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心肺蘇生をめぐる国際的な動き
秋田県の救急救命士が、医師法に違反する救急患者への気管内挿管を行ったとして、連日、地元の報道各社は、その視点からの報道を続けている。( 山形県の例はここ、青森県の例はここ、岩手県の例はここ 新潟県の例はここ、を参照)
どうして、報道地方支局は、問題を矮小化して伝えてしまうのであろう。
「心肺蘇生2001年の展望」http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/01/l1-3801.htm#02で、この問題の国際的な背景を御理解いただければ有り難いが、この問題は、大きくいえば、病院前のケアとして、何が可能かという、国際的な課題に繋がっているのである。
1992年、AHA(America
Heart Association)のガイドラインが合意されて以来、世界標準制定の気運が高まり、1997年、心肺蘇生法にかんするILCOR勧告がなされ、2000年8月22日に、新しい「AHAガイドライン2000」(
要約はこちら )が制定された。
この中で、特に強調されたのが、AED(半自動除細動器)の積極的活用である。
いわば、AEDを初期消火の消火器にたとえ、有効性35パーセントといわれる、むやみな心臓マッサージよりも、従来のバイスタンダーCPRとの適切な組み合わせの元での、現場における家庭人または職場など関係者による、5分以内のAEDによる電気的刺激が、多くの命を救うとまで、評価している。
この「AHAガイドライン2000」が、今後、実質的な心肺蘇生法の世界標準になるものとおもわれ、日本に於いても、これに日本的な独自の修正がなされるにしても、ほぼ、これに準拠したガイドラインが制定されるものと思われる。
日本においては、平成12年1月「規制緩和推進3ヵ年計画」において、「救急救命士の行う救急救命措置に付いて検討を行う。」との文言が記された。
平成12年5月12日旧厚生省発表の「病院前救護体制のあり方に関する検討会報告書」では、「気管内挿管を救急救命士の業務として位置付けることについては時期尚早であり、今後上記のメディカルコントロール体制を整えるとともに、多角的見地からの検討を行うことが適当である。気道の維持及び人工換気の方法において、現在行われているバッグ・マスク法は、これを正しく実施すれば十分にその目的を達成できるものであり、気管内挿管の実施が可能となるまでは、バッグ・マスク法の意義を再確認するとともに、その技術の習熟に努めるべきである。」との見解をしめした。
今年の6月に、新しい心肺蘇生法の基準が定められたが、これは、1992年の旧AHAガイドラインにもとずくものである。
「AHAガイドライン2000」は、救急救命の世界標準
現在、救急救命士が行なえる呼吸管理は次のとおりである。
食道閉鎖式エアウエイ及びラリンゲアルマスクによる気道確保
経鼻エアウエイによる気道確保
経口エアウエイによる気道確保
鉗子・吸引器による咽頭声門上部の異物の除去
バッグマスクによる人工呼吸
酸素吸入器による酸素投与
口腔内の吸引
ハイムリック法など
アメリカをはじめとする世界の救急救命技術の潮流は、第二次救命措置段階においては、気管内挿管とバッグマスクとの、ケースと熟練度に応じた使用が効果的との見解に落ち着きつつある。
ちなみに、このURL(http://www.oita-med.ac.jp/mincs/ghdnet/highgrade/hatanaka/hatanaka12.htm
)によれば、病院に運び込まれる前の措置として、気管内挿管(endotracheal intubation
または、ventilation via Tracheal Intubation)を行った場合の生存率は26%、バッグマスクを行った場合の生存率30%とのことであり、何もしなかった場合よりは、かなりの命を防げるとのデ-タがある。
また、上記で述べたAHAガイドライン2000においては、バッグマスクと、気管内挿管の両手法を対比させ、それぞれのメリットデメリットについて述べている。
それによれば、バッグマスクについては、特に移動時間が短い場合や、対象が幼児(PLS-Paediatric Life Support)の場合に、特に安全で有効な手法であるとし、気管内挿管については、年間6−12のケースをこなす熟練した技術や現場経験のあるものによる気管内挿管は、特に意識を失った者に対し、有力な手法であるとしている。参考−ビデオを見ながら安全に気管内挿管をする例
したがって、この両手法は、ケースに応じて、同等の有効性を持つとしている。 参考一 参考二
日米の地方都市における救急医療−4つの違い-
ここに、地方都市における救急医療の日米比較がある。
これによると、日米の地方都市を比較した、救急医療の主な違いは、次のとおりである。
第一は、一般市民によって第一次救命措置(Basic CPRまたはBLS-Basic Life support)が行なわれる比率と、それまでの時間の違いである。
米が3割以上であるのに対し、日では1割以下である。
また、一次救命措置までの時間は、米が、4分以内50パーセント以上に対し、日は、4分以内20パーセント以下である。
第二は、救急通報から二次救命処置(Advanced CPRまたは、ACLS-advanced cardiac life support)開始に至るまでの所要時間の差である。
米が、10分以内8割強であるのに対し、日では、全体の数字はないが、一部地域では、3パーセント以下の数値となっている。
第三は、通報から現場到着までの時間の差である。
米が6分強であるのに対し、日が15-20分である。
第四は、心肺停止患者のうち、病院外で、器具を用いた二次救命処置を受けた比率の違いである。
米が、89パーセントであるのに対し、日は、20パーセント以下(松山)である。
さらにそのうち、気管内挿管を受けたのは、米は100パーセント、日は、ラリンジアルマスクや食道閉鎖式エアウエイなどの代用的な処置であった。
このように、アメリカのAHAガイドラインでは、救命には心停止後4分以内に心肺蘇生を行うことが重要とされているのに対し、日本の現状は、心停止が起きてから119番通報までに約10分、救急車が現場に到着するまでに約6分、合計約16分と、現場到着以前にアメリカガイドラインのタイムリミットをオーバーしているのが、残念ながらの現状である。
「救命の鎖」を、途絶えさせないために、何が必要か?
救急救命体制において、もっとも重視されるのは、病院に運び込まれるまでのプレ・ホスピタルの段階で、いかに、スムースにして有効な「救命の鎖」を確保しえるかについてである。
すなわち、「救命の鎖」とは、家庭から救急車、病院に至るまでの各段階で、
1.早く電話して助けを求める−2.早期にバイスタンダーCPR(第一次救命措置)をほどこし、時間を稼ぐ-3.早期にパブリックアクセス除細動をほどこし、息をふきかえさせる−4.これが持続するよう、早期に安定のためのACLS(第二次救命措置)を行なう。
との連携動作が、それぞれ有効に機能しなければならないということである。
そのためには、次のことが必要になる。
第一は、家庭・職場・スポーツ現場・学校等の段階におけるバイスタンダーCPRの必要性の啓蒙である。
第二は、救急車が家庭なり、職場なり、スポーツ現場なりに到着する前に、現場の関係者でなしうるバイスタンダーCPRを、より容易にしうる機器の開発普及である。
第三は、一般市民でもパブリックアクセス除細動-PUBLIC
ACCESS DEFIBRILLATION−が使えるようにするための規制緩和の推進である。(これも参照)
現在の日本の医師法では医師のみ(救急救命士は医師の指示が必要)が半自動除細動器(AED:automated
external defibrillator)の除細動ボタンを押すことができるが、これについての規制緩和がぜひとも必要である。
特に、近年、家庭や職場内でも、一般市民が操作可能な
パブリック・アクセス半自動除細動器(public access
AED)の使用が、アメリカではAHAのガイドライン2000にもとずき、認められているが、これによる家庭・職場段階での措置が大きな効果を上げていることを見ると、日本でも、この使用が可能となるよう、環境を整えなくてはならない。
このたび、厚生労働省は、国際線の航空機内での乗務員による除細動器取り扱いを認めたが、これと同じ規制緩和を、職場・家庭・スポーツや教育の現場にも認めるべきである。
第四は、ACLS(Advanced
Cardiac Life
Support)導入に向けての取り組みである。
ACLSとは、人工呼吸や心臓マッサージでも蘇生しない患者に行う高度な心肺蘇生法をさし、具体的には、次のものがはいる。
(1)気管内挿管を含めた気道確保 ( 2)補助具による人工呼吸 ( 3)閉胸心マッサージ
( 4)静脈路確保 (5)心停止や重篤な不整脈を診断して処置する (6)救急薬品の使用 (7)導尿と尿量の測定
ここに、人形モデルによるACLSのシミュレータービデオがあるので、参考にされたい。
今回の「気管内挿管」問題は、救命の鎖の中の、このACLS段階での措置の一部ではあるが、多くの重要な部分を占めている。
一日も早く、AHAガイドライン2000に沿った救急救命処置の範囲拡大にかんする厚生労働省令の改正を急ぐべきである。
第五は、救急救命士のなしうるインフォームド・コンセントについての裁量幅の拡大である。
アメリカにおいては、一定の救急患者にいては、インフォームド・コンセントまたは、インフォームド・チョイスをしなくてよいことが認められている。
問題は、気管内挿管等、法で認められていない行為については、そもそも、救急救命士がインフォームド・コンセントを行なう資格があるかといえば、それはないわけで、そこに、医療事故として非難された場合、医師側からも、患者側からも攻められる、苦しい救急救命士の立場があることを、私たちは理解してあげなくてはならない。
これらの矛盾を調整しうる、何らかの裁量幅の拡大措置がのぞまれる。
日本の「救命の鎖」の完結を阻害するもの
以上に見たように、日本の「救命の鎖」の中で、その連携がまっとうし得ないいくつかの問題点が、浮かび上がった。
特に、医師法との絡みで、気管内挿管と半自動除細動器(AED:automated
external defibrillator)、それに近年アメリカでは家庭・職場内に普及しつつあるパブリック・アクセス半自動除細動器(public access AEDまたはPAD)の使用が、医師の指示によってしか出来ないということが、「救命の鎖」を構成する大きな障害となりつつある。
つまり、アメリカではパラメディック(救急看護士)の領域が、一次救命措置(BLS-Basic Life Support)と二次救命措置(ACLS-Advanced Cardiac
Life Support) であるのに対し、日本では、救急救命士の領域が、一次救命措置(Basic
CPR)のみに限られ、二次救命措置(Advanced CPR) は、除外されていることの限界である。
要は、心停止後5−8分以内の措置が救命率向上に大きく寄与しているにもかかわらず、日本の救命体制においては、医師の指導がなければ、その時点での救命措置に重要な役割を果たしうる気管内挿管も除細動機器(AEDやPAD)の使用も行なえないというのが実態なのである。
もちろん、近年、ドクターカーの採用をする自治体が増えてはいるが、地元医師との緊密な連携の元に、医師の現場到着時間が短い船橋市などの例を除いては、心停止後8分以内に、医師なりその指導のもとでの措置がされうることは少ないといわれている。(船橋市の体制については,
ここ と ここ も参照)
いくらハードとしての高度な装備を有するドクターカーを導入しても、心停止後5−8分以内という時間との競争に勝てない限り、5-8分以内の医師の派遣・同乗が不可能の体制であるならば、何の意味もないことになってしまう。
これは火事と同じで、全焼したころになって、いくら高価で高度な装備を持った消防車が駆けつけたところで、地元の人による火消しにはかなわないというのと同じである。
となれば、この心停止後5-8分間の措置を、医師以外の救急救命士や、PADについては、事故発生現場の家庭人・職場人・スポーツ関係者に、権限委譲する以外には、途はないのではなかろうか。
制度改正を含めた日本の救急救命体制の根本的な見直しが必要であると、私は考える。
救命率を国際標準にする動き
今回の一件で、やり玉にあげられている秋田市の病院は、早くから愛媛大学医学部などと協力し、救命対策が進んでいる米シアトルの視察や、救命手当ての普及に積極的にとりくむなど、いわば、患者と病院をつなぐ「救命の鎖」としてのあり方を模索してきた。
近時の救命率(心肺停止患者が一カ月後に生存している確率)でみると、全国平均2.7パーセントにたいし、秋田市13.6パーセントが蘇生後に社会復帰を果たした割合であり、これを通常の救命率の定義で見なすと約20パーセントに相当し、これは、救急救命活動が進んでいる欧米に匹敵するものである。
ちなみに、消防庁の救急蘇生指標は、「搬送1カ月後の生存者数」を「1年間に救急搬送された心肺機能停止者数」で割ったものとされている。
ところが、この救命率の高さについて、秋田の地元紙から、異論が出た。
「救命現場の周辺」の中の「数値−注目された高い救命率」の記事のなかで、他都市よりも秋田市が高い救命率を確保している要素として、「救命措置の対象とならない患者を搬送から除外している例が、他地域よりおおい」ことと、「一般市民による応急手当てで功をそうした事例も社会復帰者としてあげている。」ことで、「社会復帰率の分母となる搬送数が少なくなり、分子の社会復帰者が多くなることで、結果的に数値を押し上げている。」という指摘が、専門家の発言として紹介されたのである。
では、この発言の通り、秋田市の不搬送率は、他都市と比べて高いのであろうか。
秋田市における、平成3年から12年にかけての出動総件数は、59、222件であり、不搬送件数は、5,521件である。
一方、北海道の北広島市における平成8年から平成12年にかけての出動総件数は、6,590件であり、不搬送件数は、562件である。
また、千葉市における平成13年の出動総件数は、29、955件であり、不搬送は、3、032件である。
不搬送の理由として、ここで、いわき市の例をみると、一番多いのが、死亡、搬送拒否で、これだけで、全体の35パーセントを占める。
たとえ、他都市に比し、不搬送率が高くとも、不搬送率が「10パーセント高くて、2パーセントの数値の押し上げ」、「20パーセント高くて、 4パーセントの数値の押し上げ」にすぎないことを考慮すれば、この不搬送率の高いことが、秋田市の救命率の高さの信憑性を侵すことにはならないのではないか。
また、搬送率の高さは、市民へのバイスタンダーCPRの必要性についての啓蒙度の低さを、逆に、あらわす場合もあり得ることを、自覚しなければならない。
上記にもあげたプレ・ホスピタル・ケア体制の進んでいるピッツバーグにおいても、病院外で死亡診断がなされ、結果、不搬送の取り扱いを受けている例の多いところをみても、このようなことはいえるのではなかろうか。
一方、秋田市における「一般市民による応急手当」についてであるが、 1992年から1996年にかけて秋田市消防本部が行う救命講習を受講した市民の数は、上級救命講習受講人数169人、普通救命講習受講人数14,650人、病院に搬送された心肺停止患者数752人、現場にいた人の心肺蘇生法措置件数211人となっている。
この数値の高さは、むしろ、全国に誇るべき数値であり、何も、秋田市の救命率の数値の疑義の根拠としてマイナスの意味で使われることの視点こそ、問題なのではなかろうか。
専門家によれば、大都会と地方都市とでは、人口密度の点と搬送時間の点で、数値に乖離が生じる要素があるので、むしろ、人口当たりの救命された患者の実数こそが重要との指摘がある。
現在、消防庁においても、これまでの救急蘇生指標を、もっと、救命効果を検証しうる指標に変える検討に入っている。
すなわち、「救命効果検証委員会」において、世界標準であるウツタイン様式(Utstein Style)による報告数値の累積によって、バイスタンダーCPRの救命効果やプレホスピタルにおける救命効果を時系列的に把握し、その効果を、科学的に検証しうる体制を確立しようとするものである。
ちなみに、ウツタイン様式(Utstein Style)による報告書の主要項目 ( ここも参照 )として、アメリカにおいては、次のものが挙げられている。
1.倒れた想定時刻 2.119番通報時刻 3.救急車到着時刻 4.患者のもとにEMS(Emergency
Medical Services )隊が到着した時刻 5.倒れた場所 6.倒れるのを目撃した人 7.除細動器を使ったか、つかわなかったか。 8.バイスタンダーCPRをする人がいたかどうか。 9.BMS(Batchelor
of Medical Science )蘇生をこころみたかどうか。10.蘇生後の脈動の状態はどうか。 11.除細動器は、マニュアルか、オートマチックか。 12.気管内挿管は、したか、しなかったか。 13.現場での処置 14.受け入れ病院名 15.ED(emergency
department)到着時の状態
以上にみたように、気管内挿管問題と救命率との因果関係のみで、この問題をとらえるのではなくて、気管内挿管を含め、除細動器や薬品の使用(救急薬品として、現在、日本の救急救命士が使用することが許されるものは、輸液剤としての、乳酸加リンゲル液のみである。一方、アメリカのパラデミックは、救命に必要な約30種類の薬品の使用を認められている。リドカイン(抗不整脈薬)、ニトログリンセリン(亜硝酸薬で狭心症、心筋梗塞に効果がある。静脈系を拡張)、ボスミン(エピネフリン:気管支拡張作用がある)、アトロピン(気道分泌の抑制)などの使用が、救急救命士に認められることが検討されていい。)、そして、市民サイドのバイスタンダーCPRなどのプレ・ホスピタル・ケアの総合的な措置が、救命効果向上にどのような役割を果たし得るのか、という視点にたった、生産的な論議と、新たな救命体制づくりの検討が、この際望まれるものと思われる。
日本の救急救命士が「よきサマリア人」でありつづけるために
今回の一件で、救急救命士の挫折感には大きいものがあるだろう。
「私達は何もできない。」となげく救急救命士のテリトリーを、この際、AHAガイドライン2000という世界標準の採用によって、広げることが、患者のニーズにそった救命のあり方だろう。
AHAガイドライン2000が、世界標準となり、いずれ日本も、その標準の元での体制にならざるを得ないだろう。
その前夜における、今回の一件である。
これまでの努力を、今回の一件で無にしてはならない。
ましてや、秋田県は、救急搬送時間が長い、過疎山間地の多い県である。
たとえ、うまくいかなかったとしても、最後の手を尽くしえたという残されたご家族の気持ちに救急救命士がこたえたいという、使命感も理解できようというものだ。
この件に関して、12月8日時点での、秋田県と秋田市との対応は、やや、分かれているように見られる。
佐竹秋田市長は、国に対し、制度改正を求めていくスタンスなのに対し、秋田県知事の方は、7日の県議会質問に対し、「平成12年5月12日旧厚生省の見解を尊重する。」との立場のようである。(参照−市長記者会見 )
私は、佐竹市長のスタンスを、上記の理由で支持したい。
秋田のジャーナリズムは、この問題を、上記のような広い視点からとらえることによって、この問題にひそむ国際的課題に迫った情報発信を中央に向かって発信し得たはずだ。
秋田県知事もしかりである。
ひとりでも命を救おうと善意で気管内挿管を試みた秋田の救急救命士の心意気を、むしろ、ジャーナリズムはたたえるべきだったのではないのか。
最後に、アメリカの各州法にあるという「よきサマリア人法」(Good Samarian Law)(法律の中に「よきサマリア人条項」-Protection for ''Good Samaritan''-が設けられている場合もおおい。下記参考20を参照) の精神を思い起こしてみよう。(「よきサマリア人法」についてはここも参照)(環境に関する「よきサマリア人法」もある。)
これは、聖書の例えのごとく、「緊急事態にある人をボランティアが手当てした場合、仮に、その手当てにおいて、状況が悪くなったとしても、民事責任を免れる。」という法律のようである。
もし日本に「よきサマリア人法」があったとしたならば、違法とは知りつつも、過疎地の不利な救急救命条件のもとで、あえて、気管内挿管を試みた秋田の救急救命士の行動に対し、適用されていたであろう。
さらに、違反したとされる医師法第17条における「医業」とは、なにかについても、学者の間なり過去の判例では、必ずしも、定義が明らかでないことも、この際、考慮に入れるべきである。(下記の22参照。)
それに比し、今月出された厚生労働省の通達 ( ここも参照 )の無粋さは、「日本全国の救急救命士が、よきサマリア人たるを目指す。」ことを、国自ら否定したことをあらわすものではなかったのだろうか。
参考
1.日米の地方都市におけるプレ・ホスピタル・ケアの比較http://ghd.uic.net/00/9801pitt.html
2.心肺蘇生法に関する国際動向関係リンクhttp://erwww.med.akita-u.ac.jp/g2000-j.asp
3.救急救命措置範囲http://www.city.chiba.jp/soumu/reiki_int/honbun/g0020720041307051.html#B5
2001年5月以前のものです。
4.救急救命士法
(特定行為等の制限)
第四十四条 救急救命士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生労働省令で定める救急救命処置を行ってはならない。
2
救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生労働省令で定めるもの(以下この項及び第五十三条第二号において「救急用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはならない。ただし、病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は、この限りでない。
(他の医療関係者との連携)
第四十五条 救急救命士は、その業務を行うに当たっては、医師その他の医療関係者との緊密な連携を図り、適正な医療の確保に努めなければならない。
5.救急救命士法施行規則
(法第四十四条第一項
の厚生労働省令で定める救急救命処置)
第二十一条 法第四十四条第一項
の厚生労働省令で定める救急救命処置は、重度傷病者(その症状が著しく悪化するおそれがあり、又はその生命が危険な状態にある傷病者をいう。以下次条において同じ。)のうち心肺機能停止状態の患者に対するものであって、次に掲げるものとする。
一
半自動式除細動器による除細動
二
厚生労働大臣の指定する薬剤を用いた静脈路確保のための輸液
三
厚生労働大臣の指定する器具による気道確保
6.家庭でできるファーストエイド機器-PUBLIC ACCESS
DEFIBRILLATION-http://www.emergencyskills.com/aed.html
7.バイスタンダーCPRの必要性http://www.hyogohsc.or.jp/k_hiroba.nsf/8178b1c14b1e9b6b8525624f0062fe9f/2778bbe818cd20a7492569b70026d81c?OpenDocument
8.バイスタンダーCPR機器http://www.laerdal.co.jp/vent/contvent.htm
9.救命の鎖の概念
早く電話して助けを求める−早期にバイスタンダーCPRをほどこし、時間を稼ぐ-早期にパブリックアクセス除細動をほどこす−早期に安定のための2次救命措置を行なう。
10.救命の鎖http://www.city.wakkanai.hokkaido.jp/main/syoubou/ring.htm
11.ACLSについてhttp://www.mainichi.co.jp/eye/feature/details/science/Medical/200002/28-1.html
12.ACLSの実際http://medsoftware.com/acls_fig3.jpg
13.日本に出来たACLSトレーニング・コースhttp://www.shonan-inet.or.jp/~ctmc/postgraduate_edu_sys/acls.html
14.ACLSの演習http://www.toyama-mpu.ac.jp/hp/emergmed/ACLS.html
15.ACLSトレーニングのための器具http://www.allmed.net/catalog/index.php/326
16.病院前救護体制のあり方に関する検討会報告書http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s0005/s0512-3_10.html
17.BYSTANDER
CPRhttp://www.emsadvocate.com/Learn_CPR/Bystander_CPR/bystander_cpr.htm
18.AEDの活用が必要http://www.hyogohsc.or.jp/k_hiroba.nsf/8178b1c14b1e9b6b8525624f0062fe9f/30a0abd0e5aae46e49256a9500048033?OpenDocument
19.かつては、このような賞賛を浴びた秋田市の救急体制http://www.kotobuki-p.co.jp/espoir/tenkai/index4.htm
20.Good Samaritan doctrine(よきサマリア人の法理)
他人を救助するものの責任を軽減する不法行為法の一原則。コモンローのもとでは、一般人は他人を救助する義務を負わない。しかし、救助に着手したものは、その状況に応じた注意を払って行為する義務を負う。Good Samaritan
lawは、救助行為を奨励するために、救助者は救助の結果について、重過失がなければ責任を負わないとする。例えば、交通事故の現場に行き合わせて被害者に施した救急措置について、医師は重大な過失がない限り賠償責任を負わない。救助者の無謀な行為によって被害者のおかれていた状況がさらに悪化したことを立証しなければ、被害者は救助者の責任を問うことができない。しかし、たとえ現場に居合わせたとしても、救助・援助しなければならない義務を負わせるものでない。
21.あるメーカーの救命トレーニング製品一覧http://www.laerdal.co.jp
あるメーカーの救命機器一覧http://www.mhf.net/mall/stores/medtronic/
22.医師法第17条の「医業」の定義についての見解
http://www.law.keio.ac.jp/~hkatoh/kokusaiiji.htm
医師法17条(医師以外の者の医業禁止)「医師でなければ,医業をなしてはならない。」に言う「医業」の意義については学説上、(1)常業説,(2)常業意思説,(3)営業目的説,(4)生活資料獲得行為反覆説,(5)常業目的説,(6)反覆継続意思説などの争いがあるが、仙台高裁昭和28(1953)年1月14日判決(高裁刑事判決特報35号3頁)では、「医師でなければ,医業をしてはならない。」、「『医業』とは,医行為を業とすることであり,『医行為』とは,当該行為を行うにあたり,医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼすおそれのある一切の行為である。」と定義しているのが参考になる。
23.救急医学用語集 http://ghd.uic.net/98/ryaku.html#e
24.救急救命士の救命活動について−ウェブ責任者 愛媛大学医学部救急医学 越智元郎
(2001年 12月 16日更新)
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