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ぶどうのイメージクラスターを、地域振興の推進力にしよう

クラスター(ぶどうの房状)という概念を使って、産学官連携した地域振興をはかろうという試みが、ここ4、5年の間に、各地で始まりつつある。

企業、大学、自治体などが、それぞれ、ぶどうの粒となり、房のようにまとまり連携しあいながら、地域振興の機能を果たそうというわけだ。

北海道では、1994年、道経連が『21世紀に向けた北海道の指針』を策定し、その中で、産業クラスター(産業集積体)の形成により、公共事業依存型の道経済から脱し、基幹産業を中心に、そこから派生する新産業の創出を、北海道発展の起爆剤にしようとの考えを打ち出した。

(参考「北海道産業クラスター創造研究会」のホームページ)

そして、その中核施設として、このたび、「北海道産学官協働センター」の着工をみた。

また、長崎・佐賀両県では、北松浦半島を中心とした両県をまたがる広域圏発展のため、両県の産学官が連携し、1995年に長崎県経済同友会佐世保地区が中心となり、2009年を完成目標とする『海洋クラスター都市構想』をスタートさせた。

ここでは、産業クラスターにとどまらず、『海』と『歴史・芸術・観光・スポーツ・福祉等』とのかかわりを重視したクラスターの形成をめざしている。

この外、福島県などの首都機能移転構想では、『連携補完圏』をめざす『クラスター』形成が、デザインされている。


ダイナミックな産学官連携


紅葉と雪のイメージ
この、産学官連携のクラスター構想は、ハーバード・ビジネススクール教授マイケル・E・ポーターによって、提唱された。

氏の著書 "The Competitive Advantage of Nations"(1990)(邦訳名「国の競争優位」)の中で、氏は、一国のなかで、競争力の強い産業というものは、いろいろなつながりによって関連した、クラスターと呼ぶ産業集団で連結しているとした。

氏は、このクラスター間の相互交流を促進し、政府の支援でクラスターを強化することが、産業発展への起動力になるとした。

その原型として、氏は、イタリアのスキー・ブーツ産業、ドイツの印刷機産業、スェーデンの鉱業機器産業、スイスの製薬産業などをあげている。

北海道では、フィンランドの起業支援システムに注目しているが、これは、森林産業を中心とした産業クラスター形成の例である。

(参考「諸外国の起業支援システム」)

もともと、このクラスターという、わかりにくい言葉は、応用物理の用語としてよく使われている。

クラスターは、原子・分子と固体・液体との中間に位置し、両者に無い特性を有す。また、わずかなエネルギーによって、形態的にも反応の面でも、不安定に"揺らぎ"をみせる。

さらに、代表的な炭素クラスターである"フラーレン"(サッカー・ボールの形をしているという)にみるように、クラスター間の相互作用により、クラスター単独の場合にはない、新しい特性をもつことができ、また、クラスターを薄膜など固体表面に安定化させることによって、固体に新たな特性をもたらすこともできる。

また、ばらばらの単原子イオンのままではなしえないのに、ある程度の房状の原子の塊になると、クラスターの先頭の原子が「つゆはらい効果」をもち、固体内部にきりこめる力をもつという。

これら、もともとの技術用語のもつ意味合いは、そのまま、クラスター形成によって地域振興を推進するうえで、いろいろな戦略のヒントを、われわれに与えてくれる。

例えば、クラスター化による、状況改善のための「ブレーク・スルー(現状隘路突破)効果」も、上記の「つゆはらい効果」から、十分期待できる。

また、新しい国土総合開発計画(『21世紀の国土のグランド・デザイン』)のキーワードである『参加と連携』のための、ひとつの有力な手法となる可能性を秘めている。

数年前、国土庁のかたと雑談をしている際、私が『国土軸という概念は、なにか、直線的なイメージを与え過ぎるのではないか。みなさんがたは、なだらかな短い直線軸の集積体をイメージされているのではないか。もっと、ぴったりとした言葉はないものか』などと言ってしまった記憶がある。 いわば、両端に房のついた如意棒のような、短い国土軸の連鎖が、適当なイメージなのかも知れない。

(参考 『クラスターのイメージ』)

この国土軸を、クラスターを連結形成する軸とみなせば、もっとダイナミックな戦略が展開できるのではなかろうか。


検討すべき様々な課題


気球のイメージ では、これからのクラスター形成にあたって、検討すべき課題として、なにがあるだろう。

第一は、クラスター内部の、そしてクラスター同士を結ぶ、ネットワークのあり方である。

クラスターには、自然発生的に作られたものと、戦略的に作られたものとがあり、さらに、自然発生的に作られたものを、戦略的に強化する場合もある。

クラスターとネットワークとの関係を見た場合、ネットワーク先行型で、その結節点(Nod)にクラスターを形成していく場合と、ネットワーク後行型で、既存の数世紀にわたり築かれた文化地理的な共通点をもとに、クラスターをつくり、そのクラスター同士をネットワークでつないでいくという場合がある。

先にあげた、北松浦半島を中心とした長崎・佐賀両県のクラスター形成は、後者の例である。

第二は、グレード・アップされたクラスターを形成するに必要な、今日的なインフラはなにか、についての検討である。マルチメディア・インフラはもちろん、高度な文教施設、良質の観光施設も、グレード・アップされたクラスター形成のための有力なインフラとなりうる。

第三は、クラスターを形成する主体が、既存の規模の組織団体などでいいのか、ということである。

さきのフィンランドの例では、一つのスマート・ネツトワーク・センターに、170の組織、1,500人のスタッフが集積しているものもあるという。その多くは、NGO、NPO、弁護士、会計士、学者、ベンチヤー・ビジネス経営者、ベンチャー・キャピタルなど、いずれも個にちかい組織である。

より個にちかい組織が、クラスター構成の要素として望ましいが、既存の会社などの組織であっても、視点を『地球環境』などのマクロ視点に引き上げれば、相対的には、より個に近い単位になりうる。

第四は、集積反応を促す集積誘因ともいうべき要素として、なにを用意するか、ということである。

地域振興という誘因が、地方においても、必ずしも絶対的な誘因とはなり得ず、また、立地企業自体がますます「フット・レス化」している状況のもとでは、例えば『ゼロ・エミッション・クラスター』『ゴミ廃棄物再利用クラスター』『生態系維持のためのサスティナブル・クラスター』などの『環境クラスター』の形成が、NPOなどの参加を促す誘因になるかもしれない。

(参考 『サスティナブル・クラスター』)

第五は、クラスターの参加構成員として、従来の『産学官』に加え、『民』に、どういう形で参加してもううかが、大きな課題となる。しかも、その『民』の質は、単なる市民やNPO、NGOなのか、それとも、産業発展の戦略的要因となりうる『企業家族』(擬似市民)なのか、についての検討も課題となりうる。

以上にみたように、クラスター形成(クラスタリング)の考え方は、従来の『産学官』連携とは、似て非なるものであり、また、単なる『機能特性別ゾーニング対応』や『層別対応』で済ませうる、静態的なものでもない。さらに、工場用地提供型の産業集積でも、もちろん、ない。

既存の会社・行政・団体・教育機関・技術体系などを、いったん個にちかい形に機能をバラし、それに民・NGO・NPO・ベンチャー・ビジネスなどを加え、新たな誘因の元に再編成することにより、これまでに無い発展起動力を醸成しようとする、よりダイナミズムにみちたものである。


グローバルな結合体形成の時代


うさぎのイメージ
これまでの各地での取り組みには、まだ、従来の異業種交流の考え方や、テクノポリスの焼き直し的な考え方にとどまっている面も、みられないではない。 平成9年3月『地域産業集積活性化法』が成立し、モノづくりを支える基盤的技術を有する企業の集積や、産地・企業城下町など、地域の自立的経済発展の基盤となる中小企業の集積をねらいとした施策がスタートした。

その対象となる『活性化計画承認地域』は、やや狭域であり、隣県にまたがる地域はほとんどない。

また、政策メニューの性格上、指定地域は、当然、産業地域に限られてくる。

関連施策予算として、産学官連携研究開発施設や先進的アプリケーション整備事業などがあるが、歴史的・文化的つながりによるクラスターの形成・強化まで、視野に入れたものはない。

これを試行錯誤とし、今後、 民主導でありながら、ソフト面・インフラ面では、官が、マクロ・デザインにもとづいたバックアップをしていくことが、これからの各地のクラスター形成に、必要になってくるのではなかろうか。

そして、最終的には、各国の有力なクラスターが国際的に、あるいは「東アジア圏」という範囲で結合し、「クラスターのクラスター」ともいうべきグローバルな結合体が、うまれうる時代となるのではないだろうか。

('99年 1月 5日更新)


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