クラスター(ぶどうの房状)という概念を使って、産学官連携した地域振興をはかろうという試みが、ここ4、5年の間に、各地で始まりつつある。 (参考「北海道産業クラスター創造研究会」のホームページ) そして、その中核施設として、このたび、「北海道産学官協働センター」の着工をみた。 ![]() この、産学官連携のクラスター構想は、ハーバード・ビジネススクール教授マイケル・E・ポーターによって、提唱された。 氏の著書 "The Competitive Advantage of Nations"(1990)(邦訳名「国の競争優位」)の中で、氏は、一国のなかで、競争力の強い産業というものは、いろいろなつながりによって関連した、クラスターと呼ぶ産業集団で連結しているとした。 氏は、このクラスター間の相互交流を促進し、政府の支援でクラスターを強化することが、産業発展への起動力になるとした。 その原型として、氏は、イタリアのスキー・ブーツ産業、ドイツの印刷機産業、スェーデンの鉱業機器産業、スイスの製薬産業などをあげている。 北海道では、フィンランドの起業支援システムに注目しているが、これは、森林産業を中心とした産業クラスター形成の例である。 (参考「諸外国の起業支援システム」) もともと、このクラスターという、わかりにくい言葉は、応用物理の用語としてよく使われている。 (参考 『クラスターのイメージ』) この国土軸を、クラスターを連結形成する軸とみなせば、もっとダイナミックな戦略が展開できるのではなかろうか。 ![]() 第一は、クラスター内部の、そしてクラスター同士を結ぶ、ネットワークのあり方である。 クラスターには、自然発生的に作られたものと、戦略的に作られたものとがあり、さらに、自然発生的に作られたものを、戦略的に強化する場合もある。 クラスターとネットワークとの関係を見た場合、ネットワーク先行型で、その結節点(Nod)にクラスターを形成していく場合と、ネットワーク後行型で、既存の数世紀にわたり築かれた文化地理的な共通点をもとに、クラスターをつくり、そのクラスター同士をネットワークでつないでいくという場合がある。 先にあげた、北松浦半島を中心とした長崎・佐賀両県のクラスター形成は、後者の例である。 第二は、グレード・アップされたクラスターを形成するに必要な、今日的なインフラはなにか、についての検討である。マルチメディア・インフラはもちろん、高度な文教施設、良質の観光施設も、グレード・アップされたクラスター形成のための有力なインフラとなりうる。 第三は、クラスターを形成する主体が、既存の規模の組織団体などでいいのか、ということである。 さきのフィンランドの例では、一つのスマート・ネツトワーク・センターに、170の組織、1,500人のスタッフが集積しているものもあるという。その多くは、NGO、NPO、弁護士、会計士、学者、ベンチヤー・ビジネス経営者、ベンチャー・キャピタルなど、いずれも個にちかい組織である。 より個にちかい組織が、クラスター構成の要素として望ましいが、既存の会社などの組織であっても、視点を『地球環境』などのマクロ視点に引き上げれば、相対的には、より個に近い単位になりうる。 第四は、集積反応を促す集積誘因ともいうべき要素として、なにを用意するか、ということである。 地域振興という誘因が、地方においても、必ずしも絶対的な誘因とはなり得ず、また、立地企業自体がますます「フット・レス化」している状況のもとでは、例えば『ゼロ・エミッション・クラスター』『ゴミ廃棄物再利用クラスター』『生態系維持のためのサスティナブル・クラスター』などの『環境クラスター』の形成が、NPOなどの参加を促す誘因になるかもしれない。 (参考 『サスティナブル・クラスター』) 第五は、クラスターの参加構成員として、従来の『産学官』に加え、『民』に、どういう形で参加してもううかが、大きな課題となる。しかも、その『民』の質は、単なる市民やNPO、NGOなのか、それとも、産業発展の戦略的要因となりうる『企業家族』(擬似市民)なのか、についての検討も課題となりうる。 ![]() これまでの各地での取り組みには、まだ、従来の異業種交流の考え方や、テクノポリスの焼き直し的な考え方にとどまっている面も、みられないではない。 平成9年3月『地域産業集積活性化法』が成立し、モノづくりを支える基盤的技術を有する企業の集積や、産地・企業城下町など、地域の自立的経済発展の基盤となる中小企業の集積をねらいとした施策がスタートした。 その対象となる『活性化計画承認地域』は、やや狭域であり、隣県にまたがる地域はほとんどない。 また、政策メニューの性格上、指定地域は、当然、産業地域に限られてくる。 関連施策予算として、産学官連携研究開発施設や先進的アプリケーション整備事業などがあるが、歴史的・文化的つながりによるクラスターの形成・強化まで、視野に入れたものはない。 これを試行錯誤とし、今後、 民主導でありながら、ソフト面・インフラ面では、官が、マクロ・デザインにもとづいたバックアップをしていくことが、これからの各地のクラスター形成に、必要になってくるのではなかろうか。 そして、最終的には、各国の有力なクラスターが国際的に、あるいは「東アジア圏」という範囲で結合し、「クラスターのクラスター」ともいうべきグローバルな結合体が、うまれうる時代となるのではないだろうか。 ('99年 1月 5日更新) |
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