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水鳥のイメージ新しい湿地政策の構築を
世界の湿地を守るラムサール条約の第7回締結国会議が5月10〜18日の間、コスタリカで行われた。

今回のコスタリカ会議(ラムサール条約事務局長デルマー・ブラスト氏の開会の挨拶が、RealPlayerで聞けます)では、次の3つの点に意義があった。

第1は、湿地登録拡大のための戦略とガイドラインについての決議がされたこと。

第2は、アジア 大平洋地域における渡り鳥の保全についての多国間相互協力への勧告がなされたこと。

第3は、干潟を中心とする潮間帯湿地ヘの保全を高めることについての決議がなされたことである。

第1の湿地登録基準の見直しの背景には、近年の登録湿地数の伸び悩みという現実がある。

前回のブリスベーン会議後の登録湿地数の増加傾向を見ても、その増加に寄与しているのは、殆ど、後発条約批准国の登録湿地である。

先発条約批准国の登録湿地は、イギリス、ノルウェーなど、批准後20年余を経ても、登録数を伸ばしている一部の国を除いては、総じて、日本も含め伸び悩みを見せている。

それ以上に深刻なことは、たとえ登録湿地となり得ても、その後、要注意監視リストであるモントルー・リストにはいってしまっている地域も、少なからずあることである。

なかでも、ギリシャ等の7ヶ国など、これまでの一国の登録湿地のすべてが要注意リストに入ってしまっている例すらある。

このことから見るように、登録湿地の量的拡大もさることながら、登録された湿地が,実質的に,生態系ネットワーク構築の戦略的拠点たりうるための方策も必要となる。

そのために必要なのは,ラムサール条約と生物多様性条約、ボン条約など他の条約との有機的連携である。

しかし,それぞれの条約には,限界がある。

生物多様性条約については、国際リストがなく、登録地の選定は、条約批准国にまかされているため、暗黙の国際的拘束力がないことが、欠点である。

また、ボン条約については地域によって批准率に著しい違いがあるのが欠点である。

すなわち、ユーラシア・アフリカ地域では批准率が高いが、アジア・オセアニア地域では批准率が低い。

これら,それぞれの関連条約のもつ欠点を、その地域の特性に合わせ、ラムサール条約を中心に補いあって、国際的生態系ネットワークの実効を高めていこうというのが,今回の考え方の背景にある。


国際的生態系ネットワークの拡大


さらに、今回の登録湿地拡大の戦略の中心となるのが、国際的生態系ネットワークの拡大という考え方である。

特に,EUでは、2,004年までに「ナチュラ2000」という名の,国境を越えたネットワークを構築しようとしている。

そのために、

(1)最重要地域の選定

(2)生息地間の連携

(3)ネットワークの生態的価値を高めるための複数の政策展開

の3つの目標を掲げ、2,004年を達成年とする、次の三段階での行動計画が進行中である。

第1段階は、1995年までに各国が各々の守るべき生息域と種のリストを提出する。

第2段階は、1998年までに各国提出リストをベースに、ヨーロッパ大陸を、自然特性の共通な6つのゾーンに分け、その各々で重要と判断する地域をリストアップする。

第3段階は、2,004年までに、ゾーン毎に提出されたリストから特別保全地域をリストアップすることにより、「ナチュラ2000」エコロジカル ネットワークは完成する。

今回のコスタリカ会議での登録湿地拡大のための戦略も、この「ナチュラ2000」の考え方を踏襲している点が多い。

特に、その選定にあたって,生物地理区分上の代表的な湿地を位置づけようとしている点や、生態系ネットワーク構築には、飛び石としての小さな湿地をも見逃してはいけないことを強調している点などに、その考えが見られる。

第2のアジア・太平洋地域の渡り鳥保全のための多国間協力については、「アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」で確立された国境を越えたネットワーク完成のための湿地を追加、ノミネートすることが求められた。

ユーラシア・アフリカ間では、すでに、ボン条約にもとづく地域協定が成立している。(「AEWA」=1996年8月調印)

アジア・太平洋地域についても同様の地域協定締結が期待されているが,当地区にはボン条約の批准国が少なく、協定成立はむづかしい。

これに代わり、ラムサール条約ベースでのネットワークを完成しようとするものである。

第3の「干潟など潮間帯湿地」(以下「干潟など」としるす)の保全については次の4つの決議がなされた。

(1)過去の干潟など消失面積の記録と現存の干潟などの保全状況の目録作成

(2)干潟などの消失による影響や、その生態系を維持させる代替戦略についての情報提供

(3)干潟などに悪影響を与える現存の政策の見直しや、干潟などの長期的保全策の導入

(4)干潟などの湿地登録の拡大

この決議にあたり、イギリスからは干潟に潜在的に依存している水鳥の数に注目すべきとの発言があり、また、ベルギーからは、海水の潮間帯湿地の重要性に劣らず、最も希少で、消失の危機にさらされているのが、淡水の潮間帯湿地であるとの認識を、次回のCOP8までに、深めるべきだとの意見が出された。


生物多様性国家戦略の練り直し必要


水芭蕉のイメージ このように,干潟などの潮間帯湿地保全に具体的に踏み込んだ決議の存在は、今後のわが国の開発政策にも、少なからざる影響を与える事になるであろう。

以上に見たように、今回の会議での決議勧告を受けての日本の環境行政に与えられた課題は多い。

特に、ラムサール条約と生物多様性条約などとの有機的連携という点では、あまりにやるべきことが多い。

一応、生物多様性国家戦略が村山内閣時代に作られているが、アクションプランが伴わないために、この戦略は殆ど機能していないのが現実である。

もう一度、この際、アクションプランを含め国家戦略を作り直してはどうか。

また、EUの「ナチュラ2000」(Natura 2000)にならい、水鳥に限らず、国境を越えた「アジア・太平洋間エコロジカルネットワーク」を、日本が、リーダーシップを発揮し、構築すべき時に来ている。

先日、石垣島のアンパル干潟に行き、名蔵川河口の,干潟とマングローブの一体となった生態域に魅せられきた。

まさに、マングローブあって、底生生物が守られ、底生生物あってはじめて、水鳥が飛来することを、このアンパルは、私に教えてくれた。

水鳥の飛来数のみに注目した、表面的な湿地政策は、もはや、機能しない。

水鳥の数は、健全な生態系の結果であって、それ自身が目的ではないのである。

登録湿地を中心として、そのサテライトとして無数の生息域が生態系として機能するような湿地政策がいま、のぞまれる。

今後の日本の環境庁の活躍に期待したい。

('99年 6月4日更新)


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