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こいのぼりのイメージ マイナスからプラスへの公共空間の価値転換を









米軍が日本に初めて上陸した沖縄の座間味島や、凄惨な戦闘が続けられた伊江島を、ほぼ、上陸時と同時期の季節に訪れた。

こんなうららかな春の島が、一夜にして修羅の場と化したのか、信じられない気持ちである。

しかし、その事実を示す痕跡はといえば、座間味島の薄暗い道端にひっそりと立つ「村長、助役、収入役以下59名集団自決之地」の石標や、伊江島の事実の記載のまったくない慰霊塔など、比較的に目立たないモニュメントが多い。

それと対照的に、伊江島には、上陸二日目にたおれた米従軍記者アーニー・パイルの、緑一杯の、たったひとりのための記念碑が、詳細な事実記載の看板のもと、陽光にさんさんと輝いている。

これと同じ対照を、フィリピンを訪問した際にも、感じたことがある。

アメリカ軍人記念墓地の記念塔には、「我々がアジアでいかに戦ったか、そして、アジアを守ったか」を示すカラーの地図が、大きく掲げられているのに対し、モンテンルパの日本人墓地は、チップ稼ぎの自称警備員がいるほかは、あまりに寥々としていた。

すべては、戦勝国と敗戦国の違いといってしまえばそれまでだが、アメリカには、桜井徳太郎氏流にいえば、日本でいう「イミ・ケガレの空間」を、うまく、アッケラカンとした「ハレ(非日常)や、ケ(日常)の空間」に価値転換してしまう能力があるようだ。


不安を呼び起こす空間からの脱却



戦跡に限らず、ヒト、モノあらゆる終末に関わる空間には、マイナスの雰囲気が漂う。

死にかかわる空間…戦跡、墓地、火葬場。
汚染・不健康に関わる空間…ゴミ焼却場、廃棄物処理場、放射能処理施設。
危険に関わる空間…災害現場、基地、原発、刑務所。

これらの諸公共空間のマイナス面をどうプラスに価値転換していくかが、大きな課題となる。

とくに、NIMBY(Not In My Back-Yard =うちの裏庭に迷惑施設はダメ!)(ニンビー)症候群が広がりつつある今日、これらのマイナスの公共空間をプラスへ価値転換するノウハウの蓄積が、いま必要である。

死に関わる空間については、不安を呼び起こす空間から脱却させるために、これまでにも、いろいろな取り組みがなされてきた。

イギリスのある墓園では、その一角を庭園にし、7年間のリースを条件に、遺族に花を植えるスペースを貸与している例(East London Cemetery)もある。

また、アメリカでは、墓地適地として空港周辺がみなおされているという。周辺居住者と騒音の激しい空港の間に、墓地という騒音緩衝帯をもうけるというわけだ。

日本においても、浜松市の三方原墓園(みかたはらぼえん) にみられるように、日本庭園や芝生広場、多目的広場を伴ったものにして、マイナス空間をプラス空間に転じている例もある。

また、府中の「ふれあいパーク」では、ガーデニング墓地として、景観を重んじた墓園づくりを行っている。

さらに都心部では、他の公共空間との巧妙な隔離と省スペース化をかねた、墓園の地下化が進行している。

火葬場についても、これまでの考えを見直す動きがある。

特に東京電気大学教授で建築家の八木沢壮一さんなどが中心となって、この空間を、自分の人生の最後を委ねる大切な空間、癒しの空間、崇高な告別の実感を感じられる空間として機能するよう、そのための総合的で最高の建築空間を演出しようとする動きが急である。

八木沢氏によれば、自然に抱かれ、自然に近づける終末の場としてのコンセプトにより設計したものとして、スウェーデン・ストックホルム市の「森の火葬場」(Skogskyrokogarden=1994年世界遺産に登録)、埼玉県加須市の現代的で重厚な「メモリアル・トネ」、森のなかの前川国男氏設計の「弘前斎場」、ゲートボール場や、テニスコート、芝生のある「いせさき聖苑」、コナラ林と湧き水のある北上市の「しみず斎園」などがその代表例として、あげられるという。

厚生省も、これらの問題について、平成9年、有識者による懇談会を設置し、平成10年6月、提言をまとめた。

汚染・不健康に関わる空間は、いわゆる迷惑施設として、各地で問題を起こしているものである。


迷惑施設=必要施設との観点


チューリップのイメージ これについても、迷惑施設=必要施設であり、システムの組みかたによっては、地域貢献施設に転換し得るとの観点にたって、この空間を積極的にプラスに転換する試みが各地でなされている。

山梨県甲府市増坪町の周辺には、各種の迷惑施設が集中しているが、住民が、この存在と正面から向き合い、これら迷惑施設との共存共栄を目指そうとしている。

そのために、住民自身が「ヘルシー・アンド・ビューティー増坪」という将来ビジョンを策定し、これをもとに行政に対し、施設の近代化や、迷惑施設周辺のオープンスペースの公園化などを働きかけ、実現させている。

ゴミ焼却場の余熱利用は、すっかり定着したが、ダイオキシン問題の深刻化や ゴミ減量化をはかれば、はかるほど余熱利用計画が縮少してしまうということなど、新たな矛盾点も生れている。

余熱利用方法としては、これまでの温水プール、発電、温泉、温室の利用にとどまらず、北海道ではロード・ヒーティング、地域冷暖房を目的とした広域的な熱供給を目指す動きもある。(参考「余熱利用形態と熱回収」)

危険に関わる空間としての代表例として、過去に死者を伴う災害の起こった現場が挙げられる。

災害の大部分は、その地に本来備わった地理・気象の特性に基づくものである。

したがって、過去の災害の履歴を何らかの形で残すことが、後世への居住民への危険シグナルとなりうる。

三陸の過去に津波のあった町や村に行くと、同年月日の墓標があまりに多いのに、戦慄を覚えることがあるが、これも一つのシグナルであろう。

このような形のほかに、地価が下がるなどの反対があるにせよ、「災害メモリアルパーク」のような形で、他の公共空間と組み合わせ、大地の発するメッセージを後世に伝えることが必要である。

ちなみに、阪神・淡路大震災のあと、次の2つのメモリアル・パークがつくられた。

1、神戸港震災メモリアル・パーク
2、北淡町震災記念公園(フェニックス・パーク)

基地問題についても、基地も広い意味での国際危機の緩慢なる終末処理場と考え、マイナスをプラスに転じる現実的対策が、いま望まれる。


成熟社会実現への大きな条件


以上に見たように、新しい世紀を迎えるに際し、行政が「ヒト、モノあらゆる終末に、もっと、栄光と賛歌を」との志向を、この際、一層強める必要がある。

そのことが、成熟社会実現に向けてスタートを切る大きな条件となる。

そのためにも、プラス空間とマイナス空間の公共空間の融合や、マイナス空間と他の公共空間との巧妙で自然な隔離、迷惑施設との共存共栄を目的とした諸策の展開が必要になってくる。

NIMBY(Not In My Back-Yard )は、NOPE(Not On Planet-Earth=地球上の迷惑施設はダメ!)であって、OIYBY(Ok In Your Back-Yard =あなたの裏庭なら迷惑施設OKよ!)では、困るのである。

そうならないための政策手法や技術の開発に今こそ、努めるべきである。

('99年 5月6日更新)


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