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藤前干潟をめぐる論議が盛んになる中で、干潟・湿地をはじめとした、日本列島の多様な生態系をまもる基本戦略の確立が求められる。基本戦略がなければ、いつまでも、第二、第三の諫早・藤前を繰り返すことになるからだ。 具体的には、国土規模の、そして国境を越えた、生態系ネットワークの早急な構築を提唱したい。野生生物の生息地を回廊でつなぎ、飛び石的に生息地を確保することで、総体としての生態系機能を、まもり、たかめるネットワークの構築だ。 それには、次の認識と対応が必要だ。 足踏み状態の保護地域の登録数 ![]() 現在日本には、条約等により登録認定の国際的保護地域として、ラムサール条約登録湿地・世界遺産(自然遺産)・生物圏保存地域がある。 ラムサール条約登録湿地を例にとれば、近年の先発締結国の登録数は、イギリスなど一部を除き、日本を含め、総じて、足踏み状態にある。 今後とも登録湿地の飛躍的増加が内外ともに望みにくい状況のもとでは、断片化した未登録湿地をいかにネットワーク化するかが課題となる。 それには、将来登録すべき湿地のシャドー・リストの確定が必要だ。 同時に登録湿地は、国内・国外両ネットワークの結節点となる。登録湿地と登録未登録湿地との生態的連携により、登録湿地にハブ空港のような拠点機能をもたらすことが必要だ。 緊急を要するデータ・ベースの構築 ![]() 昨年末、環境庁は、全国を生態的に共通の10地域に区分し、各々重要地域をえらび、国土規模での生態系ネットワークの構築にのりだした。 しかし、国家戦略の長期目標は、やや間遠の21世紀半ばである。 近時の生態系の著しい変化を考慮すれば、15年内外での、ネットワークの完成と補強がのぞまれる。 それには、具体的なアクション・テーマを設定し、5年単位のアクション・プランを三段階程度にわたり、実施していくことが必要だ。 とくに緊急を要するのは、生態系・生息域についてのデータ・ベースの構築である。 ちなみに、EUの生息域類型データ・ベースであるコライン・プログラムは、後のネットワーク構築に大きな役割を果たした。 第三は、国土計画における、生態系ネットワークの位置づけである。 新・全国総合開発計画では、そのための一項が設けられ、前進した。さらに踏み込み、生態系ネットワークを「もう一つ見えざる国土軸=環境軸」として位置づけ、環境資産構築のための社会資本整備をはかる必要がある。 すなわち、生態系の積極的な修復・復元による、環境軸の生態系機能強化のためのインフラ整備である。 以上の諸策により、「国土規模の生態系ネットワーク」は完結する。 国際的に開かれた戦略を ![]() 本来、このネットワークは、「生物多様性条約」「ラムサール条約」に加え、「移動性野生動物種の保全に関する条約(ボン条約)」の締結による三位一体で推進すべきだが、ボン条約について、日本は、諸般の事情で未批准である。 渡り鳥に間しては、ボン条約のもと、アフリカ・ユーラシア地域協定が締結され、東アジア・太平洋地域でも同様の協定が期待されている。 当面、日本は、ラムサール条約によるネットワーク形成をめざしており、現在、「アジア太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」にもとづく関係諸国の協力体制ができつつある。 しかし、気候変動等のアジア生態系への影響を考えれば、渡り鳥飛来地間ネットワーク構築に限らず、海峡を越えた生態系ネットワークの構築が必要となる。 参考とすべきは、EUの「ナチュラ2000」計画である。 EUは、1992年の「ハビタット指令」にもとづき、加盟国別、6つの生物地理学的ゾーン別等の、三段階にわたる選定過程を経て、EUの特別保全地域を決定し、ヨーロッパ横断の生態系ネットワークを2004年までに、完成の予定である。 日本は島嶼生態系の元にあり、ヨーロッパ大陸とは事情が異なる。 しかし、いま日本が主導的な立場で「東アジア・オセアニア生態系ネットワーク」を目指すことが、すなわち、日本の生態系を守る最も有力な手段となるのではないだろうか。 (1998年12月14日) |
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