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Frog 新しい過疎対策についての私の考え方

----「過疎=善」という視点---






これまでの過疎法が来年、期限ぎれを迎えるのを契機に、新しい過疎法の制定が、政治課題となっている。

私の考え方を一言で言えば、「過疎は善なり」である。この考え方は、「コンパクト・シティ」という考え方の、いわば「ルーラル版」である。
ここで、わたしの新しい過疎法についての基本的考え方をまとめてみた。

  1. 地域格差の是正を主旨とした、「過疎は悪なり」との視点に立った対策だけでなく、都市なり他の地域にない個性差の強調を主旨とした、「過疎は善なり」との視点に立った、「コンパクト・リージョン」としての過疎地域のもつ良さを、もっと引き出すための諸策の充実が必要だと考える。

  2. 現在の過疎地域の指定は、人口要件(昭和35年を基準とした人口減少率や、65歳以上又は15歳から30歳までの人口構成率)と財政力要件(財政力指数0.44以下)の両基準を満たすことにしているが、現行の過疎法ならびに過疎対策については次のようないくつかの問題点が指摘されている。

    第1は、過疎地域の経済的・社会的条件の全く異なる、昭和35年基準の指数が、今日的に意味を持つのか。

    第2は、財政力低下の要因は、人口減少と密接な関係がある以上、関連する二つの指数を、要件とすることは、特定要因の相乗化を招き,過疎指定の硬直化を招くことにならないか、人口以外の財政力低下の要因は何かについて、考慮する必要があるのではないか。

    第3は、財政力と生活水準と人口減少の、相互の因果関係が明確にされる必要があるのではないか、「人口減少による財政力の低下−財政力の低下による生活水準の低下−生活水準の低下による人口の自然的・社会的減少」という、マイナスのトライアングルのもつれ(むすぼれ)を、解きほぐす必要があるのではないか。

    そのためには、人口減少を容認したうえで、低財政力であっても、また、人口が減少していても、住民一人あたり(per-capita)のミニマムを充足しうる、多様なインフラの蓄積(地域資源、環境資産も含む)があれば、一定の生活水準は維持できるという、「コンパクト・シティ」的な発想にもとづくビジョン策定が必要なのではないか。

    第4は、過疎対策事業の目的を、低下した生活水準の下支えのための施策と、人口増加や財政力向上のための施策とに分けて、対応する必要があるのではないか。

    第5は、市町村合併による財政力の強化は手っ取り早い対策だが、その事が、過疎地域の自立的発展につながることにはならない。将来の合併なり広域連合を視野に入れつつも、当面は、本源的に過疎地域町村の財政力指数をたかめうる方策を、考えるべきではないか。

    第6は、いまなお人口減少が続いている過疎地域と、人口減少が下限値に張りついたままの過疎地域とでは、その対応を違えるべきではないか。

    第7は、本音の議論として、過疎指定町村のもつ町村財政運営の相対的有利性が、かえって指定解除後の町村財政運営の展望を困難にさせているのではないか。

    過疎からは脱却したいが、過疎地域の指定から、はずれるのは、はなはだ困るというのが、やりくりに苦労されている町村長さん方の本音なのではないだうか。

    過疎に対する住民側と首長側の思惑が、微妙にズレているのが、現実である。

    したがって、過疎問題と過疎行政とは、分けて考える必要があるのではないか。そして、過疎指定を卒業して向かうべき、財政上の健全性確保だけではない、地域づくりの本来の目的を明確にすべきなのではないか。

    ちなみに、起債充当率では、地域総合整備事業債は75%、辺地対策事業債は100%に対して、過疎事業債は100%、交付税措置については、地域総合整備事業債は、元利償還金の30−55%、辺地対策事業債は80%に対し、過疎事業債では元利償還金の70%である。

    これに関連して、そもそも、元利償還金を交付税措置の対象とすべきなのかという点についての議論もある。

    第8は、過疎事業債は、ハードに強く、ソフトに弱い。また、過疎地におけるインフラは、過疎地おしなべて金太郎飴の「インフラ=フルセット型」である場合が多い。

    過疎地域それぞれの地域特性に応じた地域内インフラの最適配分の選択を行い「インフラ=域内ベストミックス型」のインフラ形成を、ソフト・ハードの適切な組み合わせのもとに、行う必要があるのではないか。同時に、過疎地域ブロック間の、ソフト=ハードのネットワーク化が必要なのではないか。

    第9は、現在、特別枠として、若者定住プロジェクト、トンネル、集落再編などがあり、これについては、過疎事業債と地域総合事業債とを合せ充当できるが、今日的には、特別枠の比率を高める方が、効率的なプロジェクトとなり得ると思われるが、どうか。
    また、起債を、許可制から協議制にすべきとの意見もあるが、どうか。

    第10は、国は、過疎地域対象施策については明示するが、過疎地域関連施策については、明示しない。
    しかし、これらの過疎対策には、複合的・広域的対応が求められているところから、国は、過疎地域関連施策についても、一定のガイドラインを明示する時にきているのではないか。


過疎こそ、ひらかれた新しいフロンティア


  1. 以上の視点に立った場合、次のような新時代の過疎対策が求められていると考えられる。

    第1は、中核地方都市と周辺過疎地域町村との、有機的相互連携(例:北海道・宗谷地域の「広域複合プロジェクト構想」)である。
    過疎対策の主体としては、単独過疎町村の規模では、小さすぎる。
    また、単独町村規模でのインフラ整備では、その広域的効果発現に限界がある。

    さらに、新しい国土総合計画のキーワードである、「多自然居住地域・交流・連携・広域化」の考えと、新しい過疎対策とを、どう整合化させるかという、課題もある。

    これらのことから、過疎地域に取り囲まれた地方中核都市が、周辺過疎地域に対し、どのような機能を提供し得るのか、また、過疎地域は、中核地方都市に対し、いかなる機能を求めるうるのかを、明確にし、そのために必要なインフラ整備なり、ソフト策の充実をはかっていく必要がある。

    この場合、将来の合併なり広域連合を視野に入れた、広域市町村における中核地方都市との連携問題とは、分けて考えていく必要があると思われる。

    第2は、過疎町村間連携のための、ソフト・ハードにわたるネットワークの充実である。

    具体的には、 (1)川上・川下の流域系間連携による、国土保全策や産業振興策の充実、
    (2)地域間交流トンネルの一層の重点整備、
    (3)過疎町村間の高度情報通信LAN形成への支援、
    (4)地域間マイクロバス等による 有償運送事業への支援、
    (5)災害時のライフライン確保を旨とした、地域間を連絡する林道の舗装率の向上や勾配改良
    −などがある。

    第3は、情報通信インフラの一層の充実である。

    すでに国土庁では、 地域情報交流拠点施設モデル事業(Aタイプ:CATV、Bタイプ:パソコン通信)を実施しており、また、郵政省では、 新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業を、過疎債・辺地債の対象事業としている。

    また、富山県山田村では、一家一台パソコン設置による情報化をはかっており、さらに大分県では、「豊の国ハイパーネットワーク整備事業」に、とりくんでいる。

    これからは、インターネット等による地域よりの積極的な情報発信によって、地域の産業振興や、地域イメージの発信によるグリーン・ツーリズムや、観光産業の振興につなげうる戦略が求められている。

    そのために、

    (1)NTT等との連携により、ホームページの開設や、コンテンツの充実を、積極的に支援する体制を整える必要がある。

    (2)離島などでは、すでに、島内至る所から携帯電話によるアクセス可能の状態が整いつつあるが、本島山間地域においても、同じ状況となれば、防災面でも、観光面でも、産業面でも、はかり知れないメリットをもたらすものと、予想される。

    (3)インターネットと宅急便または「ゆうパック」を組み合わせるなど、物流網と通信網との有機的結合を目的とした、都市・過疎地域間ネットワークの整備による、過疎地域地場産業の振興。

    (4)以上の諸策の前提として、交通・通信のユニバーサル・サービスを可能とするための基金などのシステムが必要となる。

    第4は、新しい視点に立った、産業振興策の充実である。

    人口増加のための手っ取り早い戦略は、就業機会を、過疎地域外に求めるか、過疎地域内に求めるかにある。

    過疎地域外に求める場合、広域市町村圏の中核都市自体が活性化しているかどうか、また、その中心都市へのアクセスはどうかが、過疎地域の就業機会を左右する。

    この場合、広域市町村圏内において、産業政策と過疎対策とが連動した就業対策が必要となる。

    過疎地域内における就業・産業対策としては、これまでの公共事業やリゾート産業、地場産業による雇用機会の創出の外に、コミュニティ・ビジネスの起業化、小さな産業創出に対する支援、その地域に見合った就業機会の創出策が必要と思われる。

    ヨーロッパの地域政策では、SME(スモール・アンド・メディアム・サイズ・エンタープライス)への多様な支援措置が位置づけられているが、自営兼業促進のための、過疎地域産業振興政策が確立される必要がある。

    さらに、起業の前提としては、地域の自立、起業に必要な知的資源、資本、市場への接近性が必要であるが、そのための総合的な支援措置を用意する必要がある。

    すなわち、本年成立の新事業創出促進法によって、地域プラットホームという総合的な産業支援体制が確立されたが、その「過疎地域版プラットホーム」をつくる必要がある。

    また、そのためには、中核都市、周辺過疎地域一体となった企業家支援者(メンター)によるサポート体制を確立する必要がある。

    第5は、過疎町村の基幹集落における、必要最小限の都市機能の充実である。

    いわば、基幹集落における「コンパクト・シティ」的な必要最小限の小都市機能を完備するという考え方である。
    コンビニ、集落食堂、ゲームセンター、カラオケ、レンタルバイクなどの施設の充実と、その村を訪れる人々のためのビジター・センター(例:熊本県泉村の「ふれあいビジターセンター」)の完備が、過疎地域の賑わいを演出しうる。

    また、「道の駅」と「情報館」を組み合わせたスポット造りを検討している地域もある。

    第6は、過疎地域の景観形成に対する支援である。

    伝統的家並、生け垣、集落内歩道など、過疎集落のもつ景観を守り育成するための諸策の充実を、はかる必要がある。

    第7は、郷土文化や郷土自然生態系への支援である。

    歴史的資源の有効活用を旨とした観光スポットの充実、エコ・ミュージアム(オープン・エアー・ミュージアム)や郷土資料館・郷土美術館(例:福岡県碓井町「碓井琴平文化館」)・図書等情報センターの設立などをはかる必要がある。

    さらに、その地特有の生態系スポットの保護・育成・展示が必要となる。

    第8は、環境・福祉・医療施設への支援である。

    町村単位または広域連携したゴミ・産廃等、環境施設充実への支援が必要である。とくに、過疎地域においては、ゴミのロットが少なく、再資源化が、無理な状況にあり、このことに対する支援措置も必要となってくる。
    また、介護医療施設についても、周辺中核地方都市と連携した対応が必要となる。

    第9は、自然エネルギー施策への支援である。

    内発的発展力を過疎地域がそなえるためには、自前のエネルギーを何とかもちたいという気持ちが、地域の人々に強い。当面採算は合わないにしても、過疎地域の自立的発展の象徴として、風力、太陽光、波力、バイオマスなどの単独またはバイブリッドの自然エネルギー施策への支援を考えていく必要がある。

    第10は、準定住者対策の充実である。

    セカンドハウス需要は、これから益々増大の傾向にある。すでに、「ふるさとC&Cモデル事業」により、使用されていない農家などの有効利用がはかられているが、今後は土地の定期借地権なども活用するかどうか、検討する必要がある。

    早くから宅地開発によって、交流人口の増加につとめている山形県大江町の例や、ほ場整備事業で生み出された特別減歩分用地を、U・J・Iターン者用の住宅団地にした山形県遊佐町の例などは、学んでよい。

    また、第1と関連する課題であるが、地方中核都市との「パートナー・シップ・プロジェクト」を充実させていく必要がある。

    第11は、民間の発想なり活力を、過疎対策にどう、取り入れていくか、である。

    過疎支援を目的とした民間とのパートナー・シップの母体(例:長野県山形村のトライズ・カンパニーとホワイトバランス会)をつくることにより、マーケティングを含めた、協力体制を確立することが必要である。

    さらに、高齢化した過疎地域においては、住民参加による地域作り運動は困難であろうが、住民自身が受け身でない魅力ある地域作りに乗り出すためには、NPOの支援等による、住民参加体制(例:鳥取県智頭町の「ひまわりシステムのまちづくり」)をつくることも、この際必要である。


人口が減っても、魅力ある地域づくりは可能

以上、新しい過疎対策についての私の考え方を述べた。

要は、(1)「人口が減っても、魅力ある地域づくりは可能である」との自覚と自らのへの鼓舞を、過疎地域の行政担当者なり住民が、もち、果たしうるか、
(2)地域自身の潜在的にある地域資源の持つ力を、どう住民自身が活用して、内発的発展を果たせるか、
(3)国は、過疎地域の何を、ナショナル・ミニマムとして保護しうるのか、
(4)過疎指定の町村が、過疎指定脱出後の明確な新たな目標をもちうるのか、
にかかっている。

バブル崩壊後の過疎地域は、都市住民にとっても農村地域住民にとっても、ひらかれた新しいフロンティアなのである。

これまで、過疎という言葉なりマイナスのイメージ自体が、若者を地域から遠ざけたのだとしたら、その繰り返しは、避けなければなるまい。

(1999年8月3日)


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