、防御権としての環境権とは異なり、妨害排除を請求できる権利である。
すなわち、環境被害の事前の差し止め請求権とともに、事後の現状回復請求権、そして、行政への措置請求権を有す。

これを憲法にどう盛り込むかは難問。

(5)個人の受忍限度の問題

公害などによって個人の環境権または人格権が、どの程度そこなわれたのか?その基準として、一般人が社会通念上,がまん (受忍) できる被害の程度をさす。
騒音などの場合なら、例えばその限界を「工場騒音の受忍限度は,被害者居住家屋の最も音源に近い場所において 55 ホン程度」(名古屋地判昭和 39・11・30)(騒音被害事件で受忍限度論を前提とした初めての最高裁判決)などと数値化しえるが、かなり司法サイドの裁量性の大きい概念といえる。
例え受忍限度で救済されたとしても、その時点で、原告の健康状態は死に近づいている場合もあるので、フランスの環境憲章にうたわれている「予防原則」が明記されている必要がある。

なお、原告本人が喫煙者の経歴を持つ場合などは、原因企業と原告との割合的責任が問われた判決も過去にみられた。

(6)公益と私益との比較衡量(秤量)の問題

環境権は、私権としての基本権利であると同時に、公益を志向した基本権利でもある。
国民個人が、私権としての環境権をもって民事訴訟に持ち込んだ場合、公権力の公益と原告個人の私的利益との双方の利益の程度の比較を行う。
これを公益と私益との比較衡量または比較秤量(ひかく・ひょうりょう)という。
これまでの憲法第13条・第25条援用の私権としての環境権では、その比較すべきは「公共益 vs 私的利益」の比較による受忍限度判断であった。
新しく憲法上に環境権が盛り込まれるた場合、その比較は「公共益 vs 環境の公共益」の比較、あるいは、「当該環境の公共益 vs 他の環境の公共益」の比較となる場合もあり得る。
現在では、個人が公益に関する権利侵害を訴えることが出来ない。
公益には、私益に内包化しうる公益とそうでない公益とがある。
平成17年の「小田急大法廷判決」では「不特定多数者の利益」には ①一般的公益に吸収・解消しうるもの ②個々人の個別的利益として保護されるもの との二つがあるとの問題意識が提起された。
なお、平成17年の行政訴訟法の改正にあたって、参議院の付帯決議の中に「公益と私益とは二分出来るものなのか?と言う趣旨の問題提起があった。

内容は下記の通り(平成16年6月1日参議院法務委員会 付帯決議)

「第三者の原告適格の拡大については、公益と私益に単純に二分することが困難な現代行政における多様な利益調整の在り方に配慮して、これまでの運用にとらわれることなく、国民の諸権利の救済を拡大する趣旨であることについて周知徹底に努めること。」

 

■8.近年 先進化している環境権についての司法判断

近年、各地の地裁・高裁レベルでも、環境訴訟において、先進的な司法判断が下されることが多くなってきた。

代表的な例として①鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁 平成 21 年 10 月 1 日判決) ②国立マンション
訴訟(最高裁 平成 18 年 3 月 30 日判決)がある。

前者の判決では、住民の景観に有する価値は、私法上保護されるべき経済的な利益にとどまらず、景観それ自体に利益を有するとの司法判断が下された。

後者の判決では、良好な景観に近接し居住する住民は、その景観を享受しうる景観利益を有する、との司法判断が下された。

ただ、このいずれの判決においても、環境権自体を認めるまでには、踏み込まなかった。

鞆の浦景観保全訴訟

鞆の浦景観保全訴訟(広島地裁平成 21 年 10 月 1 日判決)
「鞆の浦の景観は、美しいだけでなく、歴史的、文化的価値を有し、近接する地域内に住み、その恵沢を日常的に享受する住民の景観利益は法律保護に値する。
公有水面埋立法は、景観利益を保護に値する個別利益として含むと解釈される。
住民は景観による恵沢を日常的に享受しており、法律上の利益を有する。」
「公有水面埋立法及びその関連法規は、法的保護に値する、鞆の景観を享受する利益をも個別的利益として保 護する趣 旨を含むものと解するのが相 当である。
したがって、原 告らのうち上記 景 観利 益 を有すると認める」
「景観の価値 は私法 上 保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸 内海 における美的景観 を成すもので、文化的、歴史的価値を有する景観としていわば国民の財産ともいうべき公益である。」
なお、法的保護に値するとした法令として、公有水面法のほか瀬戸内海環境保全特別措置法をあげている。

瀬戸内海環境保全特別措置法
第三条 政府は、瀬戸内海が、わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとつて貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国 民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであることにかんがみ、瀬戸内海の環境の保全上有効な施策の実施を推進するため、瀬戸内海の水質の保全、 自然景観の保全等に関し、瀬戸内海の環境の保全に関する基本となるべき
計画を策定しなければならない。

国立マンション訴訟

国立マンション訴訟最高裁判決(平成 18 年 3 月 30 日最高裁判決)
「ある特定地域で、地権者らが十分な相互理解と結束の下に、一定の自己規制を長期間にわたり継続した結 果として、当 該地 域に独 特の街 並み(都 市 景観 )が形 成され、かつ広く一 般社 会でも良 好な景観だと認められることで特 定の付加価値を生み出 している場合には、地権 者らは形成された良好な景観を維持する義務を負うとともに、その維持を相互に求める利益を有するに至ったと解すべきだ。
この景観利益は法的保護に値し、これを侵害する行為は一定の場合に不法行為に該当する。」
「良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する利益(「景観利益」)は、法律上保護に値するものと解するのが相当である。
本件について、景観に近接する地域内の居住者は、「景観利益」を有している。」

 

■9.政治サイドの動きの例としてー愛知私案と自民党草案ー

(1)愛知私案
具体的な政治家サイドの動きとして、元環境庁長官の愛知和男先生が 2000 年 2 月に提唱された「平成憲法 愛知試案 第三次改定版」がある。
そこでは、環境権は以下のように規定。
「平成憲法」愛知私案 第33条
環境に関する権利及び義務
① 何人も、良好な環境を享受する権利を有するとともに、良好な環境を保持し且つわれわれに続く世代にそれを引き継いでいく義務を有する。
② 国は良好な環境の維持及び改善に努める

(2)自民党 日本国憲法改正草案

自民党は 2012 年 4 月 27 日に自民党憲法改正草案を発表、現在、これをベースに公明党との与党間
協議に入っている。
環境権については以下の通り
「第 25 条の 2 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することが出来るようにその保全に努めなければならない。」
「前文 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。」

 

■10.おわりにー残された課題―

(1)現世代が後世代のために良好な環境資産を残すことを憲法のどこで保証するのか?
現行憲法の第11条、第97条に「将来の国民より信託された権利」の規定がある。
憲法第11条(基本的人権の享有)「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」
憲法第97条(基本的人権の本質)「これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
しかし、これは、環境権の援用としては使われていない。
グルジアの憲法では、後世代への保護義務について述べている。
愛知和男私案では「われわれに続く世代に、権利を引き継ぐ義務を有する」との規定がある。
新憲法にこの趣旨を書き込むのかどうか? 書きこむとすればどこに書きこむのか?が検討課題

(2)環境基本法との関係

環境基本法には環境権は盛り込まれていないが、第3条に同様の趣旨の記載はある。

環境基本法第3条

「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な 均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきているこ とにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適 切に行われなければならない。」
現在の環境基本 法を、フランスの「環境憲章」のように、「憲法的法律」に格 上げし、前 文から移譲 、という方法もある。
ただし、この場合、その憲法的法律に格上げした環境基本法が、下位の法律に対し、プログラム規定の役割を果たせるかどうか、裁判規範性を保持しうるかどうか、については疑問。

(3)自然享有権やグレーゾーンの環境権のとりあつかい

日本の環境資産の中には、所有があいまいなグレーゾーンのスペース(たとえば、入浜権というもの、長浜町入浜権訴訟(松山地裁昭和53年5月29日)など)がある。
これらのスペースでの環境権は「個別的環境権」と呼ばれるものであり、グレーゾーンでの環境権ともいうべきもの。
これらのスペースへの一般市民へのパブリック・アクセス権、あるいは コモンズと呼ばれる共通利用スペースに対するアクセス権、というものをどう保証するのか?も課題。
環境権の概念の中に「国なり行政が、国民や市民のために、彼らにかわってこれらの環境資産を受託し、管理する」という公共信 託の概念を、環境 権の概念の中に折り込むことによって、これらグレーゾーンの環境資産での環境権の問題は解決しうるものと思われる

以上 (2014 年 10 月 2 日 記)

以上のメモは2014年10月9日に小生が明治大学の「学部間共通総合講座」の「環境と政治」シリーズにおいて、「環境権と憲法改正の動き」と題して講義したものに一部を加筆したものです。

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