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人にSARS以上の危険をもたらす
鳥インフルエンザ問題の推移と今後の課題

WHOがSARS以上の危険と警告

ベトナムで、今年の正月以来、鳥インフルエンザの蔓延で、死者が出たことを重く見たWHOは、1月14日、「鳥インフルエンザは、潜在的には、人間にとって、SARSより危険」との警告を出した。
http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_world/view/66327/1/.html参照

WHOのPeter Cordingley氏は、次のように語った。

「もし、H5N1ウイルスが、人間の普通のインフルエンザのウイルスにくっつき、そこから、有効的に、他の人間にくっついて伝搬していくと、これは、潜在的に大きな被害拡大につながっていく。

その死亡率 mortality rateは、SARSの死亡率よりも、きわめて大きいものとなる。

人間の一般的なインフルエンザウイルスは、SARSウイルスよりも、はるかに人間に感染しやすく、しかも、空気によって感染してしまう。

SARSが、 水滴 droplets によってのみ感染するのとは大違いである。

H5N1ウイルスが、最初の段階で、一般的なインフルエンザウイルスにくっつき、そして次の段階で出来た新しいウイルスが、普通のインフルエンザウイルスのような形で、伝搬していくとしたら、伝染拡大の潜在的可能性を重視しなければならない。」

としている。

なお、ベトナムの死者の多くは、子供で、しかも、発生地域の南部地方では、豚やアヒルも、死んでいるということから、ベトナム当局では、豚と鳥インフルエンザとの関係が取りざたされている。


鳥インフルエンザは、あらゆるインフルエンザのプロトタイプ


インフルエンザには、A.B.Cの三タイブがある。
 

そのうちAタイプについては、ウイルスの表面にくっつくタンパク質の性質によって、H(15段階の血球凝集素 hemagglutinin)と、N(9段階ノイラミニダーゼ neuraminidase)に分かれ、そのそれぞれの組み合わせによって、H1N1からH15N9などの組み合わせタイブに分けられうる。

Bタイプには、サブタイブがなく、Cタイプは、呼吸器疾患を起こすが、流行はしない。

Aタイプは、人間以外にも、アヒル、鶏、鯨、馬、アザラシなど、多くの動物にも、発症が見られる。

Bタイプは、人間のみである。

鳥インフルエンザは、人間を含むあらゆる動物のインフルエンザの原型-プロトタイプ―と考えられている。

ちなみに、左記の図を見ると、鳥-渡り鳥や水鳥―が、すべてのタイブのウイルスの対象になっているのに対し、ヒトがH1.H2.H3.N1.N2のタイブに対応、豚がH1.N1.N2、馬がH1.H7.N7.N8に対応、アザラシがH4.H7.N7に対応、というように、分かれていることがわかる。

ここで、これまで発生した人インフルエンザのタイブについてみれば、スペインかぜ(1918)が、A型でH1N1、アジアかぜ(1957)が、A型で、H2N2、香港型(1968)が、A型で、H3N2、ソ連型(1977)が、 A型で、H1N1、新型インフルエンザが、A型で、H5N1である。

また、これに対するワクチンとしては、平成15年度では、A型はA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/パナマ/2007/99(H3N2)、B型はB/山東/7/97である)が用意されており、H5N1型については、国立感染症研究所などで、ワクチン開発済みである。

鳥インフルエンザの多くは、無症状であるか、または、穏やかな症状を起こすのみであるが、ウイルスの菌株(によって、その症状は変化する。

たとえばH5やH7の菌株については、症状を起こすものが多い。
http://www.cdc.gov/flu/about/fluviruses.htm#three参照

これらの鳥インフルエンザを、症状を持つものと、無症状または、マイルドな症状を持つものとに分けて、LPAI(low-pathogenic avian influenza )HPAI(High Path Avian Influenza )という。http://niah.naro.affrc.go.jp/event/kai/keibyou/229s.html
または、http://www.brown.edu/Courses/Bio_160/Projects1999/av/influenza.html参照

LPAI は、珍しくないもので、症状は穏やかか、または、無症状のものである。

HPAI は、激しい症状を持つものである。

当初、LPAIであったものが、環境要因の複雑化によって、HPAIに転換することがある。
この転換するのは、ウイルスのタイプが、H5とH7のものに限られる。

これは、血球凝集素中の遺伝子配列の変化によるものと見られている。

ちなみに、日本のウイルスは、ベトナムと同じ、H5N1である。
(H=血球凝集素 hemagglutinin N=ノイラミニダーゼ neuraminidase)


豚は、ウイルスのミキサー


ここで、問題なのは、豚である。

豚は、豚独自のインフルエンザ(Pig Flu)に加えて、人間のインフルエンザにも、鳥のインフルエンザにも、ともにかかる。

豚の上気道と呼吸器の上皮細胞が、鳥と人間のシアル酸誘導体と共有することで、豚を介してのウィルスの鳥から人間への伝染が生じるとされている。

インフルエンザにかかった豚は、人間と同様の鼻水をたらす。

したがって、豚が、人間、鳥を含むあらゆる動物のインフルエンザの集積体と化す危険性を持ち合わせているといえる。

もし、豚が、人間のウイルスと、鳥のウイルスとによって、同時期に、インフルエンザにかかってしまった場合、これらのウイルスが、豚内部で、新しい遺伝子ウイルスとして合成されてしまう危険性がある。

こうなると、ここで出来た新しいウイルスが、人に感染した後は、人間から人間への感染に進んでしまう危険性があるというわけだ。

それゆえに、専門家の間では、「豚は、ウイルスのミキサー」(pig mixer)と、ありがたくない称号をつけられている。

この豚内部で新しくウイルスが出来ることを、抗原不連続変異(Antigenic Shift)という。

もし、これらの新しいインフルエンザが、人間を襲った場合、これまでにないインフルエンザであるがために、抗体をまったく持たない人間は、劇症のインフルエンザの蔓延に見舞われるというわけだ。

このウイルスの変異を、"Drift" そして"Shift"という。

抗原連続変異(antigenic drift)というのは、比較的、長い時間をかけて、小変異を遂げるものである。

この新ウイルスが出現する過程があまりにも緩やかであるために、従来からある人間の抗体が、新たなウイルスの侵入を感知する前に、やすやすと、人間の体の中に取り込まれてしまう。

そして、抗体が、新たなウイルスと感知しない間に、すでに、他の人間へと感染を遂げてしまっている。

もう一つの変異のタイブが、抗原不連続変異(antigenic shift)
と呼ばれるものである。

このタイプは、突然に変異するものなので、多くの場合、人間には、その新ウイルスに対する防御能力はない。

豚のインフルエンザ(pig flu, pig influenza, swine influenza)の人間インフルエンザへの危険性については、次のサイトを参照
http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/489385.stm
http://english.chosun.com/w21data/html/news/200312/200312220020.html
http://abc.net.au/animals/program4/factsheet7.htm
http://www.websters-dictionary-online.org/definition/english/ho/hog+flu.html
http://www.thepigsite.com/FeaturedArticle/Default.asp?AREA=FeaturedArticle&Display=455
http://straitstimes.asia1.com.sg/columnist/0,1886,56-182938-,00.html


香港の鳥インフルエンザH5N1の検証でわかったこと

しかし、この豚のウィルス媒介説は、1997年香港の鳥インフルエンザH5N1が、直接人間に感染したことによって、新たな見直しを迫られることになった。

1997年にはやった香港の鳥インフルエンザ H5N1 の人インフルエンザへの突然変異について、当時、ウィスコンシン大学にいた東大医科学研究所の河岡義裕教授や米ウィスコンシン大の八田正人研究員などが、その変異の過程を追求した。http://www.emersonanimalhospital.com/flue.html
または、http://www.findarticles.com/cf_dls/m1200/10_160/78681645/p1/article.jhtml参照

それによれば、鳥インフルエンザは、時として、それ自体のたんぱく質や血球凝集素の構成に歪んだ変化を生じ、H5N1となって、それを求め、鳥の細胞内に侵入し、罹患させることがあるという。

これが、人間の細胞にも入ってくるのは、ウイルスの遺伝情報を担うRNAを増やす酵素「PB2」(RNA polymerase subunit )をつくる遺伝子の変化によるものであるという。

この研究では、1個のアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わると、強い病原性を獲得することが分かった。

これらは、実際の臨床結果とも一致した。

別の遺伝子でもアミノ酸の置換が確認されたが、PB2遺伝子の変化の方が主因だという。


WHOは、新型人インフルエンザの蔓延を警戒


世界保健機関(WHO)は1月15日、「人への感染が広がり続けると、新型のインフルエンザウイルスが出現し、世界的な感染爆発に発展する可能性が高まる」とする見解を発表、各国に強く注意を呼びかけた。

これは、鳥インフルエンザによる人間にとっての毒性を持つ突然変異菌(virulent mutant virus )の形成(Mutation)を、WHOが恐れているに他ならない。

1月17日、日本の新聞は、ジュネーブ発のWHOの1月16日の記者会見の記事として、次のような記事を配信した。

「世界保健機関(WHO)報道官は16日、ベトナムで3人が死亡した鳥インフルエンザのウイルスは人から人へ感染する可能性がないとの見解を示した。

報道官によると、WHOは3人を死亡させたウイルスの遺伝子配列を解読中だが、これまでのところ、人同士の間で感染するような遺伝子変異は認められていない。

このためWHOは、昨冬に猛威を振るった新型肺炎(SARS)のような大流行になる恐れは低いとみて、少なくとも現段階では渡航自粛勧告などを発令する必要はないとしている。」

しかし、この日本の新聞での楽観的な記事は、同じ記者会見でWHOが、鳥インフルエンザに関し、重要な危機意識を抱いているとの見解を、報道していない。

ここでいっているWHOの報道官は、Fadela Chaibさんであるが、彼女は正確には、こういっている。http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/66755/1/.html
参照
「鳥インフルエンザに罹患した鳥から採種したすべての遺伝子についてからは、人から人に伝染しうる遺伝子変異を確認していない。」

「もし、人インフルエンザへの遺伝子変異が認められ、人から人へ伝染しうる状況になったとすれば、これは、非常に重要なことであるからだ。」

しかし、重要なことは、この1月16日の記者会見で、同時に、WHOの首席ウイルス学者であるKlaus Stohr博士が、「はっきりした可能性(distinct possibility )」として、次のことが言えるとしている点だ。http://www.indianexpress.com/full_story.php?content_id=39346 参照

すなわち、
「われわれは、いまは、鳥インフルエンザ蔓延の状態に、あるとはいえない。

しかし、ヴェトナムにおいて、有毒な人ウイルスの出現がでる可能性ばかりでなく、確実性があるといえる。」

また、WHOのSARSとインフルエンザのケースについての臨床学的権威者であるSimon Mandel博士は、次のように言った。

「ありふれたインフルエンザの存在が、実際はSARSの問題を拡大させている。だから、SARSを見つけることは、干し草の山の中の針を見つけるような、見つかる望みのないものを見つける試みに等しいものである。 」

といった。

日本の報道は、この記者会見の前者の部分のみ、報道し、後者のWHOが抱いている危機的見解を、なぜか、報道していない。


タイ・インドネシアでの鳥インフルエンザ隠蔽疑惑


鳥インフルエンザ問題が、一国の鶏肉輸出などと、密接にリンクしているために、報道におよびごしになっているのは、何も、日本に限ったことではない。

ここにきて、目立っているのが、タイと中国の、鳥インフルエンザ問題に対する消極的な取り組み姿勢だ。

タイのほうは、「40万羽死んだのは、コレラなどのせいであって、鳥インフルエンザによるものではない。」との発表を繰り返す政府の態度に、痺れを切らしたタイの消費者団体が、「政府は、真相をかくしている。鳥が死んだのは、コレラのせいではなく、鳥インフルエンザのせいだ。」と、抗議する。

WHOのほうも、「タイ政府から、鳥インフルエンザの付いての検査の結果は何も聞いていない。聞いていない以上、正式に調査団を派遣するわけにもいかない。」と、弱り果てている。http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/66595/1/.html
 参照

タイでは、かねてから、「タイ政府は、すでにタイにおいて、鳥インフルエンザが発生しているのを、隠蔽しているのではないか」との疑念が、地元の有力紙を中心に、出ていた。

1月21日、タイのスダラット保健相は「肺炎に似た症状を訴えたタイ中部在住の3人に対し、鳥インフルエンザ感染の有無について検査を実施中だ。」と語った。

3人は、Nakhon Sawan県、Suphan Buri県、Kanchanaburi県の、3県の病院にそれぞれ入院しているという。

1月22日、タイの上院議員であり、議会の社会開発・人間保障委員会委員長でもあるNirum Phitakwatchara氏が「このうちの、Suphan Buri県の9歳の少年については、すでに陽性の検査結果がでている。」と、述べた。

また、同時に、Nirum Phitakwatchara氏は、「タイ政府は、これまで、鳥インフルエンザが、すでにタイに発生していることを隠蔽してきた。学者や専門家は、政治的な妨害によって、これまで、沈黙を強いられてきたが、実際のところは、タイでの鳥インフルエンザは、すでに、昨年の11月には、発生していたのだ。鳥インフルエンザに感染した少年は、現在、重症の状態にある。他の検査中の二人について言えば、一人は、鶏肉を扱う肉屋であるが、もう一人についての情報は明らかでない。」と、述べた。

これに対し、タイ政府は、隠蔽の事実を認めず、検査結果がでるまでには、ここ数日かかるであろうと述べた。

1月23日になって、ようやく、タイ政府は、その発生を認め、かつ、二人の人の鳥インフルエンザ発生も、認めた。

その後、新たに、他の三人が、鳥インフルエンザにかかっている疑いがあるとの発表をし、そのうちの一人が死亡したと発表した。

この死亡した一人が、鳥インフルエンザによる死亡なのかどうかは明らかにしていないが、この人は、Chackoengsao県の人で、細菌性の病気の疑いで入院していたものだという。

それにしても、気になるのが、この正式発表に入るまでの、タイ国内における鳥インフルエンザの蔓延度である。

タイ国内の消費者団体や活動家は、タイ政府のこれまでの隠蔽工作を非難し、早期の鳥インフルエンザ対策を要求している。

消費者団体の事務総長であるPravit Leesathapornvongsa氏は、「タイ政府は、今こそ、鳥インフルエンザの存在の事実を認めるときにきた。タイ政府がその存在を認める決断が数日間でも遅くなればなるほど、国民の健康の犠牲を大にすることになる。」という。

今回の発生の疑いのあるSuphan Buri県などでは、農民が素手で死んだ鳥をつかんだり、鳥の死体を川に捨てているという。

このことについて、関係者は、「われわれは、これらの農民の不注意な行為を非難することは出来ない。なぜなら、タイ政府は、その鳥が鳥インフルエンザで死んだ鳥だと認めていないからだ。もし、タイ政府が、今回も、鳥インフルエンザの存在を公式に認めず、予防措置を公表しないのなら、農民や鶏肉取り扱い業者は、高度の感染の危険に晒されるであろう。」と述べている。」

すでにタイの人は、11月から12月の時点で、鳥インフルエンザの存在を確信していたというから、これが事実だとすると、この一ヶ月近くの間に、上記のような農民サイドの不注意な鳥の死体の取り扱いなどから見ても、相当の蔓延をしてしまっていることになる。

中には、ベトナムの鳥インフルエンザも、タイの鳥によるものだとする説さえあるのだから、事態は深刻である。

あるいは、日本の山口で発生の鳥インフルエンザだって、タイが原因と、考えられなくもないことなのだ。

それにしても、タイの経済重視による鳥インフルエンザ隠蔽の疑惑は、世界に迷惑をかけたのではないかという見地からも、正さなければならないだろう。

インドネシアにおいても、昨年9月には、H5N1ウィルスが、専門家の間では確認され、政府に報告されたにもかかわらず、政府は、その事実を隠蔽してきたとの批判が、http://www.abc.net.au/am/content/2004/s1032103.htm  などで巻き起こっている。

ここにきて、ラオス、カンボジアでの発生も確認され、いよいよ、戦戦兢兢としているのが、中国とオーストラリアである。

特にオーストラリアが警戒しているのが、渡り鳥や水鳥による、鳥インフルエンザのオーストラリア内での感染拡大の恐れだ。

オーストラリアのthe Quarantine Inspection Serviceは、すでに、空港や、港湾、郵便局などの要所でのサーベイランスをはじめているという。



ついに中国で鳥インフルエンザ発生

中国のほうも、広東省など、あらゆる家禽が密集飼育されていて、もっとも、鳥インフルエンザから人インフルエンザへの変異がしやすい地域の情報が伝わってこないことに、WHOは、危機感を強めてきた。

WHO は、SARSの場合も、中国の初期指導が遅かったことが、世界的蔓延を招いたとの教訓から、鳥インフルエンザに付いても、その二の舞になるのではないかと、懸念してきた。

「中国側は、鳥インフルエンザ問題について、われわれの土俵に上ってこない。度重なる情報公開要請にもこたえてくれない。」と、サジを投げた形だ。

WHOアドバイザーのRobert Webster教授は、「今、鳥インフルエンザに付いて、もっとも必要なのは、中国本土のからの情報です。現時点では、この鳥インフルエンザがどこから来たのかについては、中国からの情報がない限り、類推するしか手がないのです。今、ベトナムで鳥インフルエンザによって、多数の死者が発生していることは、きわめて深刻な事態です。もし、H5N1ウイルスについて、手の施しようのない状態にでもなったら、これまでのSARS問題など、問題にならないくらいの(like a puff of smoke)深刻な状況になるでしょう。」と警告している。

また、中国側からブラックリストに乗っているとされる、ある匿名氏は、「この鳥インフルエンザの問題は、まさに、経済問題なのです。もし、中国が、鳥インフルエンザがあることを認めれば、直ちに、中国の輸出に影響するのです。」という。http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2004/01/18/wflu18.xml&sSheet=/news/2004/01/18/ixworld.html参照

1月21日、香港漁農自然護理署は、屯門ビーチ付近の住宅区の養鶏場近くで発見された野鳥ハヤブサの死骸の体内から鳥インフルエンザH5N1ウイルスが確認されたことを明らかにした。

専門家の間では、これが、中国に、すでに鳥インフルエンザが存在していることの証左であると見る向きもある。

1月27日、ベトナムに国境を接する広西の南西地区で、いくつかの家禽が、H5N1鳥インフルエンザで死んだことを、中国の国家禽流感参考実験室が認めた。

そして、中国南部の湖南地方や中央部の湖北地方武穴市でも、この週末にかけて、鳥やアヒルが死んだ。

また、中国の中央テレビ局(CCTV)が火曜日に報じるところによれば、これらも、鳥インフルエンザによって死んだものと思われる。

CCTVによれば、今のところ、人間への感染は認められないという。

この1月23日に、広西の農場で、アヒルが卒倒し、後に死んだ。

地方衛生部での最初の検査では、これは、鳥インフルエンザによるものと判断し、広西地方当局は、そのサンプルを直ちに、国家禽流感参考実験室に送った。

1月23日、当局は、周囲3キロメートル以内の鶏すべて一万四千羽の殺処分を命じた。

そして、5キロメートル以内の鶏については、隔離した。

国家禽流感参考実験室は、現在、湖南地方と湖北地方から送られたサンプルの検査をしている。

これら地方の鶏についても、殺処分をしているが、CCTVは、その羽数については、明らかにしていない。

地方の獣医出先機関は、これらの死因を、H5N1鳥インフルエンザによるものと見ている。

中国政府は、あらたなH5N1鳥インフルエンザの発生についての調査に関し、高度の警戒態勢をしいており、他地区へのウィルス拡大防止に努めている。

中国国務院は、感染地域のすべての家禽生産食品の他地区または、他国への輸出を禁じたと、CCTVは、報じている。

中国の農業省と健康省は、国内の状況をWHOに報告した。

そして、中国政府は、この事態克服のため、世界の関係諸機関と、喜んで協力すると述べた。

農業省は、報道機関に対し、鳥インフルエンザに付いてのあらゆる情報をタイムリーに伝えるであろうと、CCTVは述べた。



渡り鳥と、鳥インフルエンザとの関係を追求するS2E.Migrateursプロジェクトを見習うべき

人にも動物にも感染しうるウイルスとして、パラミクソウィルスParamyxo
virus(ニパウイルス)がある。

もともとは、大こうもりが持っているウイルスが、鳥や動物や人を経るものらしい。

西ナイル熱も、SARSも、ニューカッスル病も、このパラミクソウィルスParamyxovirus の仲間である。

一方、鳥インフルエンザは、これとは違う、オルソミクソウイルスOrthomyxovirus である。

渡り鳥は、これら二つの性質の違うウイルスの運び屋になっているというわけだ。

上記のWHOの鳥インフルエンザ問題についてのかなりの危機意識からすれば農水省の食料・農業・農村政策審議会家禽疾病小S2E.Migrateurs委員会の喜田宏委員長が、1月15日の記者会見で、私的見解として、渡り鳥が国内にウイルスを持ち込んだ可能性は低いとの見方を示したのはかなり楽観的に過ぎる見解のように思われる。

もちろん、鳥インフルエンザが、豚などの家禽を介して、猛毒の人インフルエンザに突然変異する環境は、ベトナムなど、豚や鶏、アヒルなどが、狭い地域内で、混在密集している地域で起こるのであって、日本などの近代化され、衛生的な家禽施設内では、起こりにくい社会的な条件はあるだろう。

しかし、だからといって、日本において、鳥インフルエンザが、人間にとって有毒な突然変異菌に、家禽を介して、突然変異しないという保証はないのである。

だから、この問題は、単に畜産を主体とした農林水産省マターの話に終わるのでなく、豚を介した鳥インフルエンザによる人間にとっての有毒な突然変異菌の形成という観点に立った、厚生労働省主体の疫学的判断が必要になってくるのだと、私は思う。

ここで注目すべきは、S2E.Migrateurs projectである。

projectは、tele-epidemiology(データ通信疫学とでも訳すのだろうか?)という手法を使ったものだ。

このプロジェクトについては、http://www.cnes.fr/actualites/dossier_bourget/pdf/epidemies_en.pdf
http://www.cnes.fr/actualites/dossier_bourget/en/2equitable2.htmを、参照。

tele-epidemiologyは、地球上の疫病の流行が特に気象データや地球観測データなどと関連していることに注目し、気象情報や、疫病発生情報について、地上収集データと人工衛星データとを、リンクさせようとする試みだ。

地上データのデータ収集としては、臨床ケースデータ、ワクチンや結成の使用状況データ、人口移動データ、農地開発状況、蚊の発生データ、降雨量データなどがある。

地球観測データとしては、熱病発生に関係のある、森林伐採状況データや灌漑排水状況データなどがある。

気象データとしては、マラリアや脳膜炎に関係があるとされる、冷気分布状況や、風向、風力に関するデータがある。

科学的データとしては、これらを広げるプランクトンに関係のある、海面の高さや温度などのデータがある。

これらのデータをリンクして、疫病の発生や広がり、終息などを予測するというものだ。

このシステムを渡り鳥と疫病との関係にポイントを絞ったのが、S2E.Migrateurs projectだ。

ここでは、渡り鳥とウイルスの伝搬に焦点をあわせ、特に、渡り鳥と、豚などの動物、そして人間への伝搬の過程について、トレースしている。

日本の環境省は、これまで、「アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」にもとずき、水鳥の資源面からの、東アジアでの調査協力体制を敷いてきた。

ここにきて、鳥インフルエンザの東アジアでの発生を期に、今度は、疫学的見地からの調査を、この戦略に入れざるを得ない情勢である。

1月15日、環境省は、韓国などで検出された鳥インフルエンザ・ウイルスと日本のウイルスとが、同型であったため、渡り鳥が感染にかかわった可能性があるとして、鳥類の専門家などから話を聞き、韓国からの渡り鳥の種類、数などに関する情報を収集、整理することを決めた。

この際、厚生労働省と、充分連携の上、渡り鳥と、鳥インフルエンザの伝搬についての究明を行ってもらいたいものだ。



いつから鳥インフルエンザは発生していたのか

ここにきて、いろいろな機関から、今回の鳥インフルエンザは、もっと、早い頃から、蔓延していたのではないかと、危惧する声が上がってきた。

1月28日づけNew Scientist http://www.newscientist.com/news/news.jsp?id=ns99994614  では、「鳥インフルエンザの発生は、おそらく、中国で、早くも2003年の前半から、始まっていた。」とした。

それによれば、1997年、香港で、H5N1鳥インフルエンザで6人の人間が死んだ後、すべての鳥が殺処分されたとき、中国の生産者達は、殺処分をしようとする機会を失い、H5N1ウィルスの不活性化について、ワクチン予防で対処することから、このときのウィルスが、変異を遂げながら、今日まで生き延びたとしている。

さらに、この論文では、WHOのインフルエンザ担当主席のクラウス・ストーラー氏が、「われわれは、昨年はじめの時期に採種したサンプルが、この菌株であることがわかっている。」とし、そのサンプルが、中国からとられたものであることを暗に示唆した。

さらに、http://www.vov.org.vn/2004_01_30/english/chinhtri2.htm では、WHOのMs Maria Cheng さんが,「二週間前に,WHOは,昨年4月に採取されたサンプルを受け取り,これを検査したところ,最初の検査では,H5N1ウィルスが,検出された。」と述べ、それが,現在流行しているものと同じ型のものであるかどうかについては,はっきりとした確認はしていないとしながらも,「よく似ている。」とした。

もし、これらの見解が本当だとすれば、先に記した各国での鳥インフルエンザ発生についての隠蔽疑惑ともあいまって、H5N1ウィルスは、すでに、根絶しがたい規模で、東南アジアや西南アジアに広まっていることになる。

また、鳥から人への感染の連鎖ピラミッドも、すでに構築されていると見なければならないだろう。


なお、鳥インフルエンザに関する情報は、「鳥インフルエンザに関するニュースリンク集」を、ご参照ください。

(2004年 1月 23日更新)

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