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city 新しい公共事業は、環境資産構築を中心に






公共事業と環境の関係が近年問われ続けているが、本来この問題は、対立的に考えるべきものではない。

宇沢弘文さんが、「コモンズとしての社会資本のあり方」を問題提起され、環境資産形成のための公共事業のあり方を、模索されている。宇沢さんの意味されていることは、いわば、昔の入会地のように、社会資本は、本来、不特定多数の人たちが、マルチの目的のために、アクセス可能な共有スペースである、ということだ。

ちなみに、イギリスのコモンズは、採草地でもあり、また、市民の散策の場でもあり、さらに、野生生物の生息地でもあるという、マルチの機能と自由なアクセス権を持ったものである。

この概念を拡大していけば、今日的な社会資本とは、たとえそれが、在来型の道路・港湾などであっても、環境に資する複合的機能を、オプションとしてそれに付加していけば、環境問題との摩擦の発生は、避けられるはずである。


多岐にわたる経済波及効果



むしろ、このように在来型の社会資本の機能を複合化することによって、これまでにない分野への経済波及効果が生じることになり、景気浮揚効果も、多岐の分野にわたるものとなりうる。

経済波及効果が多岐の分野にわたればわたるほど、そのプロジェクトの費用対効果の比率は改善され、そのプロジェクトの存在により、社会的費用は逓減しうる。

景観を重んじた公共事業、生態系を重んじた公共事業、コリドー(回廊)の形成を意図した公共事業、環境修復のための公共事業などの創出は、様々なソフト・サイエンスへの有効需要を生み出し、結果的には、このための規制緩和とあいまって、新産業創出を促すことになる。

さらに事業官庁にしても、硬直化したそれぞれの抱える公共事業の桎梏から脱し、事業予算(パイ)の減少を十分補填しうる、「公共事業の質的向上」という、新たな目標をみいだすことができる。

近年、沿岸域を中心にして、ミチゲーション(mitigation)という概念が、論じられるようになった。

この概念は、公共事業が環境と摩擦を起こした場合、次の三つの方法により、対応しようとするものである。

第一は、回避(Avoid)、第二は、最小化(Minimaize)、第三は、代償(Compensate)である。

この場合、対応の順序は、第一の対応でむづかしい場合はやむをえず第二の対応で、第二の対応でもむづかしい場合は最後の手段として第三の対応による、というものであり、決して第三の代償の手段を用意することが開発の言い訳(イクスキューズ)になるものではない。

第一の回避は、道路などが貴重な野生植物の生息地を通過しそうな場合は、その路線を変更するというようなものである。

第二の最小化は、事業規模を縮小し、環境へのインパクトを極小化しようというようなものである。

第三の代償は、公共事業がどうしても一つの生態系を破壊するしかない場合、それに替わりうる、人工的な環境資産を用意しようというようなものである。

近年、人工干潟の形成などを開発の前提にする動きもあるが、これは、あくまで、万策尽きた最後の手段として、とられるべきものである。

この、ミチゲーションの概念の、公共事業への適用は、これまでの公共事業の概念を大きく塗り替えうる契機なるものと思われる。


新たなパラダイムづくりを

戦後日本の社会資本は、欧米の社会資本の水準に追いつくべく、猛スピードで、そのキャッチアップをはかってきた。量的には十分追いついたものの、質的な面については、欧米のそれにかなわない面も多く見られる。

その意味では、まだまだ日本の社会資本の高質化を果たさねばならない分野が数多くある訳で、私たちは、「高質化社会日本の実現」のための、公共投資充実をいっそう果たさねばならない課題を負っている。

特に、環境資産形成は、日本の社会資本にとっては新しい分野であり、そのためのハード・ソフトの充実が、高質化社会の実現のための、必須の要件となる。

私たちは、公共事業にまつわる「開発か環境か」の不毛な論議のレベルから脱し、積極的な環境修復・環境創造・生態系保全を目的とした、新たな公共事業のパラダイムづくりに邁進すべきときである。

('98年6月更新)


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